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平成22年度
Pプログラム

終戦直後の混乱のなかで、古き時代への悔恨と新しい時代に向けた希望を映し出した力作を紹介いたします。
◆戦争と平和
(1947年 東宝 白黒 スタンダード 100分)


新憲法発布を記念して、憲法普及会が映画各社に提案した企画のうち、「戦争放棄」の題材を当たられた東宝が、伊藤武夫プロデュースのもと、記録映画作家の亀井文夫と劇映画監督の山本薩夫の共同監督により製作した、終戦直後の日本映画を代表する一本。戦死公報を受けた妻・町子が、前線で精神的な障害を受け帰還していた、夫の親友・康吉と再婚する。しかし、度重なる空襲により、康吉の病状は悪化。そこに中国で捕虜として命拾いをした夫・健一が帰還し、三人の間に新たな悲劇が襲う。D・W・グリフィスの映画『イノック・アーデン』を下敷きに、ニヒリズムと解放感の錯綜した戦後心理を捉えた八住利雄の脚本、トラウマを抱えた難しい役どころに挑んだ池部良の熱演、記録映画のフッテージを盛り込むながら、戦地、銃後そして戦後の日本の姿をリアルに再現した映像など、見応えのある大作となっている。占領軍による検閲により30分以上が削除されたものの、観客・批評家からの評価は高く、『キネマ旬報』ベストテンで第2位に選ばれた。

[スタッフ]
(脚本) 八住利雄
(監督) 山本薩夫
(監督) 亀井文夫
(製作) 伊藤武郎
(撮影) 宮島義勇
(照明) 若月荒夫
(録音) 空閑昌敏
(音楽) 飯田信夫
(美術) 河東安英

[役名(キャスト)]
伍東康吉 (池部良)
町子 (岸旗江)
小柴健一 (伊豆肇)
茂男(4歳の時) (大久保翼)
茂男(7歳の時) (大久保進)
キャバレーの経営者 (菅井一郎)
隣組長 (島田敬一)
山村の老妻 (藤間房子)
アパートの若い女 (谷間小百合)
近所の娘 (三谷幸子)
その母 (田中筆子)
山村の老人 (北川耕三)
ダンサー (高野千代)
康吉の妹 (飯野公子)

◆安城家の舞踏会
 (1947年 松竹[大船] 白黒 スタンダード 89分)


今や家屋敷を人手に渡すところまで落ちぶれた旧華族の名門、安城家。せめて終焉だけは華やかに迎えようと舞踏会が催されたが、そこに闇金融の社長や、かつて当家のお抱え運転手だった成金の運送業者らが現われ、当主の苦悩は極限に達することとなる…。旧体制の崩壊と新興勢力の台頭という、敗戦後の日本の世相を巧みに織り込んだ作品だが、滅び行く華族とその周辺の人々という人物設定には、たしかにチェーホフの「桜の園」を思わせるところがある。もっとも監督の吉村公三郎によれば、実際にこれに類したダンスパーティーが開かれたことがあり、そこから作品のアイデアを得たということらしい。脚本の新藤兼人は修業時代、溝口健二の下で「近代劇全集」と格闘した経験があり、この堅牢に組み立てられたドラマにもその成果の一端がうかがわれる。

[スタッフ]
(脚本) 新藤兼人
(原作・監督) 吉村公三郎
(製作) 小倉武志
(撮影) 生方敏夫
(照明) 加藤政雄
(録音) 妹尾芳三郎
(音楽) 木下忠司
(美術) 浜田辰雄

[役名(キャスト)]
安城敦子 (原節子)
姉 昭子 (逢初夢子)
父 忠彦 (滝沢修)
兄 正彦 (森雅之)
新川竜三郎 (清水将夫)
遠山庫吉 (神田隆)
小間使 菊 (空あけみ)
千代 (村田知栄子)
家令 吉田 (殿山泰司)
新川曜子 (津島恵子)
春小路正子 (岡村文子)
由利武彦 (日守新一)

◆蜂の巣の子供たち
 (1948年 蜂の巣映画部 白黒 スタンダード 84分)


清水宏監督は、自意識過剰なスター俳優を使ってメロドラマを撮っているよりは、子供や風景を自然のままに写しているほうがましだと考えていた。そんなこともあって、戦後、戦災孤児を引き取って自宅で面倒をみていたが、彼らを登場人物に何か作ろうと思いたち、蜂の巣プロを起こして、この作品を製作した。ひとりの復員兵が下関に降りたつ。帰る場所のない彼は、自分が育った非行少年の厚生施設「みかへりの塔」へ帰ろうと、広島、神戸と山陽道を歩いて行く。戦禍の後も生々しい街角や路上で、浮浪児たちや若い娘の引揚者、孤児を束ねている乱暴な男などと出会い、さらに旅を続けていく。全篇ロケーション撮影、俳優たちもすべて素人といった素朴さのうちに、朴訥としたこの監督特有の味わいと時代を見つめる目がある

[スタッフ]
(脚本・監督・製作) 清水宏
(製作同人) 山本茂樹
(〃) 関沢新一
(〃) 林文三郎
(撮影) 古山三郎
(録音) 杉山政明
(〃) 金谷常三郎
(音楽) 伊藤宣二

[役名(キャスト)]
復員者 (島村俊作)
引揚者 (夏木雅子)
叔父貴という男 (御庄正一)
医師 (伊本紀洋史)
工場主 (多島元)
戦災児 晋公 (久保田晋一郎)
〃豊 (岩本豊)
〃義坊 (千葉義勝)

◆帰郷
 (1950年 松竹[大船] 白黒 スタンダード 104分)


原作は、大佛次郎が毎日新聞に連載した長篇小説である。海外を放浪し、無国籍者となっていた元海軍軍人が戦後日本に帰国し、かつて自分を窮地に陥れた愛人や、音信を絶っていた娘に会うが、すっかり様がわりしている日本に失望して、再び去っていく。混乱した復興期の世相を背景に、上質の情感をたたえた作品になっている。同年の『長崎の鐘』や、『君の名は』三部作(1953-54)の大ヒットにより、松竹のエース監督となった大庭秀雄は、同社伝統のメロドラマの作法を十二分に体得した作家であり、心理描写などにたしかな手腕を示した。特に京都の苔寺(西芳寺)の場面は流麗といえるだろう。

[スタッフ]
(原作) 大佛次郎
(脚本) 池田忠雄
(監督) 大庭秀雄
(製作) 小出孝
(撮影) 生方敏夫
(照明) 田村晃雄
(録音) 妹尾芳三郎
(音楽) 吉沢博
(〃) 黛敏郎
(美術) 浜田辰雄

[役名(キャスト)]
高野佐衛子 (木暮実千代)
守屋恭吾 (佐分利信)
娘 伴子 (津島恵子)
隠岐節子 (三宅邦子)
夫 達三 (山村聡)
牛木利貞 (柳永二郎)
高野信輔 (徳大寺伸)
憲兵曹長 (三井弘次)
小野崎公平 (日守新一)
岡部雄吉 (高橋貞二)
岡村俊樹 (市川笑猿)
お種 (坪内美子)

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