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平成22年度
Hプログラム

1950年後半より登場した若き映画監督たち──人間の意志と情熱にストレートに描き出したみずみずしい作品群を紹介いたします。
◆くちづけ
 (1957年 大映[東京] 白黒 スタンダード 73分)


ローマの国立映画実験センターへの留学から戻ってきた、増村保造監督の記念すべきデビュー作である。原作は大映が得意とした典型的なメロドラマだったが、増村監督はそれを日本的な淡い情緒のもとに描くのではなく、あくまで人間の意志と情熱を強調し、男女の青春のエネルギーが発散する挑戦的な映画に作り上げた。真夏の海とオートバイを印象的に登場させ、その乾いた叙情によって一種戦後イタリア映画の秀作をも思わせるこの作品は、当時の日本映画に対する一つの「宣言」であったとも言えるだろう。やがて『巨人と玩具』(1958)などのシャープな作品を次々と発表する増村は、日本映画の新世代を先導する監督として認められてゆく。演技の面でも、主演の川口浩と野添ひとみが、不幸な家庭環境に抗してまっすぐな青春を生きる男女を演じ、みずみずしい魅力を放っている。

[スタッフ]
(原作) 川口松太郎
(脚本) 舟橋和郎
(監督) 増村保造
(製作) 永田秀雅
(撮影) 小原譲治
(照明) 米山勇
(録音) 須田武雄
(音楽) 塚原晢夫
(美術) 下河原友雄

[役名(キャスト)]
宮本欣一 (川口浩)
白川章子 (野添ひとみ)
欣一の母 宇野良子 (三益愛子)
房子 (若松和子)
良家の妻 (清水谷薫)
島村 (入江洋祐)
欣一の父 大吉 (小沢栄太郎)
金持ちの息子 和彦 (若松健)
章子の父 (河原侃二)
章子の母 清子 (村瀬幸子)
横河弁護士 (見明凡太郎)

◆青春残酷物語
 (1960年 松竹[大船] カラー シネマスコープ 96分)


1950年代末、日本映画を変革しようとした松竹所属の一連の新人監督は「松竹ヌーべルバーグ」と呼ばれた。本作品はその新人たちの筆頭にいた大島渚監督の初期の代表作で、中年男から金を巻き上げる犯罪を重ねて破滅に向かってゆく若い男女の欲望と行動を、旧世代の人間たちの生き様と対比させながらストレートに描写した。性と暴力を重要なテーマとしたこの作品は1960年の安保闘争のさなかに公開されたが、鬱積した心情ややりきれなさを感じていた若年層の強い共感を呼び、当時の社会状況に対する新しい世代の「怒り」を叩きつける形で興行的にも成功している。それは若さの明るい側面のみを売り物としてきた従来の「青春映画」に対するアンチテーゼとも言えるだろう。とりわけ主人公の川津祐介が音をたててリンゴをかじるシーンは、そうした青春の焦燥を優れて表現したシーンとして有名になった。

[スタッフ]
(脚本・監督) 大島渚
(製作) 池田富雄
(撮影) 川又
(照明) 佐藤勇
(録音) 栗田周十郎
(音楽) 真鍋理一郎
(美術) 宇野耕司

[役名(キャスト)]
新庄真琴 (桑野みゆき)
藤井清 (川津祐介)
真琴の姉 由紀 (久我美子)
由紀の恋人 秋本 (渡辺文雄)
真琴の担任 下西 (小林トシ子)
ベンツの紳士 堀尾 (二本柳寛)
パッカードの紳士 (山茶花究)
マーキュリーの紳士 (森川信)
真琴の父 (浜村純)
刑事 (佐野浅夫)
松本明 (佐藤慶)

◆にっぽん昆虫記
 (1963年 日活 白黒 シネマスコープ 123分)


農家の娘として生まれ、製糸工場の工員、労働組合の活動家、新興宗教の信者を経由してついにはコールガール組織の元締めとなるが、逮捕されて刑務所から戻ってみたら、組織もパトロンもすべて自分の娘の手に落ちていた…。そうした波乱に富んだ女性の半生を、粘っこくエネルギッシュに綴った今村昌平監督の代表作。今村監督は、尽きることのない人間の生命力を一貫したテーマとしているが、この映画ではその生命力を「昆虫」になぞらえている。この作品を計画するにあたって、ある実在の女性からその人生経験をとことんまで聞き込み、その中から脚本を練り上げる手法を取ったという。母娘に扮した左幸子と吉村実子の熱演もあり、リアリズムを突き抜けた独特の世界が築き上げられた。「キネマ旬報」ベストテン第1位、監督賞、脚本賞、女優賞を獲得したほか、収入面でもこの年の興行成績第1位になっている。

[スタッフ]
(脚本) 長谷部慶治
(演出) 今村昌平
(〃) 山野井政則
(企画) 大塚和
(〃) 友田二郎
(撮影) 姫田真左久
(照明) 岩木保夫
(録音) 古山恒夫
(音楽) 黛敏郎
(美術) 中村公彦

[役名(キャスト)]
松木とめ (左幸子)
父 忠次 (北村和夫)
母 えん (佐々木すみ江)
娘 信子 (吉村実子)
本田俊三 (露口茂)
松波守男 (長門裕之)
谷みどり (春川ますみ)
みどりの男 (小沢昭一)
班長 (殿山泰司)
蟹江スマ (北林谷栄)
唐沢 (河津清三郎)

◆心中天網島
 (1969年 表現社=ATG 白黒 スタンダード 103分)


近松門左衛門の有名な人形浄瑠璃を映画化した、松竹出身の篠田正浩監督の代表作。篠田監督は学生時代より日本の古典芸能の研究を志していたが、この作品では、浄瑠璃の伝統性と20世紀芸術である映画との創造的な葛藤が結実している。その「新しい解釈」を示しているのが、例えば黒子の出現であり、監督夫人でもある岩下志麻の二役(遊女の小春、妻のおさん)であろう。中村吉右衛門演じる治兵衛が妻を捨てて遊女との情死行に至るまで、愛の情念が狂おしく燃える様を描くこの物語を脚本化するにあたり、監督は詩人・作家の富岡多恵子と作曲家武満徹の協力を仰いでいるほか、成島東一郎による撮影が、映画の空間に立体性を与えているのも見逃せない。アート・シアター・ギルド(ATG)との提携による低予算映画であったが、「キネマ旬報」ベストテンの第1位、監督賞、さらに女優賞も受賞している。

[スタッフ]
(原作) 近松門左衛門
(製作・脚色・監督) 篠田正浩
(脚色) 富岡多恵子
(製作) 中島正幸
(撮影) 成島東一郎
(照明) 奥山保雄
(録音) 西崎英雄
(脚色・音楽) 武満徹
(美術) 粟津潔

[役名(キャスト)]
紙屋治兵衛 (中村吉右衛門)
治兵衛の妻おさん/遊女小春 (岩下志麻)
孫右衛門 (滝田裕介)
太兵衛 (小松方正)
おさんの父五左衛門 (加藤嘉)
伝兵衛 (藤原釜足)
黒子の頭 (浜村純)
叔母 (河原崎しづ江)
お杉 (左時枝)
女将 (日高澄子)

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