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平成22年度
Fプログラム

才気あふれる作風で日本映画の刷新を試み続けた市川崑――小説の映画化として評価の高い作品に、国民的論議を巻き起こした記録映画を加えた4作品を紹介いたします。
◆野火
 (1959年 大映[東京] 白黒 シネマスコープ 104分)


「俘虜記」や「レイテ戦記」など、戦後の戦争文学に大きな足跡を残した大岡昇平の同名小説を映画化したものである。戦争末期のレイテ島の戦場。食料難のため部隊からも病院からも見捨てられた主人公。さまよううちに知り合った二人の敗残兵。その一人は猿の肉だと称して人肉をすすめる。それに気付いた時に自分も殺されそうになり、逆に相手を殺してしまう。映画化にあたって市川崑監督は次のように述べている。「大岡さんは原作の中で、大変大きなテーマとして神を登場させている。……映画ではむしろ神の問題を全部なくすことによって神を感じさせられる……だから原作では主人公が人肉を食うけれど、映画では食わない。……そこで人肉があまりに固いために歯がボロリと欠けるという具合に書き変えた。歯が欠ける、これが映画ではないだろうか」。ブラック・ユーモアを得意とし、才気煥発な監督ならではの弁である。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作) 大岡昇平
(脚本) 和田夏十
(監督) 市川崑
(企画) 藤井浩明
(撮影) 小林節雄
(照明) 米山勇
(録音) 西井憲一
(音楽) 芥川也寸志
(美術) 柴田篤二

[役名(キャスト)]
田村 (船越英二)
安田 (滝沢修)
永松 (ミッキー・カーチス)
兵隊1 (星ひかる)
兵隊2 (月田昌也)
曹長 (潮万太郎)
不精ひげの軍医 (石黒達也)
兵隊A班長 (稲葉義男)
狂人の将校 (浜村純)
分隊長 (伊達信)

◆ぼんち
 (1960年 大映[京都] カラー シネマスコープ 104分)


原作は、山崎豊子が「週刊新潮」に長期連載した小説であり、原作者が得意とする大阪の商人物の一編である。舞台は大阪の船場。四代続いた裕福な足袋問屋の一人息子が、女系家族の中で甘やかされ、それゆえに悪戦苦闘する様子が、多彩な女性関係を中心にして年代記風に描かれている。映画では、60歳近くになった主人公が、戦争による苦難をようやく乗り越え、お家の再建を計ろうとするにあたり、昔のあれこれを回想するという形式が採られている。そこに登場するのは、自分を溺愛した祖母や母のみならず、これまで関係した様々な女性たちである。彼女らを演じるのは、ベテラン、演技派、若手を問わない個性的で当時を代表する映画女優たちであり、その競演が一つの見所といえよう。また、主演の二枚目時代劇スター市川雷蔵は、市川監督の『炎上』(1958)で初めて現代劇に出演、その演技力が注目されたが、ここでは老け役に初挑戦している。

[スタッフ]
(原作) 山崎豊子
(脚本) 和田夏十
(脚本・監督) 市川崑
(撮影) 宮川一夫
(照明) 岡本健一
(録音) 大角正夫
(音楽) 芥川也寸志
(美術) 西岡善信

[役名(キャスト)]
喜久治 (市川雷蔵)
仲居頭 お福 (京マチ子)
芸者 ぽん太 (若尾文子)
女給 比佐子 (越路吹雪)
仲居 幾子 (草笛光子)
喜久治の妻 弘子 (中村玉緒)
母 勢以 (山田五十鈴)
父 喜兵衛 (船越英二)
祖母 きの (毛利菊枝)
内田まき (北林谷栄)
春団子 (中村鴈治郎)

◆おとうと
 (1960年 大映[東京] カラー シネマスコープ 98分)


温かみの欠けた家庭にあって、姉と病床の弟とが寄せ合う深い愛情の交歓をきめ細かに描いた幸田文の小説の映画化である。姉弟を岸恵子と川口浩が好演、その年の「キネマ旬報」ベストテンでは第2位に空前の大差をつけて第1位を獲得した。こうした文学作品の映画化は市川崑監督のキャリアの中でも重要な位置を占め、この時点ですでに『ビルマの竪琴』(1956)、『日本橋』(1956)、『鍵』(1959)、『野火』(1959)などの名作を放ち、その実験精神を発揮している。また技術面の冒険にも積極的な市川監督は製作当時、日本映画を代表するカメラマン宮川一夫の協力のもとに、この映画に「銀残し」という特殊な技術を導入した。現像段階で銀を漂白する際、カラー色素の中に銀をわずかに残すことで、カラー映画でありながら白黒映画のようなくすんだ色調を醸し出す技法で、その渋い色合いがこの映画にノスタルジックな空気を与えている。

[スタッフ]
(原作) 幸田文
(脚本) 水木洋子
(監督) 市川崑
(製作) 永田雅一
(企画) 藤井浩明
(撮影) 宮川一夫
(照明) 伊藤幸夫
(録音) 長谷川光雄
(音楽) 芥川也寸志
(美術) 下河原友雄

[役名(キャスト)]
げん (岸恵子)
弟 碧郎 (川口浩)
げんの継母 (田中絹代)
げんの父 (森雅之)
鉄工場の息子 (友田輝)
田沼夫人 (岸田今日子)
署の男 (仲谷昇)
看護婦 宮田 (江波杏子)
院長 (浜村純)
刑事 (夏木章)

◆東京オリンピック
 (1965年 東京オリンピック映画協会/東宝 カラー シネマスコープ 170分)


1964年10月10日から24日まで開催された第18回オリンピック東京大会は、スポーツによる国際交流の場を通して、わが国が世界にその復興を示した国家的規模の一大行事であったと言えるだろう。この作品はそのメモリアル・フィルムとして市川崑総監督以下、561人のスタッフが結集して製作され、翌年公開されるや空前の観客動員を記録し、12億を超える配給収入を上げた話題作である。また、その際に「記録か芸術か」という問題を提起し、様々な議論を巻き起こしたことも忘れられない。それは、この作品がスポーツの勝敗よりも、スポーツをする「人間」により多くの描写を費やしたためとも言えるのだが、これはこれで作家市川崑としての一貫した姿勢でもあった。結果は、カンヌ国際映画祭批評家協会賞受賞、「キネマ旬報」ベストテン第2位選出にも表れている。

[スタッフ]
(企画・監修) オリンピック東京大会組織委員会
(製作) 東京オリンピック映画協会
(プロデューサー) 田口助太郎
(総監督) 市川崑
(脚本) 和田夏十/白坂依志夫
(〃) 谷川俊太郎/市川崑
(技術監督) 碧川道夫
(音楽監督) 黛敏郎
(録音監督) 井上俊彦
(監督部) 細江英公/安岡章太郎
(〃) 谷川俊太郎他
(撮影部) 林田重男/宮川一夫
(〃) 中村謹司/田中正 他
(ナレーター) 三国一朗

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