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平成22年度
Kプログラム

山本富士子、吉永小百合、佐久間良子、岩下志麻──今や大女優となった彼女たちの若き姿を、文芸ものや時代ものを通して紹介いたします。
◆夜の河
 (1956年 大映[京都] カラー スタンダード 104分)


吉村公三郎監督はすでに戦前の名作『暖流』(1939)で、従来の日本映画にはほとんど登場しなかったタイプの、主体的で理知的なヒロインを描いているが、山本富士子が演じる舟木きわも、その延長線上に位置する存在といえるだろう。舞台は伝統的な京染めの世界である。カメラマンの宮川一夫が、当時の京都の景色を美しくとらえており、山本の魅力を引き出すために色彩をグレーに絞った効果も発揮されている。愛する男の妻が病死、その死を待っていたかのような自分が許せない主人公。そして自ら選んだ別れがくる。その一種決然とした生き方は、彼女が旧い世界の住人であることを感じさせない。「誇り高き女」であり、山本富士子は本作を契機にトップ・スターの道を歩み始めた。なお、この当時は日本映画の色彩化への過渡期にあたり、吉村監督にとっても初めてのカラー作品、夜汽車の漆黒の窓を流れていく赤いネオンサインなどに見られるように随所に色彩の工夫を見せている。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作) 沢野久雄
(脚本) 田中澄江
(監督) 吉村公三郎
(製作) 永田雅一
(企画) 原田光夫
(〃) 高椋廸夫
(撮影) 宮川一夫
(照明) 岡本健一
(録音) 海原幸夫
(音楽) 池野成
(美術) 内藤昭

[役名(キャスト)]
舟木きわ (山本富士子)
竹村幸雄 (上原謙)
きわの妹 美代 (小野道子)
竹村の妹 あつ子 (市川和子)
きわの友人 節子 (阿井美千子)
岡本五郎 (川崎敬三)
近江屋 (小沢栄太郎)
きわの父 由次郎 (東野英治郎)
きわの義母 みつ (橘公子)
篠田 (山茶花究)

◆伊豆の踊子
 (1963年 日活 カラー シネマスコープ 87分)


有名な川端文学の4度目の映画化である。日活では初めての試みで、当時同社の若手スターだった吉永小百合と高橋英樹が主演した。宇野重吉扮する大学教授の回想という形式を取っているのが特徴で、現在と過去をカラーと白黒で使い分け、現代の女性と回想中の踊り子を吉永に二役で演じさせたことについて、西河克己監督はこれまでの『伊豆の踊子』と違った試みをやりたかったと述べている。原作中の有名な台詞「いい人は、いい人ね。」を意図的にシナリオから削除したことにも新しい「踊子」像を作ろうとした野心が現われているが、最初の田中絹代主演作品(1933)や後の再映画化と比較しても、全体としてはセンチメンタルな作品に仕上がっていると言えるだろう。川端はこの作品のロケーション撮影を訪れているが、完成した作品について川端が各地で高い評価を公言したので、かえって西河監督が戸惑ったという逸話も残っている。

[スタッフ]
(原作) 川端康成
(脚色) 三木克巳
(脚色・監督) 西河克己
(企画) 坂上静翁
(撮影) 横山実
(照明) 河野愛三
(録音) 沼倉範夫
(音楽) 池田正義
(美術) 佐谷晃能

[役名(キャスト)]
薫/少女 (吉永小百合)
川崎 (高橋英樹)
栄吉 (大坂志郎)
お芳 (浪花千栄子)
お清 (十朱幸代)
お咲 (南田洋子)
人夫頭 (郷A治)
鳥屋 (桂小金治)
紙屋 (井上昭文)
学生 (浜田光夫)
老教授 (宇野重吉)

◆五番町夕霧楼
 (1963年 東映[京都] カラー シネマスコープ 137分)


田坂具隆監督は戦前からのキャリアをもつ名匠の一人であり、『路傍の石』、『五人の斥候兵』(ともに1938)などの名作で広く知られている。地味ではあるが、堅実な作風はかねてから定評のあるところであるが、この作品においてもその長所を随所で認めることができるだろう。遊郭の佇まいや内部の造りなど、物語の背景に対して、田坂監督ならではの配慮がなされており、表現に厚みをくわえている点も見逃すことはできない。脚本家の鈴木尚之によれば、旦那と恋人のあいだで揺れる女の身体と心を描く官能的な場面の演出に先立ち、田坂は主演の佐久間良子に丁寧なメモ書きを与え、長く対話することで主人公の気持ちをすくいあげた演技指導をしたという。善良な遊郭の女将や娼妓といった設定は、この場合、意図的なものであり、そのことによって主人公、夕子の薄幸がより純粋に、観客に印象づけられるといえるだろう。「キネマ旬報」ベストテン第3位。田坂には同じ水上勉原作の映画化作品に『湖(うみ)の琴』(1966) がある。

[スタッフ]
(原作) 水上勉
(脚本) 鈴木尚之
(脚本・監督) 田坂具隆
(撮影) 飯村雅彦
(照明) 川崎保之丞
(録音) 内田陽造
(音楽) 佐藤勝
(美術) 森幹男

[役名(キャスト)]
片桐夕子 (佐久間良子)
檪田清順 (河原崎長一郎)
女将 かつ枝 (木暮実千代)
夫 伊作 (進藤英太郎)
夕子の父 三左衛門 (宮口精二)
久子 (丹阿弥谷津子)
敬子 (岩崎加根子)
竹末甚造 (千秋実)
おみね (岸輝子)
鳳閣寺和尚 (千田是也)
寺男 (織田政雄)
照千代 (木村俊恵)
お新 (赤木春恵)

◆五瓣の椿
 (1964年 松竹[大船] カラー シネマスコープ 163分)


山本周五郎の同名小説を井手雅人が脚色し、川又昂が撮影、野村芳太郎が監督にあたった文芸大作。父の恨みを晴らすために、好色な母と関係した男達を誘惑し、一人ずつ殺害していく娘おしのの復讐を描く。その男たちは、三味線引き蝶太夫、婦人科医、札差屋の伜、芝居茶屋の出方、袋問屋の主人とさまざまだが、死体の傍らにはつねに一輪の椿が残されていた。この陰惨な物語を、岩下志麻は内に気丈さと気品を湛えた演技で好演し、代表作の一つとした。また、この作品の場合、松竹映画を支えてきた技術陣の力も見逃すことはできない。とくに、主人公の心理描写に赤、白、黒の色彩を効果的かつ象徴的に用いた独自の撮影は、川又昂カメラマンの力量を発揮したものであった。

[スタッフ]
(原作) 山本周五郎
(脚色) 井手雅人
(監督) 野村芳太郎
(製作) 城戸四郎
(撮影) 川又昂
(照明) 三浦礼
(録音) 栗田周十郎
(音楽) 芥川也寸志
(美術) 松山崇
(〃) 梅田千代夫

[役名(キャスト)]
おしの (岩下志麻)
岸沢蝶太夫 (田村高広)
海野得石 (伊藤雄之助)
むさし屋喜兵衛 (加藤嘉)
おその (左幸子)
菊太郎 (入川保則)
青木千之助 (加藤剛)
香屋清一 (小沢昭一)
佐吉 (西村晃)
丸梅源次郎 (岡田英次)
お孝 (山岡久乃)

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