◆おかあさん
(1952年 新東宝 白黒 スタンダード 98分)
この作品は当時、全国の小学生から募集した作文をまとめた「おかあさん」をもとに、女流脚本家の第一人者、水木洋子が脚本化したものである。戦災で失ったクリーニング店をようやく再開したのもつかの間、夫は過労で病床に伏し、病弱な長男は息を引き取った。娘二人と幼い甥をかかえて懸命に働く母。そんな生活ぶりを長女の目を通して描いたこの作品は、日本映画のリアリズムの伝統を踏襲したものといえよう。淡々とした生活描写のなかで、母と店を手伝う昔の使用人との噂への反応や、密かに芽生える恋心など、思春期の少女の微妙な感情が、成瀬監督の丁寧で緻密なカットの積み重ねにより描かれ、独自の世界を築き上げている。主演の大スター田中絹代がこの翌年、初めての監督作品『恋文』を演出することになった時、成瀬監督に指導を仰げと助言をしたのは、溝口と小津の両巨匠であった。「キネマ旬報」ベストテン第7位。なお、同監督の『稲妻』も同年の第2位を獲得している。
[スタッフ]
(原作) <森永母を讃える会>選定「全国児童綴方集」より
(脚本) 水木洋子
(監督) 成瀬巳喜男
(製作) 永島一朗
(撮影) 鈴木博
(照明) 佐藤快哉
(録音) 中井喜八郎
(音楽) 斉藤一郎
(美術) 加藤雅俊
[役名(キャスト)]
福原正子 (田中絹代)
長女 年子 (香川京子)
平井信二郎 (岡田英次)
年子の弟 進 (片山明彦)
木村庄吉 (加東大介)
正子の夫 良作 (三島雅夫)
正子の妹 栗原則子 (中北千枝子)
年子のおばさん (三好栄子)
伸二郎の母 みの (本間文子)
小物屋 おせい (沢村貞子)