令和5年度 インターンシップ生のことば

令和5年度インターンシップ生 Iさん

 私は大学院でアーカイブズ学を専攻し記録資料の管理・保存・利活用に関する理論を学んでいます。記録とは一口に言ってもその内容や形態は様々で、種々ある記録の中で私は主に映像の記録を研究の対象としています。国立映画アーカイブの仕事は、以前より私にとって最も興味のある事柄でしたが、研修を終えた今、その仕事全体をより具体的な「映画保存活動」としてイメージできるようになったと思います。

 アーカイブズ学における視聴覚資料に関する研究では、映画フィルムほか視聴覚資料にのせられた情報量が他の記録媒体に比べて多いことがしばしば言及されます。それは劇映画や記録映画といったジャンルにかかわらず、視聴覚資料が持つ重要な特徴だと思います。しかし、映画フィルムに写った被写体が何であるのか、またそのフィルムが辿ってきた経緯がどのようなものであったのか、これが明らかでないことも非常に多いのです。約6ヶ月間の研修を通して、国立映画アーカイブは映画フィルムあるいは映画という文化そのものを保存し普及するという機能の中で、上記のような映画フィルムに関する情報の量と質を高める役割を担っていることを改めて実感することになりました。

 研修では4室をまわり、様々な業務を経験させていただきました。まず教育・発信室では「こども映画館」の事前準備や「ユネスコ「世界視聴覚遺産の日」」関連のイベント準備に携わりました。ここでは、国際フィルムアーカイブ連盟(FIAF)の一員として世界的な視座を持ちつつ、各イベントを充実させるため試行錯誤する姿勢に刺激を受けました。次に、映画室では寄贈フィルム受け入れの立ち会いや相模原分館でのフィルム入出庫等の研修、受け入れ予定フィルムの概要調査等を行いました。特に膨大な量のフィルムを保存する相模原分館で目にした様々な形態、状態の映画フィルムが印象に残っており、適切な保存環境を整えるためにかかる労力の大きさを実感しました。3室目は上映室で、上映企画のための事前調査等を行いました。調査を通して、映画フィルムの情報が記載されたデータベースや過去の上映記録、図書室の資料等を参照する中で国立映画アーカイブが蓄積してきた記録群の一端に触れ、これらの記録や資料が一箇所に集まっていることが充実した上映プログラムを支えていることを認識しました。最後に、展示・資料室ではポスターや脚本、パンフレット、プレスなど、多くのノンフィルム資料を扱い、資料の入出庫や目録作成、また資料の貸し出しと返却にも立ち会わせていただきました。同室の研修では、映画が上映された当時の制作や興行の状況が資料を通して現れてくるようで、とても興味深かったです。以上の通り、本当にたくさんの業務に関わらせていただきましたが、研究員や職員の方々と映画保存について話した時間は特に貴重でした。

 「この映画は何か」これを探究するための基盤をつくる国立映画アーカイブの仕事に強く刺激を受け、学び、また日本の映画保存における多くの課題を目の当たりにした研修期間でした。例えば、資料への個人によるアクセスをどこまで提供できるか、という点については、需要はあれどもコストや保存の観点からも簡単には答えが出せないことを実感しました。重要な課題を現場で目にしたことは、間違いなく今後の研究やキャリアのモチベーションになると思います。今回の研修を通して得た学びを忘れることなく、視聴覚資料の保存を取り巻く状況がより良い方向に向かうよう貢献していきたいです。

 改めて、本研修でお世話になった国立映画アーカイブの皆様にお礼申し上げます。