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平成24年度
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坪田譲治、井上靖、下村湖人、宮沢賢治による少年少女文学の名作を、豊かな情感と奔放な想像力で映画化した文芸ものの傑作を紹介いたします。
◆風の中の子供
(1937年 松竹(大船) 白黒 スタンダード 86分)


夏休みを迎えて大はしゃぎの善太・三平兄弟の下に、突然お父さんが工場を辞め、警察に引っ張られるという事件が巻き起こる。小川未明との出会いから児童文学の世界に入った坪田譲治が、前年「東京朝日新聞」に連載し好評を博した小説を、清水宏監督が原作に忠実に映画化。爆弾小僧や葉山正雄ら松竹自慢の子役たちと、自宅で寝食を共にしながら撮影に備えた清水は、天然の野生ともいえる子供の存在を見事にカメラに収め、本作により児童映画の第一人者としての地位を築いた。翌年のヴェネチア国際映画祭には、田坂具隆監督の『五人の斥候兵』とともに出品され、ヨーロッパの批評家たちからも絶賛で迎えられた。なお、坪田による善太・三平の物語は、同じ清水監督によって『子供の四季』(1939)が作られるとともに、戦後も山本嘉次郎監督らによって映画化されている。

[スタッフ]
(原作)坪田譲治
(脚本・監督)清水宏
(撮影)斎藤正夫
(照明)鈴木武雄
(録音)土橋武夫
( 〃 )森武憲
(音楽)伊藤宜二
(美術)江坂実
( 〃 )岩井三郎

[役名(キャスト)]
父親(河村黎吉)
母親(吉川満子)
善太(葉山正雄)
三平(爆弾小僧)
おぢさん(坂本武)
おばさん(岡村文子)
幸介(末松孝行)
美代子(長船タヅコ)
佐山(石山隆嗣)
巡査(笠智衆)

◆あすなろ物語
(1955年 東宝 白黒 スタンダード 108分)


一人の少年が、複雑な人間関係の中で次第に成長していく様子を、桧(ひのき)に似ているが桧とは違い、明日は桧になろうと一生懸命になっている「あすなろう」という木に託して描いたものである。井上靖の自伝的要素の強い小説を映画化するにあたり、原作にある小学生と中学生時代のエピソードをそのままに、新たに高校生時代が加えられ、三話によるオムニバス構成になっている。これは長年黒澤明の助監督をつとめ、この後『裸の大将』(1958)や『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(1960)など秀作を発表した堀川弘通が監督に昇進するのを記念して、黒澤自身が脚色したものである。堀川監督の叙情性だけでなく、黒澤の資質をうかがえる点でも貴重な作品である。

[スタッフ]
(原作)井上靖
(脚本)黒澤明
(監督)堀川弘通
(製作)田中友幸
(撮影)山崎一雄
(照明)石井長四郎
(録音)下永尚
(音楽)早坂文雄
(美術)河東安英

[役名(キャスト)]
鮎太(第一話)(久保賢)
鮎太(第二話)(鹿島信哉)
鮎太(第三話)(久保明)
冴子(岡田茉莉子)
雪枝(根岸明美)
玲子(久我美子)
大学生 加島(木村功)
住職(小堀誠)
とみ(浦辺粂子)
玲子の母(村瀬幸子)
鮎太の祖母(三好栄子)
医大の助手 江見(太刀川洋一)
竹内(高原駿雄)
教師 佐山(金子信雄)

◆次郎物語
(1987年 西友=学習研究社=キネマ東京 カラー ビスタ 110分)


理想主義と自由主義を貫いた教育者、小説家として知られる下村湖人。その自伝的教養小説である同名原作は名作として名高く、これまでに2度映画化されている。1941年の島耕二監督作品、1955年の清水宏監督作品、どちらもそれぞれの個性を発揮した佳作となっている。母が病弱のために里子に出されて成長した次郎は、里親のお浜を慕い両親の住む本家にもどっても家族になじめず、衝突をくり返す。旧家の格式を重んじる祖母はそんな次郎を嫌うのだった。ちょうどその頃、父が借金の保証人になったため家が没落し、母は実家に戻り病を癒すことになった。監督の森川時久はこの古典的名作を、当時の社会的な背景を押さえながら丁寧に描き直し、叙情的感銘を導きだしている。次郎が成長していく故郷、その田園風景の美しさと母を演じた高橋恵子の演技が印象的である。

[スタッフ]
(原作)下村湖人
(脚本)井出雅人
(監督)森川時久
(製作)古岡滉
( 〃 )高丘季昭
( 〃 )荒木正也
( 〃 )高橋松男
(撮影)山崎善弘
(照明)加藤松作
(録音)木村瑛二
(音楽)さだまさし
( 〃 )渡辺俊幸
(美術)金田克美

[役名(キャスト)]
俊亮(加藤剛)
お民(高橋恵子)
次郎(10歳)(伊勢将人)
次郎(6歳)(樋口剛嗣)
喜さぶ(永島敏行)
東医師(中谷一郎)
宗太郎(高松英郎)
勘作(井川比佐志)
恭亮(芦田伸介)
おなか(山岡久乃)
お浜(泉ピン子)
祖母(大塚道子)

◆風の又三郎 ガラスのマント
(1989年 朝日新聞社=東急エージェンシー=日本ヘラルド映画 カラー ビスタ 107分)


宮沢賢治の同名原作は、1940年に島耕二監督の手で映画化されている。良質の叙情をたたえ、印象的な音楽もあいまって、その年度の「キネマ旬報」ベストテンの第3位にランクされた名作である。伊藤俊也監督のこの作品は、そのリメイクではあるが、随所に新しい創作がなされており、見事に平成版の〈又三郎〉となっている。母と二人暮らしの少女、かりんの前にあらわれた高田三郎は、二百十日の風の日に転校してきたために「風の又三郎」と呼ばれる。実際、彼が来てからは不思議なことの連続だった。東北地方の豊かな自然を背景にした、子供たちのより自然な演技は長期合宿による交流の成果である。冒頭のカメラの大胆な動きは、観客を一気にファンタジーの世界へと誘い込む魅力に満ちており、独自の視点で物語性に富んだ映像世界をつくりあげる伊藤監督の本領が発揮されている。

[スタッフ]
(原作)宮沢賢治
(監修)入沢康夫
(脚本)筒井ともみ
(脚本・監督)伊藤俊也
(プロデューサー)原正人
(撮影)高間賢治
(照明)安河内央之
(録音)橋本泰夫
(音楽)冨田勲
(美術)村木忍

[役名(キャスト)]
かりん(早勢美里)
かりんの母(檀ふみ)
又三郎(小林悠)
又三郎の父/かりんの父(草刈正雄)
一郎(志賀淳二)
嘉助(雨笠利幸)
悦治(宇田川大)
おたね婆(樹木希林)
かりんの祖父(内田朝雄)
使いの男(岸部一徳)
タバコ専売局の男(すまけい)

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