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平成24年度
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松本清張、山崎豊子、水上勉による社会派ミステリー小説を原作に、名匠たちが丹精こめて作り上げた力作を紹介いたします。
◆張込み
(1958年 松竹(大船) 白黒 シネマスコープ 116分)


1955年「小説新潮」に掲載された松本清張の短篇小説を、橋本忍脚色、野村芳太郎監督で映画化した作品。東京でおきたピストル強盗事件の共犯者・石井の行方を追う警視庁捜査一課の若手刑事・柚木とベテラン刑事・下岡は、石井の昔の恋人・さだ子が住む佐賀市に向かい満員の列車に乗り込む。二人は銀行員の後妻となったさだ子の家の向かいの安宿で張込みを開始した。暑い夏の日々、年の離れた吝嗇な夫と先妻の二人の子どもの世話に明け暮れるさだ子の前に、ついに石井があらわれる。ドキュメンタリー・タッチのリアルな描写が緊迫感を盛り上げる。かつての恋人との再会によって、無気力な日常生活の顔から一変して、生き生きとした束の間の輝きを放つ女さだ子を演じた高峰秀子の姿が印象深い。松本清張原作・橋本忍脚色・野村芳太郎監督のトリオ作品としては他に『ゼロの焦点』『影の車』『砂の器』があり、いずれも話題を呼んだ。野村監督は多くのミステリー映画を手がけたが、松本清張原作のものでは他に『鬼畜』(1977)『疑惑』(1982)がある。

[スタッフ]
(原作)松本清張
(脚本)橋本忍
(監督)野村芳太郎
(企画)小倉武志
(撮影)井上晴二
(照明)鈴木茂男
(録音)栗田周十郎
(音楽)黛敏郎
(美術)逆井清一郎

[役名(キャスト)]
柚木刑事(大木実)
下岡刑事(宮口精二)
その妻(菅井きん)
その長男(竹本善彦)
横川さだ子(高峰秀子)
その夫(清水将夫)
犯人 石井(田村高広)
主犯 山田(内田良平)
高倉弓子(高千穂ひづる)
その父(藤原釜足)
その母(文野朋子)

◆黒い画集 あるサラリーマンの証言
(1960年 東宝 白黒 シネマスコープ 95分)


松本清張原作『黒い画集』の一篇「証言」を、橋本忍脚色、堀川弘通監督で映画化した作品。40代で中堅企業の課長となった平凡なサラリーマン・石野は、部下の女性と不倫の関係を続けている。女と会った帰り道、自宅の隣に住む保険外交員・杉山とすれちがう。この日向島で起こった殺人事件の容疑者として杉山が逮捕され、石野はアリバイ立証のため証言を求められるが、自分の地位や家庭を守るため、これを拒否する。難を逃れたかに思われたが、事件はそれでは終らなかった。石野の情事を知り脅迫してきた学生が殺され、事件直後その現場を訪れた石野は自らの無罪を証するため、すべてを語ることを余儀なくされる。多くの松本清張作品を脚色している橋本忍の脚本は本作でも冴えをみせ、何気ない日常生活の中に潜む陥穽に足をとられ、徐々に追い込まれていく恐怖を見事に描いている。この作品のヒットによって「黒い画集」はシリーズ化され、『黒い画集 ある遭難』『黒い画集 第二話 寒流』(ともに1961)が作られた。

[スタッフ]
(原作)松本清張
(脚本)橋本忍
(監督)堀川弘通
(製作)三輪礼二
(撮影)中井朝一
(照明)森弘充
(録音)藤好昌生
( 〃 )下永尚
(音楽)池野成
(美術)村木忍

[役名(キャスト)]
石野貞一郎(小林桂樹)
梅谷千恵子(原知佐子)
検事 岸本(平田昭彦)
脅迫者 松崎(江原達怡)
刑事 奥平(西村晃)
石野の妻 邦子(中北千枝子)
岡崎(三津田健)
保険外交員 杉山(織田政雄)
裁判官(佐々木孝丸)
杉山の妻 みさえ(菅井きん)
与太者 早川(小池朝雄)
森下(小玉清(児玉清))

◆白い巨塔
(1966年 大映(東京) 白黒 シネマスコープ 150分)


一人の医学部助教授の教授昇進をめぐって展開される、大学内部の権謀術数の世界を大胆に描いた、山崎豊子の同名小説の映画化作品。発表当時、医学界に波紋を投じた小説であり、近年テレビドラマ化もされ、ふたたび話題を集めた。この映画化では脚本を橋本忍が担当し、1950年代独立プロダクション運動などの活躍で社会派として知られる、山本薩夫が監督にあたっている。「白い巨塔」=「大学医学部」の欺瞞性が、山本監督一流の巧みな語り口で小気味よく暴かれ、痛快な作品となっている。野心に燃える助教授を演じた田宮二郎の魅力も、この作品の成功を支えており、俳優として記念すべき作品となった。山崎豊子原作、山本薩夫監督の同系列の作品に『華麗なる一族』(1974)、『不毛地帯』(1976)がある。

[スタッフ]
(原作)山崎豊子
(脚本)橋本忍
(監督)山本薩夫
(製作)永田雅一
(撮影)宗川信夫
(照明)柴田恒吉
(録音)奥村幸雄
(音楽)池野成
(美術)間野重雄

[役名(キャスト)]
財前五郎(田宮二郎)
東教授(東野英治郎)
里見助教授(田村高廣)
鵜飼教授(小沢栄太郎)
菊川教授(船越英二)
船尾教授(滝沢修)
大河内教授(加藤嘉)
今津教授(下条正巳)
財前又一(石山健二郎)
佐枝子(藤村志保)
ケイ子(小川真由美)

◆飢餓海峡
(1964年 東映(東京) 白黒 シネマスコープ 183分)


原作は、「週刊朝日」に連載された水上勉の長編推理小説である。北海道で脱獄囚による強盗殺人事件が発生した。その日は青函連絡船の遭難事故が起きた日でもあり、事件の解明は難航を極めた。やがて10年の歳月が過ぎた頃、舞鶴で女性の変死体が見つかったことから、事件はようやくその全貌を見せはじめた。貧しさから脱出するため罪を犯した男、貧しさゆえに犯人の恩を忘れなかった女、そして事件を執念深く追いかける刑事ら、社会の底辺で懸命に生きる人々の喜びと悲しみを描いたこの作品は、深い人間観察による力強い演出で内田監督の代表作であると同時に、戦後日本映画の成果の一つでもある。ラストの三国連太郎が海峡に身を投じる場面は、戦後の日本の精神的飢餓を暗示するかのようである。爪のエピソードは原作にはなく、映画独自のものである。三国の力演と左幸子の体当たり的熱演、そして<喜劇の伴淳>がシリアスな老刑事を演じて見事である。「キネマ旬報」ベストテン第5位。

[スタッフ]
(原作)水上勉
(脚本)鈴木尚之
(監督)内田吐夢
(撮影)仲沢半次郎
(照明)川崎保之丞
(録音)内田陽造
(音楽)富田勲
(美術)森幹男

[役名(キャスト)]
犬飼多吉/樽見京一郎(三国連太郎)
杉戸八重(左幸子)
弓坂刑事(伴淳三郎)
味村刑事(高倉健)
八重の父 長左衛門(加藤嘉)
樽見の妻 敏子(風見章子)
本島信市(三井弘次)
妻 妙子(沢村貞子)
東舞鶴署長(藤田進)
和尚(山本麟一)
記者A( 室田日出男)

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