Art東京国立近代美術館
Craft&Design東京国立近代美術館工芸館
MOMAT TOP

平成24年度
Qプログラム

戦後の混乱を乗り越え、復興の時を迎えた日本に生きる様々な家族や夫婦の姿を描いた作品を紹介いたします。
◆煙突の見える場所
(1953年 新東宝=スタジオ8プロ 白黒 スタンダード 108分)


東京・千住にある、見る場所によっては四本にも一本にも見えるという巨大な「お化け煙突」。この界隈を舞台に、戦後の日本を生きる庶民の悲喜こもごもを描き出した五所平之助監督の代表作。足袋問屋に勤める実直な中年男・緒方隆吉は、戦災未亡人であった妻弘子とつつましく暮らしている。生活の足しにと二階を税務署員の久保健三と、街頭広告のアナウンス嬢、東仙子に間貸しているが、そこに見も知らぬ赤ん坊が置去りにされていたことから一騒動がもちあがる。実存主義的な作風で知られる椎名麟三の短編「無邪気な人々」を中心に、黒澤明作品で知られる小国英雄が脚本を書き、五所監督自らが主宰する独立プロダクションで製作した「不思議な笑い」を醸し出す一篇となった。

[スタッフ]
(原作)椎名麟三
(脚本)小国英雄
(監督)五所平之助
(製作)内山義重
(撮影)三浦光雄
(照明)河野愛三
(録音)道源勇二
(音楽)芥川也寸志
(美術)下河原友雄

[役名(キャスト)]
緒方弘子(田中絹代)
夫 隆吉(上原謙)
東仙子(高峰秀子)
久保健三(芥川比呂志)
池田雪子(関千恵子)
石橋勝子(花井蘭子)
河村徳治(坂本武)
弘子の前夫 塚原忠二郎(田中春男)
灘らん子(三好栄子)
夫 勇(中村是好)
野島加代(浦辺粂子)
北清作(星ひかる)
医師 金子大助(小倉繁)

◆お早よう
(1959年  松竹(大船) カラー スタンダード 94分)


子供の目を通して、大人たちが何気なく過ごしている日常のおかしさを、ユーモラスに描いた小津安二郎監督作品。舞台は戦後日本の典型的な風景である郊外の新興住宅地であるが、小津監督が得意とした長屋物の戦後版ともいえる内容である。ロー・アングルや端正な演出で知られる小津作品らしく、巧みな人物の出入りやほのぼのとした会話の妙などに独特の風格をもっている。挨拶をめぐるたわいもない物語に豊かな表情を与え、絶妙のテンポで独自の世界を作り上げていく、その演出スタイルはすでに完成の域に達していた。その巨匠が敢えて「オナラ」の挿話を展開してみせるところに、前年、紫綬褒賞を受け、またこの年芸術院賞を受賞した、彼一流のダンディズムを感じとることもできるだろう。

[スタッフ]
(脚本)野田高梧
(脚本・監督)小津安二郎
(製作)山内静夫
(撮影)厚田雄春
(照明)青松明
(録音)妹尾芳三郎
(音楽)黛敏郎
(美術)浜田辰雄

[役名(キャスト)]
福井平一郎(佐田啓二)
有田節子(久我美子)
林敬太郎(笠智衆)
妻 民子(三宅邦子)
原口きく江(杉村春子)
林の長男 実(設楽幸嗣)
次男 勇(島津雅彦)
大久保しげ(高橋とよ)
福井加代子(沢村貞子)
富沢汎(東野英治郎)
妻 とよ子(長岡輝子)
原口みつ江(三好栄子)

◆裸の島
(1960年 近代映画協会 白黒 シネマスコープ 96分)


瀬戸内海の小さな無人島に、一組の夫婦が渡ってきた。千太と妻のトヨには8歳になる太郎と6歳の次郎の二人の子供がいた。わずかな土地を耕し、段々畑に麦とサツマイモを植えて生活している。しかし、島には川も井戸さえもない。小船を漕いで隣の島まで水を汲みにいき、やっと運んできた水を天秤棒でかつぎながら、険しい斜面を登っていく作業は並大抵の苦労ではない。トヨは誤って手桶の水をこぼしてしまう。千太は妻の頬に平手打ちをくらわせる。それほど水はかけがえのないものなのだ。一言もセリフのないこの映画のなかで長男の太郎が急病になり、医者が間にあわず死んでしまう場面は、見るものに悲痛な感情をもたらす。それでも二人は黙々と働きつづけるしかないのだ。新藤兼人監督自ら出資して、わずか13人のスタッフで、現地に合宿生活をして完成されたこの作品は、近代映画協会の自主配給で公開されたが、第2回モスクワ映画祭でグランプリを獲得するにおよび、世界64か国に輸出された。「キネマ旬報」ベストテン第6位。

[スタッフ]
(脚本・監督・製作)新藤兼人
(製作)松浦栄策
(撮影)黒田清巳
(照明)永井俊一
(録音)丸山国衛
(音楽)林 光

[役名(キャスト)]
トヨ(乙羽信子)
夫 千太(殿山泰司)
息子 太郎(田中伸二)
息子 次郎(堀本正紀)

◆名もなく貧しく美しく
(1961年 東京映画 白黒 シネマスコープ 128分)


木下恵介監督の下でシナリオの修行を積み、助監督を務めた松山善三の第一回監督作品である。聾唖学校の同窓会で出会い、結ばれた道夫と秋子は、貧しいながらも身を寄せあい、懸命に生きている。やがて夫婦には子どもが生まれ、暮らしも落ち着きかけたが、素行の悪い秋子の弟に、金の問題で繰り返し悩まされる。絶望した秋子を電車の窓ガラス越しに道夫が励ます姿は、手話によって二人の絆が語られる美しい場面であり、印象深い。本作は、松山が自らの監督デビュー作として準備してきたもので、「靴磨きの聾唖者夫婦」という設定に松竹は難色を示したが、東宝のプロデューサー藤本真澄の判断で映画化が実現した。同年の毎日映画コンクール、ブルーリボン賞の脚本賞を受賞するなど高い評価を受け、興行的にも成功した。「高峰秀子の夫」というイメージがあった松山は、本作によって一躍映画監督として確固たる地位を築いた。

[スタッフ]
(脚本・監督)松山善三
(製作)藤本真澄
( 〃 )角田健一郎
(撮影)玉井正夫
(照明)石井長四郎
(録音)長岡憲治
(音楽)林光
(美術)中古智
( 〃 )狩野健

[役名(キャスト)]
片山秋子(高峰秀子)
夫 道夫(小林桂樹)
秋子の母 たま(原泉)
秋子の姉 信子(草笛光子)
秋子の弟 弘一(沼田曜一)
道夫の母親(賀原夏子)
道夫の叔父(織田政雄)
秋子の息子 一郎(島津雅彦)
5年生の一郎(王田秀夫)
沢野洋服店主(多々良純)
上野アキラ(加山雄三)

→各プログラムへ 
A/B/C/D/E/F/G/H/I/J/K/L/M/N/O/P/Q/R/S/T/U/V/W/X/Y

→プログラム一覧に戻る

Calendar 上映・展示カレンダー
上映・展示カレンダー
The National Museum of Modern Art, Tokyo