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平成24年度
Sプログラム

風刺劇に落語ネタ、庶民劇にクレージー・キャッツ──森繁久弥出演の2作品を含め、さまざまな笑いで見るものを楽しませてきた喜劇映画の代表作を紹介いたします。
◆本日休診
(1952年 松竹(大船) 白黒 スタンダード 96分)


井伏鱒二の同名小説と「遥拝隊長」の二つの短編をもとに、ベテランの斎藤良輔がシナリオを書いた風俗喜劇。ある町の老医師・三雲八春は、院長を甥の伍助に譲って一年目。今日は本日休診の札を掲げて、院長を始め看護婦たちを慰安旅行に出してやった。そんな居残りの彼のもとに、次から次へと突飛な事件が舞い込んでくる。新人・三国連太郎が演じた、戦地で頭に負傷したことから発作的に軍隊時代に逆戻りする青年の姿は、見るものに強い印象を残す。監督の渋谷実は、松竹で成瀬巳喜男や五所平之助らの助監督を務め、戦後獅子文六原作の風俗喜劇で監督としての地位を確立、『現代人』(1952)など社会派ドラマでも知られる。ドライな感覚に鋭い風刺を盛り込んだ作風は、この群像喜劇にも存分に活かされている。

[スタッフ]
(原作)井伏鱒二
(脚色)斎藤良輔
(監督)渋谷実
(製作)山本武
(撮影)長岡博之
(照明)小泉喜代司
(録音)大村三郎
(音楽)吉沢博
( 〃 )奥村一
(美術)浜田辰雄

[役名(キャスト)]
三雲八春(柳永二郎)
津和野加吉(鶴田浩二)
お町(淡島千景)
津和野悠子(角梨枝子)
湯川春三(佐田啓二)
勇作(三国連太郎)
滝さん(岸恵子)
豊子夫人(市川紅梅)
湯川三千代(田村秋子)
竹さん(中村伸郎)
お京(長岡輝子)
松本巡査(十朱久雄)
兵隊服の男(多々良純)
三雲伍助(増田順二)

◆駅前旅館
(1958年 東京映画 カラー シネマスコープ 109分)


「新潮」に掲載された井伏鱒二の小説を、戦前からのベテランであり、とりわけ文芸作品の映画化に定評のある豊田四郎監督がまとめた「駅前シリーズ」(1958~69)の第1作。「社長シリーズ」と並んで東宝の興行の大黒柱となった「駅前シリーズ」は、1969年の『駅前桟橋』まで計24本が製作された。内容は、東京上野駅前の旅館街を舞台にした風俗劇で、正義感に燃えて駅前の浄化運動に取り組む旅館の番頭に森繁久弥、ライバル旅館の番頭に伴淳三郎、近所の小料理屋の女主人には淡島千景という芸達者を配し、文学的な味わいよりはむしろ個性の強い俳優たちの存在感を前面に出している。森繁にとって、豊田監督は『夫婦善哉』(1955)、『猫と庄造と二人のをんな』(1956)、『珍品堂主人』(1960)から『恍惚の人』(1973)に至るまで、そのアクの強い演技をもっともよく引き出した監督であった。

[スタッフ]
(原作)井伏鱒二
(脚本)八住利雄
(監督)豊田四郎
(製作)佐藤一郎
(撮影)安本淳
(照明)石川緑郎
(録音)渡会伸
(音楽)團伊玖磨
(美術)松山祟

[役名(キャスト)]
生野次平(森繁久弥)
小山欣一(フランキー堺)
高沢(伴淳三郎)
お辰(淡島千景)
柊元三治(森川信)
妻 お浜(草笛光子)
於菊(淡路恵子)
春木屋番頭(多々良純)
相田先生(左卜全)
客引のボス(山茶花究)
山田紡績の先生(浪花千栄子)

◆ニッポン無責任時代
(1962年 東宝 カラー シネマスコープ  86分)


周囲が唖然としているうちにスイスイと出世街道を登ってゆくお調子者の男を通して、いわゆる高度経済成長の時代を笑い飛ばそうとする風刺的な喜劇。その風刺性は、「努力」や「忍耐」といった美徳をまるで重んじない主人公の人生観ばかりでなく、平均(たいらひとし)なるその役名にも表われているだろう。前年に大ヒット曲「スーダラ節」で売り出したクレージー・キャッツの植木等は、この映画に主演したことで日本の喜劇映画の新しい顔となった。また、畳みかけるようなテンポが印象的な古澤憲吾監督の演出は、悪ノリも辞さない「クレージー」たちの芝居ともマッチし、同じくクレージー・キャッツが主演した「日本一の男シリーズ」(1963~71)などで東宝のサラリーマン喜劇に革新をもたらした。助演の団令子、中島そのみ、重山規子は青春喜劇「お姐ちゃんシリーズ」(1959~63)で知られる若い三人組で、この作品の明朗なタッチを支えている。

[スタッフ]
(脚本)田波靖男
( 〃 )松木ひろし
(監督)古澤憲吾
(製作)安達英三朗
( 〃 )森田信
(撮影)斉藤孝雄
(照明)隠田紀一
(録音)斉藤昭
(音楽)神津善行
(美術)小川一男

[役名(キャスト)]
平均(植木等)
氏家勇作(ハナ肇)
黒田有人(田崎潤)
洋子(藤山陽子)
孝作(峰健二)
富山(松村達雄)
石狩熊五郎(由利徹)
時子(久慈あさみ)
佐野愛子(重山規子)
麻田京子(中島そのみ)
まん丸(団令子)

◆喜劇・女は男のふるさとヨ
(1971年 松竹 カラー シネマスコープ 90分)


松竹の喜劇「女シリーズ」の第1作。東京新宿でストリッパーを斡旋する芸能事務所には、身寄りがなく、貧しいけれども逞しいダンサーたちが、人情に厚い経営者夫婦の「家族」として住んでいた。ふとしたトラブルから旅回りを決意したダンサーと、彼女を真面目に慕うひとりのファンが、改造した自動車で日本列島を南へと向かう。この作品を演出した森崎東は、庶民の生活からにじみ出る人間臭いエネルギーを笑いとともに描くことに優れた監督で、この映画の脚本は、松竹大船撮影所の先輩である山田洋次と組んで執筆した。このシリーズは、逆境にめげない逞しい女性像と不器用な生き方しかできない男性たちを対比させながら、こうした新しい「家族」の形を示すことで松竹ホームドラマの伝統を引き継いだとも言えるだろう。この映画のヒットに続いて『喜劇・女生きてます』(1971)や『喜劇・女売り出します』(1972)などの力作を送り出している。

[スタッフ]
(原作)藤原審爾
(脚本)山田洋次
(脚本・監督)森崎東
(製作)小角恒雄
(撮影)吉川憲一
(照明)津吹正
(録音)小林英男
(音楽)山本直純
(美術)梅田千代夫

[役名(キャスト)]
金沢(森繁久弥)
竜子(中村メイコ)
笠子(倍賞美津子)
星子(緑魔子)
照夫(河原崎長一郎)
徳田刑事(花沢徳衛)
ケチ権(伴淳三郎)
大学生(佐藤蛾次郎)

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