Art東京国立近代美術館
Craft&Design東京国立近代美術館工芸館
MOMAT TOP

平成24年度
Iプログラム

1980年代以降、主に独立プロダクションを舞台に、日本映画の顔として活躍してきた監督たちの意欲作を紹介いたします。
◆遠雷
(1981年 にっかつ撮影所=ニュー・センチュリー・プロデューサーズ=ATG カラー スタンダード 135分)


宇都宮でビニールハウスのトマト栽培を職業としている青年とその親友の、明暗分かれる青春を鮮烈に描いた立松和平の同名小説の映画化である。1970年代以降の日本は、この映画でビニールハウスの隣に団地が建つように、各地の都市近郊で風景が変貌し、旧来の「都市と農村」の対立だけでは描けない複雑な社会が形成された。またこの時期の日本映画界は産業としては低迷していたが、その中にあって日活撮影所は最も多くの映画を量産し、次々と新しい才能を送り出し続けた。この映画の監督根岸吉太郎と脚本家荒井晴彦はともに日活を経由しており、そうした現代的な風景、またその中で育った多様な価値観で揺れる青年像を描くことで、この作品をリアルな生活感覚あふれる新世代の青春映画に結実させた。主人公の青年はトントン拍子に結婚式を挙げ、その親友は不幸な殺人を犯してしまう。長々と続く幸せな披露宴の最中に親友が罪を告白するという印象的なシーンは原作にはなく、脚本における創作であった。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作)立松和平
(脚本)荒井晴彦
(監督)根岸吉太郎
(撮影)安藤庄平
(照明)加藤松作
(録音)飛田喜美雄
(音楽)井上堯之
(美術)徳田博

[役名(キャスト)]
和田満夫(永島敏行)
中森広次(ジョニー大倉)
花村あや子(石田えり)
カエデ(横山リエ)
満夫の父(ケーシー高峰)
満夫の母(七尾伶子)
満夫の祖母(原泉)
チイ(藤田弓子)
和田哲夫(森本レオ)
農協職員(立松和平)

◆ロックよ、静かに流れよ
(1988年 プルミエ・インターナショナル=ジャニーズ事務所=東宝カラー ビスタ 100分)


ロックに熱中する高校生を描いた青春映画。当時人気のあったアイドルグループ「男闘呼組」のメンバーが主演している。両親の離婚で東京から松本に引っ越した片岡俊介は、転校当日目つきの鋭い同級生と喧嘩になった。が、相手は俊介と同じくロック・グループ「クライム」の大ファンだった。やがて4人のグループができる。彼らはロック・バンドを結成、バンドデビューを目指すのだが…。長崎俊一は学生時代から多くの8ミリ、16ミリ映画を製作しており、自主映画の世界では有力な監督の一人であった。この作品は彼にとって2作目の35ミリ劇場映画であるが、アイドル映画の水準を超えた瑞々しい青春映画として評価され、「キネマ旬報」ベストテンの第4位、ヨコハマ映画祭作品賞を受賞した。

[スタッフ]
(原作)吉岡紗千子
(脚本)北原陽一
(脚本・監督)長崎俊一
(製作)ジャニー喜多川
( 〃 )増田久雄
(撮影)杉村博章
(照明)佐藤勝彦
(録音)弦巻裕
(音楽)義野裕明
(美術)尾関龍生

[役名(キャスト)]
片岡俊介(岡本健一)
大峰たけし(成田昭次)
戸田裕(高橋一也)
友成拓也(前田耕陽)
片岡沙代(あべ静江)
片岡みどり(磯崎亜紀)子
秋山(渡辺正行)
野村教諭(内藤剛志)
大峰和子(内田あかり)
校長(鈴木瑞穂)
磯山(寺尾聰)
原宿の少年たち(光GENJI)

◆櫻の園
(1990年 ニュー・センチュリー・プロデューサーズ=サントリー カラー ビスタ 100分)


桜の咲く頃、学校創立記念日の恒例行事としてチェーホフの戯曲「桜の園」を上演しようとする女子高校の演劇部。原作である吉田秋生の漫画作品ではそうした演劇部員たちの春夏秋冬を描いているが、その映画化にあたって中原俊監督らはドラマを「桜の園」の開演前の2時間だけに絞り、部員たちの行動や心理的なざわめきを多層的に描く群像劇に作り上げている。登場人物のほとんどが女子高校生という設定もさることながら、主要な人物だけでなく脇役の部員たち一人一人にまで存在感を際立たせたじんのひろあきの脚本、そして中原監督の新境地とも言える集団的な演出法も斬新であった。つみきみほ、中島ひろ子といった若手女優の好演もあって各方面で高く評価されたこの作品は、その年の「キネマ旬報」ベストテンの第1位、監督賞、脚本賞ほか多くの賞を受賞し、現代日本映画の名作としての地位を獲得している。

[スタッフ]
(原作)吉田秋生
(脚本)じんのひろあき
(監督)中原俊
(製作)岡田裕
(撮影)藤沢順一
(照明)金沢正夫
(録音)林大輔
(選曲)石井ますみ
(美術)稲垣尚夫
( 〃 )内田哲也

[役名(キャスト)]
志水由布子(中島ひろ子)
杉山紀子(つみきみほ)
倉田知世子(白島靖代)
城丸香織(宮澤美保)
久保田麻紀(梶原阿貴)
大町真由美(三野輪有紀)
平井和代(白石美樹)
戸田麗子(後藤宙美)
坂口(上田耕一)
里美先生(岡本舞)
中村先生(南原宏治)

◆お引越し
(1993年 読売テレビ放送 カラー ビスタ 124分)


大胆なカメラ移動を駆使しながら各カットを長く撮る独特の「映画術」で知られる相米慎二監督は、『ションベン・ライダー』(1983)や『台風クラブ』(1985)など、少年少女たちの不安定な心理や生活世界をその技法で巧みに演出し、1980年代以降の日本映画を代表する映画作家となった。この映画では、やがて離婚するために別居に入った両親を持つ小学6年生の少女レンコをめぐって、彼女が感じる心の葛藤や、新しい自己を見い出してゆく過程がみずみずしく、またラストシーンでは自我に目覚めた彼女の内面が幻想的に描写される。日本映画の大きなテーマの一つである「家族」の解体と再生の物語に、相米監督はまったく新しいアプローチから挑み、1990年代における家族像の「現在」を浮き彫りにしている。撮影面では、ハリウッド映画の経験もあり、後に大島渚監督の『御法度』(1999)でも技量を発揮したカメラマン栗田豊通がその力強い画面作りに貢献している。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作)ひこ・田中
(脚本)奥寺佐渡子
( 〃 )小此木聡
(監督)相米慎二
(製作)伊地智啓
( 〃 )安田匡裕
(撮影)栗田豊通
(照明)黒田紀彦
(録音)野中英敏
(音楽)三枝成彰
(美術)下石坂成典

[役名(キャスト)]
漆場レンコ(田畑智子)
父 ケンイチ(中井貴一)
母 ナズナ(桜田淳子)
布引ユキオ(田中太郎)
大木ミノル(茂山逸平)
高野和歌子(須藤真理子)
木目米先生(笑福亭鶴瓶)
橘理佐(青木秋美)
砂原老人(森秀人)
砂原節子(千原しのぶ)

→各プログラムへ 
A/B/C/D/E/F/G/H/I/J/K/L/M/N/O/P/Q/R/S/T/U/V/W/X/Y

→プログラム一覧に戻る

Calendar 上映・展示カレンダー
上映・展示カレンダー
The National Museum of Modern Art, Tokyo