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平成24年度
Jプログラム

溝口健二と山田五十鈴、小津安二郎と原節子、成瀬巳喜男と高峰秀子、増村保造と若尾文子――監督と女優との宿命的な出会いによって生み出された名作を紹介いたします。
◆浪華悲歌
(1936年 第一映画 白黒 スタンダード 72分)


大阪の製薬会社で電話交換手として働くモダンガールのアヤ子(山田五十鈴)が、家族の経済的苦境を救うため、恋人がいるにもかかわらず、言い寄ってきた社長の囲われものとなるが…。家族や恋人のために自己犠牲を行った末に、その自己犠牲が報われる物語がメロドラマだとすれば、本作におけるアヤ子の自己犠牲的な行動は、最後まで報われることはない。本作の見所は、男たちの欲望と卑劣さと弱さの餌食になって転落していくアヤ子の姿を、徹底的に冷ややかな視線で捉えた溝口健二の演出にあるだろう。1930年に映画女優としてデビューした山田五十鈴は、本作で厳しい溝口の演技要求に応えて大女優へと飛躍し、同じ年に再びコンビを組んだ『祇園の姉妹』と合わせて、二人の代表作とした。「キネマ旬報」ベストテン第3位。

[スタッフ]
(原作)溝口健二
(脚色)依田義賢
(監督)溝口健二
(撮影)三木稔
(照明)堀越田鶴郎
(録音)加瀨久
(録音)水口保美
(美術)久光五郎
( 〃 )木川義人
( 〃 )岸中勇次郎

[役名(キャスト)]
村井アヤ子(山田五十鈴)
惣之助夫人すみ子(梅村容子)
医師夫人さだ子(大久保清子)
麻居惣之助(志賀廼家弁慶)
株屋藤野喜蔵(進藤英太郎)
麻居店員・西村進(原健作)
刑事・峰岸五郎(志村喬)

◆晩春
(1949年 松竹(大船) 白黒 スタンダード 108分)


婚期に遅れそうになった娘とそれを気遣う父の姿を、厳正なスタイルでほのぼのとした情感のなかに描き出し、小津安二郎監督の戦後の転機となった作品。これ以降、脚本は野田高梧と組み、ヒロインには東宝所属の原節子が起用されることになる。鎌倉に住む学者・曽宮と娘・紀子の暮らしは平穏そのものだった。父にとって気がかりなのは、27歳になる娘の結婚であり、娘にとって気がかりなのは、自分が嫁げば一人になってしまう父の暮らしだった。窮余の策として父は娘に再婚をほのめかす。戦後の混乱した世相には目もくれず、美しい父と娘の愛情を描いた作品。気のいい叔母を演じる杉村春子の演技も見逃せない。「キネマ旬報」ベストテン第1位。

[スタッフ]
(原作)広津和郎
(脚本)野田高梧
(監督・脚本)小津安二郎
(製作)山本武
(撮影)厚田雄春
(照明)磯野春雄
(録音)佐々木秀孝
(音楽)伊藤宜二
(美術)浜田辰雄

[役名(キャスト)]
曽宮周吉(笠智衆)
  紀子(原節子)
北川アヤ(月丘夢路)
田口まさ(杉村春子)
  勝義(青木放屁)
服部昌一(宇佐美淳)
三輪秋子(三宅邦子)
小野寺譲(三島雅夫)
妻 きく(坪内美子)
娘 美佐子(桂木洋子)
林しげ(高橋豊子)

◆稲妻
(1952年 大映(東京) 白黒 スタンダード 87分)


それぞれ父親の違う四人の子供たち。母はそれをそのまま受け入れて暮らしているが、末っ子の清子(高峰秀子)は姉や兄たちの身勝手で無気力な生き方に生理的な嫌悪を抱いている。山の手の世田谷で一人下宿生活を送っているのもそのためだ。次女の光子(三浦光子)が飼っている子猫のように、弱々しい生きものとして周りの世話になりたくないのだ。林芙美子の同名小説は1936年に発表されたもので、実母をモデルにしたものだと言われている。監督の成瀬巳喜男は、戦前の松竹時代から林芙美子に関心を抱いていたが、映画化の機会をもてないままであった。この作品は『めし』(1951)に続く林文学の映画化である。下町の庶民の姿をいたずらに劇化することなく、静かに見つめているところに特徴がある。田中澄江脚本。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作)林芙美子
(脚本)田中澄江
(監督)成瀬巳喜男
(撮影)峰重義
(照明)安藤真之助
(録音)西井憲一
(音楽)斎藤一郎
(美術)仲美喜雄

[役名(キャスト)]
小森清子(高峰秀子)
屋代光子(三浦光子)
国宗つぼみ(香川京子)
清子の長姉 縫子(村田知英子)
つぼみの兄 周三(根上淳)
パン屋 綱吉(小沢栄太郎)
清子の母 おせい(浦辺粂子)
田上りつ(中北千枝子)
杉山とめ(滝花久子)
縫子の夫 龍三(植村謙二郎)
清子の兄 嘉助(丸山修)

◆華岡青洲の妻
(1967年 大映(京都) 白黒 シネマスコープ 99分)


有吉佐和子の同名原作を、新藤兼人の脚本を得て増村保造が映画化した作品。日本初の麻酔薬の開発者として名高い、紀州の医師華岡青洲をめぐる母と妻の葛藤を中心に描いている。加恵は青洲の母お継に憧れて21歳で華岡家の嫁となった。京都で医学修行を積んでいた夫が帰国するのは3年後である。やがて、加恵をさしおいて、なにくれとなく夫の世話を焼く姑は加恵のなかでライバルとなっていく。嫁と姑のひそやかな対立をよそに、青洲はひたすら麻酔薬の研究に打ち込んでいった。動物実験の段階を終えて、人体を用い効果を試すべきときがきた。その時、自ら実験台になることを申し出たのは二人の女、母と妻であった。譲らない二人に、青洲は同じように薬を与えるのだったが…。増村保造はこの映画化に熱心で、企画会議で永田雅一社長に訴えて製作許可を得た。増村自身は、女の戦いを利用しつつ薬を完成させた華岡青洲に魅力を感じていたらしい。「キネマ旬報」ベストテン第5位。

[スタッフ]
(原作)有吉佐和子
(脚色)新藤兼人
(監督)増村保造
(企画)辻久一
(撮影)小林節雄
(照明)美間博
(録音)大角正夫
(音楽)林光
(美術)西岡善信

[役名(キャスト)]
華岡青洲(市川雷蔵)
加恵(若尾文子)
お継(高峰秀子)
直道(伊藤雄之助)
小陸(渡辺美佐子)
加恵の乳母(浪花千栄子)
お勝(原知佐子)
下村良庵(伊達三郎)

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