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平成24年度
Dプログラム

近代日本の光と影を情感ゆたかなリアリズムで描いた今井正――その多彩な作品群から大ヒット作や社会派ドラマを紹介いたします。
◆青い山脈
(1949年 藤本プロ=東宝 白黒 スタンダード 172分)


戦後間もない時期に、その明朗な雰囲気で大ヒットし、主題歌として歌われた「青い山脈」と「恋のアマリリス」も歌謡史上で記憶されるものである。転校してきた女子学生をこらしめるため、いたずらで出したラブレターが思わぬ事件に発展し、封建的な因習が残る地方の小都市は大騒ぎになる。戦後民主主義の理念であった自由恋愛や、女性の自立・解放といった命題が、明朗で快活なユーモアのうちに描かれている。理想に燃える知的な女教師に原節子が扮し、俗物をきどる青年校医に思わず平手打ちを加える一方、女子生徒の杉葉子は海岸で健康で伸びやかな肢体を見せつつ、屈託なく男子学生に自分の恋愛感情を叫んでみせる。芸者に扮した木暮実千代も負けじとばかり地方ボスに反逆し、まさしく新時代の到来を告げるものであった。この原作は、最新作の『青い山脈'88』(1988)を含めて5回映画化されている。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作)石坂洋次郎
(脚色)井手俊郎
(脚色・監督)今井正
(製作)藤本真澄
(撮影)中井朝一
(照明)森茂
(録音)下永尚
(音楽)服部良一
(美術)松山崇

[役名(キャスト)]
島崎雪子(原節子)
寺沢新子(杉葉子)
梅太郎(木暮実千代)
金谷六助(池部良)
ガンちゃん(伊豆肇)
沼田玉雄(竜崎一郎)
笹井和子(若山セツ子)
松山浅子(山本和子)
井口甚蔵(三島雅夫)
武田校長(田中栄三)
岡本先生(藤原釜足)

◆また逢う日まで
(1950年 東宝 白黒 スタンダード 109分)


原作は、ロマン・ロランの小説「ピエールとリュイス」であるが、その映画化を今井正監督に勧めたのは、主役を演じた岡田英次とのことである。脚本を担当したのは、当時注目されていた新進の水木洋子とベテランの八住利雄である。回想とナレーションを巧みに用いつつ、甘口のメロドラマにおちいりやすい題材を慎重に再構成し、ある青春の悲劇として見事に立体化してみせた。少女が描いた青年の肖像画に重なる彼の声。防空壕で偶然出会った青年と少女。そして、今も語り草になっている「ガラス越しの接吻」は、閉塞状況におかれた恋人たちの精神性を象徴するものであり、戦時下に青春を過ごした世代を越えて、今日でも十分納得できるものがあろう。また、演出にあたった今井監督の主人公たちをとらえる静かな視線が、この作品を声高な反戦映画ではなく、内面的な格調の高いものに仕上げている。「キネマ旬報」ベストテン第1位。

[スタッフ]
(脚本)水木洋子
( 〃 )八住利雄
(監督)今井正
(製作)坂上静翁
(撮影)中尾駿一郎
(照明)平田光治
(録音)下永尚
(音楽)大木正夫
(美術)河東安英

[役名(キャスト)]
田島三郎(岡田英次)
小野蛍子(久我美子)
三郎の父 英作(滝沢修)
三郎の次兄 二郎(河野秋武)
長兄の妻 正子(風見章子)
蛍子の母 すが(杉村春子)
学生(林孝一)
〃 (芥川比呂志)
〃 (大泉滉)
〃 (近藤宏)
近所の奥さん(南美江)

◆真昼の暗黒
(1956年 現代ぷろだくしょん 白黒 スタンダード 124分)


1951年に山口県で実際に起きた強盗殺人事件「八海(やかい)事件」を題材に、無実の罪を着せられた四人の若者たちの悲劇と、彼等の無実を信じる弁護士の奮闘を描いた社会派ドラマ。本作が封切られた当時は、高等裁判所で有罪を告げられた四人の若者が最高裁へ上告していた時期であったが、今井正は、脚本家の橋本忍と事件に関する綿密な調査を重ねた末に、四人が無罪であるというシナリオで映画化に臨んだ。今井正の回想によると、脚本が完成した段階で、最高裁から映画製作を中止するように圧力がかけられたという。しかし今井は、「万が一、今後四人が有罪になったら監督を辞めよう」という強い信念のもとで、完成にこぎつけた。実際、封切から12年後の1968年に、四人の無罪が正式に確定し、冤罪事件であったことが証明されたのである。「キネマ旬報」ベストテン第1位。

[スタッフ]
(原作)正木ひろし
(脚本)橋本忍
(監督)今井正
(製作)山田典吾
(撮影)中尾駿一郎
(照明)平田光治
(録音)空閑昌敏
(音楽)伊福部昭
(美術)久保一雄

[役名(キャスト)]
植村清治(草薙幸二郎)
小島武志(松山照夫)
青木庄市(矢野宣)
宮崎光男(牧田正嗣)
清水守(小林寛)
永井カネ子(左幸子)
近藤弁護士(内藤武敏)
清水の伯父 雄二(山村聰)
山本弁護士(菅井一郎)
清水の母 保子(夏川静江)
植村の母 つな(飯田蝶子)
宮崎の母 里江(北林谷栄)
魚屋 松村宇平(殿山泰司)

◆純愛物語
(1957年 東映(東京) カラー シネマスコープ 130分)


前作『米』(1957)の好成績を得て、製作会社の東映が再び今井正監督と組んで作り上げた戦後青春映画の代表作。1954年3月に第五福竜丸がビキニ環礁で死の灰を浴び、この頃、日本では改めて原水爆問題がクロース・アップされていた。脚本の水木洋子によれば、この作品は同じ今井監督で「戦争と青春」を描いた『また逢う日まで』(1950)の姉妹篇として「戦後と青春」を描こうとするものであった。焼け跡の中を懸命に生きる不良少年と少女の純愛物語に、原爆後遺症の問題が絡んでくるのも、このような社会的背景を抜きにしては考えられまい。中原ひとみの鼻から、流れ落ちる一筋の血が伝えるものは、たしかに原爆への怒りである。だが、それは今井監督の静かな演出によって、より深々とした印象を与えるものになっている。常に周りの状況に押しつぶされそうになりながら、必死の抵抗を続ける恋人たちの姿は、この監督の作品に一貫する重要なモチーフである。

[スタッフ]
(脚本)水木洋子
(監督)今井正
(製作)大川博
(撮影)中尾駿一郎
(照明)元持秀雄
(録音)岩田広一
(音楽)大木正夫
(美術)進藤誠吾

[役名(キャスト)]
早川貴太郎(江原真二郎)
宮内ミツ子(中原ひとみ)
下山監察官(岡田英次)
瀬川病院医師(木村功)
屑屋の爺さん(東野英治郎)
聖愛学園園長(長岡輝子)
少年院体育教官(神田隆)
日赤病院医師(北沢彪)
食堂主人(中村是好)
里やん(田中邦衛)

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