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平成24年度
Gプログラム

日本映画に類稀なる光彩を与えた鬼才・川島雄三と戦中派の屈折を風刺と活劇に昇華させた異才・岡本喜八――現在も若い映画人に影響を与え続ける二人の監督の作品を紹介いたします。
◆『貸間あり』
(1959年 宝塚映画 白黒 シネマスコープ 112分)


45歳で世を去った川島雄三監督が晩年に籍を置いた東京映画時代の代表作であり、喜劇映画作家としての稀有な才能を存分に発揮した快作でもある。井伏鱒二の原作を、当時駆け出しのシナリオライターであった藤本義一と川島が奔放に脚色。遥か通天閣を見渡す大阪・天王寺の夕陽ヶ丘に立つ風変わりなアパートに暮らす、奇妙な住人たちの生態を、下品さと紙一重の人間臭い猥雑さのなかに描いている。何につけても器用で人から頼まれたら断れない性格、そのくせ素直になることを恥じて逃避してしまうフランキー堺演じるインテリの主人公は、まさに川島監督の自画像と言えるだろう。熟練のバイプレーヤーたちが、怒涛のように畳み掛けるアンサンブルも圧巻。この時代、川島監督とのコンビが多かった名手・岡崎宏三のキャメラが、破天荒なドラマを端正な画面のなかに収めている。

[スタッフ]
(原作)井伏鱒二
(脚本)川島雄三
( 〃 )藤本義一
(監督)川島雄三
(製作)滝村和男
(撮影)岡崎宏三
(照明)下村一夫
(録音)鴛海晄次
(音楽)眞鍋理一郎
(美術)小島基司

[役名(キャスト)]
五郎(フランキー堺)
ユミ子(淡島千景)
お千代(乙羽信子)
おミノ(浪花千栄子)
ヤスヨ(清川虹子)
洋さん(桂小金治)
熊田(山茶花究)
ハラ作(藤木悠)
江藤(小沢昭一)
野々宮(益田キートン(喜頓))
教子(市原悦子)
お澄(西田慶子)
宝珍堂(渡辺篤)

◆雁の寺
(1962年 大映(京都) パートカラー シネマスコープ 98分)


この作品は、直木賞を受賞した水上勉の同名小説を映画化したものである。原作の持つ推理小説風な味わいを残しながらも、厳しい戒律で守られている禅寺における住職とその愛人、そしてその関係を見てしまった若き修行僧を中心に、世俗の人間関係の浅ましさを、川島雄三監督特有の鬱屈した視点から描いた彼の代表作ともいえる。松竹を皮切りに、日活、東宝系の東京映画と活動の場を変えてきた川島監督は、晩年この作品を含め『女は二度生まれる』(1961)、『しとやかな獣』(1962)と、3本の大映作品をとっているが、どれもアクの強い異色作である。主演の若尾文子は、この作品の前後から陰影のある女性を演じて成功し、独特の存在感を表現できる演技者として改めて評価されるようになった。この後も、『越前竹人形』(1963)、『波影』(1965)といった水上文学のヒロインを演じた。

[スタッフ]
(原作)水上勉
(脚本)舟橋和郎
(脚本・監督)川島雄三
(製作)永田雅一
(撮影)村井博
(照明)岡本健一
(録音)大角正夫
(音楽)池野成
(美術)西岡善信

[役名(キャスト)]
桐原里子(若尾文子)
堀之内慈念(高見国一)
北見慈海(三島雅夫)
岸本南嶽(中村鴈治郎)
宇田竺道(木村功)
雪州(山茶花究)
鷹見邦遠(小沢昭一)
木田黙堂(西村晃)
慈念の母(菅井きん)
慈念の少年時代(高見王国)
里子の母 たつ(万代峯子)
里子の父 伊三郎(寺島雄作)

◆独立愚連隊
(白黒 シネマスコープ 108分 1959年 東宝)


成瀬巳喜男、マキノ雅裕らに師事した岡本喜八は、デビュー作『結婚のすべて』(1958)で斬新な娯楽映画の旗手として注目され、翌年『独立愚連隊』を世に送る。太平洋戦争末期の北支戦線を舞台に、独立愚連隊と称する前線の哨隊で命を絶った弟の死に不審を抱いた元軍曹が、従軍記者に扮して部隊に潜入、事件の背後に潜む上官の不正を暴きだす。シナリオ作家協会賞を受賞した自作の脚本をもとに、西部劇のエッセンスをパロディとして活かしながら、日本映画の伝統には見られない活劇調の戦争映画を作り上げた。終戦時に予備士官学校に籍を置いていた岡本の戦争に対する屈折した思いが、アクション映画の意匠から滲み出てくる。日本人ばなれしたバタ臭い魅力を放つ佐藤允を主役に、中丸忠男、中谷一郎、ミッキー・カーチスら個性派俳優、鶴田浩二や三船敏郎が各々ユニークな役どころを演じ、痛快な娯楽作を盛り立てている。本作のヒットにより、「独立愚連隊」はシリーズ化され、その後、岡本は大作『日本のいちばん長い日』(1967)を手がけることになる。

[スタッフ]
(脚本・監督)岡本喜八
(製作)田中友幸
(撮影)逢沢讓
(照明)西川鶴三
(録音)渡会伸
( 〃 )下永尚
(音楽)佐藤勝
(美術)阿久根巖

[役名(キャスト)]
従軍記者 荒木こと大久保軍曹(佐藤允)
慰安婦 トミ(雪村いづみ)
馬賊 亜東(鶴田浩二)
大隊長 児玉大尉(三船敏郎)
軍旗旗手 丹羽少尉(夏木陽介)
馬賊の娘 小梅(上原美佐)
独立90小哨兵長 中村(江原達怡)
指揮班長 酒井曹長(南道郎)
独立90小哨哨長 石井軍曹(中谷一郎)
副官 橋本中尉(中丸忠雄)
運転手(ミッキー・カーチス)

◆肉弾
(1968年 『肉弾』を作る会=ATG 白黒 スタンダード 116分)


日本が戦争に敗れたことも知らず、魚雷をしばりつけたドラム缶の中で、海に漂いながら敵船を待っている「あいつ」。この作品は、東宝所属の監督としてスピーディな現代活劇や喜劇に力を発揮していた岡本喜八監督が、あえて東宝を離れてアート・シアター・ギルド(ATG)製作で撮影したものである。当時ATGは低予算のいわゆる「1000万円映画」の製作を提唱し、多くの監督が、大手会社の撮影所では撮れない自前の企画を次々と映画化したが、中でもこの作品は資金的な制約にもかかわらず「キネマ旬報」ベストテン第2位など好評を得た。映画に描かれた「あいつ」の人物像や軍隊生活の愚かさは、戦争中の岡本監督自身の体験に基づくものと言われ、この活劇派の監督の背景となるもう一つの出自を明らかにした。寺田農の「あいつ」が出会う少女役の大谷直子が、初々しい魅力を放っている。

[スタッフ]
(脚本・監督)岡本喜八 
(製作)馬場和夫 
(撮影・照明)村井博 
(録音)渡会伸
(音楽)佐藤勝 
(美術)阿久根巌 
(漫画)辻まこと 

[役名(キャスト)]
あいつ(寺田農)
少女(大谷直子)
オワイ船の船長(伊藤雄之助)
軍曹(小沢昭一)
区隊長(田中邦衛)
古本屋のお爺さん(笠智衆)
古本屋のお婆さん(北林谷栄)
憲兵(中谷一郎)
父(天本英世)
前かけの小母さん(春川ますみ)
ナレーター(仲代達矢)

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