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平成24年度
Vプログラム

純情と獰猛さが入り混じった青春の一瞬を、気鋭の監督たちが鮮やかに捉えた青春映画、恋愛映画の秀作を紹介いたします。
◆めぐりあい
(1968年 東宝 カラー シネマスコープ 91分)


日本の高度成長を舞台裏から支えてきた工業都市・川崎。この休みなく動く街のなかで、自動車工場の組立工として働く努とベアリング店に勤める典子。それぞれに複雑な家庭事情を抱え、貧しさにもがきながらも、健気に生きている。そんな二人がふと出会い、恋に落ち、別れのつらさを乗り越えて、互いの愛を確かめ合う。『あこがれ』(1966)のヒットにより、東宝青春映画の旗手として注目を浴びた恩地日出夫が、酒井和歌子を初めて主演に起用し、時代の波や家族の重圧にもまれながらも、ひたむきに生きてゆく若者像を鮮烈に描き出した。脚本家の山田信夫が当初、日活の蔵原惟繕監督のために準備した脚本を、東宝が引き取って映画化が実現。武満徹作曲の主題歌を荒木一郎が唄い、タイトルバックをイラストレーターの和田誠が演出している。その後、東宝では1970年代半ばまで、森谷司郎や出目昌伸らがコンスタントに青春映画の傑作を発表していく。

[スタッフ]
(脚本)山田信夫
(脚本・監督)恩地日出夫
(製作)金子正且
(撮影)田島文雄
(照明)森弘充
(録音)吉岡昇
(音楽)武満徹
( 〃 )岡田和夫
(美術)本多好文

[役名(キャスト)]
江藤努(黒沢年男)
今井典子(酒井和歌子)
江藤順平(桑山正一)
江藤きよ(菅井きん)
江藤宏(黒沢博)
今井正治(有島一郎)
今井雅枝(森光子)
今井一郎(池田秀一)
白井(田村亮)
石井綾子(進千賀子)
前田(柴田昌宏)
井上(峰岸隆之介)

◆八月の濡れた砂
(1971年 日活 カラー シネマスコープ 91分)


揺れ動く若者の行動と心理を硬質なタッチで瑞々しく描いた青春映画の名作であり、藤田敏八監督の初期の代表作である。主人公たちの〈大人〉に対する不信と反抗の姿勢は、この種の映画に特有なものであると同時に、学生運動などで大きく揺れ動いた1960年代後半の時代の気分を色濃く宿したものと言えるだろう。ただその描写が反抗礼讃、青春万歳の紋切り型ではなく、優しさと残酷さの入り混じった、青春という名の一季節を、静かに見つめている点にこの監督の特徴がある。1950年代の『太陽の季節』とはまた別の、湘南の眩しく気怠い夏がスクリーンに溢れている。製作会社の日活はこの年をもって一般劇映画の製作を中止し、ロマンポルノへと移行したが、本作は青春映画を看板としてきた同社の光芒を放つ一本として「キネマ旬報」ベストテン第10位に選ばれた。

[スタッフ]
(脚本・監督)藤田敏八
(脚本)峰尾基三
( 〃 )大和屋竺
(企画)大塚和
(撮影)萩原憲治
(照明)大西美津男
(録音)古山恒夫
(音楽)むつひろし
( 〃 )ペペ
(美術)千葉和彦

[役名(キャスト)]
野上健一郎(村野武範)
西本清(広瀬昌助)
川西修司(中沢治夫)
稲垣和子(隅田和世)
三原早苗(テレサ野田)
  真紀(藤田みどり)
亀井(渡辺文雄)
井手(地井武男)
五郎(山谷初男)
神父(原田芳雄)

◆約束
(1972年 松竹=斎藤耕一プロダクション カラー シネマスコープ 88分)


強盗犯で逃亡中の男と、看守の付き添いで仮出所中の女が、列車のなかのつかの間のふれあいによって惹かれあうという叙情的なメロドラマ。洗練された映像感覚で1960年代後半から70年代にかけて数多くの青春映画を生み出した斎藤耕一監督の代表作のひとつ。グループサウンズ「ザ・テンプターズ」のヴォーカルから俳優に転進した萩原健一の主演作で、不良性と傷つきやすさをあわせ持つ役柄を等身大で演じ、同時代の若者の共感を得た。共演した岸恵子も、禁欲的な演技のなかに女の揺れ動く心を匂わせて好演している。本作は1966年に製作された韓国映画『晩秋』(李晩煕監督)のリメイク作でもある。

[スタッフ]
(原案)金志軒
( 〃 )斎藤耕一
(脚本)石森史郎
(監督)斎藤耕一
(製作)斎藤節子
( 〃 )樋口清
(撮影)坂本典隆
(照明)津吹正
(録音)佐藤廣文
(音楽)宮川泰
(美術)芳野尹孝

[役名(キャスト)]
松宮蛍子(岸恵子)
中原朗(萩原健一)
島本房江(南美江)
村井晋吉(殿山泰司)
村井の女(姫ゆり子)
護送犯(中山仁)
山室刑事(三国連太郎)

◆忍ぶ川
(1972年 俳優座映画放送 白黒 スタンダード 120分)


三浦哲郎(1931-2010)の自伝的な同名小説(第44回[1960年下半期]芥川賞)を映画化したもので、『帝銀事件 死刑囚』(1964)や『日本列島』(1965)などの社会派映画の監督として名を馳せていた熊井啓監督が、長い準備期間を経て完成させた恋愛映画の秀作。兄の失踪や姉の自殺などを経験して暗鬱な家庭環境に育った東北出身の大学生・哲郎と、深川の洲崎パラダイスにある射的屋で育ち、今は料亭“忍ぶ川”の仲居として働く志乃の純愛物語で、二人が出会い、互いの心の闇を打ち明けて信頼し合い、そして幾多の障害を乗り越えて結婚にいたるまでの過程が、叙情的なモノクロームの映像で描かれる。主演の栗原小巻が、優しさと芯の強さをあわせ持つ女性を熱演して高く評価された。「キネマ旬報」ベストテン1位。

[スタッフ]
(原作)三浦哲郎
(脚本)長谷部慶次
(脚本・監督)熊井啓
(製作)佐藤正之
( 〃 )椎野英之
(撮影)黒田清巳
(照明)岡本健一
(録音)太田六敏
(音樂)松村禎三
(美術)木村威夫

[役名(キャスト)]
哲郎(加藤剛)
志乃(栗原小巻)
哲郎の父(永田靖)
志乃の父(信欽三)
香代(岩崎加根子)
哲郎の母(滝花久子)
木村幸房(滝田裕介)
次兄(井川比佐志)

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