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-平成19年度優秀映画鑑賞推進事業-

Uプログラム

樋口一葉、井上靖、水上勉、小泉八雲――日本文学を代表する原作を、豊かな情感と奔放な想像力で映画化した文芸ものの傑作を紹介いたします。

◆雁の寺
 (1962年 大映[京都] パートカラー シネマスコープ 98分)

この作品は、直木賞を受賞した水上勉の同名小説を映画化したものである。原作の持つ推理小説風な味わいを残しながらも、厳しい戒律で守られている禅寺における住職とその愛人、そしてその関係を見てしまった若き修行僧を中心に、世俗の人間関係の浅ましさを、川島雄三監督特有の鬱屈した視点から描いた彼の代表作ともいえる。松竹を皮切りに、日活、東宝系の東京映画と活動の場を変えてきた川島監督は、晩年この作品を含め『女は二度生まれる』(1961)、『しとやかな獣』(1962)と、3本の大映作品をとっているが、どれもアクの強い異色作である。主演の若尾文子は、この作品の前後から陰影のある女性を演じて成功し、独特の存在感を表現できる演技者として改めて評価されるようになった。この後も、『越前竹人形』(1963)、『波影』(1965)といった水上文学のヒロインを演じた。

[スタッフ]
(原作) 水上勉
(脚本) 舟橋和郎
(脚本・監督) 川島雄三
(製作) 永田雅一
(撮影) 村井博
(照明) 岡本健一
(録音) 大角正夫
(音楽) 池野成
(美術) 西岡善信

[役名(キャスト)]
桐原里子 (若尾文子)
堀之内慈念 (高見国一)
北見慈海 (三島雅夫)
岸本南嶽 (中村鴈治郎)
宇田竺道 (木村功)
雪州 (山茶花究)
鷹見邦遠 (小沢昭一)
木田黙堂 (西村晃)
慈念の母 (菅井きん)
慈念の少年時代 (高見王国)
里子の母 たつ (万代峯子)
里子の父 伊三郎 (寺島雄作)

◆怪談
 (1964年 にんじんくらぶ カラー シネマスコープ 161分)

日本に帰化し、日本文化を世界に伝えたラフカディオ・ハーンこと小泉八雲の四つの短篇を元に、水木洋子が脚本を書き、小林正樹が演出を行ったオムニバス映画。映画界を代表する一流のスタッフ、キャストの参加を得て、これまで多くの大作を手がけてきた小林監督が、初のカラー映画として、この世のものとは思えぬ幻想的な世界を作り上げた。撮影は廃屋となっていた自動車倉庫に、ステージを設けセットを組んで行われた。ホリゾントに描かれた空の絵などに、美術を担当した戸田重昌の才気が横溢している。また、武満徹による音楽は、画や演技との掛け合いを行う音響のような効果を存分に発揮し、映画史上屈指の名作と言ってもよいだろう。大規模なセット、長期に亘る撮影、スタッフ・キャストほか800名にもおよぶ大編成のため、製作費が大幅に膨らみ、『人間の条件』(1959-61)などの名作を世に送ってきた独立プロダクション、にんじんくらぶは、多額の負債を抱えて倒産した。

[スタッフ]
(原作) 小泉八雲
(脚本) 水木洋子
(監督) 小林正樹
(製作) 若槻繁
(撮影) 宮島義勇
(照明) 青松明
(録音) 西崎英雄
(音楽) 武満徹
(美術) 戸田重昌

[役名(キャスト)]
第一話「黒髪」
妻 (新珠三千代)
第二の妻 (渡辺美佐子)
武士 (三国連太郎)
第二話「雪女」
巳之吉 (仲代達矢)
雪女 (岸恵子)
巳之吉の母 (望月優子)
第三話「耳なし芳一の話」
芳一 (中村賀津雄)
甲冑の武士 (丹波哲郎)
住職 (志村喬)
源義経 (林与一)
建礼門院 (村松英子)
第四話「茶碗の中」
武士 関内 (中村翫右衛門)
作者及びその声 (滝沢修)
おかみさん (杉村春子)
出版元 (中村鴈治郎)

◆にごリえ
 (1953年 新世紀映画社=文学座 白黒 スタンダード 130分)

1937年に創設された文学座が、戦後その全盛期を迎えるにあたって発案・製作された作品。夭折した明治の女流作家・樋口一葉の晩年の短篇小説「十三夜」「大つごもり」「にごりえ」を原作に三話構成のオムニバス形式を採り、当時新鮮な現代劇で注目されていた今井正監督が、京都映画撮影所(旧松竹下賀茂撮影所)で完成させた。役者の緊張を強いる簡潔なセットの中で徹底したリハーサルが繰り返され、微妙な計算により作り出された明治の光と闇の中に、過酷な状況を生きざるをえない女たちの一瞬が捉えられている。この年、今井監督は大ヒット作『ひめゆりの塔』も演出しているが、「キネマ旬報」ベストテンでは『にごりえ』が第1位、『ひめゆりの塔』が第7位に選出されている。

[スタッフ]
(原作) 樋口一葉
(脚色) 水木洋子
(〃) 井手俊郎
(脚本監修) 久保田万太郎
(監督) 今井正
(製作) 伊藤武郎
(撮影) 中尾駿一郎
(照明) 田畑正一
(録音) 安恵重遠
(音楽) 団伊玖磨
(美術) 平川透徹

[役名(キャスト)]
第一話「十三夜」
斎藤もよ (田村秋子)
娘 原田せき (丹阿弥谷津子)
父 主計 (三津田健)
俥夫 高坂録之助 (芥川比呂志)
第二話「大つごもり」
みね (久我美子)
叔父 安兵衛 (中村伸郎)
山村あや (長岡輝子)
安兵衛の妻 しん (荒木道子)
山村石之助 (仲谷昇)
第三話「にごりえ」
お力 (淡島千景)
源七の妻 お初 (杉村春子)
結城朝之助 (山村聡)
源七 (宮口精二)

◆あすなろ物語
 (1955年 東宝 白黒 スタンダード 108分)

一人の少年が、複雑な人間関係の中で次第に成長していく様子を、桧(ひのき)に似ているが桧とは違い、明日は桧になろうと一生懸命になっている「あすなろう」という木に託して描いたものである。井上靖の自伝的要素の強い小説を映画化するにあたり、原作にある小学生と中学生時代のエピソードをそのままに、新たに高校生時代が加えられ、三話によるオムニバス構成になっている。これは長年黒澤明の助監督をつとめ、この後『裸の大将』(1958)や『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(1960)など秀作を発表した堀川弘道が監督に昇進するのを記念して、黒澤自身が脚色したものである。堀川監督の叙情性だけでなく、黒澤の資質をうかがえる点でも貴重な作品である。

[スタッフ]
(原作) 井上靖
(脚本) 黒澤明
(監督) 堀川弘道
(製作) 田中友幸
(撮影) 山崎一雄
(照明) 石井長四郎
(録音) 下永尚
(音楽) 早坂文雄
(美術) 河東安英

[役名(キャスト)]
鮎太(第一話) (久保賢)
鮎太(第二話) (鹿島信哉)
鮎太(第三話) (久保明)
冴子 (岡田茉莉子)
雪枝 (根岸明美)
玲子 (久我美子)
大学生 加島 (木村功)
住職 (小堀誠)
とみ (浦辺粂子)
玲子の母 (村瀬幸子)
鮎太の祖母 (三好栄子)
医大の助手 江見 (太刀川洋一)
竹内 (高原駿雄)
教師 佐山 (金子信雄)

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