National Film Center
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-平成19年度優秀映画鑑賞推進事業-

Cプログラム

人間の生と老、善と悪を、大胆な構成と躍動感あふれる演出で描き続けた世界のクロサワの傑作を紹介いたします。

◆酔いどれ天使
 (1948年 東宝 白黒 スタンダード 98分)

戦時中、『姿三四郎』(1943)で鮮烈なデビューを果たした黒澤明監督は、戦後も『わが青春に悔いなし』(1946)や『素晴らしき日曜日』(1947)の成功で、日本映画の若きエース的存在となった。「キネマ旬報」ベストワンに輝いた黒澤の7作目にあたるこの作品は、闇市のヤクザと飲んだくれの貧乏医者との、不思議な友情と葛藤を描いたもので、強烈な個性を持つ若者とその観察者の設定や荒々しい映像表現の顕著さという点で、以後の黒澤映画のスタイルを決定づけたものと言える。前年に、谷口千吉監督の『銀嶺の果て』(黒澤脚本)でデビューしたばかりの三船敏郎が黒澤に初めて起用され、野生味あふれるその個性をいかんなく発揮し、以後の黒澤作品に欠かせぬ存在となったことは周知の通り。また、映像と音との対位法的表現(雑踏の中の<カッコー・ワルツ>の使用やギター曲<人殺しの歌>など)を試みた黒澤にとって、この作品から参加した音楽家早坂文雄との出会いも幸運であった。

[スタッフ]
(脚本) 植草圭之助
(脚本・監督) 黒澤明
(製作) 本木荘二郎
(撮影) 伊藤武夫
(照明) 吉沢欣三
(録音) 小沼渡
(音楽) 早坂文雄
(美術) 松山崇

[役名(キャスト)]
真田 (志村喬)
松永 (三船敏郎)
岡田 (山本礼三郎)
奈々江 (木暮実千代)
美代 (中北千枝子)
ぎん (千石規子)
ブギを唄う女 (笠置シズ子)
ひさごの親爺 (殿山泰司)
セーラー服の少女 (久我美子)
婆や (飯田蝶子)
親分 (清水将夫)

◆羅生門
 (1950年 大映[京都] 白黒 スタンダード 88分)

黒澤は本作について次のように述懐している。「この作品の根本といえば、要するに、無声映画に帰ってみようと思ったことですね。……トーキーになって失われた映画の美しさをもう一度見つけようという気持ちだった。……映画ももう一度単純化しなければならないのじゃないか、というのがあの試みだった」。森の中でおきた殺人事件をめぐって、8人だけの登場人物で演じられる不条理劇。芥川龍之介の「藪の中」を、脚本家を志望していた橋本忍が脚色、黒澤の助言で同じ作家の「羅生門」が加えられた。絶対真理の不在と人間不信の主題は戦後間もない欧米で評価され、翌年のヴェネチア国際映画祭でグランプリ、そして米・アカデミー最優秀外国語映画賞を受賞した。1949年に湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞し、敗戦後の日本に朗報をもたらしたが、黒澤のそれも日本映画の芸術水準の高さを海外に知らしめただけではなく、わが国の国際理解に大きく貢献した。「キネマ旬報」ベストテン第5位。

[スタッフ]
(原作) 芥川龍之介
(脚本・監督) 黒澤明
(脚本) 橋本忍
(製作) 箕浦甚吾
(撮影) 宮川一夫
(照明) 岡本健一
(録音) 大谷巌
(音楽) 早坂文雄
(美術) 松山崇

[役名(キャスト)]
多襄丸 (三船敏郎)
真砂 (京マチ子)
杣売 (志村喬)
金沢武弘 (森雅之)
旅法師 (千秋実)
下人 (上田吉二郎)
巫女 (本間文子)
放免 (加東大介)

◆生きる
 (1952年 東宝 白黒 スタンダード 143分)

それまで無気力に生きてきた一人の中年男が、死という絶対的なものを目前にして、自分を見つめ直し、人間としての尊厳をとりもどしていく姿を描いた作品である。冒頭に主人公が胃癌であることが唐突に語られる。一人息子に相談しようとしても取り合ってもらえず、夜の街をさまよっては見知らぬ男と暴飲に明け暮れるが、町工場への転職を願う部下の女事務員の言葉が、この男の生き方を変えはじめた。そこで場面は男の通夜へと突然変わり、参加者の回想により、男のそれまでの行動が断片的に描かれる。結局、この男が成し遂げたのは、町の住民が陳情していた下水の整備と公園の建設であった。ともすれば安易なストーリー展開に流れやすい題材であるが、回想形式によって、事実と真実の多面性を描くことに成功したのが、この作品の特徴であろう。主役を演じた志村喬の<ゴンドラの歌>が感動的。「キネマ旬報」ベストテン第1位、そしてベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞。

[スタッフ]
(脚本) 橋本忍
(〃) 小国英雄
(脚本・監督) 黒澤明
(製作) 本木荘二郎
(撮影) 中井朝一
(照明) 森茂
(録音) 矢野口文雄
(音楽) 早坂文雄
(美術) 松山崇

[役名(キャスト)]
渡辺勘治 (志村喬)
小田切とよ (小田切みき)
市民課 坂井 (田中春男)
    野口 (千秋実)
    大野 (藤原釜足)
勘治の息子 光男 (金子信雄)
勘治の兄 喜一 (小堀誠)
 その妻 たつ (浦辺粂子)
小説家 (伊藤雄之助)
患者 (渡辺篤)
医師 (清水将夫)

◆天国と地獄
 (1963年 東宝=黒澤プロ 白黒 シネマスコープ 143分)

この作品は、アメリカの推理作家エド・マクベインの「キングの身代金」を映画化したものであるが、連れ去る子供を取り違えたとしても、その犯人の脅迫は成立するとのヒントを借りただけで、ほとんどのトリックは黒澤をはじめとする脚本家たちのアイディアである。この映画のクライマックスは二つある。一つは特急こだまのトイレの窓から身代金の3000万円を投げ出す場面。これは実際運行される車両を借り切って、数台のカメラで同時間に撮影された。もう一つは、極刑を課すために犯人を泳がせ、新たな殺人現場におびき出す場面である。『用心棒』(1961)や『椿三十郎』(1962)で、これまでの時代劇にはなかった迫力を演出した黒澤であったが、この作品でも、サスペンス映画に斬新な演出を試みている。<天国>に住む富豪と対照的に<地獄>に住む青年医師を演じた山崎努は、文学座の新人俳優であったが、この作品で一躍注目を浴びた。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作) エド・マクベイン
(脚本) 小国英雄
(〃) 菊島隆三
(〃) 久板栄二郎
(脚本・監督) 黒澤明
(製作) 田中友幸
(〃) 菊島隆三
(撮影) 中井朝一
(〃) 斎藤孝雄
(照明) 森弘充
(録音) 矢野口文雄
(音楽) 佐藤勝
(美術) 村木与四郎

[役名(キャスト)]
権藤金吾 (三船敏郎)
戸倉警部 (仲代達矢)
権藤の妻 伶子 (香川京子)
権藤の秘書 河西 (三橋達也)
荒井刑事 (木村功)
田口部長刑事 (石山健二郎)
捜査本部長 (志村喬)
運転手 青木 (佐田豊)
犯人 (山崎努)

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