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-平成19年度優秀映画鑑賞推進事業-

Dプログラム

時代劇の表現に革新を試み続けた伊藤大輔、稀なる骨太な作風で日本の風土と日本人の精神を描いた内田吐夢。この二人の巨匠の戦後代表作を紹介いたします。

◆王将
 (1948年 大映[京都] 白黒 スタンダード 93分)

時は明治の終わり、所は大阪・天王寺近辺。遠く通天閣を見渡す高台の貧乏長屋に、麻草履職人の坂田三吉が住んでいた。三度の飯より好きな将棋の腕前は玄人はだし。手合わせする者は、素人も有段者も、相手構わずなで斬りにしてしまう。しかし、それがため、女房の小春や娘の玉江は苦労が絶えない。家を飛び出しては亭主のことが気がかりで戻ってくる小春は、日本一の将棋指しになれと、逆に三吉を励ますのだった。東京の花形棋士・関根名人との宿命の対決を軸に、実在の坂田三吉(1870~1946)の半生を描く、北條秀司の同名戯曲の映画化。主演の阪東妻三郎は、世俗にあっても将棋一途に打ち込む「高貴な魂」を見事に表現した。また、伊藤大輔監督のこの題材に向ける愛着は深く、その後も坂田の不遇の晩年と入江名人との対決を描いた辰巳柳太郎主演の『王将一代』(1955)、三国連太郎主演による『王将』(1962)と、二度にわたって再映画化に挑んでいる。

[スタッフ]
(原作) 北條秀司
(脚本・監督) 伊藤大輔
(企画) 奥田久司
(撮影) 石本秀雄
(照明) 湯川太四郎
(録音) 海原幸夫
(音楽) 西悟郎
(美術) 角井平吉
(将棋指導) 升田幸三

[役名(キャスト)]
坂田三吉 (阪東妻三郎)
妻 小春 (水戸光子)
娘 玉江 (三條美紀)
少女時代の玉江 (奈加テルコ)
関根名人 (滝沢修)
菊岡 (小杉勇)
大倉 (斉藤達雄)
毛利 (大友柳太朗)
新蔵 (三島雅夫)
小沢七段 (香川良介)

◆弁天小僧
 (1958年 大映[京都] カラー シネマスコープ 86分)

伊藤大輔監督は、時代劇映画のパイオニアとでも呼ぶべき巨匠である。移動撮影を巧みに用いたダイナミックな描写で多くの観客を魅了し、伊藤大輔に憧れて映画の道を志したと公言する監督は数知れない。本作はその伊藤の円熟期の作品で、河竹黙阿弥の「青砥稿花虹彩画」(あおとぞうしはなのにしきえ)、通称「白波五人男」の映画化。歌舞伎などでよく知られた物語の一つである。弁天小僧は、日本左衛門らとともに徒党を組み、金持ちをゆすり、たかりで脅す凄腕のやくざとして勇名を馳せていた。ふとしたことから助けた娘お半の清純さに打たれた弁天小僧は、江戸を離れる最後の大仕事にと、呉服商の浜松屋に目を付ける。重厚なセットをバックに、伊藤監督は市川雷蔵や勝新太郎ら気鋭のスターと中堅俳優を見事に配し、ツボを心得た演出で江戸情緒を豊かに再現した。雷蔵の艶やかな女装姿、御用提灯の火の海がシネスコ画面を埋め尽くすクライマックスも見逃せない。

[スタッフ]
(原作) 河竹黙阿弥
(脚本) 八尋不二
(監督) 伊藤大輔
(製作) 酒井威
(企画) 高桑義生
(撮影) 宮川一夫
(照明) 中岡源権
(録音) 林土太郎
(音楽) 斉藤一郎
(美術) 西岡善信

[役名(キャスト)]
弁天小僧菊之助 (市川雷蔵)
お半 (青山京子)
お吉 (阿井美千子)
日本左衛門 (黒川弥太郎)
赤星十三 (島田竜三)
遠山左衛門尉 (勝新太郎)
鯉沼伊織 (河津清三郎)
三池要人 (小堀明男)
横地帯刀 (伊沢一郎)
南郷力丸 (田崎潤)
松平左近持監 (中村鴈治郎)

◆血槍富士
 (1955年 東映[京都] 白黒 スタンダード 94分)

内田吐夢監督は、戦前の日活において『裸の町』(1937)や『土』(1939)などを発表し、その重厚な作風で巨匠の一人と目されていた。彼は終戦間際に大陸に渡り、以来8年ほど中国で抑留生活を余儀なくされた。肺と胃を病んで帰国した彼を心配したのは、溝口や小津、清水宏、伊藤大輔といった仲間の巨匠連中であった。彼らが提案したのは、井上金太郎監督のサイレント時代の名作『道中悲記』(1927)の再映画化であった。酒癖の悪い主人のお供で道中を続ける奉公一途の下男が、つまらぬことから殺されてしまった主人の仇討ちを果たし、無念の思いで主人の遺骨を胸に故郷へ帰る。そのラスト近い場面で「海ゆかば」のメロディーがバックに流れる。のたうち回るような格闘場面とともに、この演出こそ作品の主題を明確にし、内田監督の知られざる抑留生活の思いが込められていると考えられよう。「キネマ旬報」ベストテン第8位。

[スタッフ]
(原作) 井上金太郎
(脚色) 八尋不二
(〃) 民門敏雄
(脚本) 三村伸太郎
(監督) 内田吐夢
(企画) マキノ光雄ほか
(撮影) 吉田貞次
(照明) 中山治雄
(録音) 東城絹児郎
(音楽) 小杉太一郎
(美術) 鈴木孝俊

[役名(キャスト)]
権八 (片岡千恵蔵)
酒匂小十郎 (島田照夫)
藤三郎 (月形龍之介)
おすみ (喜多川千鶴)
おたね (田代百合子)
次郎 (植木基晴)
おさん (植木千恵)
巡礼 (進藤英太郎)
源太 (加東大介)
与茂作 (横山運平)
小間物屋 伝次 (加賀邦男)

◆飢餓海峡
 (1964年 東映[東京] 白黒 シネマスコープ 183分)

原作は、「週刊朝日」に連載された水上勉の長編推理小説である。北海道で脱獄囚による強盗殺人事件が発生した。その日は青函連絡船の遭難事故が起きた日でもあり、事件の解明は難航を極めた。やがて10年の歳月が過ぎた頃、舞鶴で女性の変死体が見つかったことから、事件はようやくその全貌を見せはじめた。貧しさから脱出するため罪を犯した男、貧しさゆえに犯人の恩を忘れなかった女、そして事件を執念深く追いかける刑事ら、社会の底辺で懸命に生きる人々の喜びと悲しみを描いたこの作品は、深い人間観察による力強い演出で内田監督の代表作であると同時に、戦後日本映画の成果の一つでもある。ラストの三国連太郎が海峡に身を投じる場面は、戦後の日本の精神的飢餓を暗示するかのようである。爪のエピソードは原作にはなく、映画独自のものである。三国の力演と左幸子の体当たり的熱演、そして<喜劇の伴淳>がシリアスな老刑事を演じて見事である。「キネマ旬報」ベストテン第5位。

[スタッフ]
(原作) 水上勉
(脚本) 鈴木尚之
(監督) 内田吐夢
(撮影) 仲沢半次郎
(照明) 川崎保之丞
(録音) 内田陽造
(音楽) 富田勲
(美術) 森幹男

[役名(キャスト)]
犬飼多吉/樽見京一郎 (三国連太郎)
杉戸八重 (左幸子)
弓坂刑事 (伴淳三郎)
味村刑事 (高倉健)
八重の父 長左衛門 (加藤嘉)
樽見の妻 敏子 (風見章子)
本島信市 (三井弘次)
妻 妙子 (沢村貞子)
東舞鶴署長 (藤田進)
和尚 (山本麟一)
記者A (室田日出男)

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