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-平成19年度優秀映画鑑賞推進事業-

Eプログラム

近代日本の光と影を情感ゆたかなリアリズムで描いた今井正、才気あふれる作風で日本映画の刷新を試み続けた市川崑。この二人の巨匠の代表作を紹介いたします。

◆青い山脈
 (1949年 藤本プロ=東宝 白黒 スタンダード 172分)

戦後間もない時期に、その明朗な雰囲気で大ヒットし、主題歌として歌われた「青い山脈」と「恋のアマリリス」も歌謡史上で記憶されるものである。転校してきた女子学生をこらしめるため、いたずらで出したラブレターが思わぬ事件に発展し、封建的な因習が残る地方の小都市は大騒ぎになる。戦後民主主義の理念であった自由恋愛や、女性の自立・解放といった命題が、明朗で快活なユーモアのうちに描かれている。理想に燃える知的な女教師に原節子が扮し、俗物をきどる青年校医に思わず平手打ちを加える一方、女子生徒の杉葉子は海岸で健康で伸びやかな肢体を見せつつ、屈託なく男子学生に自分の恋愛感情を叫んでみせる。芸者に扮した木暮実千代も負けじとばかり地方ボスに反逆し、まさしく新時代の到来を告げるものであった。この原作は、最新作の『青い山脈'88』(1988)を含めて5回映画化されている。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作) 石坂洋次郎
(脚色) 井手俊郎
(脚色・監督) 今井正
(製作) 藤本真澄
(撮影) 中井朝一
(照明) 森茂
(録音) 下永尚
(音楽) 服部良一
(美術) 松山崇

[役名(キャスト)]
島崎雪子 (原節子)
寺沢新子 (杉葉子)
梅太郎 (木暮実千代)
金谷六助 (池部良)
ガンちゃん (伊豆肇)
沼田玉雄 (竜崎一郎)
笹井和子 (若山セツ子)
松山浅子 (山本和子)
井口甚蔵 (三島雅夫)
武田校長 (田中栄三)
岡本先生 (藤原釜足)

◆また逢う日まで
 (1950年 東宝 白黒 スタンダード 109分)

原作は、ロマン・ロランの小説「ピエールとリュイス」であるが、その映画化を今井正監督に勧めたのは、主役を演じた岡田英次とのことである。脚本を担当したのは、当時注目されていた新進の水木洋子とベテランの八住利雄である。回想とナレーションを巧みに用いつつ、甘口のメロドラマにおちいりやすい題材を慎重に再構成し、ある青春の悲劇として見事に立体化してみせた。少女が描いた青年の肖像画に重なる彼の声。防空壕で偶然出会った青年と少女。そして、今も語り草になっている「ガラス越しの接吻」は、閉塞状況におかれた恋人たちの精神性を象徴するものであり、戦時下に青春を過ごした世代を越えて、今日でも十分納得できるものがあろう。また、演出にあたった今井監督の主人公たちをとらえる静かな視線が、この作品を声高な反戦映画ではなく、内面的な格調の高いものに仕上げている。「キネマ旬報」ベストテン第1位。

[スタッフ]
(脚本) 水木洋子
(〃) 八住利雄
(監督) 今井正
(製作) 坂上静翁
(撮影) 中尾駿一郎
(照明) 平田光治
(録音) 下永尚
(音楽) 大木正夫
(美術) 河東安英

[役名(キャスト)]
田島三郎 (岡田英次)
小野蛍子 (久我美子)
三郎の父 英作 (滝沢修)
三郎の次兄 二郎 (河野秋武)
長兄の妻 正子 (風見章子)
蛍子の母 すが (杉村春子)
学生 (林孝一)
〃 (芥川比呂志)
〃 (大泉滉)
〃 (近藤宏)
近所の奥さん (南美江)

◆野火
 (1959年 大映[東京] 白黒 シネマスコープ 104分)

「俘虜記」や「レイテ戦記」など、戦後の戦争文学に大きな足跡を残した大岡昇平の同名小説を映画化したものである。戦争末期のレイテ島の戦場。食料難のため部隊からも病院からも見捨てられた主人公。さまよううちに知り合った二人の敗残兵。その一人は猿の肉だと称して人肉をすすめる。それに気付いた時に自分も殺されそうになり、逆に相手を殺してしまう。映画化にあたって市川崑監督は次のように述べている。「大岡さんは原作の中で、大変大きなテーマとして神を登場させている。……映画ではむしろ神の問題を全部なくすことによって神を感じさせられる……だから原作では主人公が人肉を食うけれど、映画では食わない。……そこで人肉があまりに固いために歯がボロリと欠けるという具合に書き変えた。歯が欠ける、これが映画ではないだろうか」。ブラック・ユーモアを得意とし、才気煥発な監督ならではの弁である。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作) 大岡昇平
(脚本) 和田夏十
(監督) 市川崑
(企画) 藤井浩明
(撮影) 小林節雄
(照明) 米山勇
(録音) 西井憲一
(音楽) 芥川也寸志
(美術) 柴田篤二

[役名(キャスト)]
田村 (船越英二)
安田 (滝沢修)
永松 (ミッキー・カーチス)
兵隊1 (星ひかる)
兵隊2 (月田昌也)
曹長 (潮万太郎)
不精ひげの軍医 (石黒達也)
兵隊A班長 (稲葉義男)
狂人の将校 (浜村純)
分隊長 (伊達信)

◆ぼんち
 (1960年 大映[京都] カラー シネマスコープ 104分)

原作は、山崎豊子が「週刊新潮」に長期連載した小説であり、原作者が得意とする大阪の商人物の一編である。舞台は大阪の船場。四代続いた裕福な足袋問屋の一人息子が、女系家族の中で甘やかされ、それゆえに悪戦苦闘する様子が、多彩な女性関係を中心にして年代記風に描かれている。映画では、60歳近くになった主人公が、戦争による苦難をようやく乗り越え、お家の再建を計ろうとするにあたり、昔のあれこれを回想するという形式が採られている。そこに登場するのは、自分を溺愛した祖母や母のみならず、これまで関係した様々な女性たちである。彼女らを演じるのは、ベテラン、演技派、若手を問わない個性的で当時を代表する映画女優たちであり、その競演が一つの見所といえよう。また、主演の二枚目時代劇スター市川雷蔵は、市川監督の『炎上』(1958)で初めて現代劇に出演、その演技力が注目されたが、ここでは老け役に初挑戦している。

[スタッフ]
(原作) 山崎豊子
(脚本) 和田夏十
(脚本・監督) 市川崑
(撮影) 宮川一夫
(照明) 岡本健一
(録音) 大角正夫
(音楽) 芥川也寸志
(美術) 西岡善信

[役名(キャスト)]
喜久治 (市川雷蔵)
仲居頭 お福 (京マチ子)
芸者 ぽん太 (若尾文子)
女給 比佐子 (越路吹雪)
仲居 幾子 (草笛光子)
喜久治の妻 弘子 (中村玉緒)
母 勢以 (山田五十鈴)
父 喜兵衛 (船越英二)
祖母 きの (毛利菊枝)
内田まき (北林谷栄)
春団子 (中村鴈治郎)

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