National Film Center
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-平成19年度優秀映画鑑賞推進事業-

Pプログラム

風刺劇に落語ネタ、庶民劇にクレージー・キャッツ――さまざまな笑いで見るものを楽しませてきた喜劇映画の代表作を紹介いたします。

◆本日休診
 (1952年 松竹[大船] 白黒 スタンダード 96分)

井伏鱒二の同名小説と「遥拝隊長」の二つの短編をもとに、ベテランの斎藤良輔がシナリオを書いた風俗喜劇。ある町の老医師・三雲八春は、院長を甥の伍助に譲って一年目。今日は本日休診の札を掲げて、院長を始め看護婦たちを慰安旅行に出してやった。そんな居残りの彼のもとに、次から次へと突飛な事件が舞い込んでくる。新人・三国連太郎が演じた、戦地で頭に負傷したことから発作的に軍隊時代に逆戻りする青年の姿は、見るものに強い印象を残す。監督の渋谷実は、松竹で成瀬巳喜男や五所平之助らの助監督を務め、戦後獅子文六原作の風俗喜劇で監督としての地位を確立、『現代人』(1952)など社会派ドラマでも知られる。ドライな感覚に鋭い風刺を盛り込んだ作風は、この群像喜劇にも存分に活かされている。

[スタッフ]
(原作) 井伏鱒二
(脚色) 斎藤良輔
(監督) 渋谷実
(製作) 山本武
(撮影) 長岡博之
(照明) 小泉喜代司
(録音) 大村三郎
(音楽) 吉沢博
(〃) 奥村一
(美術) 浜田辰雄

[役名(キャスト)]
三雲八春 (柳永二郎)
津和野加吉 (鶴田浩二)
お町 (淡島千景)
津和野悠子 (角梨枝子)
湯川春三 (佐田啓二)
勇作 (三国連太郎)
滝さん (岸恵子)
豊子夫人 (市川紅梅)
湯川三千代 (田村秋子)
竹さん (中村伸郎)
お京 (長岡輝子)
松本巡査 (十朱久雄)
兵隊服の男 (多々良純)
三雲伍助 (増田順二)

◆幕末太陽伝
 (1957年 日活 白黒 スタンダード 110分)

金もないのに品川遊廓でお大尽遊び、やむなく居残りとなったが遊廓の人気者として要領よく生きてゆく男の姿を描いた時代劇コメディ。その物語の核となったのは「居残り佐平次」をはじめ「芝浜の革財布」や「品川心中」といった古典落語ネタである。監督の川島雄三は、この他にも『愛のお荷物』(1955)や『貸間あり』(1959)といったテンポのいい喜劇を連発したが、演出家としての幅は広く、男女関係のもつれをめぐるメロドラマなどにも秀作を送り出した才人である。フランキー堺扮する居残り佐平次は、軽妙な味を見せながらも実は胸を病んでいるという設定であり、その姿には川島監督が一貫して作品に投影してきた底深い虚無を垣間見ることができる。また共演者として、日活のトップ・スターになる前の、時代劇初出演の石原裕次郎が、佐平次と同宿して一騒動を起こす勤皇の志士高杉晋作を若々しく演じている。「キネマ旬報」ベストテン第4位。

[スタッフ]
(脚本) 田中啓一
(〃) 今村昌平
(脚本・監督) 川島雄三
(製作) 山本武
(撮影) 高村倉太郎
(照明) 大西美津男
(録音) 橋本文雄
(音楽) 黛敏郎
(美術) 中村公彦
(〃) 千葉一彦

[役名(キャスト)]
居残り佐平次 (フランキー堺)
おそめ (左幸子)
こはる (南田洋子)
高杉晋作 (石原裕次郎)
おひさ (芦川いづみ)
相模楼主伝兵衛 (金子信雄)
女房お辰 (山岡久乃)
息子徳三郎 (梅野泰靖)
千葉の杢兵衛大尽 (市村俊幸)
貸本屋金造 (小沢昭一)
仏壇屋倉造 (殿山泰司)
久坂玄端 (小林旭)
志道聞多 (二谷英明)
若衆喜助 (岡田真澄)

◆ニッポン無責任時代
 (1962年 東宝 カラー シネマスコープ 86分)

周囲が唖然としているうちにスイスイと出世街道を登ってゆくお調子者の男を通して、いわゆる高度経済成長の時代を笑い飛ばそうとする風刺的な喜劇。その風刺性は、「努力」や「忍耐」といった美徳をまるで重んじない主人公の人生観ばかりでなく、平均(たいらひとし)なるその役名にも表われているだろう。前年に大ヒット曲「スーダラ節」で売り出したクレージー・キャッツの植木等は、この映画に主演したことで日本の喜劇映画の新しい顔となった。また、畳みかけるようなテンポが印象的な古澤憲吾監督の演出は、悪ノリも辞さない「クレージー」たちの芝居ともマッチし、同じくクレージー・キャッツが主演した「日本一の男シリーズ」(1963~71)などで東宝のサラリーマン喜劇に革新をもたらした。助演の団令子、中島そのみ、重山規子は青春喜劇「お姐ちゃんシリーズ」(1959~63)で知られる若い三人組で、この作品の明朗なタッチを支えている。

[スタッフ]
(脚本) 田波靖男
(〃) 松木ひろし
(監督) 古澤憲吾
(製作) 安達英三朗
(〃) 森田信
(撮影) 斉藤孝雄
(照明) 隠田紀一
(録音) 斉藤昭
(音楽) 神津善行
(美術) 小川一男

[役名(キャスト)]
平均 (植木等)
氏家勇作 (ハナ肇)
黒田有人 (田崎潤)
洋子 (藤山陽子)
孝作 (峰健二)
富山 (松村達雄)
石狩熊五郎 (由利徹)
時子 (久慈あさみ)
佐野愛子 (重山規子)
麻田京子 (中島そのみ)
まん丸 (団令子)

◆喜劇・女は男のふるさとヨ
 (1971年 松竹 カラー シネマスコープ 90分)

松竹の喜劇「女シリーズ」の第1作。東京新宿でストリッパーを斡旋する芸能事務所には、身寄りがなく、貧しいけれども逞しいダンサーたちが、人情に厚い経営者夫婦の「家族」として住んでいた。ふとしたトラブルから旅回りを決意したダンサーと、彼女を真面目に慕うひとりのファンが、改造した自動車で日本列島を南へと向かう。この作品を演出した森崎東は、庶民の生活からにじみ出る人間臭いエネルギーを笑いとともに描くことに優れた監督で、この映画の脚本は、松竹大船撮影所の先輩である山田洋次と組んで執筆した。このシリーズは、逆境にめげない逞しい女性像と不器用な生き方しかできない男性たちを対比させながら、こうした新しい「家族」の形を示すことで松竹ホームドラマの伝統を引き継いだとも言えるだろう。この映画のヒットに続いて『喜劇・女生きてます』(1971)や『喜劇・女売り出します』(1972)などの力作を送り出している。

[スタッフ]
(原作) 藤原審爾
(脚本) 山田洋次
(脚本・監督) 森崎東
(製作) 小角恒雄
(撮影) 吉川憲一
(照明) 津吹正
(録音) 小林英男
(音楽) 山本直純
(美術) 梅田千代夫

[役名(キャスト)]
金沢 (森繁久弥)
竜子 (中村メイコ)
笠子 (倍賞美津子)
星子 (緑魔子)
照夫 (河原崎長一郎)
徳田刑事 (花沢徳衛)
ケチ権 (伴淳三郎)
大学生 (佐藤蛾次郎)

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