National Film Center
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-平成19年度優秀映画鑑賞推進事業-

Gプログラム

戦争の傷跡が残る戦後日本で淡々と営まれる日常、そして復興を象徴した国家的イベントを記録した作品を紹介いたします。

◆煙突の見える場所
 (1953年 新東宝=スタジオ8プロ 白黒 スタンダード 108分)

東京・千住にある、見る場所によっては四本にも一本にも見えるという巨大な「お化け煙突」。この界隈を舞台に、戦後の日本を生きる庶民の悲喜こもごもを描き出した五所平之助監督の代表作。足袋問屋に勤める実直な中年男・緒方隆吉は、戦災未亡人であった妻弘子とつつましく暮らしている。生活の足しにと二階を税務署員の久保健三と、街頭広告のアナウンス嬢、東仙子に間貸しているが、そこに見も知らぬ赤ん坊が置去りにされていたことから一騒動がもちあがる。実存主義的な作風で知られる椎名麟三の短編「無邪気な人々」を中心に、黒澤明作品で知られる小国英雄が脚本を書き、五所監督自らが主宰する独立プロダクションで製作した「不思議な笑い」を醸し出す一篇となった。

[スタッフ]
(原作) 椎名麟三
(脚本) 小国英雄
(監督) 五所平之助
(製作) 内山義重
(撮影) 三浦光雄
(照明) 河野愛三
(録音) 道源勇二
(音楽) 芥川也寸志
(美術) 下河原友雄

[役名(キャスト)]
緒方弘子 (田中絹代)
夫 隆吉 (上原謙)
東仙子 (高峰秀子)
久保健三 (芥川比呂志)
池田雪子 (関千恵子)
石橋勝子 (花井蘭子)
河村徳治 (坂本武)
弘子の前夫 塚原忠二郎 (田中春男)
灘らん子 (三好栄子)
夫 勇 (中村是好)
野島加代 (浦辺粂子)
北清作 (星ひかる)
医師 金子大助 (小倉繁)

◆お早よう
(1959年 松竹[大船] カラー スタンダード 94分)

子供の目を通して、大人たちが何気なく過ごしている日常のおかしさを、ユーモラスに描いた小津安二郎監督作品。舞台は戦後日本の典型的な風景である郊外の新興住宅地であるが、小津監督が得意とした長屋物の戦後版ともいえる内容である。ロー・アングルや端正な演出で知られる小津作品らしく、巧みな人物の出入りやほのぼのとした会話の妙などに独特の風格をもっている。挨拶をめぐるたわいもない物語に豊かな表情を与え、絶妙のテンポで独自の世界を作り上げていく、その演出スタイルはすでに完成の域に達していた。その巨匠が敢えて「オナラ」の挿話を展開してみせるところに、前年、紫綬褒賞を受け、またこの年芸術院賞を受賞した、彼一流のダンディズムを感じとることもできるだろう。

[スタッフ]
(脚本) 野田高悟
(脚本・監督) 小津安二郎
(製作) 山内静夫
(撮影) 厚田雄春
(照明) 青松明
(録音) 妹尾芳三郎
(音楽) 黛敏郎
(美術) 浜田辰雄

[役名(キャスト)]
福井平一郎 (佐田啓二)
有田節子 (久我美子)
林敬太郎 (笠智衆)
妻 民子 (三宅邦子)
原口きく江 (杉村春子)
林の長男 実 (設楽幸嗣)
次男 勇 (島津雅彦)
大久保しげ (高橋とよ)
福井加代子 (沢村貞子)
富沢汎 (東野英治郎)
妻 とよ子 (長岡輝子)
原口みつ江 (三好栄子)

◆裸の島
 (1960年 近代映画協会 白黒 シネマスコープ 96分)

瀬戸内海の小さな無人島に、一組の夫婦が渡ってきた。千太と妻のトヨには8歳になる太郎と6歳の次郎の二人の子供がいた。わずかな土地を耕し、段々畑に麦とサツマイモを植えて生活している。しかし、島には川も井戸さえもない。小船を漕いで隣の島まで水を汲みにいき、やっと運んできた水を天秤棒でかつぎながら、険しい斜面を登っていく作業は並大抵の苦労ではない。トヨは誤って手桶の水をこぼしてしまう。千太は妻の頬に平手打ちをくらわせる。それほど水はかけがえのないものなのだ。一言もセリフのないこの映画のなかで長男の太郎が急病になり、医者が間にあわず死んでしまう場面は、見るものに悲痛な感情をもたらす。それでも二人は黙々と働きつづけるしかないのだ。新藤兼人監督自ら出資して、わずか13人のスタッフで、現地に合宿生活をして完成されたこの作品は、近代映画協会の自主配給で公開されたが、第2回モスクワ映画祭でグランプリを獲得するにおよび、世界64か国に輸出された。「キネマ旬報」ベストテン第6位。

[スタッフ]
(脚本・監督・製作) 新藤兼人
(製作) 松浦栄策
(撮影) 黒田清巳
(照明) 永井俊一
(録音) 丸山国衛
(音楽) 林 光

[役名(キャスト)]
トヨ (乙羽信子)
夫 千太 (殿山泰司)
息子 太郎 (田中伸二)
息子 次郎 (堀本正紀)

◆東京オリンピック
 (1965年 東京オリンピック映画協会/東宝 カラー シネマスコープ 170分)

1964年10月10日から24日まで開催された第18回オリンピック東京大会は、スポーツによる国際交流の場を通して、わが国が世界にその復興を示した国家的規模の一大行事であったと言えるだろう。この作品はそのメモリアル・フィルムとして市川崑総監督以下、561人のスタッフが結集して製作され、翌年公開されるや空前の観客動員を記録し、12億を超える配給収入を上げた話題作である。また、その際に「記録か芸術か」という問題を提起し、様々な議論を巻き起こしたことも忘れられない。それは、この作品がスポーツの勝敗よりも、スポーツをする「人間」により多くの描写を費やしたためとも言えるのだが、これはこれで作家市川崑としての一貫した姿勢でもあった。結果は、カンヌ国際映画祭批評家協会賞受賞、「キネマ旬報」ベストテン第2位選出にも表れている。

[スタッフ]
(企画・監修) オリンピック東京大会組織委員会
(製作) 東京オリンピック映画協会
(プロデューサー) 田口助太郎
(総監督) 市川崑
(脚本) 和田夏十/白坂依志夫
(〃) 谷川俊太郎/市川崑
(技術監督) 碧川道夫
(音楽監督) 黛敏郎
(録音監督) 井上俊彦
(監督部) 細江英公/安岡章太郎
(〃) 谷川俊太郎他
(撮影部) 林田重男/宮川一夫
(〃) 中村謹司/田中正 他
(ナレーター) 三国一朗

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