National Film Center
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-平成19年度優秀映画鑑賞推進事業-

Fプログラム

終戦直後の混乱のなかで、古き時代への悔恨と新しい時代に向けた希望を映し出した力作を紹介いたします。

◆わが青春に悔いなし
 (1946年 東宝 白黒 スタンダード 110分)

黒澤明監督の戦後第一作。モデルとなったのは京都大学の滝川事件(1933)とゾルゲ事件(1941)だが、後年の男性中心の黒澤作品に比べるとやや異質な感じを与えるのは、女性が主人公である点であろう。ファシズムの圧力に屈し野に下った大学教授の娘で、戦時下のさまざまな苦境にも屈することなく生きていく堂々たるヒロインとして、原節子が後の小津安二郎作品とは違った魅力を発揮している。脚本の久坂栄二郎はプロレタリア演劇の中心的存在として活躍していた劇作家で、この年木下恵介監督も、久坂の脚本により『大曾根家の朝』という佳作を発表しているが、彼と組んだところに当時の黒澤監督の姿勢が表われている。ともあれ、戦後の「新しい時代」の高揚の中で制作されたことが良くわかる作品である。本作は、1946年3月から始まった東宝争議の第二次争議中に、日活系の劇場を使って封切られた。

[スタッフ]
(脚本) 久板栄二郎
(監督) 黒澤明
(製作) 松崎啓次
(撮影) 中井朝一
(照明) 石井長四郎
(録音) 鈴木勇
(音楽) 服部正
(美術) 北川恵司

[役名(キャスト)]
八木原幸枝 (原節子)
野毛隆吉 (藤田進)
八木原教授 (大河内伝次郎)
野毛の母 (杉村春子)
八木原夫人 (三好栄子)
糸川 (河野秋武)
野毛の父 (高堂国典)
特高 毒いちご (志村喬)
文部大臣 (深見泰三)
筥崎教授 (清水将夫)
学生 (田中春男)
刑事 (岬洋二)
令嬢 (中北千枝子)

◆安城家の舞踏会
 (1947年 松竹[大船] 白黒 スタンダード 89分)

今や家屋敷を人手に渡すところまで落ちぶれた旧華族の名門、安城家。せめて終焉だけは華やかに迎えようと舞踏会が催されたが、そこに闇金融の社長や、かつて当家のお抱え運転手だった成金の運送業者らが現われ、当主の苦悩は極限に達することとなる…。旧体制の崩壊と新興勢力の台頭という、敗戦後の日本の世相を巧みに織り込んだ作品だが、滅び行く華族とその周辺の人々という人物設定には、たしかにチェーホフの「桜の園」を思わせるところがある。もっとも監督の吉村公三郎によれば、実際にこれに類したダンスパーティーが開かれたことがあり、そこから作品のアイデアを得たということらしい。脚本の新藤兼人は修業時代、溝口健二の下で「近代劇全集」と格闘した経験があり、この堅牢に組み立てられたドラマにもその成果の一端がうかがわれる。

[スタッフ]
(脚本) 新藤兼人
(原作・監督) 吉村公三郎
(製作) 小倉武志
(撮影) 生方敏夫
(照明) 加藤政雄
(録音) 妹尾芳三郎
(音楽) 木下忠司
(美術) 浜田辰雄

[役名(キャスト)]
安城敦子 (原節子)
姉 昭子 (逢初夢子)
父 忠彦 (滝沢修)
兄 正彦 (森雅之)
新川竜三郎 (清水将夫)
遠山庫吉 (神田隆)
小間使 菊 (空あけみ)
千代 (村田知栄子)
家令 吉田 (殿山泰司)
新川曜子 (津島恵子)
春小路正子 (岡村文子)
由利武彦 (日守新一)

◆蜂の巣の子供たち
 (1948年 蜂の巣映画部 白黒 スタンダード 84分)

清水宏監督は、自意識過剰なスター俳優を使ってメロドラマを撮っているよりは、子供や風景を自然のままに写しているほうがましだと考えていた。そんなこともあって、戦後、戦災孤児を引き取って自宅で面倒をみていたが、彼らを登場人物に何か作ろうと思いたち、蜂の巣プロを起こして、この作品を製作した。ひとりの復員兵が下関に降りたつ。帰る場所のない彼は、自分が育った非行少年の厚生施設「みかへりの塔」へ帰ろうと、広島、神戸と山陽道を歩いて行く。戦禍の後も生々しい街角や路上で、浮浪児たちや若い娘の引揚者、孤児を束ねている乱暴な男などと出会い、さらに旅を続けていく。全篇ロケーション撮影、俳優たちもすべて素人といった素朴さのうちに、朴訥としたこの監督特有の味わいと時代を見つめる目がある

[スタッフ]
(脚本・監督・製作) 清水宏
(製作同人) 山本茂樹
(〃) 関沢新一
(〃) 林文三郎
(撮影) 古山三郎
(録音) 杉山政明
(〃) 金谷常三郎
(音楽) 伊藤宣二

[役名(キャスト)]
復員者 (島村俊作)
引揚者 (夏木雅子)
叔父貴という男 (御庄正一)
医師 (伊本紀洋史)
工場主 (多島元)
戦災児 晋公 (久保田晋一郎)
〃豊 (岩本豊)
〃義坊 (千葉義勝)

◆帰郷
 (1950年 松竹[大船] 白黒 スタンダード 104分)

原作は、大佛次郎が毎日新聞に連載した長篇小説である。海外を放浪し、無国籍者となっていた元海軍軍人が戦後日本に帰国し、かつて自分を窮地に陥れた愛人や、音信を絶っていた娘に会うが、すっかり様がわりしている日本に失望して、再び去っていく。混乱した復興期の世相を背景に、上質の情感をたたえた作品になっている。同年の『長崎の鐘』や、『君の名は』三部作(1953-54)の大ヒットにより、松竹のエース監督となった大庭秀雄は、同社伝統のメロドラマの作法を十二分に体得した作家であり、心理描写などにたしかな手腕を示した。特に京都の苔寺(西芳寺)の場面は流麗といえるだろう。

[スタッフ]
(原作) 大佛次郎
(脚本) 池田忠雄
(監督) 大庭秀雄
(製作) 小出孝
(撮影) 生方敏夫
(照明) 田村晃雄
(録音) 妹尾芳三郎
(音楽) 吉沢博
(〃) 黛敏郎
(美術) 浜田辰雄

[役名(キャスト)]
高野佐衛子 (木暮実千代)
守屋恭吾 (佐分利信)
娘 伴子 (津島恵子)
隠岐節子 (三宅邦子)
夫 達三 (山村聡)
牛木利貞 (柳永二郎)
高野信輔 (徳大寺伸)
憲兵曹長 (三井弘次)
小野崎公平 (日守新一)
岡部雄吉 (高橋貞二)
岡村俊樹 (市川笑猿)
お種 (坪内美子)

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