National Film Center
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-平成19年度優秀映画鑑賞推進事業-

Iプログラム

都市近郊の農家や老人性認知症など、これまで映画が描いてこなかった問題に果敢に挑戦した1980年代の映画を紹介いたします。

◆遠雷
 (1981年 にっかつ撮影所=ニュー・センチュリー・プロデューサーズ=ATG カラー スタンダード 135分)

宇都宮でビニールハウスのトマト栽培を職業としている青年とその親友の、明暗分かれる青春を鮮烈に描いた立松和平の同名小説の映画化である。1970年代以降の日本は、この映画でビニールハウスの隣に団地が建つように、各地の都市近郊で風景が変貌し、旧来の「都市と農村」の対立だけでは描けない複雑な社会が形成された。またこの時期の日本映画界は産業としては低迷していたが、その中にあって日活撮影所は最も多くの映画を量産し、次々と新しい才能を送り出し続けた。この映画の監督根岸吉太郎と脚本家荒井晴彦はともに日活を経由しており、そうした現代的な風景、またその中で育った多様な価値観で揺れる青年像を描くことで、この作品をリアルな生活感覚あふれる新世代の青春映画に結実させた。主人公の青年はトントン拍子に結婚式を挙げ、その親友は不幸な殺人を犯してしまう。長々と続く幸せな披露宴の最中に親友が罪を告白するという印象的なシーンは原作にはなく、脚本における創作であった。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作) 立松和平
(脚本) 荒井晴彦
(監督) 根岸吉太郎
(撮影) 安藤庄平
(照明) 加藤松作
(録音) 飛田喜美雄
(音楽) 井上堯之
(美術) 徳田博

[役名(キャスト)]
和田満夫 (永島敏行)
中森広次 (ジョニー大倉)
花村あや子 (石田えり)
カエデ (横山リエ)
満夫の父 (ケーシー高峰)
満夫の母 (七尾伶子)
満夫の祖母 (原泉)
チイ (藤田弓子)
和田哲夫 (森本レオ)
農協職員 (立松和平)

◆転校生
 (1982年 日本テレビ放送網=ATG カラー ビスタ 113分)

舞台は尾道の中学校。坂と海と光の街だ。夏のある日、ワンパク少年斉藤一夫のクラスに一人の転校生がやってきた。女の子だ。名前は斉藤一美といい、一夫と一字違いだった。一美は一夫と幼稚園の同級生だったといい近づいてくるが、そんなある日、ふとした弾みで寺の階段から落ちそうになった一美を救おうとして、一夫も一緒に転がり落ちる。気がつくとどうしたことか、一夫は一美に、一美は一夫になっていた。二人は入れ違ってしまったのだった。監督の大林宣彦は8ミリや16ミリの個人映画作家として、またテレビCMの敏腕ディレクターとして知られていたが、1977年の『HOUSE ハウス』で初めて長篇映画を手がけた。思春期の、少女のなかの少年、少年のなかの少女が重なりあう一瞬のゆらぎを、ファンタジー形式のなかで見事に映像化した作品である。この後に製作される『時をかける少女』(1983)、『さびしんぼう』(1985)とともに「尾道三部作」と呼ばれている。「キネマ旬報」ベストテン第3位。

[スタッフ]
(原作) 山中恒
(脚色) 剣持亘
(監督) 大林宣彦
(製作) 佐々木史朗
(撮影) 阪本善尚
(照明) 渡辺昭夫
(録音) 稲村和巳
(音楽) 林 昌平
(美術) 薩谷和夫

[役名(キャスト)]
斉藤一夫 (尾美としのり)
斉藤一美 (小林聡美)
一夫の父 明夫 (佐藤允)
一夫の母 直子 (樹木希林)
一美の父 孝造 (宍戸錠)
一美の母 千恵 (入江若葉)
一美の兄 良行 (中川勝彦)
校長 (加藤春哉)
大野光子 (志穂美悦子)

◆夢千代日記
 (1985年 東映[京都] カラー ビスタ 129分)

舞台となるのは山陰の湯村温泉。被爆二世である夢千代は、白血病と戦いながら母が残した芸者置屋「はる屋」の経営を続けていた。そこには、さまざまな事情を抱えた女が、男がやってくる。限られた命のなかでひたむきに生きる夢千代は、ふと知り合った旅役者に心をひかれていく…。夢千代の生みの親でもある脚本家、早坂暁によれば、この夢千代は当初から吉永小百合を想定して作られたキャラクターであり、今日では彼女の当たり役となっている。1981年から84年にかけてNHKで3度にわたって放映された人気テレビ・シリーズの映画による完結篇。吉永小百合と監督の浦山桐郎コンビの復活が話題を呼んだ。世評の高い、浦山のデビュー作『キューポラのある街』(1962)は、主演の吉永を「少女スター」から「女優」に脱皮させた作品としても知られている。浦山は本作完成後に死去し、これが遺作となった。生涯に9本しか作品を残さなかった浦山は、寡作監督として映画史に名前を止めることになったが、うち吉永の出演作は4本を数えている。

[スタッフ]
(企画・脚本) 早坂暁
(監督) 浦山桐郎
(撮影) 安藤庄平
(照明) 渡辺喜和
(録音) 荒川輝彦
(音楽) 松村禎三
(美術) 井川徳道
(〃) 佐野義和

[役名(キャスト)]
夢千代(永井佐千子) (吉永小百合)
宗方勝 (北大路欣也)
兎 (名取裕子)
紅 (田中好子)
菊奴 (樹木希林)
小夢 (斉藤絵里)
渡辺タマエ (風見章子)
春川桃之助 (小川真由美)
チビッ子玉三郎 (白龍光洋)
藤森 (加藤武)
山科東窓 (浜村純)

◆花いちもんめ
 (1985年 東映[京都] カラー ビスタ 125分)

今日大きな社会的関心を集めている、老人性の認知症(痴呆症)の問題に正面から取り組んだ伊藤俊也監督の力作。アルツハイマーとなっていく一人の考古学者と、その家族たちの苦闘する姿が、とくに舅と嫁の関係を軸に力強い演出でリアルに描きだされている。病人の介護をめぐり、いわゆる「家族愛=親子愛」の根源を問いただしていく、この映画の主題はますます重いものになっている。「女囚さそり」シリーズ(1972~73)や『誘拐報道』(1982)など、常に社会的な広がりを視野に入れたドラマ作りを特徴とする、伊藤監督らしい重厚なホーム・ドラマである。主人公の老学者を演じた千秋実は、自分自身が脳卒中から回復した体験をもっており、その存在感は圧倒的であった。この年多くの演技賞を受賞している。

[スタッフ]
(脚本) 松田寛夫
(監督) 伊藤俊也
(企画) 日下部五朗
(撮影) 井口勇
(照明) 増田悦章
(録音) 栗山日出登
(音楽) 池部晋一郎
(美術) 山下謙爾

[役名(キャスト)]
鷹野冬吉 (千秋実)
鷹野桂子 (十朱幸代)
鷹野菊代 (加藤治子)
鷹野治雄 (西郷輝彦)
鷹野里美 (長谷川真弓)
鷹野豊 (岩渕健)
金子信恵 (野川由美子)
飯塚友子 (中田喜子)
鷹野光恵 (二宮さよ子)
石本義和 (岸部一徳)
児島洋子 (末広真季子)
館長 (内藤武敏)
神経内科医師 (神山繁)

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