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-平成19年度優秀映画鑑賞推進事業-

Lプログラム

高峰秀子、司葉子、若尾文子、田中絹代――若き彼女たちをスターへと飛躍させた大作、大女優の晩年を輝かせた秀作を紹介いたします。

◆稲妻
 (1952年 大映[東京] 白黒 スタンダード 87分)

それぞれ父親の違う四人の子供たち。母はそれをそのまま受け入れて暮らしているが、末っ子の清子(高峰秀子)は姉や兄たちの身勝手で無気力な生き方に生理的な嫌悪を抱いている。山の手の世田谷で一人下宿生活を送っているのもそのためだ。次女の光子(三浦光子)が飼っている子猫のように、弱々しい生きものとして周りの世話になりたくないのだ。林芙美子の同名小説は1936年に発表されたもので、実母をモデルにしたものだと言われている。監督の成瀬巳喜男は、戦前の松竹時代から林芙美子に関心を抱いていたが、映画化の機会をもてないままであった。この作品は『めし』(1951)に続く林文学の映画化である。下町の庶民の姿をいたずらに劇化することなく、静かに見つめているところに特徴がある。田中澄江脚本。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作) 林芙美子
(脚本) 田中澄江
(監督) 成瀬巳喜男
(撮影) 峰重義
(照明) 安藤真之助
(録音) 西井憲一
(音楽) 斎藤一郎
(美術) 仲美喜雄

[役名(キャスト)]
小森清子 (高峰秀子)
屋代光子 (三浦光子)
国宗つぼみ (香川京子)
清子の長姉 縫子 (村田知英子)
つぼみの兄 周三 (根上淳)
パン屋 綱吉 (小沢栄太郎)
清子の母 おせい (浦辺粂子)
田上りつ (中北千枝子)
杉山とめ (滝花久子)
縫子の夫 龍三 (植村謙二郎)
清子の兄 嘉助 (丸山修)

◆紀ノ川
 (1966年 松竹 カラー シネマスコープ 166分)

有吉佐和子の同名小説を、劇作家としても知られる久板栄二郎がシナリオ化し、文芸ものを得意とした中村登監督が悠々たるタッチで描いた大作である。明治から大正、昭和の大きな世相を背景に、紀州・有功村六十谷の真谷家を舞台に、花、文緒、華子の三代にわたる女性の生き方を見つめつつ、古い家族制度が崩壊していくさまが丁寧に描き出されている。控え目だが芯の強い花は、22歳で旧家に嫁ぎ、義弟の秘めたる愛を感じながらも、嫁としての分を守り、政界に進出した夫に尽くしながら72年の生涯をまっとうする。時代の激流に翻弄されながらも家門を守り通す女の人生を見事に演じきった司葉子は、この年の映画賞で主演女優賞を総なめにし、女優としての代表作とした。なお、冒頭の、花が嫁入りのために紀ノ川を下っていく舟のシーンは、名カメラマンとして知られた成島東一郎の技量が遺憾なく発揮された名場面である。

[スタッフ]
(原作) 有吉佐和子
(脚本) 久板栄二郎
(監督) 中村登
(製作) 白井昌夫
(撮影) 成島東一郎
(照明) 中川孝一
(録音) 田中俊夫
(音楽) 武満徹
(美術) 梅田千代夫

[役名(キャスト)]
花 (司葉子)
文緒 (岩下志麻)
華子 (有川由紀)
豊乃 (東山千栄子)
真谷敬策 (田村高広)
真谷浩策 (丹波哲郎)
政一郎 (中野誠也)
市 (沢村貞子)
ウメ (岩本多代)

◆華岡青洲の妻
 (1967年 大映[京都] 白黒 シネマスコープ 99分)

有吉佐和子の同名原作を、新藤兼人の脚本を得て増村保造が映画化した作品。日本初の麻酔薬の開発者として名高い、紀州の医師華岡青洲をめぐる母と妻の葛藤を中心に描いている。加恵は青洲の母お継に憧れて21歳で華岡家の嫁となった。京都で医学修行を積んでいた夫が帰国するのは3年後である。やがて、加恵をさしおいて、なにくれとなく夫の世話を焼く姑は加恵のなかでライバルとなっていく。嫁と姑のひそやかな対立をよそに、青洲はひたすら麻酔薬の研究に打ち込んでいった。動物実験の段階を終えて、人体を用い効果を試すべきときがきた。その時、自ら実験台になることを申し出たのは二人の女、母と妻であった。譲らない二人に、青洲は同じように薬を与えるのだったが…。増村保造はこの映画化に熱心で、企画会議で永田雅一社長に訴えて製作許可を得た。増村自身は、女の戦いを利用しつつ薬を完成させた華岡青洲に魅力を感じていたらしい。「キネマ旬報」ベストテン第5位。

[スタッフ]
(原作) 有吉佐和子
(脚色) 新藤兼人
(監督) 増村保造
(企画) 辻久一
(撮影) 小林節雄
(照明) 美間博
(録音) 大角正夫
(音楽) 林光
(美術) 西岡善信

[役名(キャスト)]
華岡青洲 (市川雷蔵)
加恵 (若尾文子)
お継 (高峰秀子)
直道 (伊藤雄之助)
小陸 (渡辺美佐子)
加恵の乳母 (浪花千栄子)
お勝 (原知佐子)
下村良庵 (伊達三郎)

◆サンダカン八番娼館 望郷
 (1974年 俳優座=東宝 カラー スタンダード 121分)

第4回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した女性史研究家の山崎朋子の原作をもとに、社会性と叙情性を併せもつ作風で知られる熊井啓監督が映画化した作品。かつて東南アジア各地へ身を売られた「からゆきさん」と呼ばれる女性たちがいた。多くは貧しい家庭の出身であり、またその犠牲者であった。日本の近代化の裏にひそむ悲劇的存在ともいえる彼女たちを、映画は大きなスケールで見つめ直し、〈生きた存在〉として映しだしていく。目的を伏せて調査をする若い研究者と「からゆきさん」だった老婆との触れあいを通して、現在と過去を交錯させながら物語は進行していく。なかでも老婆サキを豊かな存在感で演じた田中絹代にとっては、この作品で受賞した国内における各種の主演女優賞、ベルリン国際映画祭主演女優賞がその長い女優生活の最後の受賞歴となった。「キネマ旬報」ベストテン第1位。

[スタッフ]
(原作) 山崎朋子
(脚色) 広沢栄
(脚色・監督) 熊井啓
(撮影) 金宇満司
(照明) 椎葉昇
(録音) 太田六敏
(音楽) 伊福部昭
(美術) 木村威夫

[役名(キャスト)]
北川サキ (田中絹代)
その少女時代 (高橋洋子)
三谷圭子 (栗原小巻)
おきくさん (水の江滝子)
竹内秀夫 (田中健)
サキの兄 (浜田光夫)
   母 (岩崎加根子)
娼館主人 (小沢栄太郎)
呉服屋 矢島 (砂塚秀夫)
農業試験所員 (中谷一郎)
ペナンの女 (菅井きん)

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