National Film Center
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-平成19年度優秀映画鑑賞推進事業-

Jプログラム

漫画や児童文学などをもとに、子供や老人の眼から家族や社会を見つめた1990年代の秀作を紹介いたします。

◆櫻の園
 (1990年 ニュー・センチュリー・プロデューサーズ=サントリー カラー ビスタ 100分)

桜の咲く頃、学校創立記念日の恒例行事としてチェーホフの戯曲「桜の園」を上演しようとする女子高校の演劇部。原作である吉田秋生の漫画作品ではそうした演劇部員たちの春夏秋冬を描いているが、その映画化にあたって中原俊監督らはドラマを「桜の園」の開演前の2時間だけに絞り、部員たちの行動や心理的なざわめきを多層的に描く群像劇に作り上げている。登場人物のほとんどが女子高校生という設定もさることながら、主要な人物だけでなく脇役の部員たち一人一人にまで存在感を際立たせたじんのひろあきの脚本、そして中原監督の新境地とも言える集団的な演出法も斬新であった。つみきみほ、中島ひろ子といった若手女優の好演もあって各方面で高く評価されたこの作品は、その年の「キネマ旬報」ベストテンの第1位、監督賞、脚本賞ほか多くの賞を受賞し、現代日本映画の名作としての地位を獲得している。

[スタッフ]
(原作) 吉田秋生
(脚本) じんのひろあき
(監督) 中原俊
(製作) 岡田裕
(撮影) 藤沢順一
(照明) 金沢正夫
(録音) 林大輔
(選曲) 石井ますみ
(美術) 稲垣尚夫
(〃) 内田哲也

[役名(キャスト)]
志水由布子 (中島ひろ子)
杉山紀子 (つみきみほ)
倉田知世子 (白島靖代)
城丸香織 (宮澤美保)
久保田麻紀 (梶原阿貴)
大町真由美 (三野輪有紀)
平井和代 (白石美樹)
戸田麗子 (後藤宙美)
坂口 (上田耕一)
里美先生 (岡本舞)
中村先生 (南原宏治)

◆大誘拐 RAINBOW KIDS
 (1991年 喜八プロ=ニチメン=フジエイト カラー ビスタ 120分)

紀州一の山林王という大富豪の老女を誘拐した三人組の若者が、逆に老女に手玉にとられ、やがて老女と警察との全面対決に及ぶ様をユーモアとサスペンスたっぷりに描いた喜劇。三人組が決めた身代金があまりに安いと嘆いて自ら100億円につり上げた老女は、世界の報道陣が注目する中、この「史上最大の誘拐事件」を緻密に演出してゆく。老女を演じたのは、戦前から新劇人として長いキャリアを積んだ北林谷栄。誘拐犯と老女の立場が逆転してしまう展開は松竹の『喜劇・大誘拐』(1976、前田陽一監督)にヒントを得ているが、より事件を大仕掛けなものにし、航空撮影も駆使したダイナミックな演出を施している。日本推理作家協会賞を受賞(1979)した小説の映画化であり、かつ岡本喜八監督の持ち味であるスピード感覚も活かされた作品であるが、戦争で子供たちを失った悔しさを老女の行動の背景に据えたことに、『日本のいちばん長い日』(1967)でも知られる戦中派監督の一貫した姿勢を見ることができる。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作) 天藤真
(脚本・監督) 岡本喜八
(製作) 岡本みね子
(〃) 田中義巳
(〃) 安藤甫
(撮影) 岸本正広
(照明) 佐藤幸次郎
(録音) 神保小四郎
(音楽) 佐藤勝
(美術) 西岡善信
(〃) 加門良一

[役名(キャスト)]
柳川とし子刀自 (北林谷栄)
県警本部長 井狩大五郎 (緒形拳)
戸並健次 (風間トオル)
秋葉正義 (西川弘志)
三宅平太 (内田勝康)
中村くら (樹木希林)
柳川国二郎 (神山繁)
 可奈子 (水野久美)
 大作 (岸部一徳)
東京から赴任した警部補 (嶋田久作)
串田老人 (天本英世)

◆お引越し
 (1993年 読売テレビ放送 カラー ビスタ 124分)

大胆なカメラ移動を駆使しながら各カットを長く撮る独特の「映画術」で知られる相米慎二監督は、『ションベン・ライダー』(1983)や『台風クラブ』(1985)など、少年少女たちの不安定な心理や生活世界をその技法で巧みに演出し、1980年代以降の日本映画を代表する映画作家となった。この映画では、やがて離婚するために別居に入った両親を持つ小学6年生の少女レンコをめぐって、彼女が感じる心の葛藤や、新しい自己を見い出してゆく過程がみずみずしく、またラストシーンでは自我に目覚めた彼女の内面が幻想的に描写される。日本映画の大きなテーマの一つである「家族」の解体と再生の物語に、相米監督はまったく新しいアプローチから挑み、1990年代における家族像の「現在」を浮き彫りにしている。撮影面では、ハリウッド映画の経験もあり、後に大島渚監督の『御法度』(1999)でも技量を発揮したカメラマン栗田豊通がその力強い画面作りに貢献している。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作) ひこ・田中
(脚本) 奥寺佐渡子
(〃) 小此木聡
(監督) 相米慎二
(製作) 伊地智啓
(〃) 安田匡裕
(撮影) 栗田豊通
(照明) 黒田紀彦
(録音) 野中英敏
(音楽) 三枝成彰
(美術) 下石坂成典

[役名(キャスト)]
漆場レンコ (田畑智子)
父 ケンイチ (中井貴一)
母 ナズナ (桜田淳子)
布引ユキオ (田中太郎)
大木ミノル (茂山逸平)
高野和歌子 (須藤真理子)
木目米先生 (笑福亭鶴瓶)
橘理佐 (青木秋美)
砂原老人 (森秀人)
砂原節子 (千原しのぶ)

◆毎日が夏休み
 (1994年 パイオニアLDC=サンダンス・カンパニー カラー ビスタ 94分)

東京郊外の新興住宅地に住む林海寺家は、父も母も再婚同士、優等生のはずの娘はいじめにあって登校拒否、父も会社に出社せず外でぶらぶらしている。そんな娘と父がある日奮起し、おろおろする母を尻目に「何でも屋」を開業したことからこの〈ツギハギ家族〉の新しい展開が始まる。〈家長としての威厳〉とはまるで無縁の父親を演じる佐野史郎は、情念よりも「軽さ」を重視するこの映画の空気を体現している。また雑誌モデルとして活躍していた佐伯日菜子が、娘のスギナ役で映画デビューを果たした。監督の金子修介とスタッフ陣は、少女漫画の第一人者大島弓子の原作が備える繊細さに対して、乾いたタッチと抽象的なカメラアングル、そして個性的なキャスティングで挑み、現代の変貌する家族像を爽やかに戯画化した。この後、金子監督は『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995)など、娯楽映画のヒット作を連発する人気監督となっている。「キネマ旬報」ベストテン第10位。

[スタッフ]
(原作) 大島弓子
(脚本・監督) 金子修介
(製作) 藤峰貞利
(撮影) 柴崎幸三
(照明) 吉角荘介
(録音) 林大輔
(音楽) 大谷幸
(美術) 及川一

[役名(キャスト)]
林海寺成雪 (佐野史郎)
娘 スギナ (佐伯日菜子)
妻 良子 (風吹ジュン)
草本紅子 (高橋ひとみ)
小林 (益岡徹)
小林夫人 (黒田福美)
スギナの実父 江島渡 (小野寺昭)
宇野部長 (上田耕一)

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