National Film Center
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-平成19年度優秀映画鑑賞推進事業-

Nプログラム

石原裕次郎、勝新太郎、渥美清、高倉健――個性豊かな男優たちの溌剌とした魅力が充満した娯楽作を紹介いたします。

◆沓掛時次郎 遊侠一匹
 (1966年 東映[京都] カラー シネマスコープ 90分)

大衆文学の雄である長谷川伸の諸作品は「股旅映画」の原作となっているものが多い。この「沓掛時次郎」も戦前からたびたび映画化されており、異題も含めて8本の作品を数えることができる。中でも、戦後では4作目に当たるこの作品は、屈指の名作として知られているものである。気のいいやくざ、身延の朝吉(渥美清)、やくざ志望の若者、昌太郎(岡崎二朗)のエピソードや迫力ある殺陣シーンなどに「やさしさと怒りの世界」と評される加藤泰監督独自の世界があらわれている。当初加藤は脚本家(鈴木尚之、掛札昌裕)による、原作には登場しない人物の設定に戸惑ったともいわれているが、この二人の存在が物語をより陰影の深いものにしているといえるだろう。彼は「時代劇映画の巨匠」と言われた伊藤大輔の門下、大衆的な物語を特徴的なロー・アングルで撮影し、豊潤な映像世界を作り上げた。主演の中村錦之助は、1950年代半ばから東映時代劇で活躍した大スター、幅広い芸域と鮮やかな口跡で数々の名作に出演している。

[スタッフ]
(原作) 長谷川伸
(脚本) 鈴木尚之
(〃) 掛札昌裕
(監督) 加藤泰
(企画) 小川三喜雄
(〃) 三村敬三
(撮影) 古谷伸
(照明) 中山治雄
(録音) 渡部芳丈
(音楽) 斎藤一郎
(美術) 井川徳道

[役名(キャスト)]
沓掛時次郎 (中村錦之助)
おきぬ (池内淳子)
太郎吉 (中村信二郎)
六ツ田の三蔵 (東千代之介)
お葉 (弓恵子)
昌太郎 (岡崎二朗)
身延の朝吉 (渥美清)

◆人生劇場 飛車角と吉良常
 (1968年 東映[東京] カラ- シネマスコープ 109分)

尾崎士郎の名作として知られる「人生劇場」のうち、特に「残侠篇」に焦点を絞って、巨匠内田吐夢監督が演出した作品である。青春の悩み、男女の愛憎、男の侠気、巡り会いなどを描いたこの小説は、きわめて映画的な題材であり、これまでにも14回にわたり映画化されている。内田自身もすでに1936年に『人生劇場・青春篇』を発表、評価を得て、その年の「キネマ旬報」ベストテン第2位を獲得している。題材としては2回目の挑戦であったが、中心となるのは青成瓢吉や彼をとり囲む文学の世界の人間たちではなく、飛車角や宮川、吉良常といった侠客たち、おとよ、お袖といった底辺を生きる女たちである。本作の製作された時期、「任侠映画」と呼ばれる一連の作品群が量産され、大衆的な人気を集めており、この作品もその一本として企画されたものである。とはいえ、個々の演出は力感と格調にあふれており、ラストシーンに立ちのぼる霧などに付加されたイメージは内田作品以外の何ものでもない。今からふりかえれば、鶴田浩二、若山富三郎、藤純子、高倉健などこのジャンルにおいて一時代を画した俳優たちが、そろって出演している点も意義深い。「キネマ旬報」ベストテン第9位。

[スタッフ]
(原作) 尾崎士郎
(脚本) 棚田吾郎
(監督) 内田吐夢
(製作) 大川博
(企画) 俊藤浩滋
(撮影) 仲沢半次郎
(照明) 梅谷茂
(録音) 小松忠之
(音楽) 佐藤勝
(美術) 藤田博

[役名(キャスト)]
飛車角 (鶴田浩二)
宮川 (高倉健)
小金 (若山富三郎)
おとよ (藤純子)
青成瓢太郎 (中村竹弥)
寺兼 (大木実)
丈徳 (天津敏)
大横田 (遠藤辰雄)
青成瓢吉 (松方弘樹)
お袖 (左幸子)
吉良常 (辰巳柳太郎)

◆嵐を呼ぶ男
 (1957年 日活 カラー シネマスコープ 101分)

実兄、石原慎太郎の小説を映画化した『太陽の季節』(1956)でデビューした石原裕次郎は、中平康の『狂った果実』(1956)や田坂具隆の『乳母車』(1956)など新鋭、ベテラン監督の話題作に出演し、着実にスターの道を歩み始めた。港町を舞台にした『俺は待ってるぜ』(1957、蔵原惟繕監督)では、<ここではないどこか>を求める孤独な青年を甘い感傷をまじえて演じ、自らのイメージをスクリーン上に描き出した。また同名の主題歌もヒットさせ、歌う映画スターとしての出発とした。本作はその大スター、石原裕次郎のイメージを決定的にした記念碑的な作品である。1958年の正月映画として公開され、総配収3億5600万円(当時の平均入場料62円)を超える大ヒットとなり、1954年に製作を開始した日活のその後を決定づけた。監督の井上梅次は新東宝からの移籍組だが、裕次郎が指を負傷してドラムを叩くことができず、とっさにマイクを握って歌い始めるというツボを押さえた演出で観客を楽しませ、この一代の大スターの誕生を導きだした。

[スタッフ]
(原作・脚本・監督) 井上梅次
(脚本) 西島大
(製作) 児井英生
(撮影) 岩佐一泉
(照明) 藤林甲
(録音) 福島信雅
(音楽) 大森盛太郎
(美術) 中村公彦

[役名(キャスト)]
国分正一 (石原裕次郎)
福島美弥子 (北原三枝)
左京徹 (金子信雄)
島みどり (芦川いづみ)
メリー丘 (白木マリ)
正一の弟 英次 (青山恭二)
   母 貞代 (小夜福子)
チャーリー梅田 (笈田敏夫)
福島慎介 (岡田真澄)
持永 (市村俊幸)

◆悪名
 (1961年 大映[京都] カラー シネマスコープ 94分)

喧嘩は強いが情けには弱い、痛快無類の好男子、八尾の朝吉(勝新太郎)の活躍を描いた娯楽映画。威勢のいい河内弁と激しいアクションで話題を呼んだ。今東光の人気小説を大映京都撮影所のスタッフ・キャストが見事なチームワークで映画化している。監督の田中徳三、脚本の依田義賢、カメラの宮川一夫、美術の内藤昭、照明の岡本健一、録音の大谷巌らは、日本映画の巨匠として知られる溝口健二監督の諸作品を支えた一流のスタッフである。セット、照明、撮影のコンビネーション、画面の隅々まで行き届いたその技術力を堪能することができるだろう。撮影所という夢の工場が十分に機能していたことを知ることができる一篇でもある。モートルの貞を演じた田宮二郎と勝新太郎のコンビも絶妙で興行的にも大ヒット、本作以降シリーズ化されて大映では15本製作された。そのほとんどの脚本を手掛けた依田義賢によれば、物語はある時期からは原作を離れ、シナリオ作家の創作だったとのことである。

[スタッフ]
(原作) 今東光
(脚色) 依田義賢
(監督) 田中徳三
(撮影) 宮川一夫
(照明) 岡本健一
(録音) 大谷巌
(音楽) 鏑木創
(美術) 内藤昭

[役名(キャスト)]
朝吉 (勝新太郎)
モートルの貞 (田宮二郎)
お絹 (中村玉緒)
琴糸 (水谷良重)
お千代 (中田康子)
シルクハットの子分 (千葉敏郎)
シルクハットの親分 (永田靖)
吉岡 (山茶花究)
おしげ (阿井美千子)
お辰 (倉田マユミ)
お照 (藤原礼子)

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