NFAJ Digital Gallery – No.23

公開日:2021年10月12日

第23回 戦前期外国映画の日本版ポスター(1)

  今回は第1回第2回と同様、映画資料蒐集家・御園京平の「みそのコレクション」から外国映画の日本版ポスターを紹介します。大正期から昭和初期にかけて、日本映画を凌ぐ勢いで、スケールの大きな外国映画、なかでも史劇や神秘劇、怪奇劇、連続活劇、戦争映画などは、多くの日本人大衆を惹きつけました。また喜劇映画を集めた番組はニコニコ大会(略して「ニコタイ」)と呼ばれ、正月やお盆にはなくてはならない呼び物の一つでした。

  写真集『映画資料 みそのコレクション』(1985年、私家版)には、コレクション蒐集の苦心と喜びが次のようにつづられています。

≪大正時代の活動写真を代表する連続活劇の『獅子の爪』、新派劇の『カチューシャ』、それに「ニコニコ大会」と障子判大のポスターがある。これは千葉県の人里離れた田舎家から手に入れた。譲渡をお願いしたが、屋根裏にしまわれ、ほこりだらけなので、なかなか出して貰えなかった。[二年半後、持ち主からの年賀状に「ご依頼のポスター出ました」とあり] こ躍りして千葉へ出かけた。新春早々何よりの嬉しいお年玉であった。現物を見たときの感激、現物の紙質は五〇年もたつとかくやと思われる程のボロボロであった。≫[一部、省略、書き換え]

『スパルタコ』(1913年/日本公開1914年) Spartaco; ovvero, Il gladiatore della Tracia

『スパルタコ』/ Spartaco; ovvero, Il gladiatore della Tracia
127×93.5cm、2枚組

ポスター/poster

 監督:エンリコ・ヴィダリ Director: Giovanni Enrico Vidali

  イタリア史劇映画の大作。比較されている『クオ・ヴァヂス』(1912年)や『アントニイとクレオパトラ』(1913年)はチネス社のエンリコ・ガッツォーニが監督したが、『スパルタコ』はパスクァーリ社のエンリコ・ヴィダリが監督を務めた。

  トラキアの勇士スパルタコ(スパルタカス)を演じたのは写真に出ているマリオ・アウソニア。帰山教正(夏渓生 名義)は雑誌『キネマ・レコード』第13号(1914年7月)に紹介記事を書いており、横浜のイタリア人経営によるウゴ・マズリ商会によって輸入されたとある。

  公開記録は1914年6月下旬、東京のキリン館。さらに「駒田好洋一派」に関しては、前川公美夫編著『頗る非常!怪人活弁士・駒田好洋の巡業奇聞』(新潮社、2008年)で、「大正四[1915]年四月に名古屋の御園座で『映画進出二十周年特別興行』として上映されているのをはじめ、福岡、長野での上映が確認できる」(121頁)と考証されている。

『神の娘』(1916年/日本公開1918年) A Daughter of the Gods

『神の娘』/ A Daughter of the Gods
159.2×78.8 cm、3枚組

ポスター/poster

 監督:ハーバート・ブレノン Director: Herbert Brenon

  アメリカ、フォックス作品。ポスターの図柄は、サルタン王の宮殿に幽閉された神の娘が、王の愛妾の嫉妬によってワニのいる池に投げ込まれようとする場面。主演女優のアネット・ケラーマンはもと水泳選手で、『百万弗の人魚』(1952年)によってその半生が映画化された。

  日活が輸入した『神の娘』は、東京の帝国劇場で1918年7月26日にお披露目された後、京都・新京極 帝国館(日活直営館)など各地で公開された。併映作品がロスコー・アーバックル主演の『デブ君の濱遊び』Coney Island(1917年、日本公開1918年)で、海浜喜劇なのも面白い。

『獅子の爪』(1918年/日本公開1919年) The Lion's Claws

『獅子の爪』/ The Lion's Claws
133.4×59.5 cm、2枚組

ポスター/poster

 監督:ハリー・ハーヴェイ/ジャック・ジャッカード Director: Harry Harvey and Jacques Jaccard

  アメリカ、ユニヴァーサル作品。マリー・ウォールキャンプ主演の連続活劇。ライオンの口の中に配置された写真がウォールキャンプで、この映画の撮影中ライオンに襲われ負傷した。

  また彼女は1920年の作品『龍の網』で日本にロケしたことでも知られている。この作品はユニヴァーサル日本支社によって配給され、東京では1919年1月25日、京都・新京極 天活倶楽部では2月8日に公開された。併映の『名花の蕾』Danger Within(1918年、主演ゾー・レイ、日本公開1918年)も、同じくユニヴァーサル作品で、当時日本において抒情的な雰囲気で人気のあった青鳥(ブルーバード)映画。

『チヤプリン大會』(日本公開1918年)

『チヤプリン大會』
138.5×63.5 cm、2枚組

『チヤプリン大會』ポスター下部拡大/
大阪毎日新聞掲載『チャプリン君よりの手紙』

ポスター/poster

  番組はチャールズ・チャップリン主演の3作『チヤプリンとデブ/両夫婦』The Rounders(1914年、ロスコー・アーバックルと共演)、『チヤプリンのスケート』The Rink(1916年)、『チヤプリンの酩酊/チャップリンの大酔』One A. M.(1916年)のほか、マック・スウェイン主演の『アンブロズの安全第一/安全第一アンブローズ』Safety First Ambrose(1916年)とアニメーションの『化物競爭』『凸坊怪船の巻/凸坊怪潜航艇の巻』The Submarine Chasers(1917年)、冒険喜劇の『飛乘水雷/飛行水雷』The Flying Torpedo(1916年)[上記作品には推定を含む。/の後が一般に流通している題名]。

  主任弁士の雲井天明は東京・浅草寺の映画弁士塚にも名前が刻まれており、滝花豊はのちの日活女優・滝花久子の父。大阪毎日新聞所載の日本の子どもに向けた「チヤプリン君よりの手紙」の日付が1917年11月24日となっていることから、京都・新京極 帝国館製のこのポスターは、1918年1月10日公開のものと思われる。

『平和紀念 ニコニコ大會』(日本公開1919年)

『平和紀念 ニコニコ大會』
132.1×59.5 cm、2枚組

ポスター/poster

『チヤプリンの膽へ銃/担へ銃』Shoulder Arms(1918年)は第一次世界大戦を舞台にした作品で、ポスターのイラストはアメリカ軍の新兵に扮したチャップリンと、シドニー・チャップリンが演じた生け捕りにされたドイツ皇帝。

  ポスターのタイトルに「平和紀念」とあるのは、世界大戦の終結を祝う意味。併映作はロスコー・アーバックル主演の『デブ君の入院』Good Night Nurse(1918年)と、チャップリンの物真似で名を馳せたビリー・ウェスト主演の『ビリイウェストの友愛/ビリー・ウエストの慈善』His Married Life(1916年)。

  ポスターは京都・新京極 帝国館製で、1919年7月20日公開のものと推定。