NFAJ Digital Gallery – No.24

公開日:2021年10月26日

第24回 戦前期外国映画の日本版ポスター(2)

   今回は前回に引き続き、映画資料蒐集家・御園京平の「みそのコレクション」から外国映画の日本版ポスターを紹介します。この時期はアメリカのメジャーを筆頭に、日本国内に輸入・配給の支社を持つ海外の映画会社も出てきており、従来の映画館で作られたポスターに代わって、配給会社製のポスター(『オペラの怪人』『怪巡洋艦エムデン』)が登場してきました。

 また1925年9月には東京の三越呉服店と関西の宝塚小劇場ホールで朝日グラフ主催の大規模な「内外活動写真ポスター展」が開催され、外国映画のオリジナル版や日本映画のポスター256 点が展示され、ポスター自体の美術的な価値にも目が向けられ始めました(鈴木 重三郎「ポスター展を見る」『キネマ旬報』第208号、第210号参照)。

『ビスマーク一代記』(1914年/日本公開1925年) Bismarck

『ビスマーク一代記』/ Bismarck
126.3×94 cm、2枚組

『ビスマーク一代記』ポスター下部/
映画の各場面詳説部分拡大

ポスター/poster

 監督:リヒャルト・ショット Director : Richard Schott

  ドイツ、アイコ作品(ポスター上の表記はEicoだが正しくはEiko)。1871年、ドイツ統一を成し遂げ、「鉄血宰相」とも呼ばれた政治家オットー・フォン・ビスマルクの生涯を扱ったこの映画は、1914年に横浜のニーロップ日本貿易商会によって輸入され、駒田好洋が巡回用として購入した。

  1916年、一度、関西地方で公開されたが、その後、内務省により上映を禁止。理由は第一次世界大戦下の外交上の問題とされる(『キネマ・レコード』第43号・1917年1月、8頁参照)。この映画及び解禁後の上映に関しては前川公美夫編著『頗る非常!怪人活弁士・駒田好洋の巡業奇聞』(新潮社、2008年)に詳しい(235~240頁)。

  なお、このポスターがいつの時期のものかは特定しにくいが、御園京平は解禁後の1925年としている。

『オペラの怪人』(1925年/日本公開1925年) The Phantom of the Opera

『オペラの怪人』/ The Phantom of the Opera
186×94.4 cm、3枚組

ポスター/poster

 監督:ルパート・ジュリアン Director: Rupert Julian

  アメリカ、ユニヴァーサル作品。パリ・オペラ座で繰り広げられる、謎の人物と若い女性とのミステリアスな物語。主演を務めたロン・チェイニーのドクロ風の特殊メイクが話題となった怪奇映画。

  ポスター下部の三人は右から、怪人が異常な愛を寄せるクリスティーヌ(メアリー・フィルビン)、彼女の恋人ラウル(ノーマン・ケリー)、探偵ルドゥ(アーサー・エドマンド・ケアウィ)。フランスの推理小説作家ガストン・ルルーの同名小説はのちに何度も映画化され、ミュージカルとしても著名。

  この作品はユニヴァーサル日本支社によって配給され、1925年9月26日、帝国劇場で特別公開された後、全国で上映され大ヒット、「本映画の前に不景気の影なし!!」と宣伝された。

『ロイドの福の神』(1926年/日本公開1926年) For Heaven’s Sake

『ロイドの福の神』/ For Heaven’s Sake
62.5×29.5 cm

ポスター/poster

 監督:サム・テイラー Director: Sam Taylor

  アメリカ、パラマウント作品。アッパータウンに暮らす大富豪で楽天家の青年が、ダウンタウンに住む伝道所の娘をめぐって引き起こす、大騒動を扱ったハロルド・ロイド主演のコメディ。

  パラマウント日本支社配給で、1926年10月1日、新宿・武蔵野館、東京館(パ社直営)などで、『南北沈勇腕競べ』Hands Up(監督クラレンス・バッジャー、主演レイモンド・グリフィス)の喜劇二本立てで封切された。

  このポスターは大阪・道頓堀 松竹座のもので、同年10月28日公開。「がくげき舞踊」は松竹座に属していた松竹楽劇部の公演で、この劇団がのちに松竹歌劇団(SKD)へと発展した。

『怪巡洋艦エムデン』(1926年/日本公開1927年) Unsere Emden / The Emden

『怪巡洋艦エムデン』/ Unsere Emden / The Emden
76.4×35.1cm

ポスター/poster

 監督:ルイス・ラルフ Director: Louis Ralph

  ドイツ、エメルカ作品。第一次世界大戦初頭、中国・チンタオからインド洋に向かう巡洋艦エムデンの戦闘を描いた戦争映画。

  丸囲みの写真は、オーストラリア海軍との激闘で降伏したエムデン艦長カール・フォン・ミュラーを演じたルイス・ラルフ。アメリカの戦争映画と違って、恋愛要素のないドイツの戦争映画を、「日本魂」と比較して「独逸魂」と宣伝した。

  配給は大阪に日本支社をおくエメルカ映画会社が行い、1927年7月21日に新宿・武蔵野館と浅草・帝国館で封切された。エメルカ映画は前年、釈迦の生涯を描いた『亜細亜の光』(1925年)の公開によって日本でも馴染みがあった。

『ビッグ・パレード(大進軍)』(1925年/日本公開1927年) The Big Parade

『ビッグ・パレード(大進軍)』/ The Big Parade
78.2×35.1cm

ポスター/poster

 監督:キング・ヴィダー Director: King Vidor

  アメリカ、MGM作品。第一次世界大戦に参戦したアメリカ軍兵士(ジョン・ギルバート)とフランス人女性(ルネ・アドレ)との恋愛を描きながら、近代戦の惨禍を描写するキング・ヴィダー監督の大作。

  MGMと契約関係にあったヤマニ洋行が配給し、1927年9月30日、新宿・武蔵野館と浅草・帝国館において一本立てで封切された。ポスターの日付が2月1日となっているのは、翌年のことと思われる。御霊倶楽部は大阪の商家町・船場にあった映画館で御霊神社の近くにあったためその名があった。