NFAJ Digital Gallery – No.25

公開日:2022年03月04日

第25回
戦前期外国映画の日本版ポスター(3)

今回も前回に引き続き、映画資料蒐集家・御園京平の「みそのコレクション」から外国映画の日本版ポスターを紹介します。「みそのコレクション」は大河内傅次郎や阪東妻三郎、嵐寛寿郎ら日本の時代劇スターをはじめとした日本映画関連の資料で有名だが、今回の外国映画ポスターからもわかるとおり、コレクションのヴァラエティと質の高さは傑出している。『間諜マタハリ』以外のポスターは『映画資料 みそのコレクション』(1985年、私家版)にも未掲載で、おもに地方映画館の館名入りポスターである。

『海賊ピエトロ』(1924年 / 日本公開1926年)
Pietro the Corsair / Pietro der Korsar (1924)

『海賊ピエトロ』/ Pietro the Corsair / Pietro der Korsar
75.7×35.0cm

監督:アルトゥール・ロビソン Director:Arthur Robison

  ドイツ、ウーファ作品。フリッツ・ラング監督の『ジークフリート』(1924年)で主演を務めたパウル・リヒターが海賊島の首領に扮した海洋活劇。ポスターの絵柄は美脚で知られたリヒターを強調するものとなっている。

  輸入配給は神戸太洋商工映画部が行い、封切は1926年3月12日、新宿・武蔵野館、赤坂・葵館、神田日活館。神戸太洋商工は生フィルムの輸入などを行っていた神戸の映画業者で、この時期、ドイツのウーファ作品に加え、アメリカのワーナー・ブラザース作品の輸入配給に乗り出した。ポスター下部の左に「WARNER BROS.」とあるのはそのためである。

  また、このポスターは配給会社製で、公開日と映画館名は後から刷り込んだものと思われる。佐賀市・宇宙館は『日本映画事業総覧 昭和二年版』(国際映画通信社、1926年、692頁)によれば所在地は佐賀市白山町。


『ロイドの初恋』(1924年 / 日本公開1926年)
Hot Water (1924)

監督:サム・テイラー / フレッド・ニューメイヤー Directors: Sam Taylor / Fred Newmeyer

  アメリカ、パテ作品。独身主義者の若者が美しい娘に一目惚れして結婚したが、彼女の家族も押しかけて大騒動となるハロルド・ロイド主演の喜劇。相手役は次作の『ロイドの人気者』(1925年)でも共演したジョビナ・ラルストン。

  輸入配給はパラマウント映画日本支社が行い、封切は1926年5月1日、大阪道頓堀・松竹座

 『キネマ旬報』1926年5月21日号(第228号)の「佐賀通信」(投稿者名は肥前烏)によれば「人口四万の街に四館対立といふ佐賀は映画熱の素晴しいこと、下らぬファンの多いことは九州一と云はれてゐます」(60頁)と前置きして、宇宙館は松竹・帝キネ系、大勝館はマキノ系、日之出館は日活系、新栄座は東亜キネマ系で、それぞれ外国映画も上映されていることが報告されている。

『ロイドの初恋』/ Hot Water
75.7×35.0cm

『バスター悪戲日記』(1926年 / 日本公開1926年)
Buster Brown Comedies (1926)

『バスター悪戲日記』/Buster Brown Comedies
68.2×35.2cm

監督:ガス・マインズほか Director:Gus Meins

  アメリカ、ユニヴァーサル作品。リチャード・F・アウトコールトが新聞に連載した少年漫画の映画化で、アーサー・トリンブルが主役の少年バスター・ブラウンを、ドリーン・ターナーが少女メリー・ジェーンを演じた。

  輸入配給はユニヴァーサル日本総支社が行い、封切は前篇が1926年7月22日、後篇が7月29日で、ともに浅草・日本館。雑誌『ユニヴァーサル』1926年8月号の「近日封切新映画紹介」には「無邪気な少年と少女、それに人も及ばぬ程賢い犬が盛んに悪戯をして、いつも散々に失敗しお父さんに大目玉を頂戴すると云ふ全篇ユーモアと爆笑に満ちた罪のないお笑ひ劇」とあり(39~40頁)、同9月号の「ユ社封切映画一覧」では『バスター・ブラウン悪戯日記』の題名で各2巻11篇が記録されている(55~56頁)。

  • 第1篇「腕白バスター」Buster Be Good
  • 第2篇「そらでたぞ!」Buster’s Nightmare
  • 第3篇「おゝバスター」Oh! Buster!
  • 第4篇「大馬力」Buster’s Bust Up
  • 第5篇「真逆様」Buster’s Nose Dive
  • 第6篇「銃猟会」Buster’s Hunting Party
  • 第7篇「バスターの流星花火」Buster’s Skyrocket
  • 第8篇「仲直り」Buster’s Mix-Up
  • 第9篇「茶目とその一党」Buster’s Orphan Party
  • 第10篇「父さんの救助」 Buster Helps Dad
  • 第11篇「胸がどきどき」Buster’s Heart Beat

また『映画検閲時報』第2巻の1926年10月26日に、『バスターブラウン悪戯日記バスターの女友』Buster’s Girl Friendも2巻ものとして検閲を通過している。ちなみに、ポスター右端に比較対象として挙がっている『ガンプス』The Gumps(1924年)はシドニー・スミスの新聞漫画の実写映画化で、ジョー・マーフィ主演。佐賀市・日之出館は『日本映画事業総覧 大正拾五年版』(国際映画通信社、1925年、149頁)によれば所在地は佐賀市伊勢屋町。


『海の野獣』(1926年 / 日本公開1926年)
The Sea Beast (1926)

監督:ミラード・ウェッブ Director:Millard Webb

  アメリカ、ワーナー・ブラザース作品。ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』の映画化で、ジョン・バリモアが白鯨モビーディックに片脚を奪われ復讐に燃える主役のエイハブ船長を好演、その演技は「神技」と評された。またハリウッドで活躍した日本人俳優・上山草人も「陰陽師フェダラア」役で怪演した。

  輸入と関東圏の配給は中央映画社が行い、関西圏の配給は神戸太洋商工映画部が受け持った。封切は1926年8月1日、大阪道頓堀・松竹座。東京公開は一月遅れの9月3日、新宿・武蔵野館。キネマ旬報外国映画ベスト・テン第4位。

『海の野獣』/ The Sea Beast
76.4×26.0cm

『間諜マタハリ』(1931年/ 日本公開1932年)
Mata Hari (1931)

『間諜マタハリ』/ Mata Hari
78.8×54.7cm

監督:ジョージ・フィッツモーリス Director : George Fitzmaurice

  アメリカ、MGM作品。グレタ・ガルボがドイツ政府の女スパイ・マタハリに扮し、彼女の魅力に囚われるロシアの青年将校をラモン・ナヴァロが演じた。

  輸入はMGM日本支社が行い、配給は日活との共同、封切は1932年9月29日、浅草・富士館新宿・帝都座神田日活館、麻布日活館と日活直営の映画館で上映された。当初の公開題名は「マタ・ハリ」だったが、最終的に「間諜」の二字が追加されたのは、半年前に公開されたマレーネ・ディートリッヒ主演の『間諜X27』(1931年)を意識したものと思われる。

  ポスター下部の空白は公開日や映画館名が入るためのもの。また「全発声日本版」とは現在の日本語字幕スーパー版の意味である。活弁志望であった御園はこの作品を「世界の妖姫ガルボ、美男ラモン・ナヴァロが欧州大戦を背景に冷静水の如き蔭に烈々と燃える火の恋を描く」と解説した(『映画資料 みそのコレクション』より)。