NFAJ Digital Gallery – No.22

公開日:2021年6月1日

第22回 無声期日本映画のスチル写真(10)─マキノプロダクション②

 「無声期日本映画のスチル写真」第10回は、第19回に引き続き、マキノプロダクションを取り上げます。今回はマキノプロダクションの創業から廃業までを、創立者の牧野省三とともに支えた金森万象の監督作品です。写真はすべて戦前のキネマ旬報社調査部旧蔵のもので国立国会図書館からの寄贈によるものです(社団法人日本映画連合会旧蔵映画公社資料)。

※公開年月日は東京封切を標準とした御園京平編『回想・マキノ映画』(1971年)を参考にしました。

 

『紅塵に蠢く人々』(1926年) Kojin ni ugomeku hitobito

高松錦之助

写真/Photo

1926年6月18日公開 浅草 千代田館 First release: Jun. 18, 1926

監督:金森万象 Director: Bansho Kanamori

脚本の寿々喜多呂九平は、『浮世絵師 紫頭巾』(1923年、牧野省三と金森の共同監督)でマキノ時代劇の革新性を決めた人物で、この作品は寿々喜多の手がけた珍しい現代劇。物語は、年老いた破獄囚水谷(高松錦之助)とその娘お鈴(マキノ博子)に、巡査の片岡(関操)が絡む運命劇で、設定にはビクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』を思わせるところがある。ただ、前科者と警官を描いたということで題名も「破獄囚」「警官」と改題を余儀なくされ、完成作品も検閲により大幅に切除された。

『狼火』(1927年) Noroshi

マキノ正博(中央)

写真/Photo

1927年1月21日公開 浅草 千代田館 First release: Jan. 21, 1927

監督:金森万象 Director: Bansho Kanamori

脚本は寿々喜多呂九平退社の後、マキノ映画を牽引した山上伊太郎。鎌倉時代、狩猟民の暮らす高原の村で、気の弱い若者・駄法螺の衛治(マキノ正博)が、恋い慕う娘お里(都賀静子)の危急を救うべく、強者(荒木忍)に立ち向かうというあらすじで、日本で大ヒットしたリチャード・バーセルメス主演のアメリカ映画『乗合馬車』(1921年)の影響が感じられる作品。マキノ正博はこの作品の撮影中に名前を「正唯」から改名し、続く『青い眼の人形』(1926年)で監督デビューを果たした。

 

『松平長七郎』(1929年) Matsudaira Choshichiro

左からマキノ登六、大林梅子、沢田敬之助、松浦築枝

写真/Photo

「道中篇」1929年6月7日公開 浅草 千代田館 First release: Jun. 7, 1929

「長崎篇」1929年8月15日公開 浅草 千代田館 First release: Aug. 15, 1929

監督:金森万象 Director: Bansho Kanamori

原作は東京と大阪の朝日新聞に連載中の悟道軒圓玉による講談小説。松平長七郎は徳川三代将軍家光の弟・駿河大納言忠長の息子という設定で、供を連れて諸国を探訪した。この作品は「道中篇」と「長崎篇」の二部作で、江戸を出た松平長七郎(沢田敬之助)が、大阪と長崎で切支丹の娘お光(松浦築枝)を救うという物語で、大林梅子が扮したお六櫛のお若という女賊は、原作にはないマキノ時代劇ならではの役だと当時の評にある。

 

『湖畔の家』(1930年) Kohan no ie

右から荒木忍、横田康、都賀静子

写真/Photo

1930年5月16日公開 新宿劇場 First release: May 16, 1930

監督:金森万象 Director: Bansho Kanamori

小島孤舟による原作は同名の新派劇で、1921年に井上正夫主演の『寒椿』(監督:畑中蓼坡)として映画化された有名なもの。水車番の老人佐平(荒木忍)が、子爵の若者(秋田伸一)に弄ばれた一人娘のお蝶(都賀静子)をいたわってやるという父性愛映画。この作品は兄弟愛を描いた時代劇『光を求めて』(監督:勝見正義)、母性愛を描いた現代劇『永遠の母』(監督:久保為義)とともに「愛の週間三部曲」として同時公開された。

 

『木屋町夜話 鴨川小唄』(1930年) Kiyamachi yawa: Kamogawa kouta

写真/Photo

1930年7月10日公開 浅草 東京館 First release: July 10, 1930

監督:金森万象 Director: Bansho Kanamori

金森監督の作風は、“鳥人”の異名をとったマキノ生え抜きの俳優・高木新平主演『争闘』(1924年)にも見られるような活劇を得意とする一方、情緒たっぷりな『祇園小唄 繪日傘』三部作(1930年)のヒット作でも知られる。この「鴨川小唄」は「祇園小唄」姉妹篇で、原作も同じく花柳小説の大家・長田幹彦の「祇園全集 繪日傘」全5巻(1919年、装幀は竹久夢二)の一篇「木屋町夜話」。長田の作詞、中山晋平の作曲によるレコードがビクターから発売された。京都先斗町の芸妓友菊(浅間昇子)は旦那持ちの身で、はじめて訪れた商人の戸田(大貫憲二)に一目惚れ。女将(マキノ智子)や同輩の秀奴(泉清子)、戸田の友人(マキノ登六)が見守るなか、店の窮状を説く戸田の妻お澄(三好絹枝)の姿を見て、戸田を諦め都落ちする。

 

泉清子(左)、浅間昇子(中央)、マキノ智子(右)

大貫憲二(左)、浅間昇子(中央)

写真上≫大貫憲二(左)、三好絹枝(右)
写真下≫右から浅間昇子、マキノ登六、大貫憲二、泉清子、マキノ智子

『嵐山小唄 しぐれ茶屋』(1930年) Arashiyama kouta: Shigure jaya

写真/Photo

1930年11月21日公開 新宿劇場 First release: Nov. 21, 1930

監督:金森万象 Director: Bansho Kanamori

「祇園小唄」「鴨川小唄」に続く長田幹彦原作の小唄映画。1930年は左翼思想によって過酷な現実を解剖して見せた、所謂「傾向映画」が数多く作られたが、一方でレコード会社とタイアップしたセンチメンタルな小唄映画が大衆の人気を呼んだ。青年画家の喜一(秋田伸一)は祇園の芸妓鶴葉(桜木梅子)にとって初恋の相手だが、鶴葉の友達で茶屋の娘お加代(都賀静子)と喜一の縁談が持ち上がって、二人の悲しい別れとなる。金森は映画界に入る前、嵐山で絵葉書屋を営んでいた経歴を持つ。

 

写真上≫ 都賀静子(左)、武者小路五郎(右)
写真下≫ 秋田伸一(左)、桜木梅子(中央)、マキノ登六(右)

東條猛(左)、桜木梅子(右)

浦路輝子(左)、桜木梅子(右)

『京小唄 柳さくら』(1931年) Kyo kouta: Yanagi sakura

写真/Photo

1931年4月24日公開 新宿劇場 First release: Apr. 24, 1931

監督:金森万象 Director: Bansho Kanamori

マキノプロダクション最後の公開作品。芸妓の歌吉(泉清子)は寿司屋の板前清 三郎(室町栄二郎)と恋人同士だが、歌吉の妹分・舞妓の雛勇(松葉扶美子)も 清三郎に恋慕の情を抱いていた。さらに寿司屋を出て芸妓屋の居候になった清三 郎の姿に心を痛めた彼の母(三保松子)。その苦しみを知った歌吉は、恋の意地 との板挟みになり、気を病んで死んでしまう。撮影に当たっては京都祇園の寿司 屋「いづう」の協力を得た。

 

     室町栄二郎(左)、松葉扶美子(右)

           松葉扶美子(左)、泉清子(右)