NFAJ Digital Gallery – No.31

公開日:2025年2月15日

第31回
スチル写真で見る「失われた映画たち」- 田坂具隆監督篇(1)
Stills of Lost Films: Tomotaka Tasaka (1)

田坂具隆の監督作は62作品、そのうち、現在、何らかの上映素材が確認されているものが28作品です。残る34作品が「失われた映画」ということになります。1926年に日活で監督デビューした田坂は、1920年代の作品がほとんど残っておらず、松竹の小津安二郎や清水宏らに比べても、その時代の残存率は低いといえるでしょう。今回は、そのなかから2回に分けて17作品のスチル写真を紹介します。

スチル写真は前回同様、すべて戦前のキネマ旬報社調査部が収集していたオリジナルの紙焼き写真で、その資料を引き継いだNFAJ所蔵の「社団法人日本映画連合会旧蔵 映画公社資料」からデジタル化を行ったものです。

≪ ≫は『キネマ旬報』1957年1月上旬号に掲載された「田坂具隆研究 自作を語る」からの引用です。

詳しいストーリーは『キネマ旬報』などの当該号をご覧下さい。

『かぼちゃ騒動記』(1926年)
Kabocha sodoki

監督第1作

資産家の財産を奪おうと企む技師長を、使用人の夫婦が撃退する喜劇。使用人の平造(小泉嘉輔)は主人に苦言を呈したことから屋敷を追い出される。不憫に思った主人の妻(川上弥生)も家を出た。かぼちゃの行商をしながら奥様を探し当てた平造と妻のお亀(岩井咲子)は頓智から生まれたお守り札を使って悪人たちを追い出すことに成功した。

‐『キネマ旬報』1926年2月21日 第219号:「各社近作日本映画紹介」64頁参照。

≪監督になったのは二十五歳[満年齢]ということになりますか、何しろ日本では一番若い監督でしたね。… まだ若いし、最初のことだし、会社から与えられた脚本を夢中でやっただけです。≫

写真/Photo

左から尾上助三郎(資産家の息子役)、小泉嘉輔
左から川上弥生、小泉嘉輔
左から岩井咲子、小泉嘉輔

『母を尋ねて三百里』(1926年)
Haha o tazunete sanbyakuri

写真/Photo

監督第2作(製作順では第3作)

シンガポールから上海に向かう船で、頼りにする老人を亡くした少年(星ヘヤタ)は、老人から母が生きていることを聞かされた。親切な牧師に助けられ、上海に着いた少年は母を尋ねる旅に出るが、人買いにさらわれたり、曲馬団の仲間になったり、馬賊の襲撃を受けたりと苦難に見舞われながらも、純真な心は失わなかった。

-『キネマ旬報』1926年4月21日 第225号:「各社近作日本映画紹介」59頁参照。

≪シナリオは鈴木謙作さんですが、ヒントはアミーチスの「クオレ」の中にあるエピソードです。主演は混血の星ヘヤタという人≫

星ヘヤタ(右)
星ヘヤタ(中央のセーラー服の子ども)

『情熱の浮沈』(1926年)
Jonetsu no fuchin

写真/Photo

監督第3作(製作順では第2作)

ある山里で母親を亡くした巡礼の子お久仁(森田芳江)は、その村の伍作(三桝豊)に引き取られ成長した。伍作には発電所技師の息子菊男(谷幹一)がおり、お久仁と結婚させようと思っていた。しかし村長の姪の美佐子(大谷良子)が菊男を誘惑し、都会に連れ出してしまった。そして、伍作と一緒に都会に出たお久仁には過酷な運命が待っていた。

-『キネマ旬報』1926年4月1日 第223号:「各社近作日本映画紹介」57頁参照。

≪わたしにとってはたいへん忘れられない映画です。いろいろ映画をつくり、ほめられたりけなされたりしましたが、その中でも二番目くらいに好きな映画です。… わたしが助監督時代にああもしよう、こうもしようと考えていたことを、この映画でみんな出し切ったからです。≫

三桝豊(左)
左から谷幹一、森田芳江
左から三桝豊、森田芳江
左から谷幹一、大谷良子

『意気天を衝く』(1926年)
Iki ten o tsuku

写真/Photo

監督第4作

未来の大成を夢見る五人の若者、情熱家の根岸(根岸東一郎)、篤学の士の小杉(小杉勇)、悲憤慷慨家の川又(川又堅太郎)、天真爛漫な大崎(大崎史郎)、気の優しい宇田川(宇田川寒侍)は、互いに励まし合い精進していた。そんな折、根岸に惚れている芸妓の君代(徳川良子)のため、彼らの友情に亀裂が入った。一人去った根岸はある鉱山の悪事を暴き、四人の親友たちも根岸と君代の結婚を祝福した。

‐『キネマ旬報』1926年6月11日 第230号:「各社近作日本映画紹介」58頁。

≪映画を勉強するには活劇をやらなくてはいけない。その監督が活劇に向かないなら、なおさら活劇をやらして勉強させる。カット・バックを身につければ、どんな映画でも一応こなせる。≫

左から小杉勇、根岸東一郎、川又堅太郎、大崎史郎、宇田川寒侍
左から徳川良子、根岸東一郎
左から瀧花久子、根岸東一郎
左から小杉勇、根岸東一郎(組み伏せられている人物)、宇田川寒侍(学帽・ランニングシャツの人物)、(一番上の学帽に法被の男は不詳)、大崎史郎、川又堅太郎

『黒鷹丸』(1927年)
Kurotakamaru

写真/Photo

監督第9作

太平洋航路の帆船黒鷹丸の運転手北村春吉(広瀬恒美)は、恋人お浪(浦辺粂子)が出産したとの知らせを受け、上陸した。しかしなぜかお浪の姿はなかった。上海の酒場では上海の虎(高木永二)と呼ばれる無頼漢が女たちを食い物にしていた。お浪がさらわれ、そこで働かされていることを知った北村は、上海の虎と対決することになった。

‐『キネマ旬報』1927年2月21日 第253号:「各社近作日本映画紹介」33~34頁。

≪これは活劇でもただの活劇ではなく、ややドラマがかった、落着いた映画です。海賊船の中でくりひろげられる物語で、一寸出世したわけですね。≫

左から浦辺粂子、津守精一
左から広瀬恒美、浦辺粂子、高木永二
左から広瀬恒美、浦辺粂子、三田実
撮影スナップ

『阿里山の俠児』(1927年)
Arisan no kyoji

写真/Photo

監督第10作

台湾の阿里山に暮らす高砂族の村では、日本人牧師の青木(小杉勇)が村人の教育に身を捧げていた。村の青年アオイ(浅岡信夫)は青木を慕っていたが、バット(三田実)は反感を抱いていた。そんな中、青木が何者かに殺された。日本から青木の娘信子(三木本英子)がやって来た。バットは人々を扇動して村にあるとされる油田を奪おうと画策し、アオイを陥れようとしていた。

‐『キネマ旬報』1927年4月11日 第258号:「各社近作日本映画紹介」55頁。

≪原作岩崎秋良というのは、映画評論家で有名な岩崎昶さんで、台湾の生蕃部落を背景とした異色作、二月ほど現地へロケーションをやり、苦心したものです。≫

浅岡信夫
左から浅岡信夫、三田実、対馬ルイ子
左から山内光、浅岡信夫、三木本英子
撮影スナップ

『しゃぼん娘』(1927年)
Shabon musume

写真/Photo

監督第12作

南蛮渡来のシャボン玉を命がけで手に入れた勤王の志士は、明治維新後に洗濯屋を開業。いまでは孫娘のおれん(瀧花久子)と三人の店員、ヒョロ(田原清)、デブ(大崎史郎)、チビ(神戸光)と一緒に楽しく老後を過ごしていた。おれんは、鹿鳴館時代にパリに駆け落ちした母(築地浪子)に会いたくて、手製の風船で飛び立った。孫の家出を知った老人は病気になり、医師の息子譲次(谷幹一)が介抱することになった。

-『キネマ旬報』1927年9月21日 第274号:「各社近作日本映画紹介」53頁。

 ≪山本嘉次郎さんと話している間に出来上ったストーリーです。… ストーリーはシャボン玉につかまってパリへ飛んで行くという話で、幻想と現実とがゴッチャになったもの。≫

左から大崎史郎、神戸光、瀧花久子、田原清
左から大崎史郎、神戸光、田原清、瀧花久子、谷幹一
左から瀧花久子、築地浪子

『無鉄砲時代』(1928年)
Muteppo jidai

写真/Photo

監督第15作

無鉄砲な男外山栄司(中野英治)は理不尽なことが許せなかった。そんな彼が大実業家の娘伊沢静子(夏川静江)に恋をした。父を亡くした彼女は、一週間以内に結婚しなければ社長の地位も全財産も失うという支配人(吉井康)の悪巧みにはまっていた。栄司は静子を救うため結婚式場に乗り込んだ。

‐『キネマ旬報』1928年2月21日 第287号:「各社近作日本映画紹介」57~58頁。

≪ファーストシーンはいきなり窓ガラスがこなごなにぶちこわされるところからはじまります。主演は中野英治で、今の言葉でいえば一種の太陽族ですね。… これを作った昭和三年頃は、不景気だし失業者は多いし、世の中の気分がクシャクシャしていた。… 検閲は神経質だったもので、こういうムチャクチャはいけないといわれて、数個所切られました。≫

中野英治
左から中野英治、吉井康、夏川静江
左から左から中野英治、夏川静江
左から三田実、中野英治、吉井康
左から夏川静江、吉井康、一人おいて田坂具隆(台本をポケットに入れている人物)、三人おいて撮影の伊佐山三郎(キャメラのマガジンに手をかけている鳥打帽の人物)