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平成23年度
Nプログラム

市川雷蔵と中村錦之助――多くの映画ファンを魅了し一世を風靡した二大スターの作品を紹介いたします。
◆弁天小僧
(1958年 大映(京都) カラー シネマスコープ 86分)


伊藤大輔監督は、時代劇映画のパイオニアとでも呼ぶべき巨匠である。移動撮影を巧みに用いたダイナミックな描写で多くの観客を魅了し、伊藤大輔に憧れて映画の道を志したと公言する監督は数知れない。本作はその伊藤の円熟期の作品で、河竹黙阿弥の「青砥稿花虹彩画」(あおとぞうしはなのにしきえ)、通称「白波五人男」の映画化。歌舞伎などでよく知られた物語の一つである。弁天小僧は、日本左衛門らとともに徒党を組み、金持ちをゆすり、たかりで脅す凄腕のやくざとして勇名を馳せていた。ふとしたことから助けた娘お半の清純さに打たれた弁天小僧は、江戸を離れる最後の大仕事にと、呉服商の浜松屋に目を付ける。重厚なセットをバックに、伊藤監督は市川雷蔵や勝新太郎ら気鋭のスターと中堅俳優を見事に配し、ツボを心得た演出で江戸情緒を豊かに再現した。雷蔵の艶やかな女装姿、御用提灯の火の海がシネスコ画面を埋め尽くすクライマックスも見逃せない。

[スタッフ]
(原作)河竹黙阿弥
(脚本)八尋不二
(監督)伊藤大輔
(製作)酒井威
(企画)高桑義生
(撮影)宮川一夫
(照明)中岡源権
(録音)林土太郎
(音楽)斉藤一郎
(美術)西岡善信

[役名(キャスト)]
弁天小僧菊之助(市川雷蔵)
お半(青山京子)
お吉(阿井美千子)
日本左衛門(黒川弥太郎)
赤星十三(島田竜三)
遠山左衛門尉(勝新太郎)
鯉沼伊織(河津清三郎)
三池要人(小堀明男)
横地帯刀(伊沢一郎)
南郷力丸(田崎潤)
松平左近持監(中村鴈治郎)

◆眠狂四郎殺法帖
(1963年 大映(京都) カラー シネマスコープ 84分)


市川雷蔵の代名詞ともなった「眠狂四郎シリーズ」の第一作。原作は柴田錬三郎のベストセラー小説。ころびバテレンと武士の娘の間に生まれた混血児という出生の秘密をもち、虚無と孤独の影をひいて生きる剣士・眠狂四郎を、雷蔵が持ち前の端正な魅力を発揮して演じている。加賀前田藩・藩主による密貿易の事実を証する書状が隠された碧玉仏をめぐり、前田家の間者・千佐、藩主に裏切られ処断された銭屋五兵衛、銭屋を助ける陳孫らの暗闘が繰り広げられる。千佐に助けを求められた狂四郎もこの争いに巻き込まれていく。「眠狂四郎」はこれ以前にも1956~58年に鶴田浩二主演で製作されているが、『お嬢吉三』『濡れ髪三度笠』『手討』など数多くの作品で市川雷蔵とコンビを組んだ田中徳三監督が、雷蔵での映画化を熱望し本作が実現した。雷蔵はこの後、三隅研次、池広一夫監督らとともに眠狂四郎像をつくりあげていく。「眠狂四郎シリーズ」は1969年の『眠狂四郎 悪女狩り』まで12本が作られた。

[スタッフ]
(原作)柴田錬三郎
(脚本)星川清司
(監督)田中徳三
(企画)辻久一
(撮影)牧浦地志
(照明)中岡源権
(録音)奥村雅弘
(音楽)小杉太一郎
(美術)内藤昭

[役名(キャスト)]
眠狂四郎(市川雷蔵)
千佐(中村玉緒)
陳孫(城健三朗(若山富三郎))
金八(小林勝彦)
前田宰相(沢村宗之助)
銭屋五兵衛(伊達三郎)
僧 空然(荒木忍)

◆反逆児
(1961年 東映(京都) カラー シネマスコープ 110分) 


戦国時代を制し天下を統一、江戸幕府を開いた徳川家康には悲運の長男があった。名前は三郎信康。母は桶狭間の戦いで織田信長の奇襲を受け落命した遠江の雄、今川義元の娘(築山殿)である。父、家康が母にとっては仇敵にあたる信長の旗下にくだったことに彼の悲劇の源があった。本作は、この史実をもとにした大佛次郎の原作「築山殿始末」を、時代劇の巨匠伊藤大輔が格調高く演出した作品である。原作では、信康を死に追いこんだ家康の側に比重が置かれていたが、映画では内部に矛盾をかかえた信康に焦点を当て、死を自らの運命として受け入れて切腹していく悲運のヒーローに造形している。大河内伝次郎、阪東妻三郎など優れた男優との出会いの中で、数々の名作を作りつづけてきた伊藤監督にとっては、自分のイメージを投影することができる俳優、中村錦之助を得たことが大きく、彼もエネルギッシュな演技でその要請に応えている。「キネマ旬報」ベストテン第6位。

[スタッフ]
(原作)大佛次郎
(脚本・監督)伊藤大輔
(撮影)坪井誠
(照明)和多田弘
(録音)中山茂二
(音楽)伊福部昭
(美術)桂長四郎

[役名(キャスト)]
三郎信康(中村錦之助)
しの(桜町弘子)
徳姫(岩崎加根子)
天方山城(安井昌二)
小金吾(河原崎長一郎)
減敬(河野秋武)
大久保忠世(香川良)介
徳川家康(佐野周二)
築山御前(杉村春子)
服部半蔵(東千代之介)
織田信長(月形龍之介)

◆沓掛時次郎 遊侠一匹
(1966年 東映(京都) カラー シネマスコープ 90分)


大衆文学の雄である長谷川伸の諸作品は「股旅映画」の原作となっているものが多い。この「沓掛時次郎」も戦前からたびたび映画化されており、異題も含めて8本の作品を数えることができる。中でも、戦後では4作目に当たるこの作品は、屈指の名作として知られているものである。気のいいやくざ、身延の朝吉(渥美清)、やくざ志望の若者、昌太郎(岡崎二朗)のエピソードや迫力ある殺陣シーンなどに「やさしさと怒りの世界」と評される加藤泰監督独自の世界があらわれている。当初加藤は脚本家(鈴木尚之、掛札昌裕)による、原作には登場しない人物の設定に戸惑ったともいわれているが、この二人の存在が物語をより陰影の深いものにしているといえるだろう。彼は「時代劇映画の巨匠」と言われた伊藤大輔の門下、大衆的な物語を特徴的なロー・アングルで撮影し、豊潤な映像世界を作り上げた。主演の中村錦之助は、1950年代半ばから東映時代劇で活躍した大スター、幅広い芸域と鮮やかな口跡で数々の名作に出演している。

[スタッフ]
(原作)長谷川伸
(脚本)鈴木尚之
( 〃 )掛札昌裕
(監督)加藤泰
(企画)小川三喜雄
( 〃 )三村敬三
(撮影)古谷伸
(照明)中山治雄
(録音)渡部芳丈
(音楽)斎藤一郎
(美術)井川徳道

[役名(キャスト)]
沓掛時次郎(中村錦之助)
おきぬ(池内淳子)
太郎吉(中村信二郎)
六ツ田の三蔵(東千代之介)
お葉(弓恵子)
昌太郎(岡崎二朗)
身延の朝吉(渥美清)

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