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平成23年度
Aプログラム

日本映画を代表する溝口健二監督が、1950年代に世界の映画祭で絶賛を博した時代ものの名作を紹介いたします。
◆西鶴一代女
(1952年 新東宝=児井プロ 白黒 スタンダード 137分)


原作は井原西鶴の「好色一代女」である。原作の女主人公は、生来の好色から数奇な男性遍歴を重ね、封建制度の下で自由奔放な性を謳歌する女性として描かれている。映画化にあたって監督の溝口健二と脚本家の依田義賢は、女主人公の自己主張や被害者意識を極力排し、男性本位の都合で不思議な一生をたどってしまう女を、客観的に凝視する手法で描いている。社会の底辺で生きている女は、ふと入ったお寺の五百羅漢を見ているうちに、過去に出会った男達の顔を次々に思い浮かべる。そこで生まれた悲喜こもごもを静かに回想し終わると、女は何処ともなく闇の彼方へ去っていくのだった。国内では「キネマ旬報」ベストテン第9位の評価だったが、『羅生門』(1950)がグランプリを得た翌年のヴェネチア国際映画祭で国際賞を受賞、以後この作品は「お春の一生」の題で日本映画を代表するようになり、フランスをはじめとする欧米各国で溝口監督は神格化されることになった。

[スタッフ]
(原作)井原西鶴
(脚本)依田義賢
(構成・監督)溝口健二
(製作)児井英生
(監修)吉井勇
(撮影)平野好美
(照明)藤林甲
(録音)神谷正和
(音楽)斉藤一郎
(美術)水谷浩

[役名(キャスト)]
お春(田中絹代)
奥方(山根寿子)
勝之介(三船敏郎)
扇屋弥吉(宇野重吉)
お春の父 新左兵衛門(菅井一郎)
笹屋嘉兵衛(進藤英太郎)
笹屋番頭 文吉(大泉滉)
菊小路(清水将夫)
菱屋大三郎(加東大介)
お春の母 とも(松浦築枝)
笹屋女房 お和佐(沢村貞子)

◆雨月物語
(1953年 大映(京都) 白黒 スタンダード 96分)


上田秋成の短篇「浅茅ケ宿」と「蛇性の淫」を原作に、欲望と幸福、戦争と平和といった、いつの時代にも通じる普遍的な主題を、戦国時代の二組の夫婦を通じて対照的に描いた作品だが、ここにはリアリズムだけでは律しきれない溝口健二監督の美学が明瞭に表れている。霧に覆われた湖を行く船や朽木屋敷の描写、森雅之扮する源十郎が故郷の家に帰ってからの場面などに、独特な様式美を感じとることができる。この幻想性は溝口監督生来の資質の一つであり、戦前は、『日本橋』(1929)や『滝の白糸』(1933)など泉鏡花の作品を盛んに手掛けた事実もある。冷徹なリアリストを支えている柱が、洗練された美意識であることを如実に教えてくれる作品であり、やはり溝口監督は日本映画を代表する「美と残酷」の映画作家と言えよう。艶のある画面を作り出したカメラマン、宮川一夫の功績も見逃すことはできない。

[スタッフ]
(原作)上田秋成
(脚色)川口松太郎
( 〃 )依田義賢
(監督)溝口健二
(製作)永田雅一
(撮影)宮川一夫
(照明)岡本健一
(録音)大谷巌
(音楽)早坂文雄
(美術)伊藤熹朔

[役名(キャスト)]
若狭(京マチ子)
阿浜(水戸光子)
宮木(田中絹代)
源十郎(森雅之)
藤兵衛(小沢栄太郎)
老僧(青山杉作)
部将(羅門光三郎)
村名主(香川良介)
衣服店主人(上田吉二郎)
神官(南部彰三)

◆山椒大夫
(1954年 大映(京都)白黒 スタンダード 124分)


溝口健二監督が、森鴎外の短篇小説を原作に中世荘園の奴隷制度における悲劇をリアリスティックに描き、ヴェネチア国際映画祭で『雨月物語』に続く二年連続の受賞に輝いた力作。原作では、姉安寿と弟厨子王は子どものままであるが、映画では成人してからの二人に重点が置かれるとともに、香川京子、花柳喜章という配役から、安寿を妹、厨子王を兄と設定を変えている。そもそも八尋不二による脚色は原作に忠実なものであったが、溝口監督の意向を受けた依田義賢が改定にあたり、奴隷制度や奴隷解放といった社会的側面が強調されるシナリオになったという。とはいうものの、佐渡に売られ盲目となった母玉木を厨子王が捜し求めるという展開は、やはりこの監督特有の「母恋いもの」のモチーフと言えるだろう。宮川一夫の絶妙なカメラによる美しいシーンが随所に見られ、その乾いた画調には鬼気迫るものがある。

[スタッフ]
(原作)森鴎外
(脚色)八尋不二
( 〃 )依田義賢
(監督)溝口健二
(製作)永田雅一
(撮影)宮川一夫
(照明)岡本健一
(録音)大谷巌
(音楽)早坂文雄
(美術)伊藤熹朔

[役名(キャスト)]
玉木(田中絹代)
厨子王(花柳喜章)
安寿(香川京子)
平正氏(清水将夫)
山椒大夫(進藤英太郎)
太郎(河野秋武)
曇猛律師(香川良介)
藤原師実(三津田健)
姥竹(浪花千栄子)
吉次(見明凡太郎)
仁王(菅井一郎)
小萩(小園蓉子)
坐女(毛利菊枝)

◆近松物語
(1954年 大映(京都) 白黒 スタンダード 103分)


1952年に『西鶴一代女』で世界的注目を浴びた溝口監督は、『雨月物語』と『山椒太夫』によって翌53年、54年と相次いでヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した。日本の古典文学を題材にして秀作を発表し、独自の様式美をもって世界的名声を獲得した溝口は、今度は近松門左衛門の人形浄瑠璃「大経師昔暦」を映画化することになった。この原作は、歌舞伎では「おさん茂兵衛」として知られているが、それに井原西鶴の「好色五人女」から「おさん茂右衛門」の話を付け加えている。商家に嫁いだ若妻が、わがままで好色な夫を諫めるために芝居を仕組むが、ちょっとしたはずみから使用人との不義密通の汚名を着せられ、のっぴきならぬ状況へと追い込まれてしまう。しかし二人はその逃避行の中で真実の愛に目覚め、捕まって処刑場におもむく彼らの表情は晴れ晴れとしたもので、その毅然とした態度は見物の人々を驚かせる。「キネマ旬報」ベストテン第5位。

[スタッフ]
(原作)近松門左衛門
(劇作)川口松太郎
(脚本)依田義賢
(監督)溝口健二
(製作)永田雅一
(企画)辻久一
(撮影)宮川一夫
(照明)岡本健一
(録音)大谷巌
(音楽)早坂文雄
(美術)水谷浩

[役名(キャスト)]
茂兵衛(長谷川一夫)
おさん(香川京子)
お玉(南田洋子)
以春(進藤英太郎)
助右衛門(小沢栄)
源兵衛(菅井一郎)
道喜(田中春男)
以三(石黒達也)
おこう(浪花千栄子)

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