Art東京国立近代美術館
Craft&Design東京国立近代美術館工芸館
MOMAT TOP

平成23年度
Hプログラム

1960年前後より登場した若き映画監督たち──人間の意志と情熱を大胆に描き出し、巨匠になってからも、その瑞々しい感性と獰猛なバイタリティで観客を魅了する作品群を紹介いたします。
◆『秋津温泉』
(1962年 松竹 カラー シネマスコープ 112分)


女優の岡田茉莉子が自らの100本記念作品として企画した藤原審爾原作の映画化で、『ろくでなし』(1960)により松竹ヌーベルバーグの旗手として颯爽と登場した吉田喜重にとっては、監督4作目にあたる。敗戦の年の夏、山間の湯治場に自死の場を求めてやってきた東京の学生・周作と、命を救ったことをきっかけに周作に惹かれていく旅館の娘・新子との間の17年に及ぶ愛と挫折の軌跡に、戦後日本人の精神史をダブらせながら綴ったメロドラマの傑作。これまでの作風とはうって変わり、男女の情念の世界を正面から描いた本作は、吉田監督にとって大きな転換点であるとともに、主演の岡田茉莉子と1964年に結婚、同年松竹を退社し、その後二人で現代映画社を設立するに至ったきっかけともなった作品である。松竹時代に監督した6作品すべてで撮影を務めた成島東一郎による、清流のように美しい画面が作品全体に崇高な気品をもたらしている。

[スタッフ]
(原作)藤原審爾
(脚本・監督)吉田喜重
(製作)白井昌夫
(撮影)成島東一郎
(照明)田村晃雄
(録音)吉田庄太郎
(音楽)林光
(美術)浜田辰雄

[役名(キャスト)]
新子(岡田茉莉子)
河本周作(長門裕之)
三上(山村聰)
松宮謙吉(宇野重吉)
般若寺住職(東野英治郎)
お澄(小夜福子)
お民(日高澄子)
陽子(芳村真理)

◆少年
(1969年 創造社 白黒 スタンダード 97分)


日本中を放浪して車にわざとぶつかり、言いがかりをつけてお金を請求する「当たり屋」の少年とその家族の物語。傷痍軍人の父は、戦後の日本社会で自分の居場所を見つけられず、家族を連れて全国を放浪している。少年の母親は少年と血がつながっていない。少年は、父と母から酷使されても、この家族という共同体から逃げ出さず、この共同体が崩れないように、自分の体を傷つけながら「当たり屋」を続けることを選択する。松竹ヌーベルバーグのひとりとして1950年代末から野心作を立て続けに監督してきた大島渚は、映画という表現形式を通じて日本における国家や国民の枠組みそのものを批判的に追求してきた映画監督であるが、本作は大島の思想が見事に映像化された代表作のひとつ。ヴェネチア国際映画祭に出品されて高い評価を得た。

[スタッフ]
(監督)大島渚
(脚本)田村孟
(撮影)吉岡康弘
( 〃 )仙元誠三
(美術)戸田重昌
(音楽)林光
(録音)西崎英雄

[役名(キャスト)]
少年(阿部哲夫)
父(渡辺文雄)
母(小山明子)
チビ(木下剛志)

◆心中天網島
(1969年 表現社=ATG 白黒 スタンダード 103分)


近松門左衛門の有名な人形浄瑠璃を映画化した、松竹出身の篠田正浩監督の代表作。篠田監督は学生時代より日本の古典芸能の研究を志していたが、この作品では、浄瑠璃の伝統性と20世紀芸術である映画との創造的な葛藤が結実している。その「新しい解釈」を示しているのが、例えば黒子の出現であり、監督夫人でもある岩下志麻の二役(遊女の小春、妻のおさん)であろう。中村吉右衛門演じる治兵衛が妻を捨てて遊女との情死行に至るまで、愛の情念が狂おしく燃える様を描くこの物語を脚本化するにあたり、監督は詩人・作家の富岡多恵子と作曲家武満徹の協力を仰いでいるほか、成島東一郎による撮影が、映画の空間に立体性を与えているのも見逃せない。アート・シアター・ギルド(ATG)との提携による低予算映画であったが、「キネマ旬報」ベストテンの第1位、監督賞、さらに女優賞も受賞している。

[スタッフ]
(原作)近松門左衛門
(製作・脚色・監督)篠田正浩
(脚色)富岡多恵子
(製作)中島正幸
(撮影)成島東一郎
(照明)奥山保雄
(録音)西崎英雄
(脚色・音楽)武満徹
(美術)粟津潔 

[役名(キャスト)]
紙屋治兵衛(中村吉右衛門)
治兵衛の妻おさん/遊女小春(岩下志麻)
孫右衛門(滝田裕介)
太兵衛(小松方正)
おさんの父五左衛門(加藤嘉)
伝兵衛(藤原釜足)
黒子の頭(浜村純)
叔母(河原崎しづ江)
お杉(左時枝)
女将(日高澄子)

◆復讐するは我にあり
(1979年 松竹 カラー ビスタ 140分)


実際に起こった連続殺人事件をもとにしたノンフィクション小説の映画化。後に『楢山節考』(1983)や『うなぎ』(1997)でカンヌ映画祭パルムドール賞を受賞することになる今村昌平監督は、事件に関する綿密な調査に基づき、殺人と詐欺を繰り返して逃亡し続けた榎津巌(えのきずいわお)の足跡と女性遍歴を、冷酷なまでにリアリスティックなスタイルで表現した。原作者によると、題名は新約聖書から取られており、一般的には「悪人に対する復讐は神様が行う」という意味の言葉として知られている。本作では悪の限りを尽くした榎津の生き様をあえて肯定も否定もせずに描ききることで、日常を生きる私たちが普段抑圧している人間の不条理と混沌を照らし出すことに成功した。主演の緒方拳の演技はもとより、宿屋の女主人・ハル役の小川真由美や、榎津の妻・加津子役の倍賞美津子などの女優達の熱のこもった演技も高く評価され、「キネマ旬報」ベストテン1位受賞のほか、数々の賞を受賞した。

[スタッフ]
(原作)佐木隆三
(脚本)馬場当
(監督)今村昌平
(製作)井上和男
(撮影)姫田真左久
(照明)岩木保夫
(録音)吉田庄太郎
(音楽)池辺晋一郎
(美術)佐谷晃能

[役名(キャスト)]
榎津厳(緒形拳)
榎津の父・鎮雄(三国連太郎)
榎津の母・かよ(ミヤコ蝶々)
榎津の妻・加津子(倍賞美津子)
浅野ハル(小川真由美)
浅野の母・ひさ乃(清川虹子)
ハルの旦那(北村和夫)
岡啓子(根岸とし江)
河井警部(フランキー堺)
河島弁護士[共平] (加藤嘉)

→各プログラムへ 
A/B/C/D/E/F/G/H/I/J/K/L/M/N/O/P/Q/R/S/T/U/V/W/X/Y

→プログラム一覧に戻る

Calendar 上映・展示カレンダー
上映・展示カレンダー
The National Museum of Modern Art, Tokyo