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平成23年度
Fプログラム

才気あふれる作風で日本映画の刷新を試み続けた市川崑――小説の映画化として評価の高い作品に、国民的論議を巻き起こした記録映画を加えた4作品を紹介いたします。
◆野火
(1959年 大映(東京) 白黒 シネマスコープ 104分)


「俘虜記」や「レイテ戦記」など、戦後の戦争文学に大きな足跡を残した大岡昇平の同名小説を映画化したものである。戦争末期のレイテ島の戦場。食料難のため部隊からも病院からも見捨てられた主人公。さまよううちに知り合った二人の敗残兵。その一人は猿の肉だと称して人肉をすすめる。それに気付いた時に自分も殺されそうになり、逆に相手を殺してしまう。映画化にあたって市川崑監督は次のように述べている。「大岡さんは原作の中で、大変大きなテーマとして神を登場させている。……映画ではむしろ神の問題を全部なくすことによって神を感じさせられる……だから原作では主人公が人肉を食うけれど、映画では食わない。……そこで人肉があまりに固いために歯がボロリと欠けるという具合に書き変えた。歯が欠ける、これが映画ではないだろうか」。ブラック・ユーモアを得意とし、才気煥発な監督ならではの弁である。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

[スタッフ]
(原作)大岡昇平
(脚本)和田夏十
(監督)市川崑
(企画)藤井浩明
(撮影)小林節雄
(照明)米山勇
(録音)西井憲一
(音楽)芥川也寸志
(美術)柴田篤二

[役名(キャスト)]
田村(船越英二)
安田(滝沢修)
永松(ミッキー・カーチス)
兵隊1( 星ひかる)
兵隊2( 月田昌也)
曹長(潮万太郎)
不精ひげの軍医(石黒達也)
兵隊A班長(稲葉義男)
狂人の将校(浜村純)
分隊長(伊達信)

◆おとうと
(1960年 大映(東京) カラー シネマスコープ 98分)


温かみの欠けた家庭にあって、姉と病床の弟とが寄せ合う深い愛情の交歓をきめ細かに描いた幸田文の小説の映画化である。姉弟を岸恵子と川口浩が好演、その年の「キネマ旬報」ベストテンでは第2位に空前の大差をつけて第1位を獲得した。こうした文学作品の映画化は市川崑監督のキャリアの中でも重要な位置を占め、この時点ですでに『ビルマの竪琴』(1956)、『日本橋』(1956)、『鍵』(1959)、『野火』(1959)などの名作を放ち、その実験精神を発揮している。また技術面の冒険にも積極的な市川監督は製作当時、日本映画を代表するカメラマン宮川一夫の協力のもとに、この映画に「銀残し」という特殊な技術を導入した。現像段階で銀を漂白する際、カラー色素の中に銀をわずかに残すことで、カラー映画でありながら白黒映画のようなくすんだ色調を醸し出す技法で、その渋い色合いがこの映画にノスタルジックな空気を与えている。

[スタッフ]
(原作)幸田文
(脚本)水木洋子
(監督)市川崑
(製作)永田雅一
(企画)藤井浩明
(撮影)宮川一夫
(照明)伊藤幸夫
(録音)長谷川光雄
(音楽)芥川也寸志
(美術)下河原友雄

[役名(キャスト)]
げん(岸恵子)
弟 碧郎(川口浩)
げんの継母(田中絹代)
げんの父(森雅之)
鉄工場の息子(友田輝)
田沼夫人(岸田今日子)
署の男(仲谷昇)
看護婦 宮田(江波杏子)
院長(浜村純)
刑事(夏木章)

◆東京オリンピック
(1965年 東京オリンピック映画協会/東宝 カラー シネマスコープ 170分)


1964年10月10日から24日まで開催された第18回オリンピック東京大会は、スポーツによる国際交流の場を通して、わが国が世界にその復興を示した国家的規模の一大行事であったと言えるだろう。この作品はそのメモリアル・フィルムとして市川崑総監督以下、561人のスタッフが結集して製作され、翌年公開されるや空前の観客動員を記録し、12億を超える配給収入を上げた話題作である。また、その際に「記録か芸術か」という問題を提起し、様々な議論を巻き起こしたことも忘れられない。それは、この作品がスポーツの勝敗よりも、スポーツをする「人間」により多くの描写を費やしたためとも言えるのだが、これはこれで作家市川崑としての一貫した姿勢でもあった。結果は、カンヌ国際映画祭批評家協会賞受賞、「キネマ旬報」ベストテン第2位選出にも表れている。

[スタッフ]
(企画・監修)オリンピック東京大会組織委員会
(製作)東京オリンピック映画協会
(プロデューサー)田口助太郎
(総監督)市川崑
(脚本)和田夏十/白坂依志夫
( 〃 )谷川俊太郎/市川崑
(技術監督)碧川道夫
(音楽監督)黛敏郎
(録音監督)井上俊彦
(監督部)細江英公/安岡章太郎
( 〃 )谷川俊太郎他
(撮影部)林田重男/宮川一夫
( 〃 )中村謹司/田中正 他
(ナレーター)三国一朗

◆細雪
(1983年 東宝映画 カラー ビスタ 140分)


昭和の世を迎え、零落の一途を辿る大阪・船場の廻船問屋、蒔岡(まきおか)家の四姉妹を主人公にした谷崎潤一郎の代表作を、市川崑監督が東宝創立五十周年記念の大作として映画化。市川監督としては、『鍵』(1959)に次ぐ二度目の谷崎作品で、監督デビュー当時より念願していた作品である。「細雪」の映画化は、阿部豊(1950)、島耕二(1959)に続いて三度目。今回の映画化では、物語を一年間に凝縮させ、幾度となく破談となる三女・雪子の縁談を軸に、四季折々の美しい風景を交えながら、大店の家族の生活ぶりを絢爛と描いている。見事な編集により主要な登場人物を紹介するオープニング、たわいのない日常のディテールをいきいきとした台詞回しと芝居で見せる巧みな演出、フェードアウトの暗転を活かした後半の物語展開など、至るところに市川監督の才智が煌いている。四姉妹を演じた女優陣を初め、役者はいずれも代表作にふさわしい名演技を披露している。

[スタッフ]
(原作)谷崎潤一郎
(脚本・監督・製作)市川崑
(脚本)日高真也
(台詞校訂)谷崎松子
(監督)市川崑
(製作)田中友幸
(撮影)長谷川清
(照明)佐藤幸次郎
(録音)大橋鉄矢
(音楽)大川新之助
( 〃 )渡辺俊幸
(美術)村木忍

[役名(キャスト)]
蒔岡幸子(佐久間良子)
蒔岡雪子(吉永小百合)
蒔岡妙子(古手川祐子)
蒔岡鶴子(岸恵子)
蒔岡辰雄(伊丹十三)
蒔岡貞之助(石坂浩二)
板倉(岸部一徳)
奥畑(桂小米朝)
東谷(江本孟紀)
野村(小坂一也)
富永の叔母(三宅邦子)
橋寺(細川俊之)

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