-平成18年度優秀映画鑑賞推進事業-
Sプログラム
◆純愛物語 
 (1957年 東映[東京] カラー シネマスコープ 130分)
前作『米』(1957)の好成績を得て、製作会社の東映が再び今井正監督と組んで作り上げた戦後青春映画の代表作。1954年3月に第五福竜丸がビキニ環礁で死の灰を浴び、この頃、日本では改めて原水爆問題がクロース・アップされていた。脚本の水木洋子によれば、この作品は同じ今井監督で「戦争と青春」を描いた『また逢う日まで』(1950)の姉妹篇として「戦後と青春」を描こうとするものであった。焼け跡の中を懸命に生きる不良少年と少女の純愛物語に、原爆後遺症の問題が絡んでくるのも、このような社会的背景を抜きにしては考えられまい。中原ひとみの鼻から、流れ落ちる一筋の血が伝えるものは、たしかに原爆への怒りである。だが、それは今井監督の静かな演出によって、より深々とした印象を与えるものになっている。常に周りの状況に押しつぶされそうになりながら、必死の抵抗を続ける恋人たちの姿は、この監督の作品に一貫する重要なモチーフである。 
[スタッフ] 
(脚本) 水木洋子 
(監督) 今井正 
(製作) 大川博 
(撮影) 中尾駿一郎 
(照明) 元持秀雄 
(録音) 岩田広一 
(音楽) 大木正夫 
(美術) 進藤誠吾 
 
[役名(キャスト)] 
早川貴太郎 (江原真二郎) 
宮内ミツ子 (中原ひとみ) 
下山監察官 (岡田英次) 
瀬川病院医師 (木村功) 
屑屋の爺さん (東野英治郎) 
聖愛学園園長 (長岡輝子) 
少年院体育教官 (神田隆) 
日赤病院医師 (北沢彪) 
食堂主人 (中村是好) 
里やん (田中邦衛) 
  
◆おとうと 
 (1960年 大映[東京] カラー シネマスコープ 98分)
温かみの欠けた家庭にあって、姉と病床の弟とが寄せ合う深い愛情の交歓をきめ細かに描いた幸田文の小説の映画化である。姉弟を岸恵子と川口浩が好演、その年の「キネマ旬報」ベストテンでは第2位に空前の大差をつけて第1位を獲得した。こうした文学作品の映画化は市川崑監督のキャリアの中でも重要な位置を占め、この時点ですでに『ビルマの竪琴』(1956)、『日本橋』(1956)、『鍵』(1959)、『野火』(1959)などの名作を放ち、その実験精神を発揮している。また技術面の冒険にも積極的な市川監督は製作当時、日本映画を代表するカメラマン宮川一夫の協力のもとに、この映画に「銀残し」という特殊な技術を導入した。現像段階で銀を漂白する際、カラー色素の中に銀をわずかに残すことで、カラー映画でありながら白黒映画のようなくすんだ色調を醸し出す技法で、その渋い色合いがこの映画にノスタルジックな空気を与えている。 
[スタッフ] 
(原作) 幸田文 
(脚本) 水木洋子 
(監督) 市川崑 
(製作) 永田雅一 
(企画) 藤井浩明 
(撮影) 宮川一夫 
(照明) 伊藤幸夫 
(録音) 長谷川光雄 
(音楽) 芥川也寸志 
(美術) 下河原友雄 
 
[役名(キャスト)] 
げん (岸恵子) 
弟 碧郎 (川口浩) 
げんの継母 (田中絹代) 
げんの父 (森雅之) 
鉄工場の息子 (友田輝) 
田沼夫人 (岸田今日子) 
署の男 (仲谷昇) 
看護婦 宮田 (江波杏子) 
院長 (浜村純) 
刑事 (夏木章) 
  
◆肉弾 
 (1968年 『肉弾』を作る会=ATG 白黒 スタンダード 116分)
日本が戦争に敗れたことも知らず、魚雷をしばりつけたドラム缶の中で、海に漂いながら敵船を待っている「あいつ」。この作品は、東宝所属の監督としてスピーディな現代活劇や喜劇に力を発揮していた岡本喜八監督が、あえて東宝を離れてアート・シアター・ギルド(ATG)製作で撮影したものである。当時ATGは低予算のいわゆる「1000万円映画」の製作を提唱し、多くの監督が、大手会社の撮影所では撮れない自前の企画を次々と映画化したが、中でもこの作品は資金的な制約にもかかわらず「キネマ旬報」ベストテン第2位など好評を得た。映画に描かれた「あいつ」の人物像や軍隊生活の愚かさは、戦争中の岡本監督自身の体験に基づくものと言われ、この活劇派の監督の背景となるもう一つの出自を明らかにした。寺田農の「あいつ」が出会う少女役の大谷直子が、初々しい魅力を放っている。 
[スタッフ] 
(脚本・監督) 岡本喜八 
(製作) 馬場和夫 
(撮影・照明) 村井博 
(録音) 渡会伸 
(音楽) 佐藤勝 
(美術) 阿久根巌 
(漫画) 辻まこと 
 
[役名(キャスト)] 
あいつ (寺田農) 
少女 (大谷直子) 
オワイ船の船長 (伊藤雄之助) 
軍曹 (小沢昭一) 
区隊長 (田中邦衛) 
古本屋のお爺さん (笠智衆) 
古本屋のお婆さん (北林谷栄) 
憲兵 (中谷一郎) 
父 (天本英世) 
前かけの小母さん (春川ますみ) 
ナレーター (仲代達矢) 
  
◆旅の重さ 
 (1972年 松竹 カラー シネマスコープ 91分)
「大地の子守歌」などで知られる覆面作家素九鬼子の原作を、『約束』(1972)などの青春映画で知られる斎藤耕一監督が映画化した一本で、撮影現場のスチル・カメラマン出身ということもあり、構図感覚を活かした画面作りが印象的である。物語は、男癖の悪い母親を置いて家出し、四国遍路の旅に出た少女が経験する数々の出来事を描き、少女が大人へと成長してゆく精神的な過程を表現しようとしている。照りつける太陽の下、緑の山々や海辺をひたすら歩き続ける少女は、旅芸人の一座やトラックの運転手らと出会い、時には病にも苦しみながら、やがて無口な魚の行商人の家へと転がり込む。この映画のヒロインに応募して選ばれ、初々しい演技でデビューを飾ったのは当時19歳の高橋洋子。また作品の世界に呼応する形で、フォーク音楽の寵児よしだたくろう(吉田拓郎)が、叙情的な旋律と主題歌を提供している。「キネマ旬報」ベストテン第4位。 
[スタッフ] 
(原作) 素九鬼子 
(脚本) 石森史郎 
(監督) 斎藤耕一 
(製作) 上村務 
(撮影) 坂本典隆 
(照明) 津吹正 
(録音) 栗田周十郎 
(音楽) よしだたくろう 
(美術) 芳野尹孝 
 
[役名(キャスト)] 
少女 (高橋洋子) 
ママ (岸田今日子) 
木村大三 (高橋悦史) 
松田国太郎 (三国連太郎) 
政子 (横山リエ) 
光子 (中川加奈) 
吉蔵 (園田健二) 
竜次 (砂塚秀夫) 
漁師の若い母親 (富山真沙子) 
老婆 (田中筆子) 
痴漢 (森塚敏) 
村の少女 (秋吉久美子) 
  
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