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平成23年度
Tプログラム

日本映画の量産時代に登場した監督たちが、喜劇映画のなかで新たな挑戦を試みた秀作を紹介いたします。
◆おかしな奴
(1963年 東映(東京) 白黒 シネマスコープ 110分)


自ら「珍顔」を名乗り、戦後の落語界で爆発的な人気を誇った風変わりな落語家、三遊亭歌笑(1917~50)の短い人生を描いた東映作品。歌笑を演じた渥美清にとって、この映画は『拝啓天皇陛下様』(1963)やアフリカを舞台にした『ブワナ・トシの歌』(1965)と並んで「寅さん」以前の代表作と言えるだろう。監督の沢島忠は東映の中でも新しい世代に属し、中村錦之助(後に萬屋錦之介)主演の時代劇「一心太助シリーズ」(1958~63)など、フットワークの軽い演出で知られる。実在の歌笑はナンセンスな笑いを得意としたことで知られたが、沢島監督はあえてこの落語家の生涯を、滑稽な笑いばかりでなく、夫婦愛を軸にそこはかとない哀しみを込めて描いている。やがて名作『飢餓海峡』(1964)を執筆することになる脚本家鈴木尚之や、数々の黒澤明作品に音楽を提供した作曲家佐藤勝など、スタッフ陣の豪華さでも注目に値するだろう。

[スタッフ]
(脚本)鈴木尚之
(監督)沢島忠
(企画)園田実彦
( 〃 )吉田達
(撮影)藤井静
(照明)原田政重
(録音)小松忠之
(音楽)佐藤勝
(美術)北川弘

[役名(キャスト)]
三遊亭歌笑(渥美清)
おひさ(三田佳子)
春藤ふじ子(南田洋子)
歌笑の父 高水為吉(加藤嘉)
  母 やす(清川虹子)
藤田三吉(田中邦衛)
兄弟子 しゃもじ(佐藤慶)
三遊亭金楽師匠(石山健二郎)
円八師匠(十朱久雄)
あんま宅悦(渡辺篤)
とん平(春風亭柳朝)

◆喜劇・大安旅行
(1968年 松竹 カラー シネマスコープ 94分)


新婚カップルのあふれる和歌山県の紀勢本線沿線を舞台に、蒸気機関車の機関士と専務車掌という「鉄道一筋」の父子の恋愛騒動を描いた松竹喜劇「旅行シリーズ」(1968~72)の第1作。この作品がヒットするや、松竹のドル箱シリーズとして全国の鉄道沿線でロケーションが行われた。ここでは伴淳三郎とフランキー堺が父子を、相手役となる料理屋の母娘を笠置シヅ子と新珠三千代が演じ、恋心や人情、嫉妬といった感情が入り交じる様が、土地の風物も折り込みながら鮮やかに描写されている。1960年代以降の日本の喜劇映画を代表する瀬川昌治監督は、アクの強いコメディアンたちの多様な持ち味を伸ばすことに優れ、多くの喜劇人を印象的にスクリーンに登場させている。瀬川監督は「旅行シリーズ」の前にも東映で渥美清主演の「列車シリーズ」(1967~68)をヒットさせており、いずれも当時の国鉄が全面的に協力している。

[スタッフ]
(脚本)舟橋和郎
(監督)瀬川昌治
(製作)島津清
(撮影)高羽哲夫
(照明)戸井田康国
(録音)鈴木正夫
(音楽)木下忠司
(美術)梅田千代夫

[役名(キャスト)]
並木大作(フランキー堺)
父 甚吾(伴淳三郎)
丸山雪子(新珠三千代)
母 うめ(笠置シヅ子)
新庄晴子(倍賞千恵子)
森岡(牧伸二)
丹羽美知子(生田悦子)

◆吹けば飛ぶよな男だが
(1968年 松竹 カラー シネマスコープ 91分)


大阪の街を舞台に、やくざの幹部に憧れるチンピラと九州から出てきた家出娘の恋模様を描いた山田洋次監督の秀作コメディ。最初チンピラの三郎は家出娘花子をだまして金を稼ごうとするが、善意のかたまりのような花子の無垢さに打たれ、やがて心のつながりを感じてゆく。当時、若手コメディアンの成長株であったなべおさみと、一風変わった存在感を放つ女優緑魔子が不器用な「連帯」で結ばれた二人を好演したほか、ミヤコ蝶々、犬塚弘といった助演組、さらには小沢昭一による活弁調の解説もこの作品に独特の彩りを添えている。山田監督は、この作品に込めたのは「アホなチンピラ」のおかしさであると後に述べたが、その一方でほろ苦い結末の描き方も魅力となっている。脚本はほとんど森崎東が執筆しているが、社会の決まり事から外れた世界で生きる人々への共感は、後の「フーテンの寅」像にもつながるだろう。「キネマ旬報」ベストテン第10位。

[スタッフ]
(脚本)森崎東
(脚本・監督)山田洋次
(製作)脇田茂
(撮影)高羽哲夫
(照明)戸井田泰国
(録音)小尾幸魚
(音楽)山本直純
(美術)重田重盛

[役名(キャスト)]
三郎(なべおさみ)
花子(緑魔子)
不動(犬塚弘)
鉄(芦屋小雁)
ガス(佐藤蛾次郎)
先生(有島一郎)
お清(ミヤコ蝶々)
解説役(小沢昭一)

◆あゝ軍歌
(1970年 松竹 カラー シネマスコープ 88分)


戦争中、精神障害の真似をしてわざと野戦病院に入り、死を逃れた二人の男は、その後、戦没者をまつる神社へ遺族を案内する怪しげな観光ガイドとして暮らしていた。その男たちのもとへお婆さん、未亡人、少女、ヒッピー風の男が次々と迷い込んでくる奇妙な生活を描いたこの作品は、1960年代以降の松竹喜劇を支えた前田陽一監督の代表作である。そこに息づく屈折した批判精神には師匠の渋谷実監督の影響も垣間見える。その作風について、主演のフランキー堺は、「旅行シリーズ」の瀬川昌治監督の「軽喜劇」に対する、前田作品の「重喜劇性」と説明して敬意を表した。劇中の所々に軍歌が挿入されて作品のリズムを築いているが、この映画で「歌」が作品の血肉となっているように、前田監督は歌謡映画にも定評があり、『進め! ジャガーズ 敵前上陸』(1968)などのヒット作を送り出した。

[スタッフ]
(原作)早坂暁
(脚本)満友敬司
(脚本・監督)前田陽一
(製作)島津清
(撮影)加藤正幸
(照明)佐久間丈彦
(録音)平松時夫
(音楽)大森盛太郎
(美術)芳野尹孝

[役名(キャスト)]
福田勝造(フランキー堺)
カトやん(財津一郎)
桜子(倍賞千恵子)
婆さん(北林谷栄)
ツネ子(城野ゆき)
十七才(風間恵美子)
宮崎多一郎(大村崑)
軍医(人見明)
師団長(上田吉二郎)

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