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大ホール上映作品

生誕百年特集 映画監督 成瀬巳喜男
Mikio Naruse Retrospective at his Centenary

8月20日(土) - 10月30日(日)→上映スケジュール
*9月10日は休み

開映後の入場はできません

定員=310名(各回入替制)
発券=2階受付
料金=一般500円/高校・大学生・シニア300円/小・中学生100円
・観覧券は当日・当該回にのみ有効です。
・発券・開場は開映の30分前から行い、定員に達し次第締切となります。
・シニア(65歳以上)の方は、必ず年齢を証明できるものをご提示ください。

 2005年は、日本映画史に大書される少なからぬ数の監督が一時に生誕百年を迎える年にあたります。フィルムセンターでは、これを記念して、斎藤寅二郎、中川信夫、野村浩将、成瀬巳喜男、豊田四郎、稲垣浩(誕生順)という6人の名匠、巨匠の作品を、1年を通じて連続上映してまいります。

 豊田四郎監督に続いてお贈りする生誕百年記念第3弾は、成瀬巳喜男監督の特集です。

 1905(明治38)年8月20日、東京に生まれた成瀬巳喜男は、1920年に松竹蒲田撮影所に入社、小道具係から助監督に転じて1930年に短篇喜劇『チャンバラ夫婦』で監督デビューを果たします。やがて“蒲田の女王”栗島すみ子が主演した『夜ごとの夢』(1933年)の優れた叙情性が認められ、若手のホープとみなされた成瀬は、トーキー映画の新会社P.C.L.(後に東宝)へ移籍して、夫婦間の葛藤というその生涯にわたる主題を先取りした『二人妻 妻よ薔薇のやうに』(1935年)や、長谷川一夫と山田五十鈴が絶品の掛け合いを見せる『鶴八鶴次郎』(1938年)などの傑作を送り出します。

 第2次大戦後の成瀬は、庶民生活を描写した小説の映画化に新しい展開を見いだしましたが、中でも高峰秀子が主演した『稲妻』(1952年)や畢生の傑作『浮雲』(1955年)など、林芙美子を原作に仰いだ作品群はその最も充実した時代を形作りました。また幸田文原作の『流れる』(1956年)では下町の芸者置屋を、『女が階段を上る時』(1960年)では夜の銀座に生きる女を描き、さらに以降の諸作では幾世代にわたる女たちの年代記を綴りながら、遺作『乱れ雲』(1967年)に至るまで、哀歓に満ちた女性の生き様に眼差しを注ぎ続けました。

 饒舌な台詞を排し、登場人物たちの視線のやりとりや小さな身ぶりの積み重ねによって情感あふれるドラマを織り上げてゆく成瀬の手法は、撮影監督の玉井正夫、美術監督の中古智といった東宝撮影所の名スタッフたちの協力を得て、個々の作品に映画芸術の一つの到達点ともいえる輝きを与えています。映画が繊細な光と影の芸術であることを改めて教えてくれるこれらの作品群は、いまや世界的な評価を得るに至りました。

 フィルムセンターは、1979(昭和54)年8月に当時としては最大規模の回顧特集を開催しましたが、それから四半世紀以上の歳月を経た生誕百年の本年、新たに収蔵されたプリントを加え、61作品でこの偉大な映画監督を回顧いたします。多くの皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。

なお、特別企画として、企画の初日で、成瀬監督の誕生日でもある8月20日(土)に、「成瀬巳喜男シンポジウム」を開催いたします。

■無声作品は、明年1月に開催される「シネマの冒険 闇と音楽」でも音楽演奏付きで上映されます。

■(監)=監督・演出 (原)=原作・原案 (脚)=脚本・脚色・潤色 (撮)=撮影 (美)=美術・装置・舞台設計 (音)=音楽・音楽監督 (出)=出演

■本特集には不完全なプリントが含まれています。

■記載した上映分数は、当日のものと多少異なることがあります。

1 8/20(土)11:00am 9/14(水)4:00pm 9/27(火)7:00pm

腰辨頑張れ(38分・18fps・35mm・白黒・無声)

1930年に監督デビューした成瀬の初期作品の多くはナンセンス喜劇であった。監督第8作目となる本作は現存する最古の作品で、しがない保険勧誘員を主人公にした喜劇。幾何学的に画面を分割するなど無声期特有の過剰なモンタージュを用いている点が興味深い。

’31(松竹蒲田)(脚)成瀬巳喜男(撮)三浦光男(光雄)(出)山口勇、浪花友子、加藤精一、明山靜江、菅原秀雄、関時男

夜ごとの夢(64分・24fps・35mm・白黒・無声)

次作の『君と別れて』(1933年)と共に成瀬の出世作となった作品で、映画女優の第一世代である栗島すみ子の熱演がみどころ。子供を育てながら港の芸者として働く女のもとへ、長い間姿をくらましていた夫が戻ってくる。夫は家族のために職を探すがうまくゆかず・・・。

’33(松竹蒲田)(原)成瀬巳喜男(脚)池田忠雄(撮)猪飼助太郎(美)浜田辰雄(出)栗島すみ子、斉藤達雄、木島照子、新井淳、吉川滿子、坂本武、大山健一、小倉繁、飯田蝶子、沢蘭子

2 8/21(日)11:00am 9/13(火)7:00pm 9/28(水)1:00pm

生さぬ仲(105分・18fps・16mm・白黒・無声)

“産みの母より育ての母”で知られる新派悲劇の名作は幾度となく映画化されてきたが、本作は小津安二郎監督と名コンビを組んだ野田高梧が、ヒロインをアメリカ帰りの女優に改変したもの。成瀬の野心的な映像技法と感傷的な物語がうまく融合している。

’32(松竹蒲田)(原)柳川春葉(脚)野田高梧(撮)猪飼助太郎(美)浜田辰雄(出) 岡田嘉子、奈良眞養、筑波雪子、小島壽子、葛城文子、岡譲二、結城一朗、阿部正三郎、宮島健一、河原侃二、大山健二、花岡菊子、突貫小僧

3 8/21(日)2:00pm 9/14(水)1:00pm 9/29(木)4:00pm

君と別れて(72分・20fps・35mm・白黒・無声)

成瀬が初めてオリジナルの長篇脚本を執筆した力作で、若い男女の悲恋物語。恵まれない家庭に生まれたため芸者として辛い毎日を送る照菊(水久保)は、姉さん芸者菊江のひとり息子である義男(磯野)と相思相愛の仲。あるとき義男が不良仲間に加わってしまい・・・。

’33(松竹蒲田)(原)(脚)成瀬巳喜男(撮)猪飼助太郎(美)浜田辰雄(出)吉川滿子、磯野秋雄、水久保澄子、河村黎吉、富士龍子、藤田陽子、突貫小僧、飯田蝶子、若水絹子、竹内良一、小林十九二

4 8/21(日)5:00pm 9/15(木)1:00pm 9/27(火)1:00pm

限りなき鋪道(87分・24fps・35mm・白黒・無声)

喫茶店で働く二人の女性を主人公として、自動車事故によるすれ違いの恋や、結婚生活における嫁と姑の不和などが描かれる。本作発表後、成瀬はトーキーを撮るために松竹をあとにしてP.C.L..に入社した。松坂屋など当時の銀座の風景も楽しめる。

’34(松竹蒲田)(原)北村小松(脚)池田實三(撮)猪飼助太郎(美)周襄吉(出)忍節子、磯野秋雄、山内光、若葉信子、葛城文子、日守新一、香取千代子、結城一朗、井上雪子、松岡富士子、谷麗光、三井秀男、阿部正三郎、突貫小僧、坂本武

5 8/23(火)1:00pm 9/17(土)11:00am 9/28(水)4:00pm

乙女ごゝろ三人姉妹(75分・35mm・白黒)

川端康成の「浅草の姉妹」を映画化した成瀬のトーキー第1作。流しで三味線を弾く二女(堤)をヒロインに、3人姉妹がそれぞれの人生模様を繰り広げる。登場人物の語りを活用したシーン展開(当時「ナラタージュ」と呼ばれた)など果敢にトーキーに取り組んでいる。

’35(P.C.L.映画製作所)(原)川端康成(脚)成瀬巳喜男(撮)鈴木博(美)久保一雄(音)紙恭輔(出)細川ちか子、堤眞佐子、梅園竜子、林千歳、大川平八郎、滝澤修、伊藤薫、岸井明、藤原釜足

6 8/23(火)4:00pm 9/18(日)2:00pm 9/30(金)1:00pm

二人妻 妻よ薔薇のやうに(74分・35mm・白黒)

歌人の妻と、その妻のもとを逃げ出して愛人宅に住みながら砂金掘りに熱中する男。そしてその男に献身的に尽くす愛人。三者三様の立場を一人娘(千葉)の視点から描いた本作は、キネマ旬報ベストテンの第1位に選ばれた傑作。なお、本作はアメリカで初めて一般商業上映された日本映画でもある。

’35(P.C.L.映画製作所)(原)中野實(脚)成瀬巳喜男(撮)鈴木博(美)久保一雄(音)伊藤昇(出)千葉早智子、英百合子、伊藤智子、堀越節子、細川ちか子、丸山定夫、大川平八郎、伊東薫、藤原釜足

7 8/23(火)7:00pm 9/23(金・祝)11:00am 9/29(木)1:00pm

噂の娘(54分・35mm・白黒)

チェーホフの「桜の園」を下敷きにした成瀬のオリジナル脚本で、没落する酒問屋の家族の物語。妻をなくした健吉には邦江(千葉)と紀美子(梅園)というふたりの娘がいたが、二女の紀美子は健吉の愛人お葉の子であった。邦江は、お葉が健吉や娘と一緒に暮らせるように、見合い結婚をして家を出ようとする。

’35(P.C.L.映画製作所)(脚)成瀬巳喜男(撮)鈴木博(美)山崎醇之輔(音)伊藤昇(出)千葉早智子、梅園龍子、伊藤智子、汐見洋、御橋公、藤原釜足、大川平八郎

雪崩(59分・35mm・白黒)

人物のモノローグ場面で画面に紗をかけるという奇抜な技法が話題になった作品で、前衛芸術家の村山知義が参加した。裕福な家に嫁いだ善良な妻(霧立)は夫を信頼しきっている。しかし自分に嘘をつけない夫(佐伯)は結婚の失敗を認め、父から反対されながらも昔なじみの恋人に恋慕を打ち明ける。

’37(P.C.L.映画製作所)(原)大佛次郎(構案)村山知義(脚)成瀬巳喜男(撮)立花幹也(美)北猛夫(音)飯田信夫(出)佐伯秀男、霧立のぼる、江戸川蘭子、汐見洋、英百合子、丸山定夫、三島雅夫、生方明

8 8/24(水)1:00pm 9/17(土)2:00pm 9/29(木)7:00pm

桃中軒雲右衛門(73分・35mm・白黒)

明治末から大正初期にかけて活躍した浪曲師・桃中軒雲右衛門の生涯を描いた伝記映画で、成瀬がその後しばしば取り組んだ「芸道もの」の一篇。月形龍之介が芸のためなら妻や息子を顧みない奔放な主人公を吹き替えなしで演じている。

’36(P.C.L.映画製作所)(原)眞山青果(脚)成瀬巳喜男(撮)鈴木博(美)北猛夫(音)伊藤昇(出)月形龍之介、細川ちか子、千葉早智子、藤原釜足、伊東薫、三島雅夫、市川朝太郎、小杉義男、御橋公、伊達信、小澤栄

9 8/24(水)4:00pm 9/23(金・祝)2:00pm 10/4(火)1:00pm

君と行く路(69分・35mm・白黒)

31歳で世を去った劇作家・三宅由岐子の代表作「春愁記」の映画化。芸者上がりで拝金主義の母親をもつ兄弟にはそれぞれ恋人がいるが、家庭の複雑な事情からうまく進展せず、ついに悲劇的な結末を迎える。清川玉枝がすれっからしの母親役を好演している。

’36(P.C.L.映画製作所)(原)三宅由岐子(脚)成瀬巳喜男(撮)鈴木博(美)北猛夫(音)伊藤昇(出)大川平八郎、佐伯秀男、清川玉枝、藤原釜足、髙尾光子、山縣直代、堤眞佐子

10 8/24(水)7:00pm 9/18(日)5:00pm 9/27(火)4:00pm

朝の並木道(60分・35mm・白黒)

成瀬のオリジナル脚本は、田舎から上京した女のはかない恋物語。上京した千代(千葉)は懸命に求職活動をするも、なかなか望む仕事にありつけない。結局友人の勧めでバーのホステスをすることになり、そこで出会った常連客の小川に淡い恋心を抱く。

’36(P.C.L.映画製作所)(脚)成瀬巳喜男(撮)鈴木博(美)北猛夫(音)伊藤昇(出)千葉早智子、赤木蘭子、大川平八郎、御橋公、山口ミサヲ、清川玉枝、三島雅夫、伊達里子、清川虹子

11 8/25(木)1:00pm 9/17(土)5:00pm 9/30(金)4:00pm

女人哀愁(74分・35mm・白黒)

伝統的な価値観をもつゆえに不幸な結婚生活を送ってしまう女性の苦悩と自立を入江たか子が好演。夫の家族の便利な“道具”として徹底的にこき使われる妻の日常生活をテンポよく捉える成瀬の演出は残酷なまでに秀逸である。

’37(P.C.L.映画製作所=入江プロ)(原)(脚)成瀬巳喜男(脚)田中千禾夫(撮)三浦光雄(美)戸塚正夫(音)江口夜詩(出)入江たか子、堤眞佐子、佐伯秀夫、大川平八郎、神田千鶴子、澤蘭子、水上怜子、清川玉枝、初瀬浪子、北沢彪、伊東薫、御橋公

12 8/25(木)4:00pm 9/25(日)11:00am 10/5(水)1:00pm

禍福 前篇(78分・35mm・白黒)

「真珠夫人」のテレビドラマ化で再び注目を集めている菊池寛。本作は彼のメロドラマ小説の映画化である。外交官に採用され前途有望な皆川(高田)は、豊美(入江)と結婚の約束を交わしていた。しかし皆川は帰郷した時に出会った幼な馴染みの百合恵に心惹かれる。

’37(東宝東京)(原)菊池寛(脚)岩崎文隆(撮)三浦光雄(美)北猛夫(音)仁木他喜雄(出)高田稔、入江たか子、竹久千恵子、丸山定夫、英百合子、堀越節子、生方明、伊東薫、御橋公、伊藤智子、逢初夢子、大川平八郎、神田千鶴子

13 8/25(木)7:00pm 9/25(日)2:00pm 10/5(水)4:00pm

禍福 後篇(79分・35mm・白黒)

皆川の子を産んだ豊美は、皆川の妻となった百合恵(竹久)と図らずも親しくなり、皆川家に居候することに。長期出張先のフランスから帰ってきた皆川は豊美と衝撃の再会を果たす。女性同士の友情と連帯によって豊美の復讐劇は大きく転換してゆく。

’37(東宝東京)(原)菊池寛(脚)岩崎文隆(撮)三浦光雄(美)北猛夫(音)伊藤昇(出)高田稔、入江たか子、竹久千恵子、丸山定夫、英百合子、堀越節子、生方明、伊東薫、御橋公、伊藤智子、逢初夢子、大川平八郎、神田千鶴子

14 8/26(金)1:00pm 9/18(日)11:00am 10/4(火)7:00pm

鶴八鶴次郎(88分・35mm・白黒)

成瀬の洗練された演出を堪能できる「芸道もの」の一篇。新内の鶴次郎と三味線の鶴八はお互いに魅かれあう仲だったが、芸に打ち込むあまり意地を張り合って喧嘩別れに。第1回直木賞を受賞した川口松太郎の原作は、ハリウッド映画『ボレロ』(1934年)の翻案。

’38(東宝東京)(原)川口松太郎(脚)成瀬巳喜男(撮)伊藤武夫(美)久保一雄(音)飯田信夫(出)長谷川一夫、山田五十鈴、藤原釜足、大川平八郎、三島雅夫、横山運平、椿澄枝、清川玉枝、伊藤智子

15 8/26(金)4:00pm 9/25(日)5:00pm 10/6(木)1:00pm

はたらく一家(65分・35mm・白黒)

プロレタリア作家、徳永直の同名短篇集を成瀬自身が脚色したもの。貧しい大家族を舞台に、自立するために家を出て苦学したい長男(生方)と、長男の心情を理解しながらも認めることができない父親(徳川)との葛藤のドラマが、成瀬の温かいまなざしによって描写される。

’39(東宝東京)(原)徳永直(脚)成瀬巳喜男(撮)鈴木博(美)松山崇(音)太田忠(出)大日方傳、椿澄枝、徳川夢声、本間教子、生方明、伊東薫、南青吉、平田武、阪東精一郎、若葉喜世子、眞木順、藤輪欣司

16 8/26(金)7:00pm 10/1(土)11:00am 10/11(火)4:00pm

まごころ(67分・35mm・白黒)

少女の繊細な感情をみずみずしく捉えた傑作。父を早くに亡くした富子(悦ちゃん)は、母と祖母と三人暮らし。あるとき、親友の父親(高田)と自分の母(入江)が若い頃に恋人同士であったことを知り、心が乱れる。成瀬が美術監督の中古智と初めてコンビを組んだ作品でもある。

’39(東宝東京)(原)石坂洋次郎(脚)成瀬巳喜男(撮)鈴木博(美)中古智(音)服部正(出)入江たか子、髙田稔、村瀬幸子、悦ちゃん、加藤照子、藤間房子、清川莊司

17 8/27(土)11:00am 9/14(水)7:00pm 10/4(火)4:00pm

旅役者(70分・35mm・白黒)

直木賞候補作「きつね馬」の映画化。地方巡業を行っている「六代目菊五郎」一座には、馬の脚役を務める二人の団員がいた。彼らは自分たちの役に誇りを持っていたが、あるとき馬の頭が壊れてしまい、座長は本物の馬を使うと主張する。笑いの中に哀愁を込めた抒情的な作品に仕上がっている。

’40(東宝東京)(原)宇井無愁(脚)成瀬巳喜男(撮)木塚誠一(美)安倍輝明(音)早坂文雄(出)藤原鷄太(釜足)、柳谷寛、高勢實乘、清川莊司、御橋公、中村是好、山根壽子、清川虹子、深見泰三

18 8/27(土)2:00pm 9/15(木)4:00pm 9/30(金)7:00pm

上海の月(53分・35mm・白黒・部分)

上海で抗日ラジオ放送の妨害活動に従事する中国人女性を山田五十鈴が演じるスパイ映画。成瀬はロケ地の上海で、戦局のために日本で封切られなかった『風と共に去りぬ』などのハリウッド映画を見て衝撃を受けたという。114分の大作だが、現存するプリントは半分以下の長さである。

’41(東宝東京=中華電影)(原)松崎啓次(脚)山形雄策(撮)三村明(美)松山崇(音)服部良一(出)山田五十鈴、汪洋、里見藍子、大川平八郎、佐伯秀男、清川荘司、大日方傳

秀子の車掌さん(54分・35mm・白黒)

戦後の成瀬作品に欠かせない女優・高峰秀子と初めてコンビを組んだ作品。倒産寸前のバス会社の運転手と車掌が、ライバル会社に対抗するために小説家に頼んで路線の名所案内文を作成してもらう。車内アナウンスを実施するまでの奮闘劇が、のどかな風景のなかで展開する。

’41(南旺映画)(原)井伏鱒二(脚)成瀬巳喜男(撮)東健(美)小池一美(音)飯田信夫(出)高峰秀子、藤原鷄太(釜足)、夏川大二郎、清川玉枝、勝見庸太郎、榊田敬治、山川ひろし、松林久晴、林喜美子、馬野都留子

19 8/27(土)5:00pm 9/16(金)1:00pm 10/6(木)4:00pm

母は死なず[ゴスフィルモフォンド版](62分・35mm・白黒・不完全)

小津の『父ありき』と同じ年に生まれたもうひとつの「父もの」映画。失業した男(菅井)には妻と一人息子がいたが、不治の病に侵された妻は自ら命を絶つ。男は妻の遺言を胸に、息子を育てながら合成樹脂の研究に成功する。不完全ながらフィルムセンター初上映。

’42(東宝映画)(原)河内仙介(脚)猪俣勝人(撮)木塚誠一(美)北川惠司(音)服部正(出) 菅井一郎、入江たか子、藤原鷄太(釜足)、澤村貞子、齋藤英雄、轟夕起子、小高まさる、藤田進、鳥羽陽之助、清水将夫、矢口陽子

20 8/28(日)11:00am 9/15(木)7:00pm 10/7(金)1:00pm

歌行燈(93分・35mm・白黒)

花柳章太郎が結成した新生新派の面々が出演する「芸道もの」。能楽師の喜多八は、名人を自殺に追い込んだことから破門され、門付けとして流浪の旅に出る。成瀬は能楽堂に通って研究を積んだという。

’43(東宝映画)(原)泉鏡花(脚)久保田万太郎(撮)中井朝一(美)平川透徹(音)深井史郎(出)花柳章太郎、山田五十鈴、柳永二郎、大矢市次郎、伊志井寛、瀬戸英一、村田正雄

21 8/28(日)2:00pm 9/16(金)4:00pm 10/20(木)1:00pm

愉しき哉人生(77分・35mm・白黒)

戦時下の物資不足を物語の背景にした爽快な喜劇で、柳家金語楼や横山エンタツなどの喜劇俳優が好演。風とともに突然町に引越してきた変わり者の家族は「よろづ工夫屋」を開店し、生活の苦しみはすべて気の持ちようひとつで解決することを町民に教えてゆく。

’44(東宝)(脚)成瀬巳喜男、八住利雄(撮)伊藤武夫(美)北川恵司(音)鈴木靜一(出)柳家金語樓、山根寿子、中村メイコ、横山エンタツ、花岡菊子、渡辺篤、清川玉枝、小高たかし

22 8/28(日)5:00pm 9/20(火)1:00pm 9/28(水)7:00pm

芝居道(82分・35mm・白黒)

日清戦争下の大阪。金儲けよりも大衆が真に求める芝居を打つことを信念とした興行師を軸に、芸人(長谷川)の精神的成長と、娘義太夫(山田)の自己犠牲が美しく描かれる。すべてがセット撮影で、特に道頓堀端の劇場・角座は、戦争末期とは思えないほどの贅沢さ。

’44(東宝)(原)長谷川幸延(脚)八住利雄(撮)小倉金彌(美)中古智(音)清瀬保二(出)古川緑波、長谷川一夫、山田五十鈴、伊井友三郎、花井蘭子、渡辺篤、進藤英太郎、志村喬、伊藤智子、清川荘司、鳥羽陽之助

23 8/30(火)1:00pm 9/23(金・祝)5:00pm 10/5(水)7:00pm

勝利の日まで 藝能戰線版第二輯(15分・35mm・白黒・断片)

海軍の委嘱で製作された慰問用作品。徳川夢声演じる博士が焼夷弾ならぬ「笑慰弾」を開発し、喜劇俳優や映画スターを詰めたロケット砲を戦地に発射する。

’45(東宝)(脚)サトー・ハチロー(撮)立花幹也、木塚誠一(美)北猛夫(音)鈴木靜一(出)徳川夢声、古川緑波、高峰秀子

三十三間堂通し矢物語(77分・35mm・白黒)

成瀬初の時代劇。和佐大八郎の父は、時間内に弓矢で的を射る本数を競う“通し矢”の記録保持者であったが、星野勘左衛門に記録を破られて自害。大八郎は星野の記録を破るため弓道の修行に日夜励む。東宝作品だが戦時のため松竹京都撮影所で撮影された。

’45(東宝)(脚)小国英雄(撮)鈴木博(美)河東安英(出)長谷川一夫、田中絹代、市川扇升、河野秋武、葛城文子、田中春男、横山運平、清川玉枝、鳥羽陽之助、沢井三郎、花沢徳衛

24 8/30(火)4:00pm 10/2(日)2:00pm 10/12(水)1:00pm

四つの恋の物語(110分・35mm・白黒)

東宝争議の結果多くの映画人が会社を去ったが、本作はその残党によって製作された第一作で、全4篇からなるオムニバス映画。成瀬は第2篇の「別れも愉し」を担当。ダンサーの美津子は、恋人がほかの女性を真剣に愛していることを悟り、身を引くことを決意する。

’47(東宝)[第二話「別れも愉し」](脚)小国英雄(撮)木塚誠一(美)江坂実(音)早坂文雄、栗原重一(出)木暮実千代、沼崎勲、英百合子、菅井一郎、小林十九二、竹久千恵子

[第一話「初恋」](監)豊田四郎(脚)黒沢明(撮)川村清衛(美)松山崇(出)池部良、久我美子、志村喬、杉村春子[第三話「恋はやさし」](監)山本嘉次郎(脚)山崎謙太(撮)伊藤武夫(美)北川恵司(出)榎本健一、若山セツ子、飯田蝶子[第四話「恋のサーカス」](監)衣笠貞之助(脚)八住利雄(撮)中井朝一(美)平川透徹(出)浜田百合子、河野秋武、田中筆子、進藤英太郎

25 8/30(火)7:00pm 9/24(土)2:00pm 10/7(金)4:00pm

石中先生行状記(96分・35mm・白黒)

東北地方を舞台に、3つの微笑ましいエピソードが小説家の「石中先生」を狂言回しとして描かれるオムニバス映画。第3話では三船敏郎が朴訥な青年役を好演している。前年のヒット映画『青い山脈』(同じ石坂洋次郎原作)が劇中で引用されている点も面白い。

’50(藤本プロ=新東宝)(原)石坂洋次郎(脚)八木隆一郎(撮)鈴木博(美)中古智(音)服部正(出)宮田重雄、渡辺篤、堀雄二、木匠久美子、進藤英太郎、杉葉子、池部良、藤原釜足、出雲八重子、三船敏郎、飯田蝶子、小島洋々、若山セツ子

26 8/31(水)1:00pm 10/1(土)5:00pm 10/14(金)7:00pm

薔薇合戦(98分・35mm・白黒)

化粧品会社を経営する長女、姉の薦めるままに社内の男と結婚する内気な二女、若い男と「試験結婚」を実践する活動的な三女。3姉妹の波乱に満ちた恋愛・結婚模様は、もうひとつの『乙女ごゝろ三人姉妹』ともいえる。

’50(松竹京都=映画芸術協会)(原)丹羽文雄(脚)西亀元貞(撮)竹野治夫(美)松山崇(音)鈴木靜一(出)三宅邦子、若山セツ子、桂木洋子、鶴田浩二、安部徹、永田光男、若杉曜子、大坂志郎、千石規子、進藤英太郎

27 8/31(水)4:00pm 10/2(日)5:00pm 10/11(火)7:00pm

銀座化粧(87分・35mm・白黒)

大女優・田中絹代を主役にして、銀座のバーで働く女性たちの日常生活が丹念に描かれた佳作。ひとり息子を育てながらバーで働く雪子は、同僚の知人である石川を東京見物に案内した縁で、石川に淡い恋心を抱く。のちの東映監督・石井輝男が助監督についている。

’51(新東宝)(原)井上友一郎(脚)岸松雄(撮)三村明(美)河野鷹思(音)鈴木靜一(出)田中絹代、花井蘭子、堀雄二、香川京子、柳永二郎、東野英治郎、田中春男、小杉義男、三島雅夫、清川玉枝、春山葉子

28 8/31(水)7:00pm 10/13(木)1:00pm 10/22(土)11:00am

舞姫(85分・35mm・白黒)

川端康成の新聞連載小説の映画化で、裕福な家族の絆の崩壊と再生の物語。バレエ講師の妻と大学教授の夫の関係は冷え切ってしまい、妻は徐々に昔の恋人に魅かれてゆく。岡田茉莉子のデビュー作でもある。

’51(東宝)(原)川端康成(脚)新藤兼人(撮)中井朝一(美)中古智(音)齋藤一郎(出)高峰三枝子、山村聰、二本柳寛、片山明彦、岡田茉莉子、木村功、澤村貞子、見明凡太朗、大川平八郎、谷桃子バレエ団

29 9/1(木)1:00pm 10/8(土)11:00am 10/20(木)4:00pm 10/25(火)7:00pm

めし(97分・35mm・白黒)

林芙美子の未完の小説を映画化したもの。結婚5年目の倦怠期を迎えた夫婦のもとに夫の姪が突然転がり込んできたことから生まれる夫婦間の亀裂が、抑制された演出によって描写される。家事に疲れながらも凛とした美しさをたたえる原節子の代表作のひとつ。

’51(東宝)(原)林芙美子(脚)井手俊郎、田中澄江(撮)玉井正夫(美)中古智(音)早坂文雄(出)上原謙、原節子、島崎雪子、杉葉子、杉村春子、風見章子、花井蘭子、二本柳寛、小林桂樹、大泉滉、清水一郎、田中春男、山村聰、中北千枝子

30 9/1(木)4:00pm 10/9(日)11:00am 10/26(水)7:00pm

お國と五平(91分・35mm・白黒)

殺された夫の仇討ちのために旅をする、武士の妻(木暮)と奉公人(大谷)。長旅のうち二人の間には主従を越えた愛情が芽ばえるが、そんな時に目指す敵(山村)が現れてしまう。最後、山村の爽快なまでに打算的な行動が、愛憎渦巻くドラマを脱臼させてしまう異色作。

’52(東宝)(原)谷崎潤一郎(脚)八住利雄(撮)山田一夫(美)中古智(音)清瀬保二(出)木暮実千代、大谷友右ヱ門(中村雀右衛門)、山村聰、田崎潤、鳥羽陽之助、三好榮子、藤原釜足

31 9/1(木)7:00pm 10/9(日)5:00pm 10/18(火)1:00pm 10/28(金)4:00pm

おかあさん(98分・35mm・白黒)

戦災で焼け出されたクリーニング店を再び盛り上げようと、夫や息子を失いつつも懸命に生きる母(田中)、とその姿を見つめる娘(香川)。小学生の作文から着想されたホームドラマで、悲哀の中にユーモラスな表現もにじませた構成は、松竹蒲田時代への回帰も感じさせる。

’52(新東宝)(脚)水木洋子(撮)鈴木博(美)加藤雅俊(音)齊藤一郎(出)田中絹代、香川京子、岡田英次、片山明彦、加東大介、鳥羽陽之助、三島雅夫、中北千枝子、三好榮子、一の宮あつ子、本間文子、澤村貞子

32 9/2(金)1:00pm 10/6(木)7:00pm 10/15(土)5:00pm 10/30(日)2:00pm

稲妻(87分・35mm・白黒)

4人の子がいずれも父親の違う家庭の末娘(高峰)が、ゴタゴタした家族づきあいに嫌気が差し、家を出る。成瀬にとって初の大映作品で、慣れないスタッフとの仕事だが、家族がそれぞれの思いを秘めて蕎麦を食べるシーンなど、成瀬独自の視線劇は揺るぎない。

’52(大映東京)(原)林芙美子(脚)田中澄江(撮)峰重義(美)仲美喜雄(音)齊藤一郎(出)高峰秀子、三浦光子、香川京子、村田知英子、根上淳、小澤榮、浦辺粂子、中北千枝子

33 9/2(金)4:00pm 10/8(土)5:00pm 10/19(水)4:00pm

夫婦(86分・35mm・白黒)

転勤で東京に戻り、一人暮らしのやもめ男(三国)の家に間借りした倦怠期の夫婦が、妊娠をきっかけに愛情を再確認してゆく。『めし』の姉妹篇として企画されたが、休養中の原節子に代わって上原謙の妻役を演じた杉葉子が新たな魅力を放っている。

’53(東宝)(脚)水木洋子、井手俊郎(撮)中井朝一(美)松山崇(音)齋藤一郎(出)上原謙、杉葉子、三国連太郎、小林桂樹、藤原釜足、岡田茉莉子、豊島美智子、田代百合子

34 9/2(金)7:00pm 10/9(日)2:00pm 10/18(火)4:00pm

(96分・35mm・白黒)

結婚10年目、夫婦関係に疲れた夫(上原)は会社のタイピストとの浮気に走るが、妻に知られて別れさせられる。『めし』『夫婦』と合わせて「夫婦」3部作とも呼ばれるが、ここでは冷え切った夫婦の絆は修復されずに終わる。怠惰で冷淡な妻を演じ切ったのは高峰三枝子。

’53(東宝)(原)林芙美子(脚)井手俊郎(撮)玉井正夫(美)中古智(音)齋藤一郎(出)上原謙、高峰三枝子、丹阿彌谷津子、高杉早苗、新珠三千代、三国連太郎、清水將夫、石黒達也

35 9/3(土)11:00am 9/20(火)4:00pm 10/27(木)7:00pm

あにいもうと(86分・35mm・白黒)

成瀬が長年計画を温めていたという室生犀星の名作の映画化で、舞台は多摩川べりの小さな町である。がさつな性格、乱暴な言葉の中に妹への愛情をにじませる森雅之の演技が素晴らしい。『稲妻』に続いて再び浦辺粂子が母親役を好演。

’53(大映東京)(原)室生犀星(脚)水木洋子(撮)峰重義(美)仲美喜雄(音)齋藤一郎(出)京マチ子、森雅之、久我美子、堀雄二、船越英二、山本禮三郎、浦邊粂子、潮万太郎、宮嶋健一

36 9/3(土)2:00pm 9/21(水)7:00pm 10/14(金)1:00pm 10/23(日)5:00pm

山の音(94分・35mm・白黒)

愛人のいる息子(上原)に相手にされぬ嫁(原)と、彼女を不憫に思う義父(山村)の交流を描くが、二人の心の通わせ合いには一抹のエロティシズムさえ漂う。ロケーションに見える路上シーンの多くがオープンセット撮影という事実に、中古智らの高い技術力が見える。

’54(東宝)(原)川端康成(脚)水木洋子(撮)玉井正夫(美)中古智(音)齋藤一郎(出)原節子、山村聰、上原謙、杉葉子、長岡輝子、丹阿彌谷津子、中北千枝子、角梨枝子、十朱久雄、北川町子、金子信雄

37 9/3(土)5:00pm 9/22(木)4:00pm 10/28(金)7:00pm

晩菊(101分・35mm・白黒)

不動産と金貸しで生計をたてる中年女(杉村)など、芸者上がりの4人の女のエピソードからなる作品で、名優杉村の唯一の主演作。小品ながら、彼女の元へ若い頃に大恋愛をした男(上原)が金を借りに来るシーンの描写などは圧巻である。

’54(東宝)(原)林芙美子(脚)田中澄江、井手俊郎(撮)玉井正夫(美)中古智(音)齋藤一郎(出)杉村春子、上原謙、沢村貞子、細川ちか子、望月優子、小泉博、有馬稲子、見明凡太朗、沢村宗之助、加東大介

38 9/4(日)11:00am 9/20(火)7:00pm 10/13(木)4:00pm 10/29(土)2:00pm

浮雲(122分・35mm・白黒)

戦時中にインドシナで愛し合った過去を持つ一組の男女(森・高峰)が、敗戦後の世情の中でまたたく間に転落してゆく。今も壮絶な光彩を放つ成瀬の代表作だが、撮影の玉井は、いつもの成瀬作品とは違う「こってり」とした「油絵調」の画調を目指したと述懐している。

’55(東宝)(原)林芙美子(脚)水木洋子(撮)玉井正夫(美)中古智(音)齋藤一郎(出)高峰秀子、森雅之、岡田茉莉子、山形勲、中北千枝子、加東大介、木匠マユリ、千石規子、村上冬樹、大川平八郎、金子信雄、ロイ・H・ジェームズ

39 9/4(日)2:00pm 9/21(水)1:00pm 10/18(火)7:00pm 10/27(木)1:00pm

驟雨(90分・35mm・白黒)

東京西部の新興住宅地を舞台に、面倒な近所づきあいの中で、生活に倦み始めた夫婦のすれ違う心情を浮かび上がらせた1956年の正月映画。脚本は岸田国士の数篇の一幕戯曲を水木洋子がまとめたもので、題名の通り、成瀬映画が好んだ雨も効果的に使われる。

’56(東宝)(原)岸田國士(脚)水木洋子(撮)玉井正夫(美)中古智(音)齊藤一郎(出)原節子、佐野周二、香川京子、根岸明美、小林桂樹、中北千枝子、東郷晴子、長岡輝子、加東大介

40 9/4(日)5:00pm 9/22(木)1:00pm 10/14(金)4:00pm

妻の心(98分・35mm・白黒)

家業建て直しのため、副業として喫茶店を持とうとする薬問屋の夫婦(高峰・小林)。だが職を失った夫の兄(千秋)が東京から戻ると一家に波風が立ち始める。喫茶店開店を助ける知人の兄に『石中先生行状記』以来の三船敏郎が扮し、シャイな青年を好演している。

’56(東宝)(脚)井手俊郎(撮)玉井正夫(美)中古智(音)齊藤一郎(出)高峰秀子、小林桂樹、千秋実、中北千枝子、三好栄子、根岸明美、田中春男、花井蘭子、杉葉子、三船敏郎、加東大介、沢村貞子

41 9/6(火)1:00pm 9/24(土)5:00pm 10/19(水)7:00pm 10/30(日)5:00pm

流れる(116分・35mm・白黒)

落ちぶれかかった柳橋の置屋に暮らす芸者たちの哀歓を、この上なく豪華な女優陣によって綴った大作。人物の視線の交わしあいにストーリーを語らせる成瀬演出が冴え渡るが、大ベテラン栗島すみ子だけは現場でも監督を「巳喜ちゃん」と呼んではばからなかった。

’56(東宝)(原)幸田文(脚)田中澄江、井手俊郎(撮)玉井正夫(美)中古智(音)齊藤一郎(出)田中絹代、山田五十鈴、髙峰秀子、岡田茉莉子、杉村春子、栗島すみ子、中北千枝子、賀原夏子、宮口精二、加東大介、中村伸郎、音羽久米子

42 9/6(火)4:00pm 10/1(土)2:00pm 10/20(木)7:00pm

あらくれ(121分・35mm・白黒)

成瀬がかつて傾倒していた徳田秋声が原作で、高峰秀子が時には激情にも駆られる気丈な大正の女に扮した。『あにいもうと』とは正反対の気弱な旦那を演じる森雅之、いやみな性格で高峰の「敵」となる三浦光子など、人物の描き分けも見事。にわか雨の描写も印象的。

’57(東宝)(原)徳田秋声(脚)水木洋子(撮)玉井正夫(美)河東安英(音)斎藤一郎(出)高峰秀子、上原謙、森雅之、加東大介、仲代達矢、東野英治郎、岸輝子、宮口精二、中北千枝子、三浦光子、千石規子、坂本武、志村喬

43 9/6(火)7:00pm 10/8(土)2:00pm 10/21(金)1:00pm

杏っ子(109分・35mm・白黒)

有名な作家(山村)の娘(香川)と結婚したために、劣等感に苛まれ、夫婦の暮らしまでをも荒廃させてゆく文学青年。成瀬の作品歴の中でも屈指のふがいない男を木村功が熱演した。木村が障子越しに老作家をじっと見つめるシーンの視線演出が痛ましい。

’58(東宝)(原)室生犀星(脚)田中澄江、成瀬巳喜男(撮)玉井正夫(美)中古智(音)斎藤一郎(出)香川京子、木村功、山村聰、小林桂樹、三井美奈、加東大介、千秋実、太刀川洋一、佐原健二、夏川靜江、中村伸郎、藤木悠、中北千枝子

44 9/7(水)1:00pm 10/2(日)11:00am 10/21(金)7:00pm

鰯雲(129分・35mm・カラー)

東京近郊の農家を舞台に、田園のロケーション撮影という新機軸を見せた成瀬=玉井コンビ初の色彩・シネマスコープ作品。こうしたテーマ自体も成瀬にとって新鮮な試みだったが、農家の嫁という慣れない役柄を演じた淡島は、耕耘機の運転習得に苦労したという。

’58(東宝)(原)和田傳(脚)橋本忍(撮)玉井正夫(美)中古智、園眞(音)齋藤一郎(出)淡島千景、新珠三千代、司葉子、木村功、小林桂樹、水野久美、加東大介、中村鴈治郎、杉村春子、清川虹子、飯田蝶子、大塚国夫、太刀川洋一、長岡輝子

45 9/7(水)4:00pm 10/15(土)2:00pm 10/28(金)1:00pm

コタンの口笛(126分・35mm・カラー)

北海道のコタン(アイヌ村落)で、有形無形の差別と戦いながら中学生活を送る姉弟(幸田・久保)に、父(森)の事故死が伝えられる。秋の短い北海道の雄大な風景をシネマスコープ画面に収めるため、中古は川の流域に家族の住居となるオープンセットを建築した。

’59(東宝)(原)石森延男(脚)橋本忍(撮)玉井正夫(美)中古智(音)伊福部昭(出)久保賢、幸田良子、森雅之、宝田明、久保明、水野久美、志村喬、山茶花究、土屋嘉男、中北千枝子

46 9/7(水)7:00pm 9/24(土)11:00am 10/16(日)2:00pm 10/27(木)4:00pm

女が階段を上る時(111分・35mm・白黒)

夫に先立たれて銀座のバーで雇われマダムとして働く女(高峰)。新しい店を持ったものの、エゴの強い男たちに囲まれ、流されてゆく姿が一人称のナレーションで綴られる。撮影の玉井は銀座のバーの構造を丁寧に調査して撮影に臨み、衣装は高峰秀子自らが担当。

’60(東宝)(脚)菊島隆三(撮)玉井正夫(美)中古智(音)黛敏郎(出)髙峰秀子、森雅之、団令子、仲代達矢、加東大介、中村鴈治郎、小沢栄太郎、淡路惠子、山茶花究、多々良純、藤木悠、織田政雄、三津田健、細川ちか子、沢村貞子

47 9/8(木)1:00pm 10/16(日)11:00am 10/21(金)4:00pm

娘・妻・母(122分・35mm・カラー)

大家族のもとに出戻ってきた長女(原)に、再婚話、兄の事業失敗、姑との同居などの悩み事がのしかかる。「人生と呼ばれる治癒不可能な傷の肖像」(A・ボック)を鋭く描写したホームドラマ大作。長年のパートナー玉井が豊田四郎に引き抜かれて撮影は安本淳に交代。

’60(東宝)(脚)井手俊郎、松山善三(撮)安本淳(美)中古智(音)斎藤一郎(出)原節子、髙峰秀子、宝田明、小泉博、仲代達矢、三益愛子、森雅之、団令子、草笛光子、淡路恵子、加東大介、上原謙、杉村春子、笠智衆

48 9/8(木)4:00pm 10/15(土)11:00am 10/25(火)1:00pm

夜の流れ(111分・35mm・カラー)

花柳界の料亭の女将(山田)とその娘(司)の、板前(三橋)をめぐる確執を描く。旧世代の人物を成瀬が、新世代の場面を川島雄三が担当するという珍しい共同演出が試みられたが、川島らしいテンポの良さと、成瀬の落ち着いたストーリー運びの違いがよく分かる。

’60(東宝)(共同監督)川島雄三(脚)井手俊郎、松山善三(撮)安本淳、飯村正(美)松山崇、北辰雄(音)斉藤一郎(出)司葉子、山田五十鈴、宝田明、三橋達也、白川由美、水谷良重、草笛光子、三益愛子、越路吹雪、志村喬、星由里子、横山道代、岡田真澄、中丸忠雄、村上冬樹

49 9/8(木)7:00pm 10/16(日)5:00pm 10/26(水)4:00pm

秋立ちぬ(79分・35mm・白黒)

父に死なれ、東京築地にある母の実家に預けられた6年生の少年と、4年生になる近所の旅館の娘とのはかない友情を、下町の情緒を交えて綴る。成瀬には子どもが主人公の作品は多くないが、ロケーションを多用し、さらりとした寂寥感に包まれた佳品である。

’60(東宝)(脚)笠原良三(撮)安本淳(美)北辰雄(音)齋藤一郎(出)乙羽信子、夏木陽介、原知佐子、加東大介、河津清三郎、大澤健三郎、一木双葉、藤原釜足、賀原夏子、菅井きん

50 9/9(金)1:00pm 10/12(水)4:00pm 10/22(土)2:00pm

妻として女として(106分・35mm・カラー)

戦後の混乱の中、妻ある男(森)に頼って生きるしかない女(高峰)が、男の本妻(淡島)との間に静かな火花を散らしながら、ついには男と別れる決心をする。崩壊する家庭の姿を流麗な演出で見せるメロドラマで、とりわけ二人の女の間にみなぎる緊張感が素晴らしい。

’61(東宝)(脚)井手俊郎、松山善三(撮)安本淳(美)中古智(音)斎藤一郎(出)髙峰秀子、淡島千景、森雅之、仲代達矢、星由里子、水野久美、淡路惠子、飯田蝶子、丹阿弥谷津子

51 9/9(金)4:00pm 10/11(火)1:00pm 10/23(日)11:00am

女の座(111分・35mm・白黒)

荒物屋を営む大家族にあって、それぞれの生き方を模索する女たちの姿を描いたオールスター作品。未亡人(高峰)の目で解体に瀕する家族を見つめ、その中心をなす父親に笠智衆を配するなど、見方によっては小津安二郎『東京物語』の変奏曲にも感じられる。

’62(東宝)(脚)井手俊郎、松山善三(撮)安本淳(美)中古智(音)斎藤一郎(出)高峰秀子、司葉子、星由里子、団令子、淡路恵子、草笛光子、笠智衆、宝田明、三橋達也、小林桂樹、杉村春子、丹阿弥谷津子、三益愛子、夏木陽介、加東大介

52 9/9(金)7:00pm 10/19(水)1:00pm 10/30(日)11:00am

放浪記(123分・35mm・白黒)

文壇の脚光を浴びるまでの、苦闘の生活を描いた林芙美子の自伝的小説は本作が3度目の映画化だが、今回は東宝演劇の菊田一夫版もベースになっている。奔放な生き方を望み、カフェで働きながらひたすら書き続ける“ふみ子”を、高峰秀子はあえて誇張した演技で表現した。

’62(宝塚映画)(原)林芙美子、菊田一夫(脚)井手俊郎、田中澄江(撮)安本淳(美)中古智(音)古関裕爾(出)高峰秀子、田中絹代、宝田明、加東大介、小林桂樹、草笛光子、仲谷昇、伊藤雄之助、多々良純、織田政雄、加藤武、飯田蝶子

53 9/11(日)11:00am 9/16(金)7:00pm 10/25(火)4:00pm

女の歴史(126分・35mm・白黒)

日中戦争の時代に嫁ぎ、義父の倒産や夫の戦死、一人息子の事故死など、波乱の半生を綴った女(高峰)の一代記。横溢するエピソードの群れをさばき、太い一本の流れを形作った成瀬の手腕が光る。脚本の笠原良三は、モーパッサン原作の映画『女の一生』にヒントを得たという。

’63(東宝)(脚)笠原良三(撮)安本淳(美)中古智(音)斉藤一郎(出)高峰秀子、仲代達矢、宝田明、星由里子、山崎努、賀原夏子、淡路恵子、草笛光子、加東大介、藤原釜足、堺左千夫、中北千枝子、清水元

54 9/11(日)2:00pm 9/21(水)4:00pm 10/13(木)7:00pm 10/29(土)5:00pm

乱れる(98分・35mm・白黒)

夫の遺した酒屋を20年も守ってきた寡婦(高峰)が、帰郷した義弟(加山)に恋心を打ち明けられて動揺し、家を出てゆく。衝撃のラストを含めて見どころが多いが、とりわけ夜行列車のシーンの、義弟が席を変えながら徐々に兄嫁に近づいてゆく演出に緊張感がみなぎる。

’64(東宝)(脚)松山善三(撮)安本淳(美)中古智(音)斉藤一郎(出)高峰秀子、加山雄三、草笛光子、白川由美、浜美枝、三益愛子、藤木悠、北村和夫、十朱久雄、浦辺粂子、柳谷寛、佐田豊、中山豊、矢吹寿子、中北千枝子

55 9/11(日)5:00pm 9/22(木)7:00pm 10/26(水)1:00pm

女の中にいる他人(102分・35mm・白黒)

外国小説から翻案された、成瀬には珍しい心理サスペンス。友人の妻を情事の最中に誤って殺した男(小林)は自首を考えるが、一見貞淑な妻(新珠)は冷徹な計画を抱いていた…。画面は当時では珍しくなったスタンダードサイズで、白黒反転画像も駆使している。

’66(東宝)(原)エドワード・アタイヤ(脚)井手俊郎(撮)福沢康道(美)中古智(音)林光(出)小林桂樹、新珠三千代、三橋達也、草笛光子、若林映子、長岡輝子、加東大介、藤木悠、十朱久雄、稲葉義男、関千恵子

56 9/13(火)1:00pm 10/12(水)7:00pm 10/22(土)5:00pm

ひき逃げ(94分・35mm・白黒)

男の子をひき逃げしながら、夫の力で罪を逃れた重役夫人(司)が、家政婦としてやってきた被害者の母親(高峰)の手で追い詰められてゆく一種のサスペンス映画。時代の社会問題を好んで取り上げた松山善三が、成瀬のために選んだテーマは交通戦争であった。

’66(東宝)(脚)松山善三(撮)西垣六郎(美)中古智(音)佐藤勝(出)高峰秀子、司葉子、小沢栄太郎、加東大介、中山仁、黒沢年男、賀原夏子、浦辺粂子、稲葉義男、加藤武、土屋嘉男

57 9/13(火)4:00pm 10/7(金)7:00pm 10/23(日)2:00pm 10/29(土)11:00am

乱れ雲(108分・35mm・カラー)

交通事故で最愛の夫を死なせた男(加山)に、憎悪と恋慕の入り交じった複雑な感情を抱いてしまう女(司)。「若大将」の加山とはまったく違う演技を引き出した成瀬は、二人の別れとなる十和田湖畔のシーンをスリリングな名演出で飾ったが、これが最後の一本となった。

’67(東宝)(脚)山田信夫(撮)逢沢譲(美)中古智(音)武滿徹(出)加山雄三、司葉子、草笛光子、森光子、浜美枝、加東大介、土屋嘉男、藤木悠、中丸忠雄、中村伸郎、村上冬樹