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尾上松之助 生誕130周年記念講演・特別上映会

2005年9月10日(土)
東京国立近代美術館フィルムセンター大ホール(2階)
主催: 東京国立近代美術館フィルムセンター
協力: 京都府京都文化博物館/立命館大学アート・リサーチセンター

 本年は我が国最古の映画スター、尾上松之助(1875-1926)の生誕130周年にあたります。これにあわせて、フィルムセンターでは専門機関や関係者、収集家の協力により現存が確認された貴重な資料を一堂に集めた展覧会「尾上松之助と時代劇スターの系譜」を4月より開催し、その業績を顕彰してきました。

 そして9月12日の生誕記念日を目前に控えて開催されるこのイベントでは、現存するフィルムを可能な限り集めて上映するとともに(一部弁士付き)、第一線の研究者たちを講演者として招き、世界にも類を見ない元祖スーパー・スターの業績を様々な角度から検証します。尾上松之助が残した偉大な遺産に触れる千載一遇の機会をお見逃し無く。

定員
310名、但しプログラム3は300名(各回入替制)

料金
一般500円/高校・大学生・シニア300円/小・中学生100円
*但しプログラム3は特別料金
一般1000円/高校・大学生・シニア800円/小・中学生600円

●開映後の入場はできません(講演中の入場は可)。
●観覧券は当日・当該回にのみ有効です。
●発券・開場は開演の30分前から行い、定員に達し次第締切となります。
●シニア(65歳以上)の方は、必ず年齢を証明できるものをご提示ください。

■監=監督・演出 撮=撮影 美=美術 出=出演
■本特集には不完全なプリントが含まれています。
■記載した上映分数は、当日のものと多少異なることがあります。
■イベントの内容は止むを得ず変更される場合があります。

プログラム111:00am
講演(30分):児玉竜一「歌舞伎役者としての尾上松之助」
史劇 楠公訣別 (17分・16fps・35mm)

東京教育博物館で開かれた我が国最初の「活動写真展覧会」の記録映像。同展には摂政宮殿下(後の昭和天皇)が行啓される一幕もあり、松之助はその御前で「楠公桜井の別れ」を実演する栄誉に浴した。展覧会の成功は活動写真の社会的イメージの向上に大いに貢献したといわれるが、同時に松之助が当時の活動写真界を代表する存在であったことが判る。

1921(日活)

忠臣蔵 (活弁トーキー版・43分・35mm)

旧作に新場面を補足し、忠臣蔵映画史上初の「全通し」とした作品で、松之助は浅野内匠頭、大石内蔵助、清水一角の三役を演じている。現存するのは戦後再公開時の活弁トーキー版。大正期に追加撮影された箇所も含まれているようだが、屋外で撮影された室内場面などに横田商会時代の映画作りを偲ぶことができる。資料によればオリジナルは6巻。

1910-12(横田商会)(監)牧野省三(出)尾上松之助、片岡市之正、嵐橘楽、大谷鬼若、片岡市太郎、大谷友三郎、水谷芳夫

実録 忠臣蔵 (部分・20分・16fps・35mm)

松之助の没年に製作された最後の忠臣蔵映画で、旧作と比べるとセットや話法の進化が顕著である。女優やインタータイトルの採用を促した新人監督・池田富保は松之助の義弟にあたる。また、震災の被害で京都へ移った向島撮影所員との「新旧合同」により、新派の名優・山本嘉一が吉良上野介に扮している。本来は「天の巻」「地の巻」「人の巻」からなる20巻(3時間以上)の長尺ものであったが、上映プリントの原版は京都文化博物館所蔵のパテベビー9.5mm版で「地の巻」の1~3巻と「人の巻」の1~2巻のみが現存している。

1926(日活大将軍)(監)池田富保(進行係)小林弥六(撮)松村清太郎(美)築山光吉(出)尾上松之助、山本嘉一、河部五郎、実川延一郎、酒井米子、中村仙之助

プログラム22:00pm
講演(30分):冨田美香「”目玉の松ちゃん”の功績」
豪傑児雷也 (21分・16fps・35mm)

松之助映画の中にとりわけ重要な位置を占めていたのが忍術ものであり、児雷也は松之助が繰り返し演じた主人公の一つである。松之助のケレンに加え、止め写しや二重露光といった初期のトリック撮影、着ぐるみによる蝦蟇(児雷也)と蛞蝓(綱手姫)、大蛇(大蛇丸)の三つ巴が見もの。日本映画の父・牧野省三とのコンビ末期の作品としても貴重である。

1921(日活大将軍)(監)牧野省三(出)尾上松之助、片岡松燕、片岡長正、大谷鬼若、市川寿美之丞

弥次喜多 善光寺詣りの巻 (61分・18fps・16mm)

善光寺詣りから安芸の宮島、高砂の浦、舞子の浜へと脱線の旅を続ける弥次郎兵衛(松之助)と喜多八(中村扇太郎)が、道中で繰り広げる珍騒動。講談の英雄、豪傑、侠客などを当たり役にしていた松之助の芸域の広さを知ることができるうえ、観光名所の実景を随所に挿入した構成もユニーク。京都文化博物館の所蔵プリント。資料によればオリジナルは6巻。

1921(日活大将軍)(監)辻吉朗、小林弥六(出)尾上松之助、中村扇太郎、実川延一郎、中村仙之助

プログラム35:00pm
講演(30分):小松弘「映画俳優 尾上松之助」
渋川伴五郎 (63分・24fps・16mm)

柔術の達人渋川蟠龍軒の倅、伴五郎が生来の怪力を発揮しつつ父の仇を討つまでを描く。数少ない現存作品の中ではオリジナルの7巻がほぼ完全なかたちをとどめている貴重なケース。芝の花相撲や霧島山の土蜘蛛退治などの豊富な見せ場で松之助の勇姿を存分に堪能することができる。佐々木宗平を演じる尾上松三郎は後の大監督・池田富保。京都文化博物館の所蔵プリントを上映。

1922(日活大将軍)(監)築山光吉(出)尾上松之助、実川延一郎、大谷鬼若、中村仙之助、尾上卯多五郎、片岡松燕、片岡長正、嵐璃珀

弁士:澤登翠 伴奏:村井音文

講演者紹介
児玉竜一(こだま・りゅういち)
日本女子大学文学部助教授。歌舞伎研究と評論の立場から、時代劇映画を近代芸能史と関連づけて考察している。共編著に「能楽 文楽 歌舞伎」(2002年)、「芝居絵に見る江戸・明治の歌舞伎」(2003年)など。
冨田美香(とみた・みか)
立命館大学文学部助教授。同学アート・リサーチセンターでマキノ・プロジェクトや大映京撮プロジェクトを立ち上げ、京都映画史の発掘・再検証に取り組んでいる。編著書に「千恵プロ時代」(1997年)。
小松弘(こまつ・ひろし)
早稲田大学文学学術院教授。無声映画研究の第一人者として執筆、翻訳、講演、海外映画祭のコーディネートなどを行うかたわら、収集家としてフィルムの発掘、復元にも努めている。著書に「起源の映画」(1991年)。

弁士紹介
澤登翠(さわと・みどり)
故・松田春翠に師事し、1973年のデビュー以来「伝統話芸・活弁」を伝える貴重な存在として活躍。海外公演も17回を数えている。映画評、エッセイなども執筆。著書に「活動弁士世界を駆ける」(2002年)。
伴奏(キーボード)
村井音文(むらい・おとふみ)
ピアノ、ヴァイオリンの奏者、合唱団やオーケストラの指揮、テレビ番組の作曲などを手がける一方、2000年よりカラード・モノトーンの一員として無声映画の伴奏に進出。2001年のポルデノーネ無声映画祭にも参加している。