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大ホール上映作品

生誕百年特集 映画監督 豊田四郎

Shiro Toyoda Retrospective at his Centenary

5月31日(火)- 7月17日(日)→上映スケジュール
定員=310名(各回入替制)
発券=2階受付
料金=一般500円/高校・大学生・シニア300円/小・中学生100円
・観覧券は当日・当該回にのみ有効です。
・発券・開場は開映の30分前から行い、定員に達し次第締切となります。
・シニア(65歳以上)の方は、必ず年齢を証明できるものをご提示ください。

 2005年は、日本映画史に大書される少なからぬ数の監督が一時に生誕百年を迎える年にあたります。フィルムセンターでは、これを記念して、斎藤寅二郎、中川信夫、野村浩将、成瀬巳喜男、豊田四郎、稲垣浩(誕生順)という6人の名匠、巨匠の作品を、1年を通じて連続上映してまいります。

 稲垣浩監督に続いてお贈りする生誕百年記念第2弾は、豊田四郎監督の特集です。

 1905(明治38)年12月25日、京都に生まれた豊田四郎は、十代で上京して後の『雁』で俳優として起用する日活向島の監督・田中栄三に師事、また、松竹蒲田に入社後は島津保次郎門下となって修練を積み、29年に一旦監督昇進を果たします。1935年にはトーキーの製作をめざして東京発声へ移籍、研鑽の甲斐あって石坂洋次郎原作の『若い人』(1937年)を大ヒットさせ、監督としての地歩を固めました。さらに次々と秀作を発表し、著名な文学を映画化する才能と作品を貫く真摯なヒューマニズムの視点が高く評価された豊田は、戦中に停滞期を迎えるものの、1953年、森鷗外原作の大作『雁』で本来の実力を全面的に発揮、その後は(戦中に東京発声を吸収合併した)東宝の文芸映画路線を担う巨匠として、また、東京映画(東宝傘下)の看板監督として活躍を続けてゆきます。なかでも、気弱な男性としっかり者の女性という豊田らしい登場人物を森繁久彌と淡島千景に演じさせた織田作之助原作の『夫婦善哉』(1955年)は、三浦光雄撮影の名調子とも相俟って畢生の傑作となり、ここで顔を合わせた主役の二人は戦後日本映画を代表する名コンビとして永く人気を博すことになりました。

 永井荷風、志賀直哉、川端康成から坂口安吾、谷崎潤一郎、井伏鱒二まで、あたかも近代日本文学の巨魁を網羅するかのように名だたる文豪の話題作を映画化していった豊田は、しかし、そうした“原作の知られた商業映画”を発表しつつも芸術家としての個性を失うことはなく、女性を描く名手と謳われながら、同時に、ユーモアを交えて男の本性と夢を探索し続ける映画作家であり続けました。

 フィルムセンターは、同監督の3回忌にあたる1979(昭和54)年11月に当時としては最大規模の回顧特集を開催しましたが、それから四半世紀以上の歳月を経た生誕百年の本年、新たに収蔵されたプリントを加え、42作品でこの偉大な映画監督を回顧いたします。多くの皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。

■(監)=監督・演出 (原)=原作・原案 (脚)=脚本・脚色・潤色 (撮)=撮影 (美)=美術・美術監督 (音)=音楽 (出)=出演

■本特集には不完全なプリントが含まれています。

■記載した上映分数は、当日のものと多少異なることがあります。

1 5/31(火)3:00pm 6/24(金)7:00pm

若い人(81分・35mm・白黒)

1929年に一旦デビューしながら、その後松竹の撮影所で修業を積んだ豊田四郎が31歳で発表した清新な出世作。父親を知らぬ女子学生(市川)をめぐって理知的な男女の教師(大日方と夏川)が対立し、やがて親密さを育んでゆく。この原作はその後も3度リメイクされた。

’37(東京発声映画製作所)(原)石坂洋次郎(脚)八田尚之(撮)小倉金弥(美)河野鷹思(音)久保田公平(出)大日方傳、市川春代、夏川靜江、英百合子、山口勇、伊藤智子、林千歳、押本映二、鹿島俊策、松林清三郎、春日章、松田宏一、吉川英蘭

2 5/31(火)7:00pm 6/29(水)3:00pm

泣蟲小僧(80分・35mm・白黒)

母親(栗島)から相手にされなくなって親戚の家をたらい回しにされ、安住の場所を持たぬ「泣虫小僧」の悲哀を淡々と綴った小品。大人たちにもそれぞれの事情があり、そうした描写の丁寧な積み重ねが演出家としての豊田の成長を物語る。

’38(東京発声映画製作所)(原)林芙美子(脚)八田尚之(撮)小倉金弥(美)河野鷹思(音)今澤将矩(出)藤井貢、林文雄、栗島すみ子、逢初夢子、市川春代、梅園竜子、山口勇、一木禮司、高島敏郎、藤輪欣司、吉川英蘭、品川眞人、横山一雄

3 6/1(水)3:00pm 6/25(土)1:00pm

冬の宿(84分・35mm・白黒・不完全)

木下恵介『女の園』と並んで、作家・阿部知二が原作者として残した名作。ムーラン・ルージュの水町庸子、清楚なタイピストを演じる原節子などの女優陣も見所である。フィルムは長らく行方不明とされていたが、近年可燃性の原版が発見され、2003年に復元初上映が行われた。

’38(東京発声映画製作所)(原)阿部知二(脚)八田尚之(撮)小倉金彌(美)進藤誠吾(音)中川栄三、津川主一(出)勝見庸太郎、水町庸子、原節子、北沢彪、藤輪欣司、林文夫、島絵美子、堀川浪之助、押本映治、伊志井正也、田辺若男、伊田芳美、平陽光、青野瓢吉、南部邦彦、一木禮司

4 6/1(水)7:00pm 6/24(金)3:00pm

(71分・35mm・白黒)

東北の田舎町の警察に、捜索願を出しにきた老婆、ニワトリ泥棒、無免許の産婆、鳥売りの娘などの人々が次から次へと現れて騒動を起こす。はかどらない『冬の宿』の撮影の合間を縫って11日間で撮影された小品だが、迫力のある集団劇になっている。

’38(東京発声映画製作所)(原)伊藤永之介(脚)八田尚之(撮)小倉金弥(美)進藤誠吾(音)中川栄三(出)勝見庸太郎、霧立のぼる、清川虹子、御橋公、伊達信、鶴丸睦彦、押本映治、堤眞佐子、村井キヨ、藤輪欣司、北沢彪、汐見洋、文野朋子、杉村春子、水町庸子、藤間房子、堀川浪之助

5 6/2(木)3:00pm 6/25(土)4:00pm

小島の春(88分・35mm・白黒)

瀬戸内に面するハンセン氏病の療養所で働く女医と、入所を拒む人々との葛藤を描いた当時の話題作。世間の目を恐れる桃畑の女、杉村春子の熱演が評価され、本作を観た高峰秀子もこの演技に「雷に打たれたようなショックを受けた」と述べた。その年の「キネマ旬報」で第1位を得た。

’40(東京発声映画製作所)(原)小川正子(脚)八木保太郎(撮)小倉金弥(美)園眞(音)津川主一(出)夏川静江、菅井一郎、杉村春子、清水美佐子、水谷史郎、勝見庸太郎、林幹、英百合子、田中筆子、菊川郁子、中村メイコ、三津田健、小島洋々、二葉かほる

6 6/2(木)7:00pm 6/26(日)1:00pm

大日向村(84分・35mm・白黒)

この頃の豊田は、『奥村五百子』や『小島の春』など時事的なテーマの作品を続けて発表したが、これも長野県の寒村で貧困を強いられてきた農民が、満州に新天地を求めて移住する姿を記録映画的なスタイルで描いた一本。前進座の俳優が多数出演している。

’40(東京発声映画製作所)(原)和田傳(脚)八木隆一郎(撮)小原譲治(美)園眞(音)中川栄三(出)河原崎長十郎、中村翫右衛門、杉村春子、伊藤智子、藤間房子、藤輪欣司、生方賢一郎、林幹、中村鶴蔵、坂東調右ヱ門、市川菊之助、市川笑太郎、助高屋助蔵、市川莚司、橘小三郎、瀬川菊之丞、原緋沙子

7 6/3(金)3:00pm 6/28(火)7:00pm

わが愛の記(99分・16mm・白黒)

陸軍病院の看護婦であった女性が、前線での負傷のため下半身不随となった兵士と結婚したという「軍国美談」から生まれた作品。主演の山岸美代子は後に女優・岩下志麻の母親となった新劇女優、遠藤慎吾は後に演劇評論家となった俳優座の若手である。

’41(東京発声映画製作所)(原)山口さとの(脚)八木保太郎(撮)小倉金弥(美)園眞(音)深井史郎(出)遠藤愼吾、山岸美代子、三桝万豊、林千歳、矢口陽子、小高たかし、三原純、横山運平、横田儔、林幹、石黒達也、杉村春子、志村アヤコ、末弘美子、関志保子

8 6/3(金)7:00pm 6/26(日)4:00pm

若き姿(81分・35mm・白黒・不完全)

日本支配下の朝鮮を舞台に、日本の勝利を信じて厳しい軍事教練に励む中学生たちを描く。1942年に設立された国策会社、朝鮮映画の第1回作品で、女優文芸峯(ムン・イェボン)など現地の名優も出演したが、スタッフはほとんど内地から派遣された。冒頭が欠落している。

’43(朝鮮映画)(脚)八田尚之(撮)三浦光雄(美)五所福之助、高垣昇(出)丸山定夫、月形龍之介、高山徳右衛門、佐分利信、龍崎一郎、永田靖、東山千栄子、三谷幸子、黄澈、文芸峯、金玲、清川荘司、中村彰、森赫子

9 6/4(土)1:00pm 6/28(火)3:00pm

女の四季(100分・35mm・白黒)

引揚者の女性画家(若山)が、恩師や知り合い、親戚の家を転々とする中で、戦後のすさんだ世相を思い知らされる。とりわけ、図々しい老女に扮した杉村春子の演技に圧倒させられる。豊田は本作で、後に不動の右腕となる脚本家・八住利雄と初めてコンビを組んだ。

’50(東宝)(原)丹羽文雄(脚)八住利雄(撮)木塚誠一(美)久保一雄(音)飯田信夫(出)若山セツコ、杉村春子、池部良、東山千榮子、薄田研二、荒木道子、藤原釜足、赤木蘭子、渡辺篤、谷間小百合、小杉義男

10 6/4(土)4:00pm 6/29(水)7:00pm

せきれいの曲(100分・35mm・白黒)

自分の作曲した旋律によって、音楽学校の学生(轟)と結ばれた作曲家(山村)。だが、離別の果てに不自由な身体まで背負った彼は、ラジオから流れてくる娘(有馬)の歌声に乗ってそのメロディに再会する。この時有馬稲子はまだ宝塚に在籍中、映画界入りする前の17歳。

’51(東宝)(脚)水木洋子(撮)三浦光雄(美)北川恵笥(音)大木正夫(出)轟夕起子、有馬稲子、山村聰、立花満枝、斎藤達雄、御橋公、村上冬樹、南美江、本間文子、三條利喜江、左卜全、大山健二、石黒達也、有馬是馬

11 6/5(日)1:00pm 6/30(木)7:00pm

風ふたたび(88分・35mm・白黒)

大学教授である父(三津田)の旅行中の急病をきっかけとして、離婚した香菜江(原)に二人の男が好意を寄せるが…。前年に黒澤『白痴』、小津『麦秋』、成瀬『めし』という名作に立て続けに出演し、女優としての盛りを迎えた原節子の主演作である。

’52(東宝)(原)永井龍男(脚)植草圭之助(撮)会田吉男(美)河東安英(音)清瀬保二(出)原節子、池部良、山村聰、浜田百合子、三津田健、杉村春子、龍岡晋、南美江、御橋公、菅原通済、十朱久雄、村上冬樹

12 6/5(日)4:00pm 7/1(金)3:00pm

春の囁き(93分・35mm・白黒)

瀬戸内から上京してきたジャーナリスト志望の学生が、慣れない都会生活と新しい恋心の芽ばえに悩む。デビュー間もない岡田茉莉子が、主人公と行動をともにする才気煥発な新聞部員を演じる。東京映画目黒撮影所の第1回作品でもある。

’52(東宝)(脚)植草圭之助、古川良範、豊田四郎(撮)三浦光雄(美)安倍輝明(音)芥川也寸志(出)三國連太郎、岡田茉莉子、遠山幸子、青山京子、久保明、鈴木孝次、三津田健、中村是好、千石規子、荒木道子、浦邊粂子、二本柳寛

13 6/7(火)3:00pm 7/2(土)1:00pm

(104分・35mm・白黒)

父を養うため高利貸の妾となった娘(高峰)は、いつも無縁坂を散歩する大学生(芥川)に秘かな想いを抱く。この坂は、伊藤熹朔の指示を受けた木村威夫が、大映東京撮影所の3つのスタジオを貫通させて作ったもので、豊田と三浦の妥協しない姿勢に感化されたと木村は後に述懐している。

’53(大映東京)(原)森鷗外(脚)成澤昌茂(撮)三浦光雄(美)伊藤熹朔(音)團伊玖磨(出)高峰秀子、芥川比呂志、宇野重吉、東野英治郎、飯田蝶子、田中榮三、浦邊粂子、小田切みき、三宅邦子、伊達正、山田禪二、町田博子

14 6/7(火)7:00pm 7/3(日)4:00pm

或る女(134分・35mm・白黒)

有島武郎の名作を翻案、息子の森雅之が主演した格調ある作品。明治30年代を舞台に、自由奔放に生き、男からの自立を望みつつ、それでも男との間に深い情愛を求めてしまう痛ましい女を京マチ子が熱演した。アメリカ行きの船のセットも素晴らしい。

’54(大映東京)(原)有島武郎(脚)八住利雄(撮)峰重義(美)木村威夫(音)團伊玖磨(出)京マチ子、森雅之、船越英二、芥川比呂志、若尾文子、沼田曜一、丸山修、信欣三、近衞敏明、高松英郎、浦邊粂子、夏川靜江、岡村文子、滝花久子、小田切みき、星ひかる

15 6/8(水)3:00pm 7/1(金)7:00pm

麦笛(103分・35mm・白黒)

原作は室生犀星の自伝的短篇「性に眼覚める頃」。大正時代、詩作に励む二人の少年が一人の少女をめぐって恋心を抱く。原作の舞台は金沢だが、撮影は古い蔵屋敷や掘割の残っていた倉敷で行われた。久保と青山は、前年の『潮騒』で評判となった当時大人気の青春コンビ。

’55(東宝)(原)室生犀星(脚)池田一朗、豊田四郎(撮)三浦光雄(美)河東安英(音)団伊玖磨(出)久保明、青山京子、太刀川洋一、越路吹雪、志村喬、中北千枝子、三好栄子、浪花千栄子、浜田百合子、藤原釜足、塩沢登代路、左卜全、三条利喜江、東静子

16 6/8(水)7:00pm 7/2(土)4:00pm

夫婦善哉(120分・35mm・白黒)

俗にまみれた放蕩息子(森繁)と、そんな男を捨てられぬ芸者上がりの女(淡島)の腐れ縁。上方情緒を濃密に匂わせながら、男女のあっけらかんとしたデカダンスを描いた日本映画屈指の名篇である。淡島は「途中で降りたかった」と漏らすほど大阪弁の訓練で苦労したという。

’55(東宝)(原)織田作之助(脚)八住利雄(撮)三浦光雄(美)伊藤熹朔(音)團伊玖磨(出)森繁久彌、淡島千景、司葉子、浪花千栄子、山茶花究、小堀誠、田中春男、田村樂太、森川佳子、志賀廼家弁慶、萬代峰子、三好榮子、上田吉二郎、澤村宗之助、谷晃、若宮忠三郎、三條利喜江

17 6/9(木)3:00pm 7/3(日)1:00pm

白夫人の妖恋(103分・35mm・カラー)

中国の民話「白蛇伝」をベースに、青年・許仙(池部)と実は白蛇の精である白娘(山口)が織りなす恋物語で、日本・香港の合作となった豊田初のカラー映画。洪水や妖術合戦のシーンでは、東宝のお家芸である円谷英二の特殊撮影(日本初のブルーバック合成を含む)も使われている。

’56(ショウ・ブラザーズ=東宝)(原)林房雄(脚)八住利雄(撮)三浦光雄(美)三林亮太郎、園眞(音)團伊玖磨(出)池部良、山口淑子、八千草薫、德川夢声、上田吉二郎、清川虹子、田中春男、東野英治郎、小杉義男、谷晃、小泉澄子、宮田芳子、沢村いき雄、左卜全、河崎堅男、山田彰

18 6/9(木)7:00pm 7/9(土)1:00pm

猫と庄造と二人のをんな(135分・16mm・白黒)

なまけ者の庄造(森繁)が溺愛する猫を盗み出して、後妻(香川)の鼻をあかそうとする先妻(山田)。『夫婦善哉』に続いてダメ男を演じた森繁がまたも絶品だが、試写を見た谷崎潤一郎は、君じゃなくて猫が良かった、と森繁に語ったと伝えられる。

’56(東京映画)(原)谷崎潤一郎(脚)八住利雄(撮)三浦光雄(美)伊藤熹朔、園眞(音)芥川也寸志(出)森繁久彌、香川京子、山田五十鈴、浪花千栄子、萬代峰子、三好栄子、南悠子、芦乃家雁玉、林田十郎、田中春男、山茶花究、横山エンタツ、環三千世、春江ふかみ、都家かつ江、内海突破

19 6/10(金)3:00pm 7/10(日)4:00pm

雪国(133分・35mm・白黒)

すでに文学作品の映画化で世評の高かった豊田が、川端康成の国民的名作に挑んだ作品。スマートで洗練された雰囲気を持つ岸恵子にあえて雪深い温泉場の芸者を演じさせ、そこから新しい駒子像を誕生させた演出家の力量に瞠目させられる。

’57(東宝)(原)川端康成(脚)八住利雄(撮)安本淳(美)伊藤熹朔、園眞(音)団伊玖磨(出)池部良、岸惠子、八千草薫、久保明、森繁久彌、加東大介、田中春男、中村彰、浪花千榮子、多々良純、万代峯子、浦辺粂子、中田康子、東郷晴子、千石規子、三好榮子、谷晃、若宮忠三郎、市原悦子

20 6/10(金)7:00pm 6/30(木)3:00pm

夕凪(114分・35mm・カラー)

アメリカ留学から帰ってきた涼子(若尾)は、冷淡な母親(淡島)と衝突しながら、自らの出生の秘密を知ろうとする。八住利雄のオリジナル脚本で、「太陽族」盛んなりし時代、ベテランの豊田・八住なりに若者たちの旧世代への反逆を描いている。

’57(宝塚映画)(脚)八住利雄(撮)安本淳(美)伊藤熹朔(音)芥川也寸志(出)淡島千景、若尾文子、志村喬、池部良、千石規子、河津清三郎、小沢栄太郎、中田康子、多々良純、浪花千栄子、市原悦子、万代峯子、谷口香、高見ありさ、杉狂児、堤康久、川内まり子、桂美保

21 6/11(土)1:00pm 7/5(火)7:00pm

負ケラレマセン勝ツマデハ(106分・35mm・白黒)

納税を頑として拒んでいる自動車修理工場の社長(森繁)が、家族と一丸になって、冷酷な税務署員(小林)に対抗する。税金問題を風刺的に描写した喜劇だが、坂口安吾が差し押さえ反対闘争をエッセイ風に記した原作とは大きな変化が見られる。

’58(東京映画)(原)坂口安吾(脚)八住利雄(撮)安本淳(美)河東安英(音)芥川也寸志(出)森繁久彌、望月優子、野添ひとみ、淡島千景、三遊亭小金馬、伴淳三郎、乙羽信子、小林桂樹、有島一郎、内海突破、左卜全、一龍斎貞鳳

22 6/11(土)4:00pm 7/6(水)7:00pm

駅前旅館(109分・35mm・カラー)

東京・上野の老舗旅館を舞台に、駅前の浄化運動に乗り出す番頭(森繁)、ライバル旅館の番頭(伴)、料理屋の女主人(淡島)といった芸達者たちが繰り広げるにぎやかな風俗コメディ。東宝の稼ぎ頭の一つとなった「駅前」シリーズの記念すべき第1作。

’58(東京映画)(原)井伏鱒二(脚)八住利雄(撮)安本淳(美)松山崇(音)団伊玖磨(出)森繁久彌、フランキー堺、伴淳三郎、淡島千景、草笛光子、淡路惠子、藤木悠、多々良純、左卜全、森川信、山茶花究、三井美奈、浪花千栄子

23 6/12(日)1:00pm 7/5(火)3:00pm

花のれん(129分・35mm・白黒)

昭和初期の大阪。呉服屋をたたんで寄席の経営に乗り出した女(淡島)は、惚れた男(佐分利)への気持ちを必死に打ち消しながら、仕事一筋に生きて成功する。直木賞を受賞した山崎豊子の小説の映画化で、全篇にわたり淡島の堂々たる演技を味わうことができる。

’59(宝塚映画)(原)山崎豊子(脚)八住利雄(撮)安本淳(美)伊藤熹朔(音)芥川也寸志(出)淡島千景、森繁久彌、石浜朗、花菱アチャコ、乙羽信子、佐分利信、浪花千栄子、飯田蝶子、司葉子、万代峯子、田村楽太、山茶花究、頭師孝雄、環三千世

24 6/12(日)4:00pm 7/6(水)3:00pm

男性飼育法(103分・35mm・カラー)

円満かと見えた3組の夫婦に、土地や料理屋経営をめぐって突然湧き起こった大騒動。それを収めようとする3人の妻は、ギリシャ古典劇にヒントを得て、セックス拒否作戦で夫たちをやりこめる。演劇の先生に美術の伊藤熹朔(俳優千田是也の兄)が扮しているのも珍しい。

’59(東京映画)(原)三宅艶子(脚)八住利雄(撮)安本淳(美)伊藤熹朔(音)芥川也寸志(出)森繁久彌、淡島千景、花菱アチャコ、淡路恵子、小林桂樹、水谷良重、八波むと志、由利徹、南利明、都家かつ江、菅井きん、横山道代、荒木道子、三宅艶子、石山文恵、伊藤熹朔、市原悦子、細川俊夫

25 6/14(火)3:00pm 7/9(土)4:00pm

暗夜行路(140分・35mm・白黒)

自らの不義の出生を知り、妻(山本)の過ちにも悩む青年・謙作(池部)が、妻を捨て去り、心にわだかまりを抱えながら旅に出る。志賀直哉の名作の映画化だが、原作に忠実なだけに、かえって志賀が心を砕いた人間の内面描写を映像にすることの難しさも現れている。

’59(東京映画)(原)志賀直哉(脚)八住利雄(撮)安本淳(美)伊藤熹朔(音)芥川也寸志(出)池部良、淡島千景、仲代達矢、山本富士子、千秋実、杉村春子、中村伸郎、北村和夫、仲谷昇、汐見洋、三津田健、賀原夏子、長岡輝子、荒木道子、南美江、市原悦子、岸田今日子、小池朝雄、天津敏

26 6/14(火)7:00pm 7/7(木)3:00pm

珍品堂主人(120分・35mm・カラー)

「珍品堂」と呼ばれた骨董の鑑定人(森繁)のもとにやってくるがめつい人間たち。井伏鱒二の原作は、転業を重ねて骨董屋になった男の生き方を追っているが、映画の方は、実業家(柳)ややり手の経営者(淡島)など、欲深い連中との駆け引きに焦点を当てている。

’60(東京映画)(原)井伏鱒二(脚)八住利雄(撮)玉井正夫(美)伊藤熹朔(音)佐藤勝(出)森繁久彌、淡島千景、淡路恵子、小林千登勢、峯京子、乙羽信子、髙島忠夫、東野英治郎、山茶花究、有島一郎、柳永二郎、千石規子、都家かつ江、横山道代、市原悦子、林寛、古今亭今輔

27 6/15(水)3:00pm 7/10(日)1:00pm

濹東綺譚(120分・35mm・白黒)

玉の井の私娼街で、虚無的な空気をまとった教師・種田(芥川)と、娼婦・お雪(山本)が出会う。二人は仲を深めながら新しい所帯を夢見るが、その恋路は病とともにはかなく終わる。荷風没後1周年を記念した文芸大作で、五社協定の例外として大映の山本富士子が起用された。

’60(東京映画)(原)永井荷風(脚)八住利雄(撮)玉井正夫(美)伊藤熹朔(音)団伊玖磨(出)山本富士子、芥川比呂志、新珠三千代、乙羽信子、淡路惠子、東野英治郎、中村伸郎、宮口精二、織田政雄、中村芝鶴、岸田今日子、日髙澄子、髙友子、長岡輝子、賀原夏子、原知佐子

28 6/15(水)7:00pm 7/8(金)3:00pm

東京夜話(108分・35mm・白黒)

資産家の父(芥川)を持つ身分と、欺瞞に満ちた大人たちへの反感との間で悩む学生(山崎)の前に立ちはだかるのは、父の愛人であるバーのマダム(淡島)であった。本作を見た黒澤明が、後に『天国と地獄』の主演に山崎の起用を決めたとも言われる、東京映画100本記念作品。

’61(東京映画)(原)富田常雄(脚)八住利雄(撮)玉井正夫(美)伊藤熹朔(音)芥川也寸志(出) 芥川比呂志、山崎努、淡島千景、乙羽信子、団令子、岸田今日子、森繁久彌、有島一郎、フランキー堺、富田恵子、丹波哲郎、中村伸郎、名古屋章、馬渕晴子、原知佐子

29 6/16(木)3:00pm 7/8(金)7:00pm

明日ある限り(113分・35mm・白黒)

戦争の時代を背景に、先天性の白内障患者として生まれた娘の成長を見守る両親(香川・佐野)と兄姉の17年間を繊細に綴った壺井栄文学の翻案。「若大将」シリーズで人気を獲得しはじめた星由里子が、成長した盲目の娘を好演している。

’62(東京映画)(原)壺井栄(脚)八住利雄(撮)岡崎宏三(美)中古智(音)林光(出)佐野周二、香川京子、山崎努、池内淳子、星由里子、杉村春子、浪花千栄子、千秋実、乙羽信子、清水喜代子、稲垣隆、水野久美、北村和夫、伊藤幸子、荒木道子、南美江、加藤治子、一竜斎貞鳳

30 6/16(木)7:00pm 7/16(土)1:00pm

如何なる星の下に(117分・35mm・カラー)

おでん屋のぐうたら亭主(加東)のもとに生まれた三姉妹の幸薄い行く末を、ブラックな喜劇性も加味して描く。八住は原作の背景となった昭和初期の浅草を戦後の築地・佃に置き換え、都市開発で埋め立てられた築地川の最後の姿などは東京の貴重な映像資料にもなっている。

’62(東京映画)(原)髙見順(脚)八住利雄(撮)岡崎宏三(美)伊藤熹朔(音)平岡精二(出)山本富士子、池部良、森繁久弥、加東大介、池内淳子、三益愛子、淡路恵子、大空真弓、乙羽信子、植木等、西村晃、山茶花究、北あけみ

31 6/17(金)3:00pm 7/17(日)1:00pm

憂愁平野(114分・35mm・カラー)

それぞれ未知の異性に惹かれてしまった夫婦を通じて、“家庭”という場の危うさを描いた井上靖の新聞小説の映画化。フリーランス宣言をして本作に出演した山本富士子が大映社長・永田雅一の怒りを買い、これを最後に映画界引退に追い込まれた曰くつきの一本である。

’63(東京映画)(原)井上靖(脚)八住利雄(撮)岡崎宏三(美)伊藤熹朔(音)団伊玖磨(出)森繁久彌、山本富士子、新珠三千代、浪花千栄子、仲代達矢、長門裕之、大空真弓、乙羽信子、久里千春、若宮忠三郎、桜井浩子、中谷一郎

32 6/17(金)7:00pm 7/16(土)4:00pm

台所太平記(110分・35mm・カラー)

原作は、谷崎潤一郎が、自分の家で働いてきた歴代のメイドたちを素描したエッセイ的な小説。作家夫婦に森繁=淡島の黄金コンビを迎え、東宝が誇るスター女優を入れ代わり立ち代わり配した豪華な軽喜劇。変人の家政婦を演じた淡路恵子の怪演も見逃せない。

’63(東京映画)(原)谷崎潤一郎(脚)八住利雄(撮)岡崎宏三(美)伊藤熹朔(音)団伊玖磨(出)森繁久弥、淡島千景、団令子、乙羽信子、淡路恵子、フランキー堺、三木のり平、池内淳子、中尾ミエ、大空真弓、水谷良重、京塚昌子、森光子、山茶花究、西村晃、松村達雄、小沢昭一、飯田蝶子

33 6/18(土)1:00pm 7/7(木)7:00pm

新・夫婦善哉(118分・35mm・白黒)

傑作『夫婦善哉』から8年、その後日談ともいえる本作でも森繁と淡島は息の合った演技を見せ、とりわけ中年にさしかかった森繁のダメ男ぶりが加速する。前作で三浦光雄の生み出した白黒撮影の美は、岡崎宏三に受け継がれた。

’63(東京映画)(原)織田作之助、上司小剣(脚)八住利雄(撮)岡崎宏三(美)伊藤熹朔(音)団伊玖磨(出)森繁久彌、淡島千景、淡路恵子、浪花千栄子、小池朝雄、山茶花究、三木のり平、八千草薫、中川ゆき、田中春男、藤田まこと、八代万智子、辻伊万里、安達國晴、若宮忠三郎、松村達雄

34 6/18(土)4:00pm 7/12(火)3:00pm

喜劇 陽気な未亡人(98分・35mm・カラー)

突然亡くなった夫(フランキー)が、残された妻・圭子(新珠)が周囲の未亡人たちに励まされ、元気を取り戻すのを見て安心して成仏してゆく。フランキー堺は夫の幽霊役の他、妻の新しい恋人、指圧の先生など少なくとも6役はこなしている。

’64(東京映画)(脚)八住利雄(撮)岡崎宏三(美)伊藤熹朔(音)団伊玖磨(出)フランキー堺、新珠三千代、望月優子、岸田今日子、水谷良重、中尾ミエ、坂本九、淡島千景、乙羽信子、池内淳子

35 6/19(日)1:00pm 7/12(火)7:00pm

甘い汗(119分・35mm・白黒)

暑苦しい家にひしめく大家族を一人で養ってきたが、間もなく中年にさしかかる水商売の女・梅子(京)。酔っ払いの母に反発した娘(桑野)は堪えられず家出を試みるが…。生命力あふれるキャラクター像を生み出す豊田演出の精髄が発揮されている。

’64(東京映画)(原)(脚)水木洋子(撮)岡崎宏三(美)水谷浩(音)林光(出)京マチ子、佐田啓二、池内淳子、桑野みゆき、小沢栄太郎、山茶花究、名古屋章、小沢昭一、市原悦子、木村俊恵、桜井浩子、川口敦子、千石規子、沢村貞子、春風亭柳朝、若宮忠三郎

36 6/19(日)4:00pm 7/14(木)7:00pm

波影(107分・35mm・白黒)

娼家でただひたすら人に尽くし、愛を与え続けて死んだ娼婦・雛千代(若尾)。その家の娘(大空)は、遺骨を彼女の生まれた寒村へ送り届けようとする。日本海的情念の渦巻く水上勉世界の映画化で、岡崎宏三が自らの白黒撮影の代表作として挙げた一本。

’65(東京映画)(原)水上勉(脚)八住利雄(撮)岡崎宏三(美)伊藤熹朔(音)芥川也寸志(出)若尾文子、中村賀津雄、大空真弓、乙羽信子、浪花千栄子、沢村貞子、春川ますみ、山茶花究、三島雅夫、太刀川寛、田武謙三、柳家小せん、深見泰三、大辻伺郎、ロミ山田、木村俊恵

37 6/21(火)3:00pm 7/13(水)7:00pm

四谷怪談(117分・35mm・カラー)

豊田の最初で最後の時代劇。亭主に殺されてこの世に未練を残すお岩(岡田)よりも、むしろ貧困から抜け出そうとする伊右衛門(仲代)の人間像に重点を置いた本作の解釈は、木下恵介作品・中川信夫作品などこれまでのどの「四谷怪談」とも異なっている。

’65(東京映画)(原)鶴屋南北(脚)八住利雄(撮)村井博(美)水谷浩(音)武満徹(出)仲代達矢、岡田茉莉子、中村勘三郎、池内淳子、大空真弓、淡路恵子、小沢栄太郎、三島雅夫、平幹二朗、東野英治郎、永田靖、滝田裕介、中野伸逸、矢野宣、三戸部スエ、秋好光果

38 6/21(火)7:00pm 7/14(木)3:00pm

大工太平記(101分・35mm・カラー)

豪放磊落で知られた名棟梁・平田雅哉の聞き語り「大工一代」を原作に、森繁久彌が大工一筋に生きた男の半生を演じた年代記。妻に死なれ、息子を戦争に取られてもなお数寄屋造に人生を賭ける職人気質が描かれる。中村玉緒がやもめとなった棟梁の後妻を演じる。

’65(東京映画)(原)平田雅哉、内田克巳(脚)八住利雄(撮)村井博(美)伊藤熹朔(音)山本直純(出) 森繁久彌、藤田まこと、頭師佳孝、乙羽信子、中村玉緒、池内淳子、ハナ肇、山茶花究、淡路恵子、石山健二郎、三木のり平、太宰久雄、田崎潤、曽我廼家一二三、萬代峰子、松本染升

39 6/22(水)3:00pm 7/17(日)4:00pm

千曲川絶唱(102分・35mm・白黒)

白血病と診断されて絶望に沈むトラック運転手(北大路)が、看護婦(星)の懸命の励ましで道路の改修に生きがいを見つける青春ドラマ。途中、トラックが看護婦の乗った列車を追いかけ、併走する場面は緊迫感にあふれた名シーンである。

’67(東京映画)(脚)松山善三(撮)岡崎宏三(美)狩野健(音)佐藤勝(出)北大路欣也、星由里子、平幹二朗、いしだあゆみ、田中邦衛、宮口精二、浜田寅彦、中村たつ、福田豊土、三島雅夫、都家かつ江、関口銀三、山本清、岩倉髙子、上田忠好、若宮忠三郎

40 6/22(水)7:00pm 7/15(金)3:00pm

喜劇 駅前百年(102分・35mm・カラー)

豊田が第1作以来ほぼ10年ぶりに「駅前」に戻ってきたシリーズ第21作。再び上野駅前の旅館が舞台となったが、本作では再開発の波に揺れる設定に世相が反映されている。「明治百年」という時事性を取り入れながらも、シリーズを支えた森繁・伴淳・フランキーの堅陣は揺るがない。

’67(東京映画)(脚)八住利雄、広沢栄(撮)岡崎宏三(美)小島基司(音)山本直純(出)森繁久彌、淡島千景、伴淳三郎、乙羽信子、松山英太郎、フランキー堺、名古屋章、池内淳子、大空真弓、山茶花究、三木のり平、森光子、赤木春恵、堺正章、三波伸介、戸塚睦夫、伊東四朗、左卜全

41 6/23(木)3:00pm 7/15(金)7:00pm

喜劇 駅前開運(95分・35mm・カラー)

「駅前」シリーズ第22作の舞台は東京・赤羽駅前商店街。東口・西口に分かれて店を開く次郎(フランキー)と孫作(伴淳)は、互いにしのぎを削り、時には万引き犯の不穏な品をつかまされながらも商店街の発展に尽くす。てんぷくトリオは3人組の警官に扮する。

’68(東京映画)(脚)広沢栄(撮)村井博(美)小島基司(音)別宮貞雄(出)森繁久彌、伴淳三郎、沢村貞子、頭師佳孝、フランキー堺、森光子、池内淳子、野川由美子、大空真弓、藤田まこと、佐藤友美、藤村有弘、山茶花究、中村是好、黒柳徹子、三波伸介、戸塚睦夫、伊東四朗

42 6/23(木)7:00pm 7/13(水)3:00pm

地獄変(95分・35mm・カラー)

貴族が豪奢な暮らしに淫する一方、貧窮の民であふれかえる平安の都。時の権力者である堀川の大殿(錦之助)と、あえて醜い世を描く宮仕えの絵師・良秀(仲代)が壮絶な意地の張り合いに及ぶ芥川龍之介作品の映画化。作曲にあたったのは文豪の子息である。

’69(東宝)(原)芥川龍之介(脚)八住利雄(撮)山田一夫(美)村木忍(音)芥川也寸志(出)中村錦之助、仲代達矢、内藤洋子、大出俊、下川辰平、内田喜郎、中村吉十郎、鈴木治夫、天本英世、大久保正信、音羽久米子、猪俣光世、沢村いき雄、今福正雄