www.momat.go.jp

大ホール上映作品

シネマの冒険 闇と音楽:アメリカ無声映画傑作選

Silent Film Renaissance: An American Tradition

シネマの冒険 闇と音楽
アメリカ無声映画傑作選

Silent Film Renaissance: An American Tradition

1月5日(水)― 1月16日(日) →上映スケジュール

定員=300名(各回入替制)
発券=2階受付
料金=一般1,000円/高校・大学生・シニア800円/小・中学生600円
・観覧券は当日・当該回にのみ有効です。
・発券・開場は開映の30分前から行ない、定員に達し次第締切となります。
・シニア(65歳以上)の方は、必ず年齢を証明できるものをご提示下さい。

1月の休館日:月曜日および1月1日(土)- 1月4日(火)

 無声映画の秀作に音楽伴奏などを付して上映する「シネマの冒険 闇と音楽」は、多くの皆様からのご好評を得て、フィルムセンターの恒例企画として定着してまいりました。昨年、人気を博した正月番組「D・W・グリフィス選集」に続いて、本年は、再びアメリカ無声映画の傑作、秀作をご覧いただきます。

 特集の見所は、まず、作家別という点で、映画の父グリフィスに並び立つ夭折の開拓者(パイオニア)トーマス・H・インス(『シヴィリゼーション』)、ハリウッドの草創と伸張を体現した巨人セシル・B・デミル(『十誡』)、娯楽映画に快作を連発し続けた名匠ラオール・ウォルシュ(『栄光』)らに焦点を当てていることです。とりわけデミルの作品については、ジョージ・イーストマン・ハウス国際写真映画博物館が新たに復元した染色版『カルメン』(1915年)と『囁きの合唱』(1918年)がNFC初登場となります。

 また、ハリウッド・スターという点では、西部劇ヒーローの一典型を作ったウィリアム・S・ハート(『ヘルズ・ヒンジス』)や、光輝く剣戟王(スワッシュバクラー)ダグラス・フェアバンクス(『バグダッドの盗賊』)といったお馴染みに加えて、アメリカ映画史初の日本人スター早川雪洲の主演作(『颱風』『火の海』『チート』『蛟龍を描く人』)をまとめて4本上映することが大きな特徴となっています。最初期の本格的なマチネー・アイドルとして世界に名を馳せた早川雪洲/Sessue Hayakawaの真実の姿を、是非、大スクリーンでご覧ください。

 長短合わせて15本の作品を11番組に構成して上映するこの特集すべてに音楽をつけるのは、アメリカを代表する無声映画伴奏の雄フィリップ・カーリ――今回の上映作品の多くを得意演目にしている氏の華やかで“映画的な”ピアノ演奏を、美しいプリントとともに、心ゆくまでお楽しみください。

■(監)=監督 (原)=原作・原案 (脚)=脚本・脚色 (撮)=撮影 (美)=美術 (出)=出演

■挿入字幕(インタータイトル)は『蛟龍を描く人』(フランス語)を除いてすべて英語で、日本語字幕がつきます。

■本特集には不完全なプリントが含まれています。

■記載した上映分数は、当日のものと多少異なることがあります。

1 1/5(水)3:00pm 1/11(火)7:00pm

メーベルの劇的な半生 MABEL’S DRAMATIC CAREER(15分・16fps・35mm・白黒)

家事手伝いのメーベルが、惚れた男の争奪戦に敗れて映画女優になるまでの波乱万丈を描いた喜劇。M・セネットのキーストーン社はスラップスティック・コメディの量産で知られ、“喜劇の女王” メーベル・ノーマンドはこの1913年だけで50本以上の短篇に出演した。

’13(監)(出)マック・セネット(出)メーベル・ノーマンド、アリス・ダヴェンポート、ロスコー・アーバックル、フォード・スターリング、ヴァージニア・カートリー、チャールズ・エイヴリー、マック・スウェイン、ポール・ジェイコブス

颱風 THE TYPHOON(63分・16fps・35mm・白黒)

パリに住んで故国のために秘密諜報活動をする日本人エリートが、情婦との別れ話がもつれて破滅するにいたるまでを描いた問題作で、日本ではアメリカ公開の8年後(1922年)にやっと封切られた。アメリカ映画の大立者トーマス・インスと後に日本映画刷新にも貢献した“渡米組”との出会いが生んだ重要な早川雪洲主演映画で、本人はデビュー作と記している。

’14(監)レジナルド・バーカー(原)メニヘルト(メルヒオール)・レンジェル(脚)トーマス・H・インス(出)セッシュー・ハヤカワ(早川雪洲)、グラディス・ブロックウェル、フランク・ボゼーギ、ヘンリー・コタニ(小谷ヘンリー)、レオナ・ハットン、トーマス・クリハラ(栗原喜三郎)、ツル・アオキ(青木鶴子)、チャールズ・K・フレンチ、ハーシェル・メイオール

2 1/5(水)7:00pm 1/13(木)3:00pm

メーベルのわがまま MABEL’S WILFUL WAY(17分・16fps・35mm・白黒)

遊園地を舞台に、メーベル嬢と「デブ君」ことR・アーバックルが縦横に駆け回り、やりたい放題を尽くす一篇。転ぶ、ぶつかる、殴る、追いかけるといったスラップスティックの基本要素がたっぷりと詰まっている。

’15(監)(出)ロスコー・アーバックル(出)メーベル・ノーマンド、アリス・ダヴェンポート、エドガー・ケネディ、アル・セント・ジョン、グレン・カヴェンダー

火の海(神々の怒り) THE WRATH OF THE GODS(56分・16fps・35mm・染色)

世界に報道された大正3(1914)年1月の桜島大噴火に想を得て、それを神秘の国・日本の“神々の怒り”説話と結び付けたインス製作のスペクタクル映画。「迷信と因習に生きる不幸な日本女性(青木鶴子)が、文明国アメリカのキリスト教徒に解放される」という図式は現代人の目に陳腐だが、90年前に日本を描こうとした進取の精神はいかにもインスのもの。早川雪洲、最初期の出演作品。

’14(監)レジナルド・バーカー(脚)トーマス・H・インス、ウィリアム・H・クリフォード、C・ガードナー・サリヴァン(出)セッシュー・ハヤカワ(早川雪洲)、ツル・アオキ(青木鶴子)、フランク・ボゼーギ、トーマス・クリハラ(栗原喜三郎)、ヘンリー・コタニ(小谷ヘンリー)、グラディス・ブロックウェル、ハーシェル・メイオール

3 1/6(木)3:00pm 1/12(水)7:00pm

カルメン CARMEN(65分・18fps・35mm・染色)

アメリカ・オペラ界最高のプリマドンナであったジェラルディン・ファーラーが8週間2万ドル、特別列車による送迎という破格の待遇で招かれた作品で、ジプシー女のカルメンとして堂々たる身のこなしを見せている。戯曲の映画化に積極的だったセシル・B・デミルの初期作品で、今回は新たに所蔵された、米国のジョージ・イーストマン・ハウスの復元による染色版を初上映する。

’15(監)セシル・B・デミル(原)プロスペル・メリメ(脚)ウィリアム・C・デミル(撮)アルヴィン・ワイコフ(美)ウィルフレッド・バックランド(出)ジェラルディン・ファーラー、ウォレス・リード、ペドロ・デ・コルドバ、ホレース・B・カーペンター、ウィリアム・エルマー、ジニー・マクファーソン、アニタ・キング、ミルトン・ブラウン、テックス・ドリスコル、レイモンド・ハットン

4 1/6(木)7:00pm 1/15(土)4:00pm

機械人形 A CLEVER DUMMY(27分・16fps・35mm・白黒)

やぶにらみの怪優、ベン・ターピンが主演したスラップスティック喜劇。自分そっくりのロボット人形を見つけたターピンが、ロボットになりすまして劇場に出演し、騒動を起こす。マック・セネット率いるトライアングル社で急速に人気を高めていた頃の一篇である。

’17(監)ハーマン・レイメイカーほか(脚)マック・セネット(撮)エルジン・レスリー(出)ベン・ターピン、チェスター・コンクリン、ウォレス・ビアリー、フアニータ・ハンセン、クレア・アンダーソン、ジェームズ・ドネリー、ジェームズ・デラーノ

チート THE CHEAT(59分・18fps・35mm・染色)

早川雪洲を大スターに押し上げた出世作であり、同時に内外の日本人社会が彼を「国辱映画」の主演者として記憶するに至った本邦未封切の問題作(上映プリントはジョージ・イーストマンハウスによる新たな復元版)。神秘的で美しく残忍という雪洲のイメージを作り上げたセシル・B・デミル監督の演出は、浪費家の有閑夫人の肩に焼印を押す有名な場面、緊迫の法廷シーンなど、力強くまた的確である。

’15(監)セシル・B・デミル(脚)ジニー・マクファーソン、ヘクター・ターンブル(撮)アルヴィン・ワイコフ(美)ウィルフレッド・バックランド(出)ファニー・ウォード、ジャック・ディーン、セッシュー・ハヤカワ(早川雪洲)、ジェームズ・ニール、ジャック・ユタカ・アベ(阿部豊)、ダナ・オング、ヘーゼル・チルダーズ、レイモンド・ハットン、ディック・ラ・レノ、ルシエン・リトルフィールド

5 1/7(金)3:00pm 1/15(土)1:00pm

シヴィリゼーション CIVILIZATION(87分・18fps・35mm・白黒)

第一次大戦参戦を巡ってアメリカの世論が二分していた時代に、平和主義の立場から戦争を弾劾した不戦の寓話ともいうべき大作で、若き小津安二郎が映画を志す契機ともなった。この作品の存在が、アメリカ映画の父グリフィスと並び立つ理由の一つともなったインスは、他方で自らをプロデューサーの立場に置き、ハリウッド的な分業制の原型を導入したパイオニアであった。

’16(監)トーマス・H・インス(脚)C・ガードナー・サリヴァン(撮)アーウィン・ウィラットほか(出)ハーシェル・メイオール、ローラ・メイ、ハワード・ヒックマン、イーニッド・マーキー、ジョージ・フィッシャー、J・フランク・バーク、チャールズ・K・フレンチ、J・バーニー・シェリー、ジェローム・ストーム、イーセル・ウルマン、ケイト・ブルース、リリアン・リード

6 1/7(金)7:00pm 1/16(日)4:00pm

ヘルズ・ヒンジス HELL’S HINGES(66分・18fps・35mm・白黒[一部染色])

大平原の街道筋にある無法地帯、地獄の辻(ヘルズ・ヒンジス)を舞台にしたインス製作の西部劇大作。ガントレットに二挺拳銃といういでたちでウィリアム・S・ハートが演じる早撃ちのアウトローは、善に目覚め恋を知りつつ、結果、灰燼に帰した町を去る。クールな強面に男の侠気を滲ませるビル・ハートは、日本映画があまた生み出してきた任侠劇、流離譚の主人公のようでもある。

’16(監)(出)ウィリアム・S・ハート(監)チャールズ・スウィッカード(監修)トーマス・H・インス(原)(脚)C・ガードナー・サリヴァン(撮)ジョゼフ・オーガスト(出)クララ・ウィリアムズ、ジャック・スタンディング、アルフレッド・ホリングスワース、ロバート・マッキム、J・フランク・バーク、ルイーズ・グローム、ジョン・ギルバート

7 1/8(土)1:00pm 1/12(水)3:00pm

囁きの合唱 THE WHISPERING CHORUS(93分・18fps・35mm・染色)

会社の金を使い込み、その発覚を恐れて死を偽装したものの、やがて自らの「殺人」の罪をかぶせられて窮地に立たされる男。暗闇にぼんやり現れる「顔」たちの“囁き”が、男を追い詰めてゆく。セシル・B・デミルには珍しい心理ドラマで、自伝でも、本作が経歴上の転換点になったと語っている。これもジョージ・イーストマン・ハウスの復元による染色版で、フィルムセンター初上映。

’18(監)セシル・B・デミル(原)パーリー・プア・シーハン(脚)ジニー・マクファーソン(撮)アルヴィン・ワイコフ(美)ウィルフレッド・バックランド(出)レイモンド・ハットン、キャスリン・ウィリアムズ、イーディス・チャップマン、エリオット・デクスター、ノア・ビアリー、ガイ・オリヴァー、ジョン・バートン、タリー・マーシャル、ウィリアム・H・ブラウン、ジェームズ・ニール、グスタフ・フォン・ザイファーティッツ、ウォルター・リンチ、エドナ・メイ・クーパー

8 1/8(土)4:00pm 1/14(金)7:00pm

神秘の箱 THE MYSTERY BOX(13分・18fps・35mm・白黒)

題名の「神秘の箱」とはラジオのこと。ラジオ放送の内幕を紹介し、ラジオの原理を軽快なアニメーションで解説してゆく。1914年に創立され、ディズニー社出現前の米国アニメ界で一大勢力をなしたブレイ・プロダクションズによる、「テクニカル・ロマンス」シリーズの一篇。

’22(監)J・A・ノーリング

蛟龍を描く人 THE DRAGON PAINTER(LE PEINTRE DE DRAGONS)(51分・18fps・35mm・白黒・フランス語インタータイトル)

ヨセミテ峡谷を箱根に見立てて早川雪洲が製作・主演した異色の“日本物”アメリカ映画。蛟龍を描く人(ドラゴン・ペインター)と呼ばれる野人画家タツは理想の女性ウメコ(青木鶴子=雪洲夫人)に出会って結婚する。幸せの中で霊感を失った夫を救うため妻は遺書を残して姿を消す…。原作「竜の絵師(ドラゴン・ペインター)」を書いたのは日本美術研究家フェノロサの夫人メアリー・マクニール。

’19(監)ウィリアム・ワーシングトン(原)メアリー・マクニール・フェノロサ(脚)リチャード・シェイヤー(撮)フランク・D・ウィリアムズ(美)ミルトン・メナスコ(出)セッシュー・ハヤカワ(早川雪洲)、トーヨー・フジタ(藤田東洋)、エドワード・ピール・シニア、ツル・アオキ(青木鶴子)

9 1/9(日)1:00pm 1/13(木)7:00pm

十誡 THE TEN COMMANDMENTS(134分・24fps・35mm・白黒)

旧約聖書・出エジプト記を材にして紅海が割れるシーンなどを含む第1部と、モーゼの十戒の倫理性を現代に生きる市井の兄弟に描こうとする第2部から成るセシル・B・デミル監督の野心的なスペクタクル大作(第1部を膨らませて1956年に再映画化された全篇カラー版は同監督の遺作)。なお、第1部は本来カラー・シーンを含んでいたが、上映するプリントは白黒版。

’23(監)セシル・B・デミル(脚)ジニー・マクファーソン(撮)バート・グレノン(美)ポール・アイリブ(出)[第1部]セオドア・ロバーツ、シャルル・ド・ロシュ、エステル・テイラー、ジュリア・フェイ、テレンス・ムーア、ジェームズ・ニール、ローソン・バット、クラレンス・バートン、ノーブル・ジョンソン[第2部]イーディス・チャップマン、リチャード・ディックス、ロッド・ラ・ロック、リートリス・ジョイ、ニタ・ナルディ、ロバート・エドソン、チャールズ・オーグル、アグネス・エアーズ

10 1/9(日)4:00pm 1/14(金)3:00pm

バグダッドの盗賊 THE THIEF OF BAGDAD(140分・24fps・35mm・白黒)

ダグラス・フェアバンクス製作・主演の大冒険スペクタクルで、200万ドル以上という巨費を投じた伝説的なR・ウォルシュ監督作品。魔法の絨緞、ペガサス、火竜などが登場して往時の特撮技術の粋を見せる一方、天才美術監督W・C・メンジースがデザインした壮麗かつ革新的なバグダッドのセットが眼を奪う。上山草人、アンナ・メイ・ウォンらアジア人俳優の活躍にも注目。

’24(監)ラオール・ウォルシュ(原)エルトン・トーマス(ダグラス・フェアバンクス)(脚)ロッタ・ウッズ(撮)アーサー・エドソン(美)ウィリアム・キャメロン・メンジース(出)ダグラス・フェアバンクス、スニッツ・エドワーズ、ジュランヌ・ジョンストン、アンナ・メイ・ウォン、チャールズ・ベルチャー、ウィンター=ブラッサム、エッタ・リー、ブランドン・ハースト、トート・デュ・クロウ、上山草人、南部邦彦、定吉ハートマン

11 1/11(火)3:00pm 1/16(日)1:00pm

栄光 WHAT PRICE GLORY(122分・24fps・16mm・白黒)

米海兵隊員フラッグ(V・マクラグレン)とクヮート(E・ロウ)が第一次大戦のヨーロッパ戦線で見せる戦いと恋と友情の物語。トムとジェリーのような喧嘩友達が“港々に女あり”を地で行くこの作品は、大ヒットしてトーキーでも続篇が作られた。二人の恋の鞘当の相手役は名花ドロレス・デル・リオ。監督ウォルシュは笑いと感傷、豪快と繊細の狭間で絶妙の演出を見せる。

’26(監)ラオール・ウォルシュ(原)ローレンス・ストーリングズ、マクスウェル・アンダーソン(脚)ジェームズ・T・オドナヒュー(撮)バーニー・マッギル、ジョン・マータ、ジョン・スミス(美)ウィリアム・S・ダーリング(出)ヴィクター・マクラグレン、エドマンド・ロウ、ドロレス・デル・リオ、ウィリアム・V・モング、フィリス・ヘイヴァー、エレナ・ジュラド、レスリー・フェントン、オーガスト・トレア、バリー・ノートン、サミー・コーエン、テッド・マクナマラ

ピアノ伴奏者紹介
フィリップ・カーリ Philip Carli

13歳の若さで無声映画の伴奏を始め、その後イーストマン音楽学校やインディアナ大学で音楽学・音楽史を専攻する(音楽学博士)。1989年にはロチェスターのジョージ・イーストマン・ハウス付属劇場の専属ミュージシャンとなり、米国を代表する無声映画伴奏者としてイタリアのポルデノーネ無声映画祭や米国各地の上映会でピアノ演奏を披露しているほか、近年は指揮者として、主に米国内で無声映画上映のオーケストラ伴奏を指揮している。作曲家としては、ポルデノーネ無声映画祭の委嘱により『ピーター・パン』(1924年)、『チャング』(1927年)のオーケストラ楽譜を作曲・再構成し、また無声映画のビデオ発売やテレビ放映に際してのレコーディングも積極的に行っている。