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大ホール上映作品

シリーズ・日本の撮影監督(1)

Master Cinematographers of Japan Part 1

2004年2月3日(火)- 3月28日(日) → 上映スケジュール
協力=日本映画撮影監督協会
料金=一般500円/高校・大学生・シニア300円/小人100円
*シニア料金は65歳以上の方に適用されます。

2-3月の休館日:月曜日および1月26日(月)- 2月2日(月)、3月29日(月)- 4月5日(月)

 映画作品とは、監督や俳優ばかりではなく、数多くのスタッフの創意が組み合わされて完成するものです。中でも映画作りに貢献するスタッフとして、キャメラとフィルムを用いて世界をさまざまな“フレーム”に造形し、映画作品というもう一つの“世界”に向けて素材を生み出す撮影監督の存在を忘れることはできません。撮影機の操作はもちろん、レンズやフィルムの選択、美術監督や照明技師との連繋、フレームや構図の決定、画調のコントロールなど、その複雑な仕事はいずれも映画の根幹に関わるものです。また監督の構想を具体的に実現するため、撮影現場の実務的なリーダーとして活躍するのもキャメラマンの重要な役割です。

 その撮影監督の仕事を顕彰すべくスタートする上映企画がこの「シリーズ・日本の撮影監督」です。今回はその第1期として、日本映画の初期を形作った撮影監督14名の作品を取り上げます(残念ながら、映画の撮影術を初めて日本に導入し、定着させた草創期のキャメラマンについては、フィルムがほとんど残存していないため本特集でも扱うことができません)。松竹、日活、P.C.L.など戦前の指導的な映画会社に集い、トーキー化の波にも寄り添いながら技術と美を競った“光の魔術師”たちの仕事を追うことで、日本映画への新たな視点を獲得していただければ幸いです。

■(撮)=撮影 (監)=監督・演出 (原)=原作 (脚)=脚本・脚色・潤色・新釈・劇化・台本 (美)=美術・装置 (音)=音楽・音楽監督・音楽顧問 (出)=出演 (解)=解説

■本特集には不完全なプリントが含まれています。

■記載した上映分数は、当日のものと多少異なることがあります。

ゲスト・トーク

上映企画「日本の撮影監督(1)」におきまして、ゲストによるトークの開催が決まりました。日本の撮影界を長く牽引されてきた名キャメラマンの高村倉太郎さん、岡崎宏三さんの両氏に、ご自身が薫陶を受けた先達たちの撮影術、人となりを3回にわたって語っていただきます。皆さま是非ご来場ください。

2月17日(火) 午後7時『家族会議』上映後 「先輩・桑原昂を語る」トーク:高村倉太郎氏
2月29日(日) 午後4時『霧笛』上映後 「先輩・青島順一郎を語る」トーク:岡崎宏三氏
3月24日(水) 午後7時『煙突の見える場所』上映後 「先輩・三浦光雄を語る」トーク:高村倉太郎氏

※日程・内容は変更される可能性がありますので、ご了承ください。
※トークのみに参加することはできません。必ず上映開始時までにお越しください。

長井信一 Shinichi Nagai(1897―1969)

1911年福宝堂に入社、枝正義郎に師事した後、日活向島、天活を経て1916年国活に移籍。『大尉の娘』(1917年)では移動撮影、二重露出、カットバックなどの技法を導入し、日本の撮影界を革新した。松竹蒲田撮影所では筆頭監督の野村芳亭とコンビを組み、蒲田映画の栄光を支えた。日活多摩川撮影所を経由して戦後は大映で活躍し、1954年には日本映画撮影者倶楽部(後に日本映画撮影監督協会)の初代幹事長になっている。
1 2/3(火)3:00pm 3/3(水)7:00pm

金色夜叉(76分・16mm・白黒・無声)

芳亭=長井のコンビから生まれた作品群は蒲田のドル箱であった。この定番の新派劇に京都撮影所所属の林長二郎を起用したのは、鈴木伝明、岡田時彦ら退社したスター男優の穴を埋めるためだったという。反転現像16mmプリントで画質は優れていない。

'32(松竹蒲田)(撮)長井信一(監)野村芳亭(原)尾嵜紅葉(脚)川村花菱、松嵜博臣(美)脇田世根一(出)林長二郎、田中絹代、八雲恵美子、岩田祐吉、川田芳子、新井淳、鈴木歌子、兵藤静枝、吉川満子、武田春郎、藤野秀夫、斉藤達雄、高尾光子、小林十九二、若水絹子、河村黎吉、高松栄子、花岡菊子、宮島健一、鹿島俊策、江川宇礼雄、水上幸史

2 2/3(火)7:00pm 2/29(日)1:00pm

乳姉妹(136分・35mm・白黒・無声)

乳姉妹として育った二人の娘(妹は実は男爵令嬢)の数奇な運命を描く同名新派劇を、野村芳亭(芳太郎の父)が監督した松竹メロドラマ大作。米西海岸で発見されたナイトレート・プリントを不燃化・修復した。見事な白黒映像を再現したのはジョン・E・アレンの現像所。

'32(松竹蒲田)(撮)長井信一(監)野村芳亭(原)菊池幽芳(脚)川村花菱、久米芳太郎(美)脇田世根一(出)岩田祐吉、川崎弘子、岡田嘉子、山内光、岡譲治(譲二)、武田春郎、鹿島俊作、吉川満子、葛城文子、若水絹子、河村黎吉、谷麗光、長尾寛、谷嵜竜子、富士竜子、兵藤静江、酒井啓之輔

3 2/4(水)3:00pm 3/2(火)7:00pm

天龍下れば(70分・35mm・白黒・不完全版・サウンド版)

天竜川下りに訪れた東京の学生(竹内良一)と、地元の芸者(川崎弘子)との淡い恋愛を綴った野村芳亭の一篇。花柳界出身の人気歌手市丸が大ヒットさせた、同名の流行歌から着想された作品である。なお、冒頭タイトルや一部の音声が欠けている。

'33(松竹蒲田)(撮)長井信一(監)(原)野村芳亭(脚)松崎博臣(出)川崎弘子、八雲理恵子(恵美子)、竹内良一、江川宇礼雄、大山健二、奈良真養、水久保澄子、若水絹子、武田春郎、葛城文子、河村黎吉、新井淳

青島順一郎 Junichiro Aoshima(1901―1948)

1919年に国活巣鴨撮影所に入社、19歳にして伝説の作品『深山の乙女』(1919年)の撮影を帰山教正のもとで担当した。1923年、日活に移籍して以降は村田実監督の右腕として活躍、サイレント末期には秀作『霧笛』などを残したが、大胆な画面構成とコントラストの強い画面、物語の把握力の確かさは、岡崎宏三など後進のキャメラマンに強い影響を与えている。後に新興キネマや大映でも活躍したが、終戦後若くして没した。
4 2/4(水)7:00pm 2/29(日)4:00pm

霧笛(94分・35mm・白黒・無声)

青島が得意としたコントラストの強さ、野心的なコンポジション感覚がよく表れた、現存する数少ない村田実作品。和製ヴァンプ女優志賀暁子を得て、異国情緒あふれる明治時代の港町横浜の夜を巧みに表現している。

'34(新興キネマ)(撮)青嶋順一郎(監)村田實(原)大佛次郎(脚)國廣周祿(美)水谷浩司(出)中野英治、菅井一郎、志賀暁子、村田宏壽、小坂信夫、ジョー・オハラ、大泉浩二、原譲介、對島邦江、並木錦子、一條桂子、唐松澤子

5 2/5(木)3:00pm 3/5(金)7:00pm

大尉の娘(76分・35mm・白黒)

1917年の初の映画化以来、何度もリメイクされた舞台劇「大尉の娘」のトーキー作品で、舞台ではすでに折り紙つきの井上正夫、水谷八重子が主演している。関西で劇団を率い、演劇論の講義もしていた異色監督野淵昶と、東京に帰還した青島が組んだ一篇。

'36(松竹興行現代劇部=藝術座=新興キネマ東京)(撮)青島順一郎(監)野淵昶(原)中内蝶二(脚)落合浪雄、森田信義(美)水谷浩(音)深井史郎(出)井上正夫、水谷八重子、山田巳之助、吉田豊作、鈴木光枝、歌川八重子、田中筆子、浦辺粂子、宮島啓夫、高橋潤、此花咲子、清水將夫、三桝豊

水谷文二郎 Bunjiro Mizutani(生没年不詳)

1915年日活向島撮影所に入り、1920年には松竹キネマの創立に参加、その初期の記念碑的作品『路上の霊魂』(1921年)の撮影者としてまず名を残している。日本映画の革新者ヘンリー小谷に学び、蒲田撮影所をリードする名キャメラマンとして技量を発揮、日本初の本格的トーキー『マダムと女房』にも研究の段階から関わった。そのダンディな外見や身ぶりは女優陣にも絶大な人気を誇ったと伝えられている。1931年より水谷至宏を名乗る。
6 2/5(木)7:00pm 3/2(火)3:00pm

進軍(119分・35mm・白黒・無声)

陸軍の全面協力を得て、大がかりな空中撮影も行われた松竹の創立10周年記念作品。水谷は、桑原昂や長井信一、猪飼助太郎、杉本正二郎ら蒲田撮影陣総出の応援を得て、飛行士志願の農村青年の恋物語が壮大な戦争劇へとなだれ込むこの大作を撮り上げた。

'30(松竹蒲田)(撮)水谷文二郎(監)牛原虚彦(原)ジェームズ・ボイド(脚)野田高梧(美)脇田世根一(出)鈴木傳明、藤野秀夫、鈴木歌子、田中絹代、小林十九二、武田春郎、高田稔、押本映治、横尾泥海男、青山万里子、吉川英蘭、小藤田正一、吉谷久雄、阪本武、渡辺篤

7 2/6(金)3:00pm 3/6(土)1:00pm

マダムと女房(56分・35mm・白黒)

日本映画の発声化に決定的な役割を果たした松竹初のトーキー作品。水谷は、撮影のみならず、使用された土橋式“松竹フオン”の実験にも当初から参加している。演技、録音、音楽はもちろん、照明や化粧法にいたるまで多くの映画技術の変化がここから始まった。

'31(松竹蒲田)(撮)水谷至宏(監)五所平之助(原)(脚)北村小松(美)脇田世根一(音)高階哲夫、島田晴誉(出)渡辺篤、田中絹代、市村美津子、伊達里子、横尾泥海男、吉谷久雄、月田一郎、日守新一、小林十九二、関時男、坂本武、井上雪子

8 2/6(金)7:00pm 3/7(日)4:00pm

上陸第一歩(88分・35mm・白黒)

港町を舞台にしたメロドラマで、スタンバーグの秀作『紐育の波止場』(1928年)を下敷きにした。当時はキャメラの回転音が録音を妨げるため、撮影者ごと電話ボックス大の箱をかぶせていたが、本作では撮影中の火災で箱の中の水谷があわや焼死という事件もあった。

'32(松竹蒲田)(撮)水谷至宏(監)島津保次郎(原)(脚)北村小松(音)高階哲夫(出)水谷八重子、岡譲二、奈良眞養、江川宇礼雄、河村黎吉、飯田蝶子、吉川満子、沢蘭子、滝口新太郎、岡田宗太郎

友成達雄 Tatsuo Tomonari(1900―没年不詳)

映画芸術協会を皮切りに、国活、東亜キネマ、阪妻プロ、松竹下加茂、P.C.L.(のちに東宝東京)など多くの撮影所で腕を磨き、時代劇、コメディ、メロドラマなどジャンルを問わない活躍を見せた職人的キャメラマン。フットワークの軽い仕事ぶりは、早撮りの渡辺邦男監督、喜劇の名手斎藤寅次郎監督などからも厚い信頼を得て、戦後も新東宝で活躍している。
9 2/7(土)1:00pm 3/3(水)3:00pm

熱砂の誓ひ[前後篇](123分・35mm・白黒)

『白蘭の歌』『支那の夜』の大ヒットに続く「大陸親善映画」の3作目。いずれも主演は日本の代表的二枚目スター長谷川一夫と満映の美人スター李香蘭。日本の土木技師と声学家を目指す中国令嬢とのロマンスが展開。李香蘭の歌う主題歌「紅い睡蓮」も大ヒット。

'40(華北電影=東宝東京)(撮)友成達雄(監)(原)(脚)渡邊邦男(原)(脚)木村千依男(美)戸塚正夫(音)古賀政男(出)長谷川一夫、江川宇禮雄、李香蘭、汪洋、丸山定夫、華風、〓堂國典、鳥羽陽之助、進藤英太郎、藤田進、坂内永三郎、鐵一郎、江藤勇、小島洋々、冬木京二、今成平九郎、松井良輔、谷三平、原浩二、生方賢一郎、水町庸子、里見藍子、伊東薫

10 2/7(土)4:00pm 3/4(木)3:00pm

音樂大進軍(76分・35mm・白黒)

戦時下、南方占領地での公開も意識して作られたオールスターの音楽映画。楽器店の店員である古川緑波と渡辺篤が慰問団を組織するため音楽家たちを説得して歩く。下記の俳優の他、藤原義江、灰田勝彦、辻久子(ヴァイオリン)ら音楽家も登場。

'43(東宝映画)(撮)友成達雄(監)渡邊邦男(脚)如月敏、山崎謙太(美)北猛夫(音)服部良一(出)古川緑波、岡譲二、岸井明、渡辺篤、里見藍子、若原春江、英百合子、中村メイコ、杉寛、伊藤智子、進藤英太郎、長谷川一夫、山田五十鈴、嵯峨善兵、小島洋々、田中春男

11 2/8(日)1:00pm 3/4(木)7:00pm

三尺左吾平(74分・35mm・白黒)

身の丈三尺三寸の左吾平は同じ長さの刀を差し、足の速いのが自慢のお人好し。ひょんなことから伊達藩のお家騒動に巻き込まれ、両陣営の大立者に見込まれたがために敵味方入り交じっての大騒動になる。戦争末期の作品だけに比較的シリアスなものとなっている。

'44(東宝)(撮)友成達雄(監)石田民三(脚)三村伸太郎(美)島康平(音)栗原重一(出)榎本健一、高峰秀子、黒川彌太郎、伊藤智子、横山運平、志村喬、清川莊司、尾上榮三郎

唐沢弘光 Hiromitsu Karasawa(1900―1980)

1918年天活に入社、帝国キネマで技師に昇進する。1923年に移籍した日活大将軍撮影所では絶頂期の伊藤大輔監督とコンビを組み、『下郎』(1927年)や『斬人斬馬剣』(1929年)などの躍動感あふれるキャメラワークによって時代劇撮影の第一人者の地位をものにした。後にP.C.L.へ転じて榎本健一主演のミュージカルなどにも軽快な味を見せたが、戦後は教育映画やテレビに移籍した。
12 2/8(日)4:00pm 3/5(金)3:00pm

忠次旅日記(96分・35mm・白黒・無声)

残存フィルムの後半にあたる「御用篇」のみ唐沢が撮影。手持ちのアイモ撮影機も駆使した自在なキャメラワークは今も新鮮である。結末の土蔵のシーンがもたらす昂揚感は、彼をして「伊藤さんと一心同体になりたい」とまで言わせたこのコンビの真髄であろう。

'27(日活大将軍)(撮)渡会六蔵、唐澤弘光(監)(原)(脚)伊藤大輔(出)大河内傳次郎、中村英雄、伏見直江、中村吉次、沢蘭子、嵐璃左衛門、中村吉次、朝比奈勇二郎、阪本清之助、磯川元春、村上英二、秋月信子、尾上華丈、中村紅果、市川百之助、浅見勝太郎、岡崎晴夫、石井貫治

13 2/10(火)3:00pm 3/6(土)4:00pm

坊っちゃん(80分・35mm・白黒)

漱石による同名小説の初映画化で、日活からP.C.L.に移籍した山本嘉次郎の3作目。彼と親交の深かった宇留木浩(女優細川ちか子の兄)が主役に抜擢され、翌年にほぼ同じ顔ぶれで『吾輩は猫である』も映画化、P.C.L.(東宝)の文芸映画路線の先駆けとなった。

'35(P.C.L.映画製作所)(撮)唐澤弘光(監)山本嘉次郎(原)夏目漱石(脚)小林勝(美)北猛夫(音)紙恭輔(出)宇留木浩、夏目初子、丸山定夫、徳川夢聲、竹久千惠子、藤原釜足、東屋三郎、森野鍛治哉、生方賢一郎、英百合子、伊藤智子

14 2/10(火)7:00pm 3/10(水)3:00pm

エノケンの 近藤勇(80分・35mm・白黒)

喜劇王エノケンが映画に初出演したのが前年の『青春酔虎伝』で、同じ山本監督によるこの3作目は彼が近藤勇と坂本竜馬の二役を演じたP.C.L.最初の時代劇。とはいっても喜歌劇団“エノケン一座”の出演とあって、オペレッタ風の味付けが充分に施されている。

'35(P.C.L.映画製作所)(撮)唐澤弘光(監)山本嘉次郎(原)(脚)P.B.・P.C.L.文藝部(美)北猛夫(音)栗原重一(出)榎本健一、二村定一、中村是好、尾光子、夏目初子、丸山定夫、柳田定一、如月寛多、田島辰夫、伊東薫、花島喜世子、宏川光子

15 2/11(水・祝)1:00pm 3/9(火)3:00pm

戦國群盗傳[総集篇](101分・35mm・白黒)

テンポの速さやスペクタクル性を追求したP.C.L.初の時代劇大作。唐沢は盗賊のアジトのシーンで360度回転パンを行ったといい、自在なキャメラはここでも健在。彼が、遠くにいる無数の馬を動かせと指示すると、走ってゆくのは助監督の黒澤明だったという。

'37(P.C.L.映画製作所=前進座)(撮)唐澤弘光(監)瀧澤英輔(原)三好十郎(脚)梶原金八(美)北猛夫(音)山田耕筰(出)河原崎長十郎、中村翫右衛門、河原崎國太郎、山岸しづ江、千葉早智子、坂東調右衛門、橘小三郎、伊達里子、山縣直代

碧川道夫 Michio Midorikawa(1903―1998)

1919年松竹キネマに入社、ヘンリー小谷の薫陶を受けた後1926年には日活に赴き、多摩川撮影所では『限りなき前進』(1937年)や『土』など、リアリズム路線の確立に貢献した。彼が外国映画から学んだ、被写体の手前に人物や小道具を写し込んで画面を引き締める手法は「ミド・ポジ」と呼ばれ一世を風靡。撮影技術の科学的な体系作りに寄与した理論的指導者でもあり、戦後は大映の技術顧問としてカラー映画の導入にも尽力した。
16 2/11(水・祝)4:00pm 3/11(木)7:00pm

情の光(62分・35mm・白黒・無声)

貧しさに負けず勉学に励む少年と、彼に救いの手を伸べる少女との交流を描いた文部省の社会教育映画。監督のヘンリー小谷は、ハリウッド仕込みの撮影術を日本に導入した碧川の“先生”である。少年の父親役で出演しているのは、碧川の義弟である若き内田吐夢。

'26(特作映画社=文部省)(撮)碧川道夫(監)ヘンリー小谷(原)西山才一郎(脚)近藤經一(出)岩崎孝治、靜香八千代、内田吐夢、米津信子、関根達發

17 2/12(木)3:00pm 3/9(火)7:00pm

路傍の石(130分・16mm・白黒)

貧しい家の少年の逞しい成長を描いた山本有三の名作の映画化。伊佐山三郎撮影でクランクインしながら、急病のため伊佐山の指示で『土』撮影中の碧川にバトンが渡された。碧川はライバル伊佐山を「尊重して」、自分流の正反対の照明プランに変えてしまったという。

'38(日活多摩川)(撮)碧川道夫、伊佐山三郎、永塚一榮(監)田坂具隆(原)山本有三(脚)荒牧芳郎、高重屋四郎(美)松山崇(音)中川榮三(出)片山明彦、山本禮三郎、瀧花久子、小杉勇、江川宇禮雄

18 2/12(木)7:00pm 3/7(日)1:00pm

(93分・35mm・白黒・不完全版)

日活多摩川のリアリズム路線の極北と謳われる内田吐夢の傑作。今回は旧東ドイツから帰還した不完全版を上映する。小杉勇が水をまく旱魃の田は、照明部がスタジオにこしらえライトで乾かした人工の田で、碧川はそれをいかに写実的に見せるか腐心したという。

'39(日活多摩川)(撮)碧川道夫(監)内田吐夢(原)長塚節(脚)八木隆一郎、北村勉(美)堀保治(音)乗松明廣(出)小杉勇、風見章子、どんぐり坊や、山本嘉一、見明凡太郎、山本礼三郎、鈴木三右衛門、藤村昌子、村田知栄子

白井茂 Shigeru Shirai(1899―1984)

日本の記録映画、ニュース映画キャメラマンの草分け。1923年松竹を去って東京シネマ商会に入社、関東大震災の被害記録や名機アケリーで収めた山岳映像はノンフィクション映画の威力を広く知らしめる。『朝日ニュース』に参加して以降は日中戦争をはじめとする時事報道に圧倒的な力を見せた。日本映画社の創立に際しては指導的な役割を果たし、戦後も経営とならんでドキュメンタリー撮影の巨匠として活動を続けた。
19 2/13(金)3:00pm 3/10(水)7:00pm

社會教育劇 (ちまた)の子(51分・35mm・白黒・無声)

白井が記録映画への道を歩み出した東京シネマ商会は、実写のほか教育劇映画の製作にも重心を置いたが、そこには初期の新劇人や、帰山教正、村田実、畑中蓼坡ら当時の一流監督が集っていたという。本作は不良少年が更生する様を描いた教育劇のひとつ。

'24(東京シネマ商会)(撮)白井茂(監)畑中蓼坡(原)サアストン(脚)野村愛正(出)夏川静江、小島勉、小杉義夫、高橋豊子、夏川大吾、一色久子、奥村博史、伊澤蘭奢

黒部峡谷探検(24分・35mm・白黒・無声)

「黒部の主」とも呼ばれた登山家冠松次郎の指導のもと、白井が手がけた山岳映画の代表的作品。これにより、未知の空間をキャメラ・アイで踏破する白井の仕事は社会的にも認知され、翌年以降も『劔岳』や『赤石嶽』などによって山岳撮影の分野を確立した。

'27(文部省)(撮)白井茂

20 2/13(金)7:00pm 3/13(土)1:00pm

南京(56分・35mm・白黒)

“ぶっつけ本番”であるがゆえにキャメラマンに「演出力、構成力」が求められる白井のニュース撮影の経験は、日中戦争の戦局報道に活かされた。しかし日本軍南京入城に際し彼が見た「余りにも残酷な」光景のすべては撮れず、また検閲で削除もされたという。

'38(東宝文化映画部)(撮)白井茂(編)秋元憲(音)江文也(解)徳川夢声

信濃風土記より 小林一茶(27分・35mm・白黒)

白井が「亀井君とのこの仕事はいまも忘れられない」と記す本作では、このコンビの機敏さが発揮された。ラジオで霜の報に接して急遽現地で撮影を敢行、霜害に苦しむ農民を描く案に決めたという。有名な「やせ蛙」の句を効果的に用いた亀井の編集の妙も見所。

'41(東宝文化映画部)(撮)白井茂(監)亀井文夫(音)大木正夫(解)徳川夢声

野村昊 Hiroshi Nomura(1897―1984)

写真館で普通写真を学んだ後、1920年水谷文二郎とともに新設の松竹キネマに合流、蒲田・大船の両時代を通じて戦前松竹の代表的なキャメラマンのひとりとなる。『極光の彼方へ』(1921年)などの初期作品は「豊麗な画調」(三浦光雄)と評されたが、『小羊』(1923年)を除いてフィルムは残されていない。トーキー時代には事実上佐々木康監督の専任キャメラマンとなったが、1946年には大船を去り映画界から退いている。
21 2/14(土)1:00pm 3/11(木)3:00pm

東京の英雄(64分・35mm・白黒・サウンド版)

女手一つで子供たちを育てた義理の母(吉川満子)のため、新聞記者となり詐欺師の父親を告発する息子(藤井貢)。清水宏の陰影あるストーリーにあって、「滑るように流れて行く画面の魅惑に捉えられた」(友田純一郎)と野村の撮影術を絶賛する評も寄せられた。

'35(松竹蒲田)(撮)野村昊(監)清水宏(原)源尊彦(清水宏)(脚)荒田正男(美)脇田世根一(音)早乙女光(出)藤井貢、岩田祐吉、吉川満子、桑野通子、三井秀男、突貫小僧、市村美津子、横山準、近衛敏明、出雲八重子、高松栄子、水谷能子、御影公子、高杉早苗、京町みち代、石山龍兒、河原侃二

22 2/14(土)4:00pm 3/12(金)3:00pm

純情二重奏[総集篇](72分・35mm・白黒)

東映時代劇の巨匠佐々木監督は、かつては小津安二郎門下の松竹娯楽映画の担い手であった。特に歌謡映画の分野にその才能を示し、この作品の大ヒットでその地位は不動のものとなった。異母姉妹の葛藤に絡む物語で、コロムビア・レコードの歌手が大勢出演。

'39(松竹大船)(撮)野村昊、寺尾清(監)佐々木康(脚)斎藤良輔、長瀬喜伴(音)万城目正、仁木他喜男(出)高峰三枝子、吉川満子、横山準、斎藤達雄、岡村文子、木暮実千代、細川俊夫、松原操、伊藤久男、志村道夫、毛塚守彦、淡谷のり子、中野忠晴、大山健二、松平晃、山内光、鈴木芳枝、坂本武、双葉あき子、霧島昇、森川まさみ、近衛敏明

23 2/15(日)1:00pm 3/12(金)7:00pm

征戦愛馬譜 暁に祈る(105分・35mm・白黒)

陸軍省後援と「征戦愛馬譜」の副題が示すように、軍用馬の重要性と生産を訴える戦意高揚映画である。中国戦線で戦死した夫に代って軍用馬の育成を誓う牧場主の娘を田中絹代が演じた、松竹歌謡映画の担い手である佐々木康=作曲家万城目正コンビの作品。

'40(松竹大船)(撮)野村昊(監)佐々木康(脚)齋藤良輔、八木澤武孝(美)五所福之助(音)万城目正(出)徳大字伸、田中絹代、河村黎吉、夏川大二郎、佐分利信、伊藤久男、葛城文子、汀陽子、坂本武、飯田蝶子、横山準、笠智衆、磯野秋雄、寺岡修、三村秀子、阿部正三郎、三井秀男、中川健三

桑原昂 Takashi Kuwabara(1891―1966)

1911年福宝堂に入社して映画撮影の先駆者のひとり玉井昇に師事、やがて日活向島、天活に転じる。1920年松竹キネマに入社、蒲田撮影所では島津保次郎との間に固い絆を結び、『隣りの八重ちやん』や『お琴と佐助』(1935年)など島津の代表作に軒並み関わっている。「ロマンティックな表現」(三浦光雄)に秀でたと称されたが、当時は手作業だったフィルム現像も得意とし“蒲田調”をテクニカルな面からも支えている。
24 2/15(日)4:00pm 3/16(火)3:00pm

隣りの八重ちやん(77分・35mm・白黒)

家が隣同士の大学生・恵太郎と女学生・八重子は幼馴染みだが、互いに異性として意識する年齢になりつつある。日々の瑣事がそんな二人の心に波紋を投げかける様を活写した島津保次郎の名作。当時の松竹映画が見せる明朗な小市民の姿が撮影においても強調されている。

'34(松竹蒲田)(撮)桑原昂(監)島津保次郎(美)脇田世根一(音)早乙女光(出)逢初夢子、大日方傳、岡田嘉子、高杉早苗、岩田祐吉、飯田蝶子、岡田嘉子、水島亮太郎、葛城文子、磯野秋雄、阿部正三郎

25 2/17(火)3:00pm 3/17(水)7:00pm

私の兄さん(69分・35mm・白黒)

林長二郎(後の長谷川一夫)の現代劇初出演は田中絹代と共演の大ヒット作『金色夜叉』だったが、2年後に再度コンビを組んだのが本作である。すねた弟は富豪令嬢と恋に落ちるが、彼とその立ち直りを優しく見守る義兄らとの人間関係がモダンな手法で描かれている。

'34(松竹蒲田)(撮)桑原昂(監)島津保次郎(美)脇田世根一(音)早乙女光(出)林長二郎、河村黎吉、鈴木歌子、田中絹代、坪内美子、坂本武、大山健二、石山竜兒、赤地重雄、野寺正一、奈良眞養、河原侃二、山口勇、小林十九二、南里コンパル、松井潤子

26 2/17(火)7:00pm 3/13(土)4:00pm

家族會議(71分・35mm・白黒)

当時評判となった同名新聞連載小説の映画化。東京の証券会社のインテリ若主人をめぐって、東京と大阪の同業者令嬢との恋愛と応援合戦、その陰で繰り広げられる同業者間の熾烈な戦いが、古風と現代を対比させつつ、松竹女優陣の大挙出演で見事に描かれている。

'36(松竹大船)(撮)桑原昂、水谷至宏(監)島津保次郎(原)横光利一(脚)池田忠雄(美)脇田世根一(音)早乙女光(出)佐分利信、高田浩吉、及川道子、高杉早苗、桑野通子、立花泰子、鈴木歌子、飯田蝶子、志賀靖郎、藤野秀夫、水島亮太郎、河村黎吉、阪本武、斎藤達雄、小林十九二、山内光

横田達之 Tatsuyuki Yokota(1902―1995)

1919年日活向島撮影所に入って大洞元吾に師事したのち、全篇夜間撮影の『人間苦』(1922年)など、溝口健二のライバル鈴木謙作の作品を多く担当する。京都に移ってからは『東京行進曲』(1929年)などの溝口作品で力量を発揮、1934年には多摩川撮影所に復帰。後にスクリーン・プロセスやオプチカル技術、カラー撮影の研究でも知られ、戦後は長らく大映東京撮影所のほとんどの特殊撮影を担った。
27 2/18(水)3:00pm 3/14(日)1:00pm

藤原義江の ふるさと(86分・35mm・白黒・改訂新版)

藤原義江演じる若き声楽家の成功物語で、溝口健二が監督にあたった日活初の部分発声映画。通常のトーキー映写速度(24fps)で上映すると高音になりすぎるミナトーキー・システムによる藤原の声も、元来の速度21fpsで再現することによって、より自然に聞こえる。

'30(日活太秦)(撮)横田達之(監)溝口健二(原)(脚)森岩雄、如月敏、畑本秋一(出)藤原義江、夏川静江、小杉勇、土井平太郎、リディア・シャピロ、村田宏壽、田村邦男、浜口富士子、佐久間妙子、高津愛子

28 2/18(水)7:00pm 3/18(木)3:00pm

召集令(73分・35mm・白黒・パートトーキー)

夫を日露戦争に駆り出され、後に残った貧苦の家族の悲しみを綴る東家楽燕の「召集令」は、無声時代から何度も映画化されたが、本作は楽燕自らが口演した“浪曲映画”である。京都時代から現代劇に定評のあった横田は、多摩川でも幅広いジャンルに携わった。

'35(日活多摩川)(撮)横田達之(監)(脚)渡邊邦男(原)東家樂燕(美)堀保治(出)中田弘二、中野かほる、廣瀬恒美、大原雅子、澤村貞子、星ひかる、高木永二、村田宏壽、若太刀芳之助、佐藤圓治、黒田記代、北原夏江、藤田章喜、堀貞行、大國一郎、東勇路、三井泰三、大川修一、對島和夫

杉山公平 Kohei Sugiyama(1899―1960)

1920年国活にスチル・キャメラマンとして入社、翌々年には映画撮影に転じ、東亜キネマなどを経て松竹へ移籍する。衣笠貞之助に見い出されて『狂った一頁』(1926年)や『十字路』など日本映画史を画する重要作品に起用され、以後終生のコンビを組んだ。戦時中は満州映画協会の技師長となり、帰国後は日本初のイーストマンカラー作品『地獄門』など、大映の色彩映画への貢献でも知られる。
29 2/19(木)3:00pm 3/14(日)4:00pm

十字路(87分・35mm・白黒・無声・英語版)

矢場の女をめぐって傷害事件を起こした弟、それを必死でかばう姉は身売りの誘惑と目明かしの魔手にさらされていた。絶望の淵を逃げ惑う二人の運命は…。ドイツ表現派に影響された実験的演出とセット、強烈な陰影と斬新なキャメラワークによる芸術的野心作。

'28(衣笠映画連盟=松竹京都)(撮)杉山公平(監)(脚)衣笠貞之助(美)友成用三(出)千早晶子、阪東寿之助、小川雪子、相馬一平、中川芳江、関操、二條照子、小澤茗一郎

30 2/19(木)7:00pm 3/20(土・祝)4:00pm

雪之丞変化[再公開版・総集篇](97分・35mm・白黒)

衣笠=杉山=長二郎のトリオは松竹時代劇の金看板であり、そのとどめを刺したのがこの作品である。幼い時に両親を殺された男が長じて歌舞伎の女形になり、艱難辛苦の末に復讐を果たすという朝日新聞連載小説の映画化。東海林太郎が歌う主題歌も大ヒット。

'35(松竹京都)(撮)杉山公平(監)(脚)衣笠貞之助(原)三上於菟吉(脚)伊藤大輔(音)松平信博、杵屋正一郎(出)林長二郎、嵐徳三郎、〓堂國典、千早晶子、伏見直江、山路義人、志賀靖郎、〓松錦之助、南光明、日下部龍馬、原健作

31 2/20(金)3:00pm 3/16(火)7:00pm

源氏物語(123分・35mm・白黒)

光源氏が巡る女性遍歴の物語を、稀代の二枚目・長谷川一夫とスター女優たちの競演で描いた大映のヒット大作。絢爛たる王朝絵巻を、ある種耽美的ともいえるタッチで描出した杉山公平の白黒撮影術は、海外でも高く評価されカンヌ映画祭撮影賞をもたらした。

'51(大映京都)(撮)杉山公平(監)吉村公三郎(脚)新藤兼人(美)水谷浩(音)伊福部昭(出)長谷川一夫、大河内傳次郎、木暮實千代、水戸光子、京マチ子、乙羽信子、堀雄二、本間謙太郎、菅井一郎、進藤英太郎、小澤榮、長谷川裕見子、相馬千惠子、英百合子、瀧花久子、東山千榮子、加東大介、近衛敏明、小柴幹治、殿山泰司、天野一郎、上山草人

32 2/20(金)7:00pm 3/17(水)3:00pm

地獄門(88分・35mm・カラー)

日本で初めてイーストマンカラーを導入し、カンヌ国際映画祭のグランプリに輝いた記念的作品。ジャン・コクトーやカール・ドライヤーなど世界の映画人を魅了した色彩の妙は、杉山の力はもちろん、アメリカで研究を重ねた技術監督碧川道夫らのバックアップもあった。

'53(大映京都)(撮)杉山公平(監)(脚)衣笠貞之助(原)菊池寛(美)伊藤熹朔(音)芥川也寸志(出)長谷川一夫、京マチ子、山形勲、黒川彌太郎、坂東好太郎、田崎潤、千田是也、清水将夫、石黒達也、植村謙二郎、清水元、荒木道子、南美江、毛利菊枝、香川良介、荒木忍、沢村国太郎、殿山泰司

33 2/21(土)1:00pm 3/18(木)7:00pm

鳴門秘帖(101分・35mm・カラー)

大阪毎日新聞に連載された同名小説は、1926年に日活・マキノ・東亜の3社で競作されて以来幾度となく映画化されてきた。徳川十代将軍の頃、反幕の動きを見せる阿波藩に隠密が送られたが、その敵味方入り交じっての戦いを鮮やかな色彩と流麗な語り口で描いた。

'57(大映京都)(撮)杉山公平(監)(脚)衣笠貞之助(原)吉川英治(脚)犬塚稔(美)西岡善信(音)斎藤一郎(出)長谷川一夫、市川雷蔵、山本富士子、淡島千景、林成年、南左斗子、千葉登四男、滝沢修、中村伸郎、清水将夫、石黒達也、松本克平、香川良介、杉山昌三九、沢村宗之助、信欣三、荒木忍

三浦光雄 Mitsuo Miura(1902―1956)

1920年日活向島撮影所に入り、1923年には松竹蒲田で技師に昇進。後年P.C.L.へ移籍するが、初期の特徴とされる軟らかいリリカルな画調は多くのキャメラマンの瞠目するところとなった。戦後は松竹時代からの盟友五所平之助と再び組んだ『今ひとたびの』が多数の賞を受け、豊田四郎の『夫婦善哉』では演出力のある白黒撮影が絶賛された。現在、その功績を讃えて、撮影界の新人賞として「三浦賞」が設けられている。
34 2/21(土)4:00pm 3/19(金)3:00pm

雁來紅(かりそめのくちべに)(96分・35mm・白黒)

入江たか子が自前のプロダクションを興して製作したロマンティック・コメディの佳作で、鈴木重吉のモダンな感覚と三浦の流麗な撮影術が味わえる。上映用に国産の富士フイルムを用いた最初の劇映画でもある。なお、この上映プリントは特に音声が劣化している。

'34(入江ぷろだくしょん)(撮)三浦光雄(監)鈴木重吉(原)久米正雄(脚)木村千依男(美)小池一美(音)コロムビア・ジャズ・バンド(出)入江たか子、渡辺篤、伊達里子、菅井一郎、見明凡太郎、汐見洋、田中筆子、ヘレン本田、相川マユミ

35 2/22(日)1:00pm 3/19(金)7:00pm

藤十郎の戀[総集篇・短縮版](95分・35mm・白黒)

松竹の看板スター林長二郎は、東宝移籍を発表すると暴漢に襲われ顔を傷つけられたが、傷が癒えて本名を名乗った第1作が本作である。実在の名女形を主人公に、芸道のため思いを寄せる人妻を死に至らしめる菊池寛の名作を映画化。黒澤明が製作主任を務めた。

'38(東宝東京)(撮)三浦光雄(監)山本嘉次郎(原)菊池寛(脚)三村伸太郎(美)小村雪岱、島康平(音)菅原明朗(出)長谷川一夫、入江たか子、藤原釜足、汐見洋、瀧澤修、御橋公、小杉義男、市川朝太郎、中村健峰、片岡右衛門、市川福之助、中村蝶太郎、巽寿美子、片岡燕之丞、中村蝶吉

36 2/22(日)4:00pm 3/23(火)3:00pm

今ひとたびの(118分・35mm・白黒)

五所平之助が東宝に入って監督した戦後第1作で、戦争をはさんで引き裂かれ、また結ばれる一組の男女をロマンチックに描いた恋愛映画。神宮絵画館前の逢瀬など、30歳になる直前の高峰三枝子の輝くような美しさと、相手役竜崎一郎の知的な二枚目ぶりがともに印象的。

'47(東宝)(撮)三浦光雄(監)五所平之助(原)見順(脚)植草圭之助(美)松山崇(音)服部良一(出) 峰三枝子、龍崎一郎、田中春男、北澤彪、河村弘二、清水将夫、谷間小百合、一の宮敦子、中北千枝子、出雲八重子

37 2/24(火)3:00pm 3/24(水)7:00pm

煙突の見える場所(108分・35mm・白黒)

通称“お化け煙突”が見える場所に住む人々――戦争を引きずった貧しい彼らの生活と哀歓を見事に描く名優競演の秀作。五所監督お得意の小市民劇は、ここでは戦後を色濃く反映していかにもほろ苦い。移ろう時間に応じた光の捉え方や空気感の描出に三浦の才能が窺われる。

'53(新東宝=スタジオ・エイト・プロ)(撮)三浦光雄(監)五所平之助(原)椎名麟三(脚)小國英雄(美)下河原友雄(音)芥川也寸志(出)田中絹代、上原謙、高峰秀子、芥川比呂志、関千恵子、花井蘭子、坂本武、田中春男、三好榮子、浦邊粂子、星ひかる、中村是好、小倉繁、大原榮子、本間文子、高松政雄

38 2/24(火)7:00pm 3/21(日)4:00pm

夫婦善哉(120分・35mm・白黒)

織田作之助の同名原作を映画化した豊田四郎の名作。駄目な若旦那としっかり者の芸者を描く涙と笑いの大阪夫婦(めおと)物語で、主演の森繁久弥と淡島千景にとっても生涯の代表作。他作品でも雪の撮影に技量を見せる三浦のキャメラによる“雪の法善寺”など出色。

'55(東宝)(撮)三浦光雄(監)豊田四郎(原)織田作之助(脚)八住利雄(美)伊藤熹朔(音)團伊玖磨(出)森繁久彌、淡島千景、司葉子、浪花千栄子、山茶花究、小堀誠、田中春男、田村樂太、森川佳子、志賀廼家弁慶、萬代峰子、三好榮子、上田吉二郎、澤村宗之助、谷晃、若宮忠三郎、三條利喜江

伊佐山三郎 Saburo Isayama(1902―1967)

1922年日活向島に入社するが、震災後、京都の大将軍撮影所で田坂具隆監督と出会ったことがその後の撮影人生を決定づけた。事前の撮影設計を重視し、『五人の斥候兵』や『土と兵隊』(1939年)などの日活多摩川作品は「劇的写実」と謳われ賛辞を浴びた。また戦後も『どぶろくの辰』(1949年)や『雪割草』(1951年)など、田坂との「日本映画史の中でももっとも幸福なコンビ」(平井輝章)を保って格調高い画面を生み出した。
39 2/25(水)3:00pm 3/27(土)4:00pm

五人の斥候兵(72分・35mm・白黒)

日中戦争の最前線を舞台に、兵士たちの日常や戦友同士の助け合いを描く。伊佐山は、冒頭の約2分に及ぶ移動撮影の最中でもフレーミングに変化をつけて迫力を加えるとともに、艶のある質感を出すためメイクアップや兵士の服を黒めにする工夫もしたという。

'38(日活多摩川)(撮)伊佐山三郎(監)田坂具隆(原)高重屋四郎(田坂具隆)(脚)荒牧芳郎(美)松山崇(出)小杉勇、見明凡太朗、伊沢一郎、井染四郎、長尾敏之助、星ひかる、井上敏正、渡部清、潮万太郎、西春彦、佐藤圓治、菊池良一、北竜二

40 2/25(水)7:00pm 3/26(金)3:00pm

海軍(85分・35mm・白黒)

岩田豊雄(獅子文六)の同名小説を、戦争映画で定評のあった田坂具隆が監督した作品で、真珠湾攻撃から2年後の1943年12月8日に封切られた(前年には東宝が『ハワイ・マレー沖海戦』を公開)。海軍の後援を得た本作には、多数の撮影班が組織されたという。

'43(松竹京都)(撮)伊佐山三郎(監)(脚)田坂具隆(原)岩田豊雄(脚)澤村勉(美)六郷俊(音)内田元(出)山内明、志村久、滝花久子、小杉勇、水戸光子、青山和子、風見章子、長尾敏之助、小沢栄太郎、東野英治郎、笠智衆、加藤精一、原保美、土紀柊一、荒木忍、佐田豊、紅沢葉子

41 2/26(木)3:00pm 3/28(日)4:00pm

長崎の歌は忘れじ(118分・35mm・白黒)

長崎生まれの米人が、ハワイの捕虜収容所で病死した日本兵の未完の楽譜を届けに再訪。被爆で盲目の未亡人との葛藤の末、彼が完成させた楽曲が彼女の頑なな心を開くという物語は、自ら被爆者である田坂の構想で、楽曲「心の真珠」は早坂文雄の作曲。

'52(大映東京)(撮)伊佐山三郎(監)(原)田坂具隆(脚)沢村勉(美)柴田篤二(音)早坂文雄(出)京マチ子、アーリントン・ロールマン、久我美子、根上淳、滝沢修、山内明、フランシス・デーニ、東山千栄子、杉丘毬子、滝花久子、長谷部健、星光、隅田一夫、渥美進、町田博子、新宮信子、目黒幸子、若尾文子

42 2/26(木)7:00pm 3/24(水)3:00pm

乳母車(109分・35mm・白黒)

子供まで作ってしまった父の愛人関係を清算させようとする娘(芦川いづみ)と、その愛人の弟(石原裕次郎)。若い二人は、それ故に幼子の成長を応援することを誓う。淡々とした描写でさらに円熟味を増す田坂=伊佐山コンビの佳作。

'56(日活)(撮)伊佐山三郎(監)田坂具隆(原)石坂洋次郎(脚)澤村勉(美)木村威夫(音)齋藤一郎(出)石原裕次郎、芦川いづみ、新珠三千代、山根壽子、宇野重吉、青山恭二、杉幸彦、須藤孝、中原早苗、織田政雄、土方弘、森教子、畑中蓼坡、小泉郁之助、雪岡純、二木草之助、阪井一朗、福田トヨ

鈴木博 Hiroshi Suzuki(1898-1964)

1922年松竹キネマに入社して水谷文二郎に師事したが、その後は下加茂撮影所や帝国キネマなど関西で活躍する。1933年に新設のP.C.L.に合流、同社の明朗路線を支えつつ、成瀬巳喜男作品などを担当して東宝の最重要キャメラマンのひとりとなる。戦後、新東宝に移ってからも精力的に活躍、『小原庄助さん』(1949年)や『しいのみ学園』(1955年)といった清水宏作品にも持ち味を見せた。
43 2/27(金)3:00pm 3/23(火)7:00pm

音楽喜劇 ほろよひ人生(77分・35mm・白黒)

東宝の母体となった写真科学研究所(P.C.L.)の記念すべき第1回作品で、大日本ビールの宣伝映画として製作された“日本最初の音楽喜劇”。鈴木と美術スタッフは、画面に明るい清潔感を出すために壁や柱を白く塗ることにし、日本映画の“新風”を印象づけた。

'33(写真科学研究所)(撮)鈴木博(監)木村莊十二(脚)松崎啓次(美)山崎醇之輔(音)兼常清佐、紙恭輔、奥田良三(出)徳川夢声、大川平八郎、藤原釜足、千葉早智子、神田千鶴子、堤眞佐子、古川緑波、大辻司郎、横尾泥海男、吉谷久雄、関時男、中根竜太郎、丸山定夫、間英子、双葉芳子

44 2/27(金)7:00pm 3/25(木)3:00pm

はたらく一家(65分・35mm・白黒)

鈴木は『乙女ごころ三人姉妹』(1935年)以来、戦前P.C.L.=東宝時代の成瀬巳喜男をもっともよく支えたキャメラマンでもあった。本作はプロレタリア文学者徳永直の短篇集を成瀬がまとめて演出したもので、老いた印刷工の一家の貧しくとも明るい生活を活写した。

'39(東宝東京)(撮)鈴木博(監)(脚)成瀬巳喜男(原)徳永直(美)松山崇(音)太田忠(出)大日方傳、椿澄枝、徳川夢声、本間教子、生方明、伊東薫、南青吉、平田武、阪東精一郎、若葉喜世子、眞木順、藤輪欣司

45 2/28(土)1:00pm 3/25(木)7:00pm

上海陸戰隊(89分・35mm・白黒)

1937年8月、蘆溝橋事件の戦火が上海に移った当時の海軍陸戦隊の戦いぶりを、セミドキュメンタリー的なタッチを取り入れて再現した東宝製作の戦争劇映画。前年に亀井文夫が編集し同じく東宝が公開した記録映画『上海』と好一対をなすという点でも興味深い。

'38(東宝東京)(撮)鈴木博(監)熊谷久虎(脚)澤村勉(美)北猛夫(出)大日方傳、原節子、丸山定夫、英百合子、清川莊司、北澤彪、光一、澤田光男、鉄一郎、柳谷寛、中村英雄、関口八郎、佐山亮、佐伯秀男、小杉義男、月田一郎、眞木順、江藤勇、三木利夫、鬼頭善一郎、榊田敬治、椿澄江

46 2/28(土)4:00pm 3/26(金)7:00pm

海賊船(114分・35mm・白黒)

南シナ海で密輸船を狙う荒くれの海賊たちを描いた三船敏郎主演、稲垣浩監督による海洋冒険映画。その海賊船・千里丸に潜り込んだ4人の子供たちの一人が娘と分って、男たちに一波乱…。海のシーン、ミニチュアなど当時の映画技術が見られるのも興味深い。

'51(東宝)(撮)鈴木博(監)稲垣浩(脚)小國英雄(美)安倍輝明(音)深井史郎(出)三船敏郎、淺茅しのぶ、大谷友右衛門、田崎潤、森繁久彌、上田吉二郎、大泉滉、富田仲次郎、谷晃、福原秀丈、〓原駿雄、大久保正信、松尾文人、英百合子