聖なる映画作家、カール・ドライヤー
The Art of Carl Th. Dreyer

裁判長
Præsidenten(89分・白黒・16fps)

自分がはるか昔に捨てた娘が、不幸の果てに死刑宣告を受けたと知って裁判長カール・ヴィクトルは深い苦悩に沈む。こうした重厚なメロドラマは、当時ドライヤーが属していたノーディスク社の人気ジャンルであった。すでに脚本家として活躍していたドライヤーの監督昇進第1作で、いくつものフラッシュバックが効果的に使われている。

‘18(ノーディスク・フィルムス)(原)カール・エーミール・フランツォス(脚)(美)カール・ドライヤー(撮)ハンス・ウォーゲ(出)ハルヴァーズ・ホフ、エリート・ピオ、カール・マイヤー、オルガ・ラファエル・リンデン、ベティー・キアケビュ、アレックス・リカーズ・クリステンセン、ペーター・ニールセン、アクセル・マッセン、ヤコバ・イェッセン、ハランダー・へレマン、ファンニー・ペーターセン、ヨン・イヴァーセン

サタンの書の数ページ
Blade af Satans Bog(148分・白黒・18fps)

キリストの時代のエルサレム、16世紀の宗教裁判、フランス革命、現代のフィンランドという人間界の4つの舞台にサタンが忽然と現れ、人間を誘惑し、堕落させようとする。複数の時代が交差するストーリーの語り方、そして迫力ある俳優のクロース・アップなどは、D・W・グリフィスの傑作『イントレランス』(1916年)に触発されたとも言われる。

‘19(ノーディスク・フィルムス)(原)マリー・コレッリ(脚)(美)カール・ドライヤー(脚)エドガー・ホイヤー(撮)ゲオー・スネーフォート(美)イェンス・G・リン、アクセル・ブルーン(出)ヘリイェ・ニッセン、［第1話］ハルヴァーズ・ホフ、ヤーコブ・テクシエア、エアリング・ハンソン［第2話］ハランダー・へレマン、エボン・ストランディン、ヨハンネス・マイヤー、ナレ・ハルデン、フーゴ・ブルーン［第3話］テンナ・フレゼリクセン、ヴィゴ・ヴィーエ、エンマ・ヴィーエ、ジャンヌ・トランクール、エリート・ピオ、エーミール・ヘルセングレーン［第4話］カーロ・ヴィート、クララ・ポントピダン、カール・ヒレブラント、カリーナ・ベル、クリスチアン・ニールセン

牧師の未亡人
Prästänkan(83分・白黒・18fps)

牧師として就職が決まったのはいいが、その条件として前任牧師の老未亡人と結婚しなければならないと知った神学生セフレン。婚約者もいるセフレンが案じた一計とは…。ドライヤー作品の中でもコメディの色彩を持っている数少ない作品である。彼が始めて母国の外で作った映画であり、スウェーデンの資本を得てノルウェーで撮影されている。

‘20(スヴェンスク・フィルムインドゥストリ)(原)クリストファー・ヤンソン(脚)カール・ドライヤー(撮)ゲオー・スネーフォート(出)ヒルドゥア・カールベルイ、エイナー・レード、グレータ・アルムロート、ウーラフ・アウクルスト、クルト・ヴェーリン、エーミール・ヘルセングレーン、マチルデ・ニールセン、ローレンツ・ティーボルト

不運な人々
Die Gezeichneten(84分・白黒・20fps)

活気づくベルリンの映画界に新天地を求めたドライヤー初めてのドイツ映画。20世紀初頭、ロシア南部の反ユダヤ感情の強い町を舞台に、革命思想の洗礼を受けたユダヤ人の娘が、迫害に遭いながらも強く生き抜いてゆくさまを描いている。なお現存するバージョンは1961年にソ連で発見されたロシア公開版で、40分ほど欠落している。

‘21(プリムスフィルム)(原)オーエ・マーゼルング(脚)カール・ドライヤー(撮)フリードリヒ・ヴァインマン(美)イェンス・G・リン(出)ポリーナ・ピエコフスカ、ヴラジーミル・ガイダロフ、アデーレ・ロイター＝アイヒベルグ、トーライフ・ライス、リチャード・ボレスラウスキー、ドゥワン、ヨハンネス・マイヤー

むかしむかし
Der Var Engang(64分・白黒・不完全・20fps)

架空の国イリヤのわがままな王女に、デンマークの王子が陶工に変装して求婚するが…。原作はデンマークの劇作家ホルガー・ドラックマンが書いた一種のおとぎ話で、ドライヤーは前年にコペンハーゲンの王立劇場で演出したこの劇を自ら映画化し、大ヒットさせている。但し、1964年に発見された現存版は、全体の半分以下しかない不完全版である。

‘22(ソフス・マッセン)(原)ホルガー・ドラックマン(脚)カール・ドライヤー、パレ・ローセンクランス(撮)ゲオー・スネーフォート(美)イェンス・G・リン(出)クララ・ポントピダン、スヴェン・メトリング、ペーター・イェアンドーフ、ハーコン・アーンフェルツ＝レンネ

ミカエル
Mikaël(89分・白黒・20fps)

著名な画家ゾレの養子となった青年画家ミカエルは、美しい公爵夫人に魅せられたあげく、ついにゾレを裏切りはじめる。絵画的に構成された画面は、基調となる黒さの中に、白をメインにした美術品が浮かび上がるように作られている。ドイツ映画だが、ゾレの役にはドライヤーが敬愛するデンマークの監督、ベンヤミン・クリステンセンを起用している。

‘24(デクラ・ビオスコープ＝ウーファ)(原)ヘアマン・バング(脚)カール・ドライヤー(撮)カール・フロイント、ルドルフ・マテ(美)フーゴー・へーリング(出) ベンヤミン・クリステンセン、ヴァルター・シュレツァク、ノラ・グレゴール、グレーテ・モスハイム、アレクサンダー・ムルスキ、ロバート・ガリソン、マックス・アウツィンガー、ディディエ・アスラン、カール・フロイント、ヴィルヘルミーネ・ザンドロック

あるじ
Du skal ære din Hustru(118分・白黒・18fps)

家族に対して暴君のようにふるまってきた「あるじ」が、妻の家出をきっかけに改心し、やがて元のさやに収まる。ドライヤーは撮影所の敷地にほとんど本物に近いアパートの部屋を作らせ、この作品を人々の日常に即した室内劇として演出した。ドライヤーにとっては国際的な出世作であり、日本で公開された最初の作品でもある。

‘25(パレージウム)(原)スヴェン・リンドム(脚)(美)カール・ドライヤー(撮)ゲオー・スネーフォート(出)ヨハンネス・マイヤー、アストリズ・ホルム、カーリン・ネレモーセ、マチルデ・ニールセン、クララ・シェンフェル、ヨハンネス・ニールセン、ペトリーネ・ソンネ

グロムダールの花嫁
Glomdalsbruden(70分・白黒・不完全・18fps)

小作人の息子トーレと地主の娘ベリトが、家族の反対や恋敵の嫉妬を押し切って、愛を成就させようとするさまを描いたノルウェー映画。ドライヤー作品としては珍しく、川の急流など、大自然の中で即興演出が展開されているのが特徴である。現存するプリントは完全ではなく、50分ほど欠落しているとされる。

‘25(ヴィクトリア・フィルム)(原)ヤーコブ・ブレーダ・ブル(脚)(美)カール・ドライヤー(撮)アイナー・オルセン(出)トーヴェ・テルバック、ストゥブ・ヴィーベル、アイナー・シッセナー、ハラルド・ストーモーン、アルフィルド・ストーモーン、アイナー・トヴァイト、オスカー・ラーセン、ラスムス・ラスムッセン、ソフィー・ライマース

ピアノ伴奏者紹介

ニール・ブランド
Neil Brand

俳優としての修業を積んだのち作曲家・ピアニストとして活躍、とりわけアルフレッド・ヒッチコック作品『リング』のビデオリリースに際しての作曲は好評を博す。無声映画の伴奏も17年の経験を持ち、ロンドンの国立映画劇場(NFT)をベースに、これまで英国各地やオーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、イスラエル、スウェーデン、フランス、ドイツ、アイルランドなどで演奏を行ったほか、イタリアのポルデノーネ無声映画祭などの映画祭でも多くの観客を魅了している。さらにロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックで客員教授を勤めたり、著述家として映画と音楽に関する著書「ドラマティック・ノーツ」を発表するなど、多才な人物である。