東京国立近代美術館フィルムセンター
大ホール上映作品

日本映画の発見VII:1970年代(1)

Rediscovering Our National Film Heritage (VII): 1970s - Part 1

上映スケジュール

フィルムセンターの長期上映企画である「日本映画の発見」は、1910年代の無声映画期から始まり、映画史上に残る名作、話題作、異色作、大ヒット作品など日本映画のもつ豊かでバラエテイに富んだ世界を順次おいながら、今回で第VII期に入り、1970年代にたどりつきました。そして、この1970年代において、日本映画はそれまで経験したことのない困難な状況に直面してゆきます。映画が娯楽産業の中心=王者の位置から滑り落ち、予想の範囲を越えた事態が進行していったからです。これを数字でみてみますと、1970年の映画館入場者数はおよそ2億5,480万人、1980年は1億6,422万人。同じ年で比較すると、映画館数は、3,246館が2,364館へと減じています。
そのような状況の変化が、大手の映画会社に及ぼした影響は深刻でした。1971年末、まず、1942年に設立され、数々の名作を世に問うた名門の大映が倒産します。また1954年に製作事業を再開した「戦後日活」は、1971年、一般映画から成人映画、いわゆる「日活ロマンポルノ」へ路線を転換しました。性表現を伴った新しいジャンルのなかで、活力ある状態が形成されてゆきます。
東映は1960年代半ば以降任侠映画をヒットさせ、従来どおりプログラム・ピクチャーを量産していました。が、この時期に、より現代的でリアルな暴力描写に比重をおいた「実録もの」に中心路線を変更します。老舗の松竹は涙と笑いを基調とする伝統的な製作方針を維持しつつも、倒産や路線変更で所属撮影所を離れたスターやスタッフを起用して新しい「松竹カラー」を模索してゆきます。
経営的な視点で激しい変動期に対処したのが東宝でした。製作体制の合理化をはかり、東宝美術、東宝映画など子会社を設立したのは、やはり1971年のことです。リスクの分散をはかり、経営資源を配給・興行部門に集中させましたが、その反面として、「東宝カラー」といわれる作風の作品が姿を消していきました。また、戦前からのキャリアをもつベテラン監督たちが、最後の作品を発表するのも1970年代の特徴です。
大手製作会社とは、やや異なる地点に映画・映像製作の根拠をおいていた、1960年代 半ばに起点をもつ一連の独立プロ作品や自主上映を中心とした個人映画は、それぞれ の作家の個性に基づいて独自の世界を深めてゆきました。
10月27日まで2期・118日間にわたって続く本特集は、上記のような映画状況のなか、撮影所の内外の変貌にさらされながら作られた78作品に光を当てます。今回の第1期では1970年から74年までに製作された多彩な34作品を上映いたします。

■監=監督 原=原作・原案 脚=脚本・脚色 撮=撮影 美=美術 音=音楽 出=出演
■本特集には不完全なプリントが含まれています。
■記載した上映分数は、当日のものと多少異なることがあります。


A-1 6/4(火)3:00pm 6/23(日)4:00pm 7/12(金)7:00pm
エロス+虐殺(164分・35mm・白黒)
アナキスト大杉栄をめぐる愛憎極まる人間模様を、現代と過去を交錯させつつまばゆ いモノクロ撮影で描いた吉田喜重の代表作。当初は226分あったが、登場人物逸子の モデルとなった人物の訴えで2度のカットを余儀なくされ、《事実》と《表現》をめ ぐる問題も浮上した。

'70(現代映画社)(監)(脚)吉田喜重(脚)山田正弘(撮)長谷川元吉(美)石井強司(音) 一柳慧(出)岡田茉莉子、細川俊之、楠侑子、高橋悦史、稲野和子、八木昌子、新橋耐 子、松枝錦治


A-2 6/4(火)7:00pm 6/29(土)4:00pm 7/17(水)3:00pm
無常(146分・35mm・白黒)
TVディレクター、映画監督、AV監督、文筆家と多くの顔を持つ実相寺の長篇第1作。 美しい白壁と城祉のある琵琶湖畔の町を舞台に、仏師に弟子入りした商家の嫡男が性 のトリックスターと化すさまを奔放な映像で描く。脚本の石堂とはその後「曼陀羅」 「哥」を連作。ATG作品としては好成績を残した。

'70(実相寺プロ=ATG)(監)実相寺昭雄(脚)石堂淑朗(撮)稲垣涌三、中堀正夫(美)池 谷仙克(音)冬木透(出)田村亮、司美智子、岡田英次、田中三津子、佐々木功、花ノ本 寿、岡村春彦


A-3 6/5(水)3:00pm 6/23(日)1:00pm 7/16(火)7:00pm
野良猫ロック セックスハンター(85分・35mm・カラー)
日活ニュー・アクションの旗手、長谷部安春監督が手がけた「野良猫ロック」シリー ズ第3作。米軍基地のあった町にたむろする不良グループの対立、そして混血児への 憎悪と差別。やがて「さそり」で完全開花する、《戦うヒロイン》梶芽衣子はこのシ リーズから生まれた。

'70(日活)(監)長谷部安春(脚)大和屋竺、藤井鷹史(撮)上田宗男(美)佐谷晃能(音) 鏑木創(出)梶芽衣子、安岡力也、藤竜也、英美枝、小磯マリ、有川由紀、美波節子、 秋とも子


A-4 6/5(水)7:00pm 7/11(木)3:00pm
家族(107分・35mm・カラー)
長崎・伊王島の炭鉱労働者一家が大きな犠牲を払いながら北海道・中標津の開拓地を 目指す。同時録音による列島縦断ロケを敢行して、大阪万国博覧会など経済成長期の 世相をリアルタイムで取り入れつつ、各地の地元住民を役者にからませた山田洋次監 督の野心作。キネマ旬報ベストテン1位。

'70(松竹)(監)(原)(脚)山田洋次(脚)宮崎晃(撮)高羽哲夫(美)佐藤公信(音)佐藤勝( 出)倍賞千恵子、井川比佐志、笠智衆、森川信、渥美清、木下剛志、瀬尾千亜紀、梅 野泰靖、前田吟


A-5 6/6(木)3:00pm 6/29(土)1:00pm 7/17(水)7:00pm
誰かさんと誰かさんが全員集合!!(87分・35mm・カラー)
1967年から続く、ザ・ドリフターズの「全員集合!!」シリーズ第6作。いかりや長 介のしごきに他のメンバーが反撃するお馴染みのドタバタ喜劇が、本作では美貌のマ ドンナ岩下志麻を交えて展開される。シリーズの大半を手がけた渡辺祐介のスピーデ ィな演出が冴える。

'70(松竹)(監)(脚)渡辺祐介(脚)田坂啓(撮)荒野諒一(美)森田郷平(音)森岡賢一郎( 出)いかりや長介、荒井注、高木ブー、仲本工事、加藤茶、岩下志麻、内田朝雄、倍 賞美津子


A-6 6/6(木)7:00pm 6/30(日)1:00pm 7/16(火)3:00pm
博奕打ち いのち札(106分・35mm・カラー)
「博奕打ち 総長賭博」(1968)に始まった山下耕作と笠原和夫のコンビの精華とも 言うべき傑作。笠原脚本は「トリスタンとイゾルデ」を下敷きにしたという。迸る血 が画面を真っ赤に染めるラストシーンの抽象性は任侠映画の爛熟ぶりを印象づけ、賛 否両論の論議を呼んだ。

'71(東映京都)(監)山下耕作(脚)笠原和夫(撮)吉田貞次(美)吉村晟(音)木下忠司(出 )鶴田浩二、安田道代、水島道太郎、若山富三郎、渡瀬恒彦、遠藤辰雄、林彰太郎、 野口貴史


A-7 6/7(金)3:00pm 6/30(日)4:00pm 7/18(木)7:00pm
修羅(133分・35mm・パートカラー)
武士の忠義と芸者への思慕に引き裂かれ、奈落へと突き落とされる浪人を主人公に、 裏切りと幻滅の時代を逆照射する政治的寓話。鶴屋南北「盟三五大切」を原作に、実 験映画の旗手松本俊夫が漆黒の地獄図を現出する。舞台的な異化効果、アラン・レネ を彷彿とさせる物語の重層化、役者衆による迫真の演技がみもの。

'71(松本プロ=ATG)(監)(脚)松本俊夫(原)鶴屋南北、石沢秀二(撮)鈴木達夫(美)朝 倉攝(音)西松文一(出)中村賀津雄、三条泰子、唐十郎、今福正雄、田村保、観世栄夫 、松本克平


A-8 6/7(金)7:00pm 6/25(火)3:00pm 7/14(日)4:00pm
書を捨てよ町へ出よう(138分・35mm・カラー)
寺山修司初の劇場用長篇映画で、作者自身が苛まれ脅迫されているような数々の強烈 なイメージ群の中に不思議なテラヤマ・ワールドが展開する。「ケン・ラッセルのBB C時代のように楽しく挑戦的」(トニー・レインズ)との評もある。ベストテン9位。 サンレモ映画祭グランプリ。

'71(人力飛行機プロ=ATG)(監)(原)(脚)寺山修司(撮)鋤田正義(美)林静一ほか(音) 下田逸郎(出)佐々木英明、斎藤正治、小林由紀子、平泉征、森めぐみ、丸山明宏、新 高恵子、浅川マキ


A-9 6/8(土)1:00pm 6/25(火)7:00pm 7/12(金)3:00pm
儀式(122分・35mm・カラー)
旧家の家父長制度の下で繰り広げられる複雑な人間関係と、戦後日本の政治風土を重 ね合せた卓抜した脚本をもとに、大島監督がその映像美学を遺憾なく発揮したその代 表作。また、その成功に貢献した美術の素晴らしさにも注目すべきであろう。

'71(創造社=ATG)(監)(脚)大島渚(脚)田村孟、佐々木守(撮)成島東一郎(美)戸田重 昌(音)武満徹(出)河原崎建三、賀来敦子、中村敦夫、乙羽信子、小山明子、佐藤慶、 小松方正


A-10 6/8(土)4:00pm 6/26(水)3:00pm 7/19(金)7:00pm
八月の濡れた砂(91分・35mm・カラー)
真夏の太陽と砂浜を背景に、揺れ動く若者の行動と心理を瑞々しく描いた藤田敏八監 督初期の代表作。ダイニチ映配末期の配給作品となり、直後に日活がロマンポルノ路 線をスタートさせる端境期にあって、ある種シンボリックな位置を占めることになっ た青春映画の傑作。

'71(日活)(監)(脚)藤田敏八(脚)峰尾基三、大和屋竺(撮)萩原憲治(美)千葉和彦(音 )むつひろしほか(出)村野武範、広瀬昌助、テレサ野田、藤田みどり、原田芳雄、地 井武男、渡辺文雄


A-11 6/9(日)1:00pm 6/26(水)7:00pm 7/18(木)3:00pm
遊び(89分・35mm・カラー)
増村最後の大映作品。デビュー作「くちづけ」から14年を経て再び恋人たちの初恋を 取り上げた。倒産直前の、ロケーション費にも事欠く中で、増村は「男女の動物的な 生態を記録映画風に丹念に追求」し、初々しく痛ましい青春をあくまで明るく乾いた タッチで描いた。

'71(大映)(監)増村保造(原)野坂昭如(脚)今子正義、伊藤昌洋(撮)小林節雄(美)間 野重雄(音)渡辺岳夫(出)関根恵子、大門正明、根岸明美、内田朝雄、杉山とく子、蟹 江敬三


A-12 6/9(日)4:00pm 6/27(木)3:00pm 7/23(火)7:00pm
あらかじめ失われた恋人たちよ(122分・35mm・白黒)
能天気で多弁な若者(石橋蓮司)が気ままな旅をするうちに、自分とは対極にある一 組の恋人たち(桃井かおりと加納典明)に出会う……。清水邦夫と田原総一朗の共同 脚本・監督による日本論とも言い得る作品で、ロードムービー的な演出が清新だった。

'71(ポール・ヴォールト・プロ=ATG)(監)(脚)清水邦夫、田原総一朗(撮)奥村祐治 (美)清水邦夫(音)成毛しげる(出)石橋蓮司、加納典明、桃井かおり、緑魔子、カルメ ン・マキ


A-13 6/11(火)3:00pm 6/27(木)7:00pm 7/26(金)7:00pm
子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる(95分・35mm・カラー)
小池一雄、小島剛夕原作の人気劇画の映画化。元公儀介錯人、拝一刀と仇敵柳生一族 の死闘を描く。子供連れの刺客という設定のユニークさで人気を集めた。勝プロの製 作で、勝新太郎の実兄、若山富三郎が主演。監督の三隅研次をはじめ、メインスタッ フは元大映京都撮影所の面々で固められている。

'72(勝プロ)(監)三隅研次(原)(脚)小池一雄(原)小島剛夕(撮)牧浦地志(美)内藤昭( 音)桜井英顕(出)若山富三郎、渡辺文雄、露口茂、内田朝雄、加藤嘉、内藤武敏、伊 藤雄之助


A-14 6/11(火)7:00pm 6/28(金)3:00pm 7/13(土)4:00pm
喜劇 女売り出します(89分・35mm・カラー)
「女は男のふるさとヨ」を第1作とする「喜劇・女」シリーズ全4作中の第3作。スト リッパー斡旋所「新宿芸能社」を舞台に、無邪気な人々のてんやわんやが描かれる。 森繁の親父役はお馴染みだが、カミさん役は中村メイコ、左幸子を継いで市原悦子が 務めている。

'72(松竹)(監)(脚)森崎東(原)藤原審爾(脚)掛札昌裕(撮)吉川憲一(美)佐藤之俊(音 )山本直純(出)森繁久彌、市原悦子、夏純子、米倉斉加年、久里千春、荒砂ゆき、岡 本茉莉、中川加奈


A-15 6/12(水)3:00pm 6/28(金)7:00pm 7/14(日)1:00pm
関東緋桜一家(101分・35mm・カラー)
藤純子の引退記念映画にして、マキノ雅弘の遺作。任侠映画10年の歴史を彩るスター 総出演、しかも女博徒、女組長、鉄火芸者など藤が演じたさまざまな役柄の見せ場を 盛り込み、「紙芝居」とも揶揄されたが、熱心なファンの支持を集め爆発的なヒット を記録した。

'72(東映京都)(監)マキノ雅弘(原)(脚)笠原和夫(撮)わし屋元也(美)富田治郎(音) 木下忠司(出)藤純子、鶴田浩二、若山富三郎、高倉健、菅原文太、水島道太郎、木暮 実千代


A-16 6/12(水)7:00pm 7/2(火)3:00pm 7/20(土・祝)1:00pm
軍旗はためく下に(96分・35mm・カラー)
直木賞を受賞した原作の映画化。戦争未亡人が夫の死んだ状況を知りたい一心で当時 の戦友たちを訪ね歩く。しかし、すべての証言がことごとく違うばかりか、人肉喰い の事実や上官の卑劣さ、無実の罪で処刑された実態がミステリー的展開で暴き出される。

'72(東宝=新星映画)(監)(脚)深作欣二(原)結城昌治(脚)新藤兼人、長田紀生(撮) 瀬川浩(美)入野達弥(音)林光(出)丹波哲郎、左幸子、江原真二郎、夏八木勲、中村翫 右衛門、三谷昇


A-17 6/13(木)3:00pm 7/2(火)7:00pm 7/21(日)4:00pm
約束(96分・35mm・カラー)
「蛍の子と書いて蛍子(けいこ)」――その名の女囚が列車で移動する間に回想する 悔恨の過去と眼前の明日なき恋。主演の岸恵子、彼女の相手役を務めた萩原健一(シ ョーケン)、彼女を連れて行く女警官を演じた南美江ら、すべてが秀逸。“感覚派” 斎藤耕一の演出で、映像も音楽も斬新。

'72(松竹=斎藤プロ)(監)(原)斎藤耕一(原)金志軒(脚)石森史郎(撮)坂本典隆(美) 芳野尹孝(音)宮川泰(出)岸恵子、萩原健一、三国連太郎、南美江、姫ゆり子、殿山泰 司、中山仁、日高久


A-18 6/13(木)7:00pm 7/5(金)3:00pm 7/20(土・祝)4:00pm
ヘアピン・サーカス(84分・35mm・カラー)
五木寛之の短篇小説を、新しい東宝アクション映画の担い手として注目を集めた西村 潔監督が映画化。元レーサーの自動車教習所教官と危険な暴走行為に明け暮れる教え 子の屈折した愛の世界を、現役レーサー見崎清志を主役に起用し、官能的なカーチェ イス・シーンの中に描き出した逸品。

'72(東京映画)(監)西村潔(原)五木寛之(脚)永原秀一(撮)原一民(美)樋口幸男(音) 菊地雅章(出)見崎清志、戸部夕子、江夏夕子、睦五郎、笠井紀美子、佐藤文康、舘信 秀、有山直樹


A-19 6/14(金)3:00pm 7/3(水)7:00pm 7/21(日)1:00pm
忍ぶ川(120分・35mm・白黒)
東京に学ぶ哲郎は料亭“忍ぶ川”で働く可憐な娘志乃を愛し、やがて結婚のために雪 の郷里へと向かう。当時でさえ世相に稀な純愛の物語を、さらに時代に逆する白黒ス タンダードの端正な映像でみせた熊井啓監督渾身の逸品。栗原小巻の人気を一気に高 めた。

'72(俳優座=東宝)(監)(脚)熊井啓(原)三浦哲郎(脚)長谷部慶次(撮)黒田清巳(美) 木村威夫(音)松村禎三(出)加藤剛、栗原小巻、永田靖、信欽三、岩崎加根子、滝花久 子、稲葉義男


A-20 6/14(金)7:00pm 7/4(木)3:00pm 7/28(日)4:00pm
白い指の戯れ(78分・35mm・カラー)
スリ稼業の男どもの間を漂うように生きる少女を描き、いまだ模索期にあった日活ロ マンポルノの可能性を差し示した青春映画。監督村川透のデビューとなっただけでな く、スクリーン初登場にして倦怠感と軽やかさを同時に表現した伊佐山ひろ子の出現 は注目を集めた。

'72(日活)(監)(脚)村川透(脚)神代辰巳(撮)姫田真左久(美)松井敏行(音)小沢典仁( 出)荒木一郎、伊佐山ひろ子、谷本一、石堂洋子、五条博、栗津號、木島一郎


A-21 6/15(土)1:00pm 7/4(木)7:00pm 7/19(金)3:00pm
無宿人御子神の丈吉 牙は引き裂いた(88分・35mm・カラー)
原作は笹沢左保の時代小説、同人の「木枯し紋次郎」と同じ股旅もの。日活ニュー・ アクション等でその存在を印象づけた原田芳雄が主演。国定忠治を妻子の敵として追 い続ける無宿人をエネルギッシュに演じている。撮影は大映京都の名手、宮川一夫。 同じく大映の池広一夫が時代劇の醍醐味を示した。

'72(東京映画)(監)池広一夫(原)笹沢左保(脚)石松愛弘(撮)宮川一夫、市原康至(美 )小島基司(音)渡辺岳夫(出)原田芳雄、中村敦夫、峰岸隆之介、北林早苗、松尾嘉代 、南原宏治


A-22 6/15(土)4:00pm 7/3(水)3:00pm 8/2(金)7:00pm
海軍特別年少兵 (127分・35mm・カラー)
東宝争議で撮影所を離れた今井正が22年振りに東宝に復帰した作品。鈴木尚之の脚本 を得て、太平洋戦争末期、硫黄島で戦死していった14歳から16歳の年少兵たちの姿を 静かなタッチで描き、「戦争と祖国」の意味を問いかけている。教官役の地井武男が 印象的。

'72(東宝映画)(監)今井正(脚)鈴木尚之(撮)岡崎宏三(美)村木与四郎(音)佐藤勝(出 )地井武雄、佐々木勝彦、三国連太郎、佐山泰三、関口昌治、福崎和宏、小川真由美 、山岡久乃


A-23 6/16(日)1:00pm 7/5(金)7:00pm 7/25(木)7:00pm
女囚701号 さそり(87分・35mm・カラー)
篠原とおるの人気劇画を大胆に映画化した伊藤俊也監督のデビュー作。騙した男への 復讐に燃える女囚ナミに扮した日活出身の梶芽衣子は、この作品の好演で新たなイメ ージを獲得。回り舞台やデフォルメされた照明など様式化された伊藤演出は、リアリ ズムを突きぬけようとする意欲にあふれていた。

'72(東映東京)(監)伊藤俊也(原)篠原とおる(脚)神波史男、松田寛夫(撮)仲沢半次 郎(美)桑名忠之(音)菊池俊輔(出)梶芽衣子、扇ひろ子、横山リエ、渡辺やよい、夏八 木勲、渡辺文雄


A-24 6/16(日)4:00pm 7/30(火)7:00pm
故郷(96分・35mm・カラー)
瀬戸内海の小島で石舟を操業する家族が、工業化の波に押され尾道の大造船所への再 就職を余儀なくされる。山田洋次の社会派路線を確立した「家族」の姉妹篇ともいえ る本作でも井川比佐志、倍賞千恵子、笠智衆が家族に扮し、とくに夫婦が無言のうち に労働に勤しむ姿を丹念に積み重ねている。

'72(松竹)(監)(原)(脚)山田洋次(脚)宮崎晃(撮)高羽哲夫(美)佐藤公信(音)佐藤勝( 出)倍賞千恵子、井川比佐志、笠智衆、前田吟、渥美清、阿部百合子、矢野宣、田島 令子、岩崎徹


A-25 6/18(火)3:00pm 7/13(土)1:00pm 7/31(水)7:00pm
にっぽん三銃士 おさらば東京の巻(88分・35mm・カラー)
五木寛之の同名原作を映画化した2部作の第1部。「江分利満氏の優雅な生活」で戦中 派の屈折した心情を描いて新境地を拓いた岡本監督は、この作品でも戦後派と戦無派 に相対して戦中派の存在を際立たせており、痛快な珍騒動に人生の味わい深さを添え ている。

'72(東京映画)(監)(脚)岡本喜八(原)五木寛之(脚)長野洋(撮)村井博(美)阿久根巌( 音)佐藤勝(出)小林桂樹、ミッキー安川、岡田裕介、藤岡麻里、加賀まりこ、和田恵 利子、草野大悟


A-26 6/18(火)7:00pm 7/6(土)1:00pm 7/24(水)3:00pm
仁義なき戦い(99分・35mm・カラー)
任侠ものから実録ものへの転換点となった大ヒット作品。元暴力団員の手記をもとに 書かれた原作小説を笠原和夫が脚本化し、深作欣二監督が集団抗争劇としてダイナミ ックに映像化してみせた。焦土のなかの青春が刻み込まれており、俳優達の熱演もあ いまってシリーズ化され、全5作品が製作された。

'73(東映京都)(監)深作欣二(原)飯干晃一(脚)笠原和夫(撮)吉田貞次(美)鈴木孝俊( 音)津島利章(出)菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫、田中邦衛、中村英子、渡瀬恒彦、 金子信雄


A-27 6/19(水)3:00pm 7/6(土)4:00pm 8/1(木)7:00pm
恍惚の人(100分・35mm・白黒)
大ベストセラーとなった同名原作の映画化で、老人問題を取り上げた異色作。文芸映 画の巨匠である豊田監督の演出に、ベテラン森繁と高峰が体当たりの熱演で応えて大 ヒットした。人間が老いる様子を記録映画風の冷徹さでとらえた岡崎宏三キャメラマ ンの技が光る。

'73(芸苑社)(監)豊田四郎(原)有吉佐和子(脚)松山善三(撮)岡崎宏三(美)小島基司( 音)佐藤勝(出)森繁久彌、高峰秀子、田村高廣、乙羽信子、篠ヒロコ、伊藤高、中村 伸郎、杉葉子


A-28 6/19(水)7:00pm 7/7(日)1:00pm 7/23(火)3:00pm
王国(84分・35mm・パートカラー)
つねに時間を主題に作品製作を続けるインディペンデントの雄、金井勝がガラパゴス 島ロケを敢行した「微笑(ルビ:わら)う銀河系」3部作の掉尾を飾る作品。時王ク ロノスをめぐる人間模様はやがて現実を逸脱し時空の彼方へと飛翔する。今は亡き大 和屋竺、城之内元晴、佐藤重臣ら70年代を疾走した映画人の怪演も必見。

'73(かない・ぷろ)(監)(脚)金井勝(脚)むささび童子(撮)亘真幸、吉田耕司(出)む ささび童子、大和屋竺、桑名平治、城之内元晴


A-29 6/20(木)3:00pm 7/7(日)4:00pm 7/24(水)7:00pm
四疊半襖の裏張り(71分・35mm・カラー)
遊び慣れた粋人とベテラン芸者の恋の駆け引き、戦時下に繰り広げられるつかの間の 逢瀬、置屋の女将が半玉に仕込むさまざまな手練手管。米騒動やシベリア出兵などの 時代背景を軽妙な編集で随所に織り込みながら、大正の花街を艶やかに描く神代辰巳 の代表作の一本。

'73(日活)(監)(脚)神代辰巳(原)永井荷風(撮)姫田真左久(美)菊川芳江(出)宮下順 子、丘奈保美、江角英明、絵沢萌子、芹明香、吉野あい、山谷初男、粟津號、織田俊 彦、堺美紀子


A-30 6/20(木)7:00pm 7/9(火)3:00pm 7/27(土)4:00pm
日本侠花伝(147分・35mm・カラー)
主に東映任侠映画の名手として知られていた加藤泰監督が東宝で演出した大作。大正 初期を背景に、真木洋子が演じる主人公と刺客に扮する渡哲也など彼女が関わる男た ちの姿を、独特の低いカメラアングルのなかにとらえ、激しくも美しい女の半生記に 仕上げている。加藤美学の集大成ともいえる作品。

'73(東宝映画)(監)(原)(脚)加藤泰(撮)村井博(美)阿久根巌(音)鏑木創(出)真木洋 子、藤原釜足、村井国夫、大塚道子、見明凡太郎、渡哲也、加藤剛、北大路欣也、富 田仲次郎、原田君事、榊田敬二、加藤茂雄、小川安三、大木正司、林光子


A-31 6/21(金)3:00pm 7/9(火)7:00pm 7/28(日)1:00pm
喜劇 日本列島震度0(ゼロ)(90分・35mm・カラー)
東京のとある下町。女占い師が大地震を予言する。地震対策委員長は張り切って八丈 島への避難旅行を計画し、金融業者は避難用具を売りさばき、町は「その日」へ向け て活気を取り戻しはじめる。「東京の空の下」の調べとともに過激に綴られる「社会 派人情喜劇」。

'73(松竹)(監)(脚)前田陽一(脚)南部英夫、吉田剛(撮)竹村博(美)芳野尹孝(出)フ ランキー堺、財津一郎、日色ともゑ、石橋正次、鳥居恵子、谷村昌彦、三遊亭円右、 太宰久雄


A-32 6/21(金)7:00pm 7/10(水)3:00pm 7/27(土)1:00pm
津軽じょんがら節(102分・35mm・カラー)
津軽の漁村――そこに帰ってきた女イサ子、逃げてきた男徹、離れられない盲目の少 女ユキ。望遠レンズで捉えられた凍えるような荒波と耳をつんざく三味線の音塊が、 激しくモンタージュされて斎藤耕一流映像の極北を示した。主演の江波杏子が圧倒的 な存在感で好演。ベストテン1位。

'73(斎藤プロ=ATG)(監)(脚)斎藤耕一(脚)中島丈博(撮)坂本典隆(音)高橋竹山、若 美家五郎ほか(出)江波杏子、織田あきら、中川三穂子、西村晃、上村一夫、川本コオ 、高信太郎


A-33 6/22(土)4:00pm 7/10(水)7:00pm 7/25(木)3:00pm
日本沈没(140分・35mm・カラー)
地殻変動による日本列島沈没と全国民の海外脱出計画を描いた小松左京のベストセラ ー小説を、東宝特撮技術を結集して映画化したパニック大作。配給収入が20億円を超 える記録的なヒット作となり、東宝の青春映画路線で活躍していた森谷司郎は本格的 に大作映画の監督としての道を歩みだす。

'73(東宝映画=東宝映像)(監)森谷司郎(原)小松左京(脚)橋本忍(撮)村井博、木村 大作(美)村木与四郎(音)佐藤勝(出)藤岡弘、いしだあゆみ、小林桂樹、滝田裕介、二 谷英明、中丸忠雄、村井国夫、夏八木勲、丹波哲郎、伊東光一


A-34 6/22(土)1:00pm 7/11(木)7:00pm 7/26(金)3:00pm
濡れた欲情 特出し21人(77分・35mm・カラー)
楽天的で純真なストリッパー・コンビの、劇場(こや)から劇場(こや)へと渡り歩 く旅を活写した日活の74年正月映画。関西をふりだしに東京へ信州へと、時間や風景 のつながりを無視した映像さばきも鮮やか。アングラ演劇「はみだし劇場」の神出鬼 没ぶりも二人の旅に興趣を添える。

'74(日活)(監)(脚)神代辰巳(脚)鴨田好史(撮)姫田真左久(美)渡辺平八郎(音)世田 ノボル(出)片桐夕子、芹明香、絵沢萌子、東八千代、古川義範、外波山文明、高橋明 、粟津號 1 13