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日本映画の発見III:戦争の時代

Rediscovering Our National Film Heritage (III): During the War Years

 昨年の4月から始まった「日本映画の発見」は、日本映画史の流れをフィル ムセンター所蔵のプリントによって網羅的にたどることができる長期企画とし て好評を博してきましたが、第一期「無声映画時代」、第二期「トーキーの開 始と戦前の黄金時代」を経て、今回は第三期「戦争の時代」へと歩を進めてい くことになります。

 満州国にあらわれた美貌の歌姫(李香蘭=山口淑子)が多くの国民を熱狂さ せたその時代は、同時に、例えば時代劇という娯楽ジャンルが「歴史映画」へ と姿を変え、劇映画の製作が三社(松竹・東宝・大映)に統合されたりした「国 策映画」の時代でもあります。本特集では、そうした戦時体制下に封切られた 多彩な映画群の中から比較的保存状態の良い40作品を37番組に構成して連続 上映いたします。

 1939年の映画法施行から、太平洋戦争の勃発を経て1945年の終戦を迎える までに、さまざまな国家統制のなかで日本の映画界、映画人がどのような作品 を発表したかを具体的に知ることができる絶好の機会ともなりますので、広く みなさまのご鑑賞をお薦めいたします。


⇒⇒⇒4-7月の上映日程
A-1 4/8(火)3:00pm 5/2(金)6:30pm 6/12(木)3:00pm 7/8(火)6:30pm

親子鯨

(75分・35mm)

松竹で独特のスラプスティック映画を量産し、蒲田喜劇の中でユニ-クな地歩 を占めていた斎藤寅次郎が、東宝に移籍したのは1937年、日中戦争が始まった 年のことである。新しく誕生した「東宝」の引き抜きに応じた移籍ではあった が、同時に、専らナンセンスを本領とする彼にとっては、厳しい「意義=大義」 の時代が訪れようとしていた。偽装や錯誤による典型的な哄笑の世界が、捕鯨 の実写フィルムを用いつつ繰り広げられる。

'40(東宝東京)(監)斎藤寅次郎(脚)志村敏夫(撮)立花幹也(出)渡邊篤、英百合 子、川田義雄、杉寛、山根壽子、小宮一晃、清川虹子、立花潤子、柳谷寛、若 宮金次郎


A-2 4/8(火)6:30pm 5/3(土)1:00pm 6/12(木)6:30pm 7/9(水)3:00pm

信子

(90分・35mm)

九州から上京してきた女学校の体操教師(高峰三枝子)が、その明朗さと率直 な行動によって権威的な学校の雰囲気を変えてゆく。女性版「坊っちゃん」を 思わせる獅子文六の原作に、間合いをおいた清水宏らしいセリフ回しが加わっ ているところが興味深い。教師陣も含めて、キャストのほとんどが女性で構成 されているのも特色である。清水宏の学校生活に対する関心は次作「みかへり の塔」でさらに深まることになる。

'40(松竹大船)(監)清水宏(原)獅子文六(脚)長瀬喜伴(撮)厚田雄治(美)江坂實 (音)伊藤宣二(出)高峰三枝子、三浦光子、岡村文子、森川まさみ、高松榮子、 大塚君代、松原操、忍節子、出雲八重子、雲井ツル子


A-3 4/9(水)3:00pm 5/3(土)4:00pm 6/13(金)3:00pm 7/9(水)6:30pm

煉瓦女工

(63分・35mm)

鶴見方面の運河のほとり。日掛け20銭の貧乏長屋では、芸人、大工、日雇い労 働者と家族が、それぞれの暮らしをたてていた・・・。その生活ぶりを、情緒に流 されることなく、くもりのない視線でとらえた千葉泰樹作品。少女みさ(矢口 陽子)の視点で描かれた、当時の庶民群像でもある。検閲によって上映を阻ま れ、戦後1946年に公開された。三島雅夫、小沢栄、宇野重吉、滝沢修など新劇 系の俳優が多く出演している。

'40(南旺映画)(監)千葉泰樹(原)野澤富美子(脚)八田尚之(撮)中井朝一(美)小 池一美(音)深井史朗(出)矢口陽子、三島雅夫、三好久子、小高たかし、徳川夢 聲、水町庸子、悦ちゃん、小沢榮、赤木蘭子、小高まさる

秀子の車掌さん

(54分・35mm)

井伏鱒二の小説「おこまさん」をもとに、つぶれかかったバス会社をめぐる人々 を明るく描く。自社のバスに客を取り戻そうとする車掌(高峰秀子)と運転手 (藤原鶏太)のコンビが、作品に快活なリズムとユーモアを与えている。南旺 映画は東宝系列の製作会社で、高峰秀子主演作としては前年にも「秀子の應援 團長」(千葉泰樹)を製作しているが、戦時の映画界統制のためこの作品を最 後として東宝に吸収された。

'41(南旺映画)(監)(脚)成瀬巳喜男(原)井伏鱒二(撮)東健(美)小池一美(音)飯 田信夫(出)高峰秀子、藤原鶏太(釜足)、夏川大二郎、清川玉枝、勝見庸太郎、 林喜美子、馬野都留子、榊内敬治、山川ひろし、松林久晴


A-4 4/9(水)6:30pm 5/6(火)3:00pm 6/13(金)6:30pm

沃土萬里

(85分・35mm)

満州の大草原を水田に変えようとする開拓移民団の苦闘を、4ヵ月にわたる現 地ロケーションをもとに描く。国威の発揚という当時のイデオロギーを背景に しながらも作品自体には国策宣伝の色は薄く、むしろ日本国内では見られない 広大な地平線を画面作りに活かし、日本映画としては異色の印象を与える。監 督の倉田文人は、その後インドネシアに渡って文化工作に携わった。なお今回 上映のプリントは第1巻が欠けている。

'40(日活多摩川)(監)(脚)倉田文人(撮)気賀靖吾(音)奈良敦夫(出)江川宇禮 雄、出雲竜子、風見章子、不忍鏡子、大内得子、泉静治、木崎豊、星ひかる、 吉谷久雄、井上敏江


A-5 4/10(木)3:00pm 5/6(火)6:30pm 6/14(土)1:00pm 7/10(木)3:00pm

支那の夜 前後篇

(126分・35mm)

日本の大陸政策に沿って、長谷川一夫と李香蘭のコンビによる一連の恋愛映画 が作られ、いずれも大きな人気を博した。李香蘭が日本人山口淑子の変名であ ることは、満映の幹部のみが知る秘密で、世間には厳しく伏せられていた。監 督の伏水修は'30年代から軽いミュージカル映画を得意とし、服部良一作曲の主 題歌の大ヒットにも支えられて一躍有名になったが、1942年に肺結核で死去し た。

'40(東宝東京)(監)伏水修(脚)小國英雄(撮)三村明(美)松山崇(音)服部良一 (出)長谷川一夫、李香蘭、藤原鶏太(釜足)、服部富子、汐見洋、御橋公、嵯 峨善兵、藤輪欣司、鬼頭善一郎、長島武夫


A-6 4/10(木)6:30pm 5/7(水)3:00pm 6/14(土)4:00pm

西住戰車長傳

(126分・35mm)

日中戦争、太平洋戦争と続いたこの時代には、特に功績のあった軍人が「軍神」 と呼ばれ、しばしば伝記や映画になった。中でも有名なのが「加藤隼戦闘隊」 として映画化された陸軍戦闘機部隊の加藤建夫中佐と、この作品のもとになっ た陸軍戦車隊の西住小次郎中尉である。前作「暖流」で大船調に新風を吹き込 んだ吉村公三郎は、一転戦記物に携わることとなったが、これは松竹を退社す る島津保次郎に代わって「暖流」を監督するための交換条件だったと自ら述懐 している。

'40(松竹大船)(監)吉村公三郎(原)菊地寛(脚)野田高梧(撮)生方敏夫(美)脇田 世根一、浜田辰雄(音)前田*(出)上原謙、佐分利信、桑野通子、近衛敏明、児 玉一郎、西村青兒、河原侃二、砂田光夫、松本行司、阿部正三郎


A-7 4/11(金)3:00pm 5/7(水)6:30pm 6/17(火)3:00pm 7/10(木)6:30pm

孫悟空 前後篇

(135分・35mm・英語字幕付)

1934年の「エノケンの青春酔虎伝」以来ミュージカル・コメディの道を歩んで きた山本嘉次郎=エノケンのコンビにとって、戦前の最後の作品となる。特殊 撮影と舞踊団(日劇ダンシングチームあらため東宝舞踊隊)という東宝の特色 を生かしながら、李香蘭など満映のスター俳優らも起用した豪華な喜劇大作で あるが、太平洋戦争への突入とともにこうしたジャンルの映画は姿を消してい った。エノケン一座が総出演している。

'40(東宝東京)(監)(脚)山本嘉次郎(撮)三村明(特撮)圓谷英二、奥野文四郎(美) 松山崇(音)鈴木靜一(出)榎本健一、岸井明、金井俊夫、柳田貞一、北村武夫、 高勢実乘、中村是好、如月寛多、團福郎、高峰秀子、三益愛子、李香蘭、汪洋、 渡邊はま子、竹久千惠子、花井蘭子


A-8 4/11(金)6:30pm 5/8(木)3:00pm 6/17(火)6:30pm 7/11(金)3:00pm

熱砂の誓ひ 前後篇

(123分・35mm)

「白蘭の歌」「支那の夜」に続いて、1940年の暮れに超大作の正月映画として 封切られた長谷川一夫=李香蘭の主演映画。李香蘭は日本に声楽を勉強しに来 ている北京生まれの令嬢を演じ、その歌とともに時代のアイドルとなった。そ の人気の沸騰点は翌年2月11日の日本劇場における騒動、いわゆる「日劇七回 り半事件」である。なお共演の汪洋は上海の中華電影が発掘した新人であった。

'40(東宝東京=華北電影)(監)(脚)渡辺邦男(脚)木村千依夫(撮)友成達雄(美) 戸塚正夫(音)古賀政男(出)長谷川一夫、李香蘭、江川宇禮雄、汪洋、丸山定夫、 華風、高堂國典、鳥羽陽之助、進藤英太郎、藤田進


A-9 4/12(土)1:00pm 5/8(木)6:30pm 6/18(水)3:00pm 7/11(金)6:30pm

化粧雪

(75分・16mm)

成瀬巳喜男の手になる原作を、映画評論家として著名だった岸松雄が脚色した 作品。岸は1937年に東宝京都撮影所に入社、実作の道を歩もうとしていた。物 語は、軍需景気の盛んな一方で下火になってゆく下町の寄席の世界を取り上げ たもので、石田民三の演出は「夜の鳩」「むかしの歌」といった'30年代の秀作 群に引き続いて、庶民の生活を情緒豊かに描写している。客足もまばらな寄席 を切り盛りする女主人を山田五十鈴が演じた。

'40(東宝東京)(監)石田民三(原)成瀬巳喜男(脚)岸松雄(撮)山崎一雄(音)太田 忠(出)山田五十鈴、汐見洋、大川平八郎、伊藤薫、藤原釜足、清川虹子、佐山 亮、深見泰三、藤輪欣司、宮野照子


A-10 4/12(土)4:00pm 5/9(金)3:00pm 6/18(水)6:30pm 7/12(土)1:00pm

風の又三郎

(96分・35mm・英語字幕付)

宮沢賢治の名作として広く知られている、同名原作の最初の映画化作品。前年 に俳優から監督に転身した、島耕二が演出し、原作の詩情を生かした好篇とし て評価された。また、自身の監督としての地歩をかためた作品でもある。重厚 なリアリズムが主流の日活現代劇のなかにあってユニークな存在ともなった。 音楽を深く愛好していた島にとって、初めて成功した音楽映画でもあった。又 三郎を演じた片山明彦は島の長男。

'40(日活多摩川)(監)島耕二(原)宮澤賢治(脚)永見隆二、小池愼太郎(撮)相坂 操一(出)片山明彦、中田弘二、北龍二、風見章子、林寛、見明凡太郎、大泉滉、 星野和正、中島利夫、小泉忠


A-11 4/15(火)3:00pm 5/9(金)6:30pm 6/19(木)3:00pm 7/12(土)4:00pm

織田信長

(90分・35mm)

戦乱の世に、尾張の地から天下統一を目ざした織田信長の若き日を描く。この 頃は、時代劇が「歴史映画」へと呼称をあらためた時期にあたる。やくざもの や落ちこぼれなど、もっぱら市井の庶民を描くことを本領としてきたマキノ正 博(雅広)監督が、歴史上の偉人を正面からとらえた、ある意味で、時代が強 いた一篇ともいえよう。

'40(日活京都)(監)マキノ正博(原)鷲尾雨工(脚)観世寺光太(撮)石本秀雄(美) 角井嘉一郎(音)高橋半(出)片岡千恵蔵、高木永二、宮城千賀子、河部五郎、香 川良介、志村喬、瀬川路三郎、市川正二郎、上田吉二郎、宗春太郎


A-12 4/15(火)6:30pm 5/10(土)1:00pm 6/19(木)6:30pm 7/15(火)3:00pm

大日向村

(84分・35mm)

長野県南佐久郡大日向村は、村名とは異なり、ほとんど陽のあたらない谷あい の村。貧しい暮しを強いられてきたその村の人々が、満州に新天地を求めて、 分村・移住していく姿を、記録映画的なタッチで描いた豊田四郎作品。前進座 の俳優たちが総出演している。当時、「奥村五百子」「小島の春」など社会派 的な題材をとりあげて好評を得ていた、豊田の意欲作でもあった。満州はこの 時代、確かに「希望の大地」であった。

'40(東京発声)(監)豊田四郎(原)和田傳(脚)八木隆一郎(撮)小原譲治(音)中川 榮三(出)河原崎長一郎、中村翫右衛門、伊藤智子、橘弘子、山本健次、山本貞 子、三井康子、助高屋助蔵、中村進五郎、杉村春子、市川莊司、岬たか子、市 川菊之助


A-13 4/16(水)3:00pm 5/10(土)4:00pm 6/20(金)3:00pm 7/15(火)6:30pm

柳生月影抄

(75分・35mm)

映画用の生フィルムの不足が深刻になり、また戦時を意識した現代劇の比重が 高まる中で、時代劇の製作本数は急激に減っていった。時代劇の代表的な撮影 所である日活京都製作の封切作品は、1941年には23本であったが、これは前 年(40本)の約半数にあたる。この作品では、病気から回復した阪東妻三郎が 8ヵ月ぶりに主演し、柳生但馬守の長男十兵衛に扮してファンを喜ばせた。な お上映プリントは1950年に再公開された際の改篇新版である。

'41(日活京都)(監)荒井良平(原)吉川英治(脚)脇阪保二郎(撮)竹村康和(音)白 木義信(出)阪東妻三郎、澤村國太郎、原健作、瀧口新太郎、三桝豊、香川良介、 志村喬、上田吉二郎、仁禮功太郎、片岡市女藏


A-14 4/16(水)6:30pm 5/13(火)3:00pm 6/20(金)6:30pm 7/16(水)3:00pm

白鷺

(99分・35mm・英語字幕付)

松竹(現代劇)出身である島津保次郎監督が、1940年に東宝に移籍後、情緒豊 かな明治ものに挑戦した作品である。原作は泉鏡花。新派の名作としても著名 である。日本画の小村雪岱が美術考証を担当、島康平美術監督のもとで入念に 組み立てられたセットから、この期の東宝美術の力量もうかがうことができる だろう。主演の入江たか子は同じ鏡花の原作による「瀧の白糸」(溝口健二 1933 年)という代表作をもっている。

'41(東宝東京)(監)島津保次郎(原)泉鏡花(脚)山形雄策(撮)鈴木博(美)島康平 (音)早坂文雄(出)入江たか子、御橋公、藤間房子、高田稔、千葉早智子、黒川 彌太郎、河津清三郎、汐見洋、丸山定夫、杉村春子


A-15 4/17(木)3:00pm 5/13(火)6:30pm 6/21(土)1:00pm

指導物語

(102分・35mm)

監督の熊谷久虎はこの「戦争の時代」を生きた映画人として、独特の地位を占 めている。上海事変時の海軍陸戦隊の苦闘をセミ・ドキュメンタリー・タッチ で描いた「上海陸戦隊」や、軍用列車を運転する機関兵の訓練ぶりを描いた本 作品は、「時代精神」に強く共鳴したものであった。このような国策的主題を 扱いながらも、多くの映画人は戦後社会に適応していくのだが、熊谷久虎は復 帰することなくその生涯を終えた。シナリオの沢村勉は映画評論家からの転 身。

'41(東宝東京)(監)熊谷久虎(原)上田広(脚)澤村勉(撮)宮島義勇(美)北猛夫、 平川透徹(音)スメル音楽研究所(出)丸山定夫、原節子、若原春江、三谷幸子、 藤田進、馬野都留子、北沢彪、藤輪欣司、中村彰、汐見洋


A-16 4/17(木)6:30pm 5/14(水)3:00pm 6/21(土)4:00pm 7/16(水)6:30pm

櫻の國

(80分・35mm)

上原謙演じる宣撫官(海外領土での文化工作員)と、彼に思いを寄せる対照的 な二人の女性(高峰三枝子と水戸光子)とを描いたメロドラマで、大がかりな 北京・天津ロケーションが行われた。この作品は、大船調メロドラマとは異色 の「奥様に知らすべからず」(1937年)で監督デビューを果たした渋谷実が、 撮影所の伝統的な作風にも十分な力を発揮したことを示している。本来は105 分の作品であるが、上映するアメリカからの返還版は短くなっており、結末部 分も欠けている。

'41(松竹大船)(監)澁谷實(原)大田洋子(脚)池田忠雄、津路嘉郎(撮)長岡博之 (美)濱田辰雄(音)浅井挙曄(出)高峰三枝子、上原謙、水戸光子、笠智衆、齋藤 達雄、吉川満子、葛城文子、河村黎吉、坪内美子、岡村文子


A-17 4/18(金)3:00pm 5/14(水)6:30pm 6/24(火)3:00pm 7/17(木)3:00pm

江戸最後の日

(95分・35mm)

江戸城を無血開城し、幕末の大転換期を明治維新へ導いた維新の功労者勝海舟 に阪東妻三郎が扮した歴史映画。欧米列強の干渉という大状況のなかで、勤皇 対佐幕の枠組みをこえ、「日本国」の統一を唱えた主人公を堂々と演じている。 いかに外国勢力の圧力を排し、自国の尊厳を守るかというヒロイックな主題が この時期には、繰り返されるようになっていた。一方で、映画人としての稲垣 浩と阪東妻三郎がこれとは対照的な「無法松の一生」を作りだすのは、この2 年後である。

'41(日活京都)(監)稲垣浩(原)吉田絃二郎(脚)和田勝一(撮)石本秀雄(出)阪東 妻三郎、原健作、藤川三之祐、香川良介、志村喬、團徳磨、河部五郎、遠山滿、 上田吉二郎、仁禮功太郎


A-18 4/18(金)6:30pm 5/15(木)3:00pm 6/24(火)6:30pm 7/17(木)6:30pm

緑の大地

(118分・16mm)

中国の青島に長期ロケを敢行した島津作品。運河建設をめぐって、日本人技師 やその妻、女教師、悪徳商人、反対派の中国青年やその仲間(演じているのは 日本人)たちのドラマが展開される。池部良が扮する反対派の青年が、一転し て建設の意義に目覚めることで、民族の対立は融和へとむかう。メロドラマ的 な味付けも施された典型的な国策映画だが、青島の景色をとらえた画面には、 戦後映画には見られない広がりがある。

'42(東宝映画)(監)(脚)島津保次郎(脚)山形雄策(撮)三村明(美)戸塚正夫(音) 早坂文雄(出)丸山定夫、英百合子、里見藍子、入江たか子、池部良、江川宇禮 雄、藤間房子、原節子、藤田進、汐見洋、林千歳、嵯峨善兵


A-19 4/19(土)1:00pm 5/15(木)6:30pm 6/25(水)3:00pm 7/18(金)3:00pm

ハワイ・マレー沖海戦

(116分・35mm)

太平洋戦争の皮切りとなったハワイ真珠湾の米軍艦隊への奇襲と、マレー半島 沖での英軍艦隊への攻撃は、その戦果とともに対国民宣伝の格好のテーマとな った。その1周年記念映画は海軍省の企画、東宝の委嘱製作という形で計画が 進められたが、監督に選ばれたのは、エノケンやロッパ出演の喜劇で知られ、 前年の「馬」の成功で大きな期待をかけられた山本嘉次郎であった。円谷英二 率いる特殊技術班は、後の東宝特撮部門の基盤となった。

'42(東宝映画)(監)(脚)山本嘉次郎(脚)山崎謙太(撮)三村明、三浦光雄、鈴木 博(特撮)圓谷英二(美)奥野文四郎、松山崇、渡辺武,北猛夫(音)鈴木靜一(出) 伊東薫、英百合子、原節子、中村彰、汐見洋、藤田進、河野秋武、大河内傳次 郎、菅井一郎、清川莊司


A-20 4/19(土)4:00pm 5/16(金)3:00pm 6/25(水)6:30pm

南海の花束

(106分・35mm)

1941年12月米英と開戦し、戦線が中国から南方諸島に拡大するにしたがって、 従来は外国映画固有のものであったエキゾチックな風景が、日本映画のそれと して登場するようになってきた。南の海や光、星、椰子、スコールなどの描写 である。この作品もそれらの「南方映画」の一種で、ハリウッド育ちのジャッ キ-阿部こと阿部豊監督が、赤道を越え、新航空航路を開拓していく男たちの 物語を、得意のアクション=飛行機撮影にしぼって雄大に描いている。

'42(東宝映画)(監)(脚)阿部豊(脚)八木隆一郎(撮)小原譲治(特撮)圓谷英二 (美)北猛夫、北辰雄(音)早坂文雄(出)大日方傳、河津清三郎、大川平八郎、眞 木順、月田一郎、清水将夫、田中春男、菅井一郎、佐山亮、龍崎一郎


A-21 4/22(火)3:00pm 5/16(金)6:30pm 6/26(木)3:00pm 7/18(金)6:30pm

すみだ川

(94分・35mm)

宮城道雄を音楽監督・作曲に迎え、明治時代の筝曲界に題材をとったいわゆる 「芸道もの」の秀作メロドラマ。主演の川崎弘子は松竹蒲田を代表する女優の 一人で、戦時中では唯一の主演作品である。また、松竹の京都(下加茂、太秦) 撮影所でキャリアを積み、時代劇に定評のある井上金太郎にとって初めての大 船作品となったが、その繊細な構成により十分な力を発揮した。なお、脚本の 秋篠珊次郎は井上金太郎の別名。

'42(松竹大船)(監)井上金太郎(原)川口松太郎(脚)秋篠珊次郎、民門敏夫(撮) 厚田雄春(音)宮城道雄(出)藤野秀夫、吉川満子、川崎弘子、上原謙、坂本武、 忍節子、坪井哲、三井秀男、高松榮子、西村青兒


A-22 4/22(火)6:30pm 5/17(土)1:00pm 6/26(木)6:30pm 7/19(土)1:00pm

鞍馬天狗

(90分・35mm)

この戦争の時代、長く不調に陥っていた時代劇の巨匠、伊藤大輔が、維新後の 横浜を舞台に嵐寛寿郎=鞍馬天狗を縦横に活躍させた娯楽巨篇。久々の痛快作 品。時代や権力と戦い、敗北していく悲運のヒーローを数多く描いてきた伊藤 にとって、「時の偉人」を要求される「歴史映画」はやはりその本領ではなか った。これまで鞍馬天狗に対立する悪であった幕府や新選組が、外国商人に変 わっただけと見ることもできよう。戦後の改題は「鞍馬天狗 黄金地獄」。

'42(大映京都)(監)(脚)伊藤大輔(原)大佛次郎(撮)石本秀雄(美)上羽慶太郎 (音)西梧郎(出)嵐寛壽郎、原健作、上山草人、山本冬郷、アレクサンダー・ペ ドロウィッチ、トニー・ミスチェンコ、ガラー・コズロフ、仁禮功太郎、水野 浩、春日清


A-23 4/23(水)3:00pm 5/17(土)4:00pm 6/27(金)3:00pm

海の母

(90分・35mm)

作品の所々に浪曲の口演が挿入される「浪曲映画」は、トーキー技術の導入以 来ひとつのジャンルをなした。この作品で口演を行っている女流浪曲師天中軒 雲月は、当時広沢虎造と人気を二分していたと言われ、この他にも数多くの映 画で活躍し「雲月の…」と冠されたタイトルの映画もシリーズ化された。物語 は、海軍を志す軍国少年と、息子を軍人にしたくない母との心理的な溝を描く。 なおこの上映版はタイトル部分が欠落している。

'42(日活多摩川)(監)伊賀山正徳(原)(脚)永見隆二(撮)渡辺五郎(浪曲口演)天 中軒雲月(出)杉村春子、片山明彦、星ひかる、見明凡太郎、中田弘二、三井智 恵、姫美谷接子、井染四郎、吉川英蘭、水島道太郎


A-24 4/23(水)6:30pm 6/3(火)3:00pm 6/27(金)6:30pm 7/19(土)4:00pm

或る女

(95分・16mm)

戦争中の1942年に製作されたことを感じさせない渋谷実作品。初恋の男に騙さ れ、おぼつかない人生を生きていく、一人の女の労苦の半生を、田中絹代がそ の見事な演技力でリアルな生の軌跡として結晶化させている。戦争や社会を後 景にしりぞけ、女の人生の実相だけをとらえたこのアングルは、ある意味では、 松竹映画ならではのものであった。それはまた、渋谷実というシニカルな演出 家の時代に対する姿勢でもあった。

'42(松竹大船)(監)澁谷實(脚)池田忠雄、津路嘉郎(撮)森田俊保(美)濱田辰雄 (音)安部威(出)田中絹代、佐野周二、河村黎吉、齋藤達雄、徳大寺伸、木暮実 千代、文谷千代子、伏見信子、坂本武、忍節子


A-25 4/24(木)3:00pm 6/3(火)6:30pm 6/28(土)1:00pm 7/22(火)3:00pm

維新の曲

(113分・35mm)

太平洋戦争の開戦は映画界の統制に拍車をかけ、1942年には新興キネマ、大都 映画、日活の製作部門が統合されて大日本映画製作株式会社(大映)が発足、 松竹・東宝・大映の3社体制となった。これは大映の第1回作品に当たり、専 務永田雅一の総指揮の下、旗揚げの意味をこめて時代劇俳優のオールスター・ キャストとなっている。監督の牛原虚彦はそれまで新興京都に所属していた が、そのまま大映の専属となった。

'42(大映京都)(監)牛原虚彦(脚)八尋不二(撮)三木滋人(美)鈴木正治、川村兎 世志(音)佐藤顕雄(出)片岡千恵蔵、阪東妻三郎、市川右太衛門、嵐寛壽郎、大 友柳太朗、梅村蓉子、市川春代、上田吉二郎、北龍二、香川良介


A-26 4/24(木)6:30pm 6/4(水)3:00pm 6/28(土)4:00pm 7/22(火)6:30pm

私の鶯

(99分・35mm)

満映のスーパースター李香蘭の代表作であり、かつ満映を代表する音楽映画。 李香蘭扮する日本人少女がロシア革命を逃れた声楽家に育てられるという設定 で、全編のほとんどがロシア語(日本語字幕)で進行する異色の作品である。 大佛次郎の原作「ハルピンの歌姫」が当初の題名だったが、撮影段階で現在の 題名に改められた。旧満州では1944年に公開されたが、翌年の敗戦のため日本 では劇場公開が認められず幻の作品とされていた。

'43(満州映画協会=東宝)(監)(脚)島津保次郎(原)大佛次郎(撮)福島宏(音)服 部良一(出)李香蘭、黒井洵(二本柳寛)、千葉早智子、松本光男、進藤英太郎、 グリゴリー・サヤーピン、ワシリー・トムスキー、ニーナ・エンゲルガルド、 オルガ・マシュコーワ


A-27 4/25(金)3:00pm 6/4(水)6:30pm 7/1(火)3:00pm

望樓の決死隊

(95分・16mm)

満州と朝鮮の国境を警備する国境警察官を描いた今井正作品。朝鮮総督府の後 援、朝鮮映画製作会社の応援を受け、現地長期ロケで製作された。1939年に「沼 津兵学校」でデビューした今井正は、この時期、新進気鋭の若手監督であり、 巧みな語り口でこの活劇映画を破綻なくまとめ注目された。最後の銃撃戦の場 面は、さながら西部劇のそれである。なお映画の中の「共産匪族」は抗日パル チザンであり、現在の中国を作り上げたパイオニアたちである。

'43(東宝映画)(監)今井正(脚)山形雄策、八木隆一郎(撮)鈴木博(特撮)圓谷英 二(美)松山崇、宮森繁(音)鈴木靜一(出)高田稔、原節子、清水莊夫、鳥羽陽之 助、斎藤英雄、秦藁、田澤二、金賢、戸川弓子、金信哉、菅井一郎


A-28 4/25(金)6:30pm 6/5(木)3:00pm 7/1(火)6:30pm

重慶から來た男

(69分・35mm)

国内の軍需工場に重慶からのスパイが潜入し、工員たちに物資の横流しなど不 正行為を働きかけ、生産妨害を図る。産業戦士である水島道太郎が、身を挺し てこの陰謀を防ぐという物語。大都映画出身の水島道太郎がその精悍な魅力を 発揮したのもこの戦争の時代であった。若き日の小林桂樹を見ることもでき る。なお、重慶は、1937年11月に南京から移転した中国国民政府の首都であ り、日本陸軍の南京占領はその年の12月であった。

'43(大映東京)(監)山本弘之(脚)石田吉男(撮)長井信一(美)高橋康一(音)横田 昌之(出)水島道太郎、星ひかる、朝雲照代、相馬千惠子、千明明子、浦邊粂子、 小柴幹治、小林桂樹、石黒達也、押本映二、北龍二


A-29 4/26(土)1:00pm 6/5(木)6:30pm 7/2(水)3:00pm

海軍

(85分・35mm)

特殊潜航挺の乗組員として真珠湾攻撃に参加した青年の一生を描く。原作は、 風俗小説とフランス演劇の紹介で知られる獅子文六が本名の岩田豊雄で朝日新 聞に連載したもので、「上海陸戦隊」の沢村勉が脚色にあたった。大本営海軍 部の企画として軍が積極的に関与しており、開戦2周年の12月8日に封切られ た。なお所蔵プリントは海軍省に納入された短縮版で、一般公開版に比べて記 録性に重きが置かれている。

'43(松竹京都)(監)(脚)田坂具隆(原)岩田豊雄(脚)澤村勉(撮)伊佐山三郎(特 撮)鹿島正雄(美)六郷俊(音)内田元(出)山内明、志村久、青山和子、小杉勇、水 戸光子、風見章子、滝花久子、長尾敏之助、小沢榮太郎、東野英治郎


A-30 4/26(土)4:00pm 6/6(金)3:00pm 7/2(水)6:30pm 7/23(水)3:00pm

生きてゐる孫六

(89分・16mm)

この時期にデビューした監督たちの中で、東宝の黒澤明と並んでもっとも期待 されたのが大船のエース助監督だった木下恵介である。華々しい評判を得た「花 咲く港」に続く2作目で、因習にとらわれた旧家を舞台に名刀「関の孫六」を めぐって繰り広げられる一種の喜劇となった。冒頭は三方ヶ原での合戦シーン であるが、その撮影も戦時下の作品とは思われないほどの好条件であり、松竹 の木下への期待を見ることができる。

'43(松竹大船)(監)(脚)木下恵介(撮)楠田浩之(美)本木勇(音)早乙女光(出)上 原謙、原保美、山鳩くるみ、細川俊夫、葛城文子、吉川満子、河村黎吉、宮子 徳三郎、河野敏子、坂本武


A-31 4/29(火・祝)1:00pm 6/6(金)6:30pm 7/3(木)3:00pm 7/23(水)6:30pm

あの旗を撃て

(108分・35mm)

「燃ゆる大空」「南海の花束」に続いて阿部豊が監督した、スペクタクル性重 視の戦争映画で、バターン=コレヒドール戦線における米軍との戦いを描いた 作品。ほとんど全篇がフィリピンで撮影され、フェルナンド・ポウら現地のス ターが共演した他、後に大作「ノリ・メ・タンヘレ」(1961年)を監督する巨 匠ヘラルド・デ・レオンが共同監督を務めている。このロケーションで、阿部 豊は少将待遇だったと言われている。

'44(東宝映画)(監)阿部豊(脚)八木隆一郎、小國英雄(撮)宮島義勇、竹内宏(特 撮)圓谷英二、三谷栄三(美)北猛夫、北辰雄(音)春日邦雄(出)大河内傳次郎、大 川平八郎、河津清三郎、月田一郎、中村哲、田中春男、眞木順、フェルナンド・ ポウ、アンヘル・エスメラルダ、レオポルド・サルセド、ロサ・アギレ、ノル マ・ブランカフロア


A-32 4/29(火・祝)4:00pm 6/7(土)1:00pm 7/3(木)6:30pm 7/24(木)3:00pm

出陣

(15分・16mm)

戦時下の映画人育成のため、財団法人大日本映画協会は1943年春に日本映画学 校を設立した。これはその翌年2月に製作された第1回卒業記念映画で、出征 する二人の学生と、彼らの旅立ちを祝福する人々とを扱った短篇。島津保次郎 のどの作品歴にも記載されていない極めて珍しい作品であるが、同じ1944年に 監督した長篇「日常の戦ひ」が遺作となった。また、同校卒業生、中北千枝子 の出演が画面で確認できる。

'44(日本映画学校)(監)(脚)島津保次郎(撮)持田米彦、撮影科生徒一同(出)演 技科生徒一同

三尺左吾平

(74分・35mm)

歌舞伎や講談で有名な伊達騒動を背景に、居合抜きの名人、三尺左吾平に「喜 劇王エノケン」こと榎本健一が扮し、騒動解決に尽力する姿を喜劇的に描いた 作品。時代はエノケンが得意とする荒唐無稽のストーリーや、アクロバティッ クな動きがもたらす「笑い」を許さないところまできていた。石田民三は戦後 に一作品監督しているが、実質的にこの作品でほぼ映画人としてのキャリアを 閉じた。京の花柳界で粋人として戦後を過ごしたという。

'44(東宝映画)(監)石田民三(脚)三村伸太郎(撮)友成達雄(美)島康平(音)栗原 重一(出)榎本健一、高峰秀子、黒川彌太郎、伊藤智子、横山運平、志村喬、清 川莊司、尾上榮三郎


A-33 4/30(水)3:00pm 6/7(土)4:00pm 7/4(金)3:00pm 7/24(木)6:30pm

愉しき哉人生

(77分・35mm)

ある田舎町に飄然とあらわれ、仲の良くない住人たちに協力・親愛・団結、つ まり「隣組」の思想を説きかつ実行し、町を一つにまとめると何処へともなく 去っていく謎の一家。落語家出身の柳家金語楼を銃後思想の伝導者に配した成 瀬作品。煽動的性格とはもっとも遠い成瀬にとって、ドラマの構成と笑いの中 に生真面目な説教を織りこむしかなかったようだが、当局に「時局柄内容低劣」 とされたことは、むしろ彼にとっては名誉であったかもしれない。

'44(東宝映画)(監)(脚)成瀬巳喜男(脚)八住利雄(撮)伊藤武夫(美)北川恵司 (音)鈴木靜一(出)柳家金語樓、山根寿子、中村メイコ、横山エンタツ、花岡菊 子、渡辺篤、清川玉枝、小高たかし、鳥羽陽之助、三条利喜江


A-34 4/30(水)6:30pm 6/10(火)3:00pm 7/4(金)6:30pm 7/25(金)3:00pm

芝居道

(82分・35mm)

長谷川一夫、山田五十鈴のゴールデン・コンビに古川緑波を加えた「芸道もの」。 日清戦争を背景に、大阪芸人が関東での失敗に屈せず精進していく姿を描いて いる。この時期には何事も「道」となっており、それをきわめることが「報国」 とされていた。成瀬はこの芸能界の人情話を手堅い演出でまとめている。美術 監督、中古智が成瀬組に「まごころ」(1939年)以来二度目の参加。大阪への ロケハンで初めて個人的に親しくなったと述懐している。

'44(東宝映画)(監)成瀬巳喜男(原)長谷川幸延(脚)八住利雄(撮)小倉金弥(美) 中古智(出)古川緑波、山田五十鈴、長谷川一夫、花井蘭子、伊井友三郎


A-35 5/1(木)3:00pm 6/10(火)6:30pm 7/5(土)1:00pm 7/25(金)6:30pm

國際密輸團

(部分・46分・35mm)

明治初年の横浜税関長星享の実話に基づいて、市川右太衛門が税関長を演じ、 イギリス公使の密令によるアヘン密輸団の陰謀を暴くという異色の伊藤大輔作 品。現在この一部分しか残っておらず、とりわけ前半が大幅に欠けているが、 上映機会の少ない作品であるため本特集に含めた。密輸団が右太衛門の裁きに かけられる結末のシーンなど、断片的には物語を追うことができる。密輸団の アジトのセット撮影は注目に値する。

'44(大映京都)(監)(原)(脚)伊藤大輔(撮)松井鴻(美)上里義三(音)白木義信 (出)市川右太衛門、那*、E・スタルコフ、V・ゴロワノフ、逢初夢子、上山 草人、高山徳右衛門

還って來た男

(68分・35mm)

軍に召集されたり国策色の強い日本映画社に移籍する助監督の多い中、松竹大 船で戦争末期に監督昇進した川島雄三のデビュー作。織田作之助の小説「清楚」 を原作に得て、後の川島を予感させる叙情的で軽妙な演出が認められる。戦意 昂揚の色は薄く、佐野周二に対するのんきな役作りなど、この時期の作品とし ては稀なものである。ここに、時局に鋭く反応した東宝と、演出の伝統をつい に崩さなかった松竹との対照を見ることもできよう。

'44(松竹大船)(監)川島雄三(原)(脚)織田作之助(撮)斉藤毅(音)大沢寿人(出) 佐野周二、田中絹代、三浦光子、文谷千代子、草島競子、小堀誠


A-36 5/1(木)6:30pm 6/11(水)3:00pm 7/5(土)4:00pm 7/26(土)1:00pm

必勝歌

(80分・35mm)

1941年以来、政府情報局は戦時下の時局に沿った新作映画を「国民映画」とし て選定し、この時期はその中から選奨(最高賞は情報局総裁賞)を行っていた。 この作品は、敗戦の色濃くなる中、日本人の「愛国精神」を前線と銃後にわた って13の挿話で描いたオムニバスで、挙国一致の風潮により監督陣には豪華な 顔触れがそろった。「昭和20年度国民映画」に選ばれていたが、敗戦により選 奨が行われなかったことは言うまでもない。

'45(松竹京都)(監)溝口健二、清水宏、田坂具隆、マキノ正博(原)田坂具隆(脚) 清水宏、岸松雄(撮)竹野治夫、斉藤毅、行山光一、三木滋人(美)堀保治(出)佐 野周二、大矢市治郎、島田照夫、小杉勇、高田浩吉、齋藤達雄、南光明、三井 秀夫、澤村アキヲ、高峰三枝子、轟夕起子、田中絹代、上原謙


A-37 5/2(金)3:00pm 6/11(水)6:30pm 7/8(火)3:00pm 7/26(土)4:00pm

にっぽんむすめ Japan Yinthwe

(85分・35mm・日本語字幕なし)

英領植民地ビルマ(現在のミャンマー)で製作された初のトーキー映画。日本 のP.C.L.映画製作所の協力を得て全体のほとんどが日本ロケーションで撮影 されたもので、太平洋戦争中の映画ではないが、アジアの他国から見た戦前の 日本を知る上で貴重な資料でもある。監督兼主演のウ・ニイプは「ビルマ映画 の父」と呼ばれ、この物語と平行するように、撮影中に知り合った日本女性と 結ばれたが、昨年95歳で逝去した。1995年10月にはミャンマー国営テレビで の放映のため、この作品のビデオ版がミャンマーに贈呈された。

'36(A1フィルム)(監)(出)ウ・ニイプ(出)高尾光子、ウ・ティンペ、ウ・サン ニュン


■(監)=監督・演出 (原)=原作 (脚)=脚本・脚色 (撮)=撮影 特撮=特殊技術・特殊撮影 美=美術 (音)=音楽 (出)=出演
■本特集には不完全なプリントが含まれています。
■記載した上映分数は、当日のものと多少異なることがあります。