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大ホール上映作品
芸術祭協賛

シネマの冒険 闇と音楽1997
Silent Film Renaissance 1997

京橋新館が開館した一昨年に、前年の企画「サイレント・ルネサンス 映画と 音楽の新たな出会いに向けて」を引き継ぐ形で開催された「シネマの冒険 闇 と音楽」は、無声映画の新しい魅力を引き出すものとして好評を博しました。 シリーズ化された本企画は、昨年に続き今年も「シネマの冒険 闇と音楽1997 (Silent Film Renaissance 1997)」と題してここに開催の運びとなります。 昨年同様、5ヵ国から5本の作品を選んだ今回のプログラムは、フランク・キャ プラの「陽気な踊子」を最新のデジタル技術を使って復元したプリントを本国 以外では世界で初めて上映すること、小津安二郎の「非常線の女」にピアノ伴 奏や弁士の語りを付けるという試みを行なうこと、ジャック・フェデーの大作 「女郎蜘蛛」(小宮登美次郎コレクション)を弁士の語りで上映することなど、 これまでにも増して意欲的な企画になっています。個性的な無声映画の数々を、 新しいプレゼンテーションのかたちとともにご堪能ください。


A-1 11/4(火)6:30pm 11/5(水)6:30pm 11/6(木)6:30pm

陽気な踊子

The Matinee Idol

名匠フランク・キャプラの監督第7作(長篇としては6作目)。当時30歳を過ぎ たばかりの彼は、コロンビア社の製作部門ヘッド、ハリー・コーンのあつい信 頼を得て、無声・発声の端境期でもある1928年に7本のサイレント映画を発表 しているが、これはその一つでベッシー・ラヴを主演に迎えている。田舎の大 真面目な旅芸人一座がニューヨークに出て物笑いの種になるというプロットに、 若い役者の恋がからむロマンティック・コメディで、「或る夜の出来事」 (1934年)でアメリカのトーキー映画にスクルーボール・コメディというジャ ンルを確立するキャプラが、それ以前の無声映画時代に発揮していた溌剌とし た才気をそこかしこに感じることができるだろう。この映画は、一般には失わ れたものと長く信じられてきたが、シネマテーク・フランセーズが保管してい たプリントを元に、昨年、米映画芸術科学アカデミー(AMPAS/アカデミー・ フィルム・アーカイヴ)、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが協力し 合って、最新のデジタル技術を用いて修復した。これは、アメリカにとってフ ランク・キャプラ生誕百年の1997年にふさわしい事業であるばかりでなく、ラ イブ・アクションの長篇映画としては世界で初めてフルデジタルの復元が行な われたという点でも画期的なものといえよう(上映するのはデジタル・ドメイ ンからトランスファーしなおした35mmフィルム)。当復元版の御披露目上映は、 フランク・キャプラ生誕百年を記念して、本年1月10日にAMPASによって行なわ れた。これは1928年4月23日の初封切(ニューヨーク市ヒポドローム劇場)か ら数えて実に69年振りのものとなったが、アメリカ以外では、今回のNFC上映 が世界初となる。

(57分・24fps・35mm・無声・白黒・英語インタータイトル/日本語字幕付き)

'28アメリカ/コロンビア映画(監)フランク・R・キャプラ(製)ハリー・コーン (原)ロバート・ロード、アーネスト・R・パガーノ("Come Back to Aaron") (脚)エルマー・ハリス、ピーター・ミルン(撮)フィリップ・タヌーラ(美)ロバー ト・E・リー(編)アーサー・ロバーツ(出)ベッシー・ラヴ、ジョニー・ウォー カー、ライオネル・ベルモア、アーネスト・ヒリアード、シドニー・ドルブルッ ク、デイヴィッド・マー

●ピアノ伴奏=ロバート・イズレイル
●各回マイケル・フレンド氏による舞台挨拶を予定


A-2 11/7(金)6:30pm 11/12(水)6:30pm

パンドラの箱

Die Buchse der Pandora/Pandora's Box/The Box of Pandora

「《春の目覚め》で知られているドイツの作家フランク・ヴェデキント(1846~ 1918)の戯曲《大地の精》(1893)と《パンドラの箱》(1901)からハンガリー 映画出身のラディスラウス・ヴァイダが、映画用に脚本を構成」し、G・W・パ プスト(1885~1967)が監督した作品で、「『懐しの巴里』(1927)についで わが国で公開された」(FC第33号)もの。トニー・レインズは、「ヴェデキン トの書いた“ルル”の芝居にみごとな翻案/要約を施したこの作品は、映画が 誇るべき、脅迫観念というものの<最も慈悲深く悲劇的な>描写となった。罪 の意識を持たない自らの挑発的な性に導かれるように、踊子ルルはベルリンの 愛人、崇拝者たち(レズビアンの伯爵夫人、新聞社の重鎮とその息子など)と いった輩と出会い、果てはロンドンの薄汚ない屋根裏に行き着く--そこで彼 女が見つけたのは“切り裂きジャック”の姿を借りた彼女自身のタナトスであ る。ルイーズ・ブルックスの伝説的な演技とパプストの才気煥発な演出は共に われわれを魅了してやまない」(The Time Out Film Guide)と書いている。 1962年にはオーストリアでトーキー版リメイクも製作されている。英語題名は "Pandora's Box"。

(120分・20fps・35mm・無声・白黒・英語インタータイトル/日本語字幕付き)

'29ドイツ/ネロ・フィルム(監)G・W・パプスト(製)シーモア・ネーベンツァー ル(原)フランク・ヴェデキント(脚)ラディスラウス・ヴァイダ(撮)ギュンター・ クランプ(美)アンドレイ・アンドレイエフ、ゴットリープ・ヘシュ(出)ルイー ズ・ブルックス、フリッツ・コルトナー、フランツ・レデラー、グスタフ・ディー スル、アリーツェ・ロベルテ

●ピアノ伴奏=渡辺雄一


A-3 11/8(土)1:00pm 11/13(木)6:30pm

非常線の女

Hijosen no Onna/Dragnet Girl/Women on the Firing Line/Cordoned Woman

小津安二郎監督の和製ギャング映画。時子役の田中絹代が、昼は真面目なタイ ピスト、夜はギャングスター=ジョージ(岡譲二)の情婦に扮している。ある 日、ジョージのもとへ与太者志願の若者、宏(三井秀夫)が転がりこんできた。 宏にはレコード店に勤める姉の和子(水久保澄子)がいた。弟を心配する和子 に会ったジョージは、いつしか彼女に心ひかれていく。時子は一度は激しく嫉 妬するが、和子の一途さを知り却って好感をもってしまうのだった。ジョージ の忠告を無視し行状を改めない宏は、姉の店から金を盗んでしまう。苦境に陥っ た和子を救うために、ジョージと時子は、時子につきまとっていた社長の息子 を拳銃で脅し金をつくった。二人に殺到する警官隊。あくまでも逃げようとす るジョージ、自首して出直すことを主張する時子。ついに時子はジョージの足 を撃ち、二人はともに捕えられた。逃げる男の脚を、愛するがゆえに女が撃つ というこの場面にはアメリカ映画、「暗黒街の女」(ウィリアム・ウェルマン 監督、1928年)が反映しているという指摘がある。小津がアメリカ映画からの 摂取を自ら明らかにしている作品の一つであり、その習熟ぶりは主人公たちが 活動するダンス・ホール、ビリヤード、洋式アパートなどの美術からも窺うこ とができる。

(119分・20fps・35mm・無声・白黒・日本語インタータイトル/英語字幕付き)

'33日本/松竹キネマ(監)小津安二郎(原)ゼームス槙(脚)池田忠雄(撮)茂原英 朗(美)脇田世根一(編)石川和雄、栗林実(出)田中絹代、岡譲二、水久保澄子、 三井秀夫、逢初夢子、高山義郎、加賀晃二、南條康雄、谷麗光、竹村信夫、鹿 島俊作、西村青児

● 弁士=澤登翠、 楽団伴奏=カラード・モノトーン[11/8]
● ピアノ伴奏=渡辺雄一[11/13]


A-4 11/11(火)6:30pm 11/14(金)6:30pm

梅の一枝

一剪梅/Yihjanmae/A Spray of Plum Blossoms

シェークスピアの喜劇「ヴェローナの二紳士」を下敷きに、中国映画草創期の 女優林楚楚や、人気の若手俳優阮玲玉、金焔を主役に起用した豪華なスター映 画。1920年代後期より、中国映画界では西欧に題材やスタイルを求める傾向が 見受けられ、そうした作品は《欧化》ものと呼ばれた。この作品もその流れを 汲むもので、インタータイトルは中国語と英語が並記され、登場人物名も中国 名と原作そのままの英語名が併用されている。陸軍士官学校を卒業した倫庭は、 赴任先の広東で司令官の娘と恋仲になった。一方、倫庭の友人である女たらし の楽徳は倫庭の妹と婚約していたが、彼も広東に赴任することになりそこで司 令官の娘に惚れてしまう。楽徳は、倫庭との友情を裏切って、あなたの娘と倫 庭は駆け落ちをするつもりだと司令官に告げ口し、すると倫庭は即座に広東か ら追放された。やがて倫庭は野盗団《一剪梅》の首領となって、弱きを助け強 きをくじく義賊となっていた。兄の事件を新聞で知った倫庭の妹は広東へ駆け つけ、司令官の娘の口から、自分の婚約者のはたらいた悪事を知る。ついには、 楽徳率いる軍隊と《一剪梅》団との戦いになるが…。ロビンフッドのような姿 に変身する金焔や男装の麗人となる阮玲玉など、コスチューム・プレイも見逃 せない。

(120分・24fps・無声・白黒・中国語/英語インタータイトル・日本語字幕付き)

'31中国/聯華影片公司(監)卜萬蒼(プー・ワンツァン、英語名Richard Poh) (製)羅明佑(ルオ・ミンユー)(原)ウィリアム・シェークスピア(脚)黄_磋 (ホアン・イーツォ)(撮)黄紹芬(ホアン・シャオフェン)(美)魯少飛(ルー・ シャオフェイ)、趙扶理(チャオ・フーリー)(出)阮玲玉(ロアン・リンユイ)、 林楚楚(リン・チューチュー)、王次龍(ワン・ツーロン)、金焔(チン・イェ ン)、高占非(カオ・チャンフェイ)、陳燕燕(チェン・イェンイェン)、劉 継群(リウ・チーチュン)、王桂林(ワン・コイリン)、時覚非(シー・チュ エフェイ)、周麗麗(チョウ・リーリー)

● ピアノ伴奏=柳下美恵


A-5 11/15(土)1:00pm

女郎蜘蛛

L'Atlantide

神秘的で官能的な<砂漠の女王=妖婦(キルケ)>を描いてベストセラーとなっ たピエール・ブノワの原作(1919年)を最初に映画化しようとしたのはレオン・ ポワリエだが、サハラ砂漠でのロケがゴーモン社から拒否されて製作を断念、 代わりにジャック・フェデーが出資者を募って自主製作することになった。フェ デーは8ヵ月に渡ってアルジェリア・ロケを敢行、総製作費は200万フラン近く に達したが、興行は大ヒットとなって経済的に報われたのみならず、「第一次 大戦後、真の意味で成功した最初のフランス映画」(ジャン・ミトリ)という 言葉が示すとおり、芸術的にも高い評価を得た。「1920年代を通じてフランス 映画の一ジャンルを形成したものに、<アラブもの(コント・アラブ)>があ り、さらにこの変種として<植民地映画>と呼ぶべき作品が現われることにな る」が、そのきっかけとなったのがこの『女郎蜘蛛』であるとされる。なお、 アンティネア役は出資者たちの意向によって第一次大戦前に世界的な名声を得 ていたナピエルコフスカに決まったが、フェデー自身はミュジドラを起用した かったらしい(以上、引用[要旨]はRichard Abel, French Cinema: The First Wave, 1915-1929より)。

(170分・18fps・35mm・無声・白黒染色版・英語インタータイトルのみ)

'21フランス/ソシエテ・ジェネラル(監)(脚)ジャック・フェデー(原)ピエー ル・ブノワ(撮)ジョルジュ・スペクト、アメデ・モラン(出)スタシア・ナピエ ルコフスカ、ジャン・アンジェロ、マリー=ルイーズ・イリブ、ジョルジュ・ メルシオール、ポール・フランセスキ、アンドレ・ロアンヌ、ルネ・ロルゼイ、 ジェニカ・ミシリオ、アブ=デル=カデル・ベン=アリ

● 弁士=澤登翠、 ピアノ伴奏=柳下美恵(途中10分の休憩あり)


(監)=監督 (製)=製作 (原)=原作 (脚)=脚本・脚色 (撮)=撮影  (美)=美術 (編)=編集 (出)=出演者

■記載した上映分数は、当日のものと多少異なることがあります。


ピアノ伴奏者紹介

ロバート・イズレイル

Robert Israel

無声映画音楽の作曲、研究の分野でアメリカを代表する演奏家、指揮者。「陽 気な踊子」復元版を本年1月に映画芸術科学アカデミーが上映した際には、そ の伴奏音楽を小編成アンサンブル用に作曲・編曲し、また、サンフランシスコ 映画祭での上映でも生演奏を行なった。この音楽はソニー・ピクチャーズによ るビデオ版発売時に録音もされている。南カリフォルニアを演奏活動の拠点と するが、ヨーロッパ諸国からの招待も多く、ポルデノーネ無声映画祭やボロー ニャの復元映画祭(リトロヴァート)でも演奏している。ロサンゼルス在住。

渡辺雄一

(わたなべ・ゆういち)

作曲家、ピアニスト。国立音楽大学在学中より作曲、オーケストレーションを ピエール・ポルト氏に師事。リリカルで郷愁のあるメロディを絶賛される。現 在、オーケストラコンサートや様々な演奏活動の他、楽譜出版にも力を注ぎ、 30冊に及ぶ著作をまとめている。無声映画伴奏者としても各種イベントに出演 し、今回の「シネマの冒険 闇と音楽」でもオリジナル曲を書き下ろしている。

柳下美恵

(やなした・みえ)

無声映画伴奏者。武蔵野音楽大学器楽科(ピアノ専攻)卒業。近藤千穂、坂井 玲子各氏に師事。西武百貨店スタジオ200在籍時より無声映画に傾倒し、伴奏 者をめざして研鑽を積む。山形国際ドキュメンタリー映画祭を皮切りに、高知 県立美術館、アテネ・フランセ文化センターなどで行なわれた「光の生誕 リュ ミエール!」や、国際交流フォーラムでの「ロシア・ソビエト映画祭」でも伴 奏を担当している。

弁士紹介

澤登翠

(さわと・みどり)

故松田春翠の門下。法政大学文学部卒。「弁士」というユニークな存在が忘れ られていく時代に、あえてその道を志した戦後派である。定期的に開催される 「無声映画鑑賞会」をはじめとする様々な上映会や最近では海外の映画祭など でも活躍している。現代劇、時代劇、洋画と幅広いレパートリーを持ち、また 映画評論の執筆や映画出演など、その積極的な活動を通して、「伝統話芸・活 弁」を支える貴重な存在となっている。1990年、日本映画ペンクラブ賞、'95 年、日本映画批評家大賞ゴールデン・グローリー賞を各々受賞。

共演楽団紹介

カラード・モノトーン

(指揮=湯浅丈一 ピアノ=村岡貞彦 ヴァイオリン=吉田美晴  フルート=鈴木真紀子 パーカッション=足立克己)

無声映画の音楽(生演奏)を担当する西洋楽器と和楽器とを混成した専属合奏 談。'87年、東京国際映画祭でD.W.グリフィス監督作品「国民の創生」の音楽 製作、演奏を担当し好評を得て以来、日本独特の活動写真の音楽を地道に研究、 澤登翠とともに各地で公演活動中。NFCでの共演も3度目となる。