アメリカ映画「ジャズシンガー」(1927年)の大ヒットによって、各国の映画
界は一挙にトーキー化へと進んでいきました。日本もまた例外でなく、外国か
ら導入された新技術が国産の技術と覇を競う中で、映画会社や映画館は次々と
「音」に対応する投資を行い、作り手たちはそれまでとは違ったジャンルへの
挑戦や新たな話法の開発に専心することになります。こうした模索の時代を経
た日本映画は、昭和10年代に入って一つのピークを迎え、世界的に見ても極め
て高度でユニークなトーキー文化を築き上げるにいたりました。
「戦前の黄金時代」とも呼べる、この「サウンド・フィルム」到来期から昭
和10年代前半の時期に製作された大量の映画群も、残念ながら、後の戦争など
を理由にその多くが失われてしまいました。今回の企画は、そうした中で「生
き残る」ことのできた貴重なフィルムのうちから、前回の特集と同様に、「日
本映画の発見」の名にふさわしく、敢えてこれまで上映の機会が比較的少なかっ
た作品を選び、これに近年「発見」されたものを加えてプログラミングしたも
のです。
NFCのアーカイヴァル・コレクションとして適切に保存処理され、大切に保
管されてきた1930年代日本映画の数々をご堪能ください。
ふるさと(86分・21fps・35mm)
皆川芳造の改良によるフィルム式のミナ・トーキーを採用 、"我らがテナー"
として一世を風靡した藤原義江を主演に迎えた音楽映画。溝口健二は、日活の
初期発声映画を極めて前衛的な作品に仕上げた。トーキーへの過渡期の模索を
うかがわせる貴重な作品である。尚、今回の上映では製作当時の撮影速度に合
わせて1秒21コマで映写する。
'30(日活)(監)溝口健二(原)(脚)森岩雄、如月敏、畑本秋一、小林正(撮)横田
達之、峰尾芳男(録)浦島義勝(PHONO-FILM SOUND SYSTEM)(出)藤原義江、夏川
静江、小杉勇、浜口富士子、土井平太郎、村田宏寿、田村邦男、佐久間妙子、
高津愛子、リディア・シャピロ
旅は青空(部分・11分・35mm)
千恵蔵プロの第1回トーキー、録音はP.C.L.方式。所蔵作品は冒頭部分、の
んびりとした街道風景と流れる「私の青空」、三人の浪人が女旅芸人の一座と
出会う場面のみ。稲垣演出の魅力の一端は見せている。
'32(片岡千恵蔵プロダクション)(監)(原)(脚)稲垣浩(撮)石本秀雄(美)平松智
恵吉(音)松平信博(録)写真化学研究所(出)片岡千恵蔵、田村邦男、成松和一、
伏見直江、浜口富士子、田中筆子
マダムと女房(56分・35mm)
大阪松竹座の楽士出身である、土橋武夫・晴夫兄弟が開発した<土橋式>国産
トーキーの第1作。二人は蒲田撮影所内の研究室で、トーキー反対の勢力と対
峙しながら開発に従事した。撮影にはカメラ3台が使われている。
'31(松竹キネマ)(監)五所平之助(原)(脚)北村小松(撮)水谷至宏(美)脇田世根
一(録)土橋武夫、土橋晴夫(出)渡辺篤、田中絹代、伊達里子、市村美津子、井
上雪子、横尾泥海男、吉谷久雄、月田一郎、日守新一、小林十九二、関時男、
坂本武
丹下左膳 第1篇(部分・47分・35mm)
伊藤大輔のトーキー第1作。録音は評価の高いアメリカのウエスターン方式を
用い、日活の力を集めた大作。所蔵作品はイギリスで発見された欠落の多い部
分版だが、冒頭の部分など伊藤演出の醍醐味は充分味わうことができる。
'33(日活)(監)(脚)伊藤大輔(原)林不忘(撮)酒井宏(音)松平信博、宮野顯(録)
E.F.マッキナニー、萬寳圭介、渡邊鴻、加々良謙一(日活・ウエスターン)(出)
大河内傳次郎、五月潤子、山本礼三郎、山田五十鈴、沢村国太郎、市川小文治、
中村吉次、南部章三、阪東勝太郎
新編 丹下左膳 隻眼の巻(62分・35mm)
林不忘=伊藤大輔の「丹下左膳」とは趣の異なる左膳映画。川口松太郎=中川
信夫はこの荒唐無稽のヒーローの誕生を、丹下左市からの変身として描いてい
る。三篇からなる連作の内の二篇目にあたり、中川監督愛着の作品。
'39(東宝映画)(監)中川信夫(原)川口松太郎(脚)貴船八郎(撮)安本淳(音)伊藤
昇(録)片岡造(出)大河内傳次郎、山田五十鈴、黒川弥太郎、鬼頭善一郎、御橋
公、鳥羽陽之助、清川荘司、沢村貞子
大學の若旦那(85分・16mm)
サウンド版。サイレント末期からトーキー初期にかけて松竹蒲田が得意とした
カレッジもの。ラガーマンとしてのキャリアを持つ藤井貢扮する東京の商家の
若旦那=学生ラグビーの花形選手の活躍を、清水宏がスタイリッシュに描き、
以後同じコンビでシリーズ化された。
'33(松竹キネマ)(監)清水宏(原)源尊彦(脚)荒田正男(撮)青木勇、佐々木太郎
(美)脇田世根一(録)土橋晴夫、橋本要(土橋式松竹フォーン)(出)藤井貢、武田
春郎、逢初夢子、水久保澄子、三井秀男、光川京子、坪内美子、坂本武、斎藤
達雄、徳大寺伸、若水絹子、大山健二
噂の娘(54分・35mm)
下町の酒屋が没落していく様子を、冷ややかな視線で静かにみつめた成瀬作品。
姉と妹に代表される新旧世代の対立を、当時の最新風俗をまじえながら巧みに
描いている。彼のトーキー演出が確立されていることが良く分かる。
'35(P.C.L.映画製作所)(脚)(監)成瀬巳喜男(撮)鈴木博(美)山崎醇之輔(音)伊
藤昇(録)道源勇二(出)千葉早智子、梅園龍子、伊藤智子、汐見洋、御橋公、藤
原釜足、大川平八郎、滝沢修、三島雅夫
神秘な男(59分・35mm)
家族を崩壊させた高利貸に対する、タクシ-・ドライバ-、対馬=上原謙の復
讐は思わぬ方向へ向かいはじめた。事故死に追いやったその男の娘=三宅邦子
は彼に好意をもち、二人の将来を考えるようになっていった…。
'37(松竹)(監)佐々木康(原)吉屋信子(脚)斎藤良輔(撮)野村昊(美)金須孝(音)
万城目正(録)土橋武夫、西山整司(土橋式松竹フォーン)(出)上原謙、三宅邦子、
西村青兒、河村黎吉、水原弘志、坂本武、大塚君代、水原浩、大塚君代、廣瀬
徹、出雲八重子、大山健二
かごや判官(63分・16mm)
駕籠かきの権三=坂東好太郎と助十=高田浩吉は、隠居殺しのあった夜、あや
しい浪人を見かけたが訴え出るのをためらう。大岡越前=林長二郎の厳しい裁
きをうけたのは小間物屋であったが…。松竹京都創立15周年記念映画。
'35(松竹キネマ)(監)(脚)冬島泰三(撮)伊藤武夫(録)土橋武夫(土橋式松竹フォー
ン)(出)林長二郎、坂東好太郎、高田浩吉、澤井三郎、坂東橘之助、林敏夫、
澤井三郎、中川芳江、飯塚敏子、井上久栄、花岡菊子
忍術 戸隱八剣士(58分・35mm)
極東キネマは極東映画の流れをひく小プロダクション。御園京平によれば「主
として 4巻物のチャンバラをつくっていた…子供達の夢の世界であった」が、
その辺りの活劇中心の荒唐無稽ぶりは本作からも充分うかがえる。
'37(極東キネマ)(監)山口哲平(原)坂間清彦(脚)夛陀羅三平(撮)松本静八(音)
(録)野村録音現像所(出)雲井龍之介、市川寿三郎、綾小路絃三郎、静田二三夫、
五十鈴桂子、片岡左蛛A市川左正、澤田敬之助、大岩栄二郎、佛光寺袈沙麿
鋪道の囁き(84分・35mm)
後の大映重役、加賀四郎が主催した加賀ブラザースプロダクションの第1回作
品として製作された。ジャズ歌手ベティ稲田とタップ・ダンサー中川三郎を主
演させ、鈴木傳明が監督もこなした珍しい作品である。
'36(加賀ブラザースプロダクション)(監)(出)鈴木傳明(原)(脚)稲津廷一(撮)
山中眞男(美)小池一美(音)渡辺良(録)アサカ幸二(ニッタトーキー)(出)ベティ
稲田、中川三郎、関時男、花房銀子、由利健次、中野英治、高橋義信、伊藤隆
世、鈴木十三郎
ハロー東京(47分・35mm)
国際電話利用の啓蒙を説いた劇仕立ての作品。逓信博物館指導によるこの作品
は東宝の社史にも記載がなく、また監督が後年製作者として名をなす松崎啓次
であるのも珍しい。
'36(P.C.L.)(監)(脚)松崎啓次(原)南不競(撮)立花幹也(美)阿部輝明(音)伊藤
昇(録)市川綱二(出)能勢妙子、伊達里子、森野鍛治哉、小島洋々、小沢栄、辨
公、斉藤英雄、伊藤智子
東京ラプソディ(68分・35mm)
古賀政男と藤山一郎のコンビによる流行歌をあしらった明朗な音楽映画。トー
キーの到来とともに成立した東宝初期の色彩がよく表われている。一躍人気歌
手となった洗濯屋と、恋人のタバコ屋の看板娘の間に芸妓が現われる...。
'36(東宝映画)(監)伏水修(原)佐伯孝夫(脚)永見隆二(撮)三村明(美)戸塚正夫
(音)古賀政男(録)金山欣二郎(出)藤山一郎、椿澄枝、星玲子、宮野照子、井染
四郎、伊達里子、御橋公、千葉早智子、竹久千恵子、堤真佐子、神田千鶴子、
山縣直代、梅園龍子、藤原釜足、岸井明
人妻椿 前後篇(143分・35mm)
恩人の罪を着て国外に逃亡した夫と、幼い子供を抱えていくつもの困難に直面
する妻。記録的なヒットとなった「愛染かつら」('38)に先立つ波乱万丈の大
作メロドラマで、野村浩将はこれらの作品で大船きっての娯楽監督となった。
戦前の大船で製作された正月第1週番組のすべてが野村作品であることからも、
この時期の松竹のカラーを代表していたことが判る。
'36(松竹キネマ)(監)野村浩将(原)小島政二郎(脚)柳井隆雄(撮)高橋通夫(美)
浜田辰雄(音)万城目正(録)土橋武夫、妹尾芳三郎、大谷昌充、松本正徳、青木
新一郎(出)川崎弘子、佐分利信、上原謙、山内光、藤野秀夫、三宅邦子、笠智
衆、上山草人、野寺正一、坂本武、飯田蝶子
男性對女性(133分・35mm)
松竹がトーキー設備拡充を目指して大船撮影所を竣工、蒲田より移転するのが
1936年。これはその記念映画と銘うたれた大作で、複数の恋物語が平行するメ
ロドラマを、松竹少女歌劇団も参加させたオールスター・キャストで描いてい
る。
'36(松竹キネマ)(監)島津保次郎(原)(脚)池田忠雄、猪俣勝人、津路嘉郎(撮)
水谷至宏(美)金須孝(音)早乙女光(録)土橋武夫(出)佐分利信、上原謙、田中絹
代、桑野通子、藤野秀夫、河村黎吉、水島亮太郎、吉川満子、磯野秋雄、大塚
君代、上山草人、飯田蝶子、岩田祐吉、野寺正一、斎藤達雄、新井淳、山内光、
高杉早苗、阪本武、小倉繁、岡村文子、水]滝子、オリエ津坂
女人哀愁(74分・35mm)
裕福だが体面を重んじる冷たい名家に嫁いだ美貌のヒロイン=入江たか子。新
派悲劇的な環境に彼女を置き、その魅力を充分に発揮させた作品。彼女の実家
の描写や義理の妹、沢蘭子のエピソードなどに成瀬らしさがあらわれている。
'37(P.C.L.映画製作所)(監)(原)(脚)成瀬巳喜男(脚)田中千禾夫(撮)三浦光雄
(美)戸塚正夫(音)江口夜詩(録)道源勇二(出)入江たか子、佐伯秀夫、北澤彪、
澤蘭子、大川平八郎、堤真佐子、神田千鶴子、水上怜子、清川玉枝、初瀬浪子、
北沢彪
風の中の子供(86分・35mm)
坪田讓治の児童文学の映画化で、無実の罪で連行された父が帰宅するまでの子
供たちの不安な日々が描かれる。俳優の演技やセット撮影を徐々に排して"実
写主義"への傾斜を強めた清水宏が、自然と子供を主題とする独自の作風を確
立した作品である。
'37(松竹)(監)清水宏(原)坪田讓治(脚)斎藤良輔(撮)斎藤正夫(美)江坂実、岩
井三郎(音)伊藤宜二(録)土橋武夫、森武憲(土橋式松竹フォーン)(出)爆弾小僧、
葉山正雄、河村黎吉、吉川満子、坂本武、岡村文子、末松孝行、長船タヅコ、
アメリカ小僧、笠智衆、突貫小僧、谷麗光
夜の鳩(70分・16mm)
浅草の老舗割烹を舞台にした人間模様。幸せ薄い女たちの姿が独特の情緒的な
視線でとらえられ、石田民三らしい「小世界」がつくりだされている。原作、
シナリオの武田麟太郎は市井風俗もので知られる小説家。
'37(J.O.スタヂオ)(監)石田民三(脚)武田麟太郎(撮)玉井正夫(美)高橋庚子(音)
深井史郎(録)藤堂顕一郎(出)竹久千恵子、梅園竜子、五條貴子、月形竜之介、
浅野進二郎、葵令子、深見泰三、澤井三郎、石川冷、長島武夫、大崎時一郎、
冬木京三、大家康宏、高堂黒天
花火の街(74分・16mm)
J.O.が東宝ブロックに参加した最初の作品。居留地、横浜を舞台にした大仏
次郎原作の明治物。石田作品としては物語に振幅がありすぎて、捌ききれてい
ないところがある。深水藤子の寡黙な武士の娘が印象深い。
'37(J.O.スタヂオ)(監)石田民三(原)大佛次郎(脚)竹井諒(撮)上田勇(美)高橋
庚子(音)深井史郎(録)中大路□二(アール・シー・エー・ハイフィディリィティ)
(出)小林重四郎、深水藤子、竹久千恵子、原健作、瀬川路三郎、清川荘司、深
水泰三、石川冷、滝澤静子、石川秀道、岩居昇、杉昌三、八幡震太郎、光明寺
三郎、対島和雄、岩間桜子、岡田和子
南國太平記 前篇(101分・35mm)
原作は直木三十五。所蔵作品は前篇のみ。幕末薩摩藩のお由羅さま騒動を扱っ
た大作である。大河内伝次郎、並木鏡太郎のJ.O.入社第1回作品。島津斉彬の
早世により、薩摩藩が倒幕の決意を固めるところまでが描かれている。
'37(J.O.スタヂオ)(監)並木鏡太郎(原)直木三十五(脚)三村伸太郎(撮)玉井正
夫、安本淳(音)深井史郎(録)中大路□二、藤堂顕一郎(R.C.Aシステム)(出)大
河内傳次郎、黒川弥太郎、竹久千恵子、花井蘭子、清川荘司、鳥羽陽之助、高
堂黒天、上田吉二郎、永井柳太郎、山田好良、進藤英太郎、深見泰三、沢井三
郎、大家康宏、汐見洋、鈴木京子、五月潤子、桜町公子
仁義ひとすぢ道(53分・35mm)
後年は東映ヤクザ映画で居並ぶ親分衆の一人などに扮していた、若き日の本郷
秀雄が主演するやくざもの。松竹京都の時代劇は現存作品も少なく、この種の
B級作品もその意味では貴重である。母親役の柳さく子は蒲田時代のスタ-。
'37(松竹キネマ)(監)中村敏郎(原)陸直次郎(脚)中村滋(撮)石村蘇鉄(録)土橋
武夫(土橋式松竹フォーン)(出)本郷秀雄、結城一郎、中村政太郎、尾上栄二郎、
石原須磨夫、小池政江、柳さく子、河上君栄、百崎志摩夫、土佐龍兒、尾上誠
之助、有馬秀明、中山芳正
国訛道中笠(63分・35mm)
脚本伊藤大輔による、ご存じ国定忠治の山形屋の場面である。大河内伝次郎と
は異なり、嵐寛寿郎は、目元涼しく爽やかな忠治を演じている。仁科紀彦はマ
キノ出身、手堅い演出で観客周知の物語をまとめている。
'37(嵐寛壽郎プロダクション)(監)仁科紀彦(原)(脚)伊藤大輔(撮)吉見滋男(美)
辻定吉(音)深田実(録)飯塚武男(映音サウンドシステム)(出)嵐寛壽郎、荒木忍、
市川花紅、森光子、春日清、松本田三郎、歌川絹枝、日高昇子、菊本久夫、玉
島愛造、頭山桂之介、尾上紋彌、阪東太郎、嵐橘右
限りなき前進(78分・35mm)
原作小津安二郎、監督内田吐夢の組み合わせによる日活多摩川現代劇の傑作。
所蔵版は作品の狙いであるラストが欠落した不完全版。そのために説明字幕を
付している。今年の日本映画監督協会60周年の催しで上映され議論を呼んだ。
'37(日活)(監)内田吐夢(原)小津安二郎(脚)八木保太郎(撮)碧川道夫(美)堀保
治(音)山田栄一(録)平林龍雄(Western Electric Sound System)(出)小杉勇、
江川宇礼雄、轟夕起子、滝花久子、片山明彦、飛田喜佐夫、紅沢葉子、上代勇
吉、北竜二、潮万太郎、上代勇吉、村田宏寿、鈴木三右蛛A中村英雄
新しき土 [日英版]THE NEW EARTH(114分・35mm)
日本初の国際合作映画として製作されたこの超大作については、共同監督とし
て指名された伊丹万作とアーノルド・ファンクの対立が伝えられている。今回
の特集では当時連続公開されて話題を呼んだ二つの「新しき土」=ファンク版
(ドイツ語版)と伊丹版(日・英語による国際版)の双方を上映する。二つの版の
成立にあたっては、双方のスタッフが撮影したフィルムが、編集材料として互
いに共有されたと言われる。また、山田耕筰による音楽は、それぞれ新交響楽
団(ドイツ版)と中央交響楽団(日英版)によって演奏されている。(英語部分の
日本語字幕なし)
'37(ファンク映画製作所=J.O.スタヂオ=東和商事映画部)(監)アーノルド・
ファンク、伊丹万作(脚)アーノルド・ファンク(撮)リヒアルト・アングスト
(美)吉田謙吉(音)山田耕筰(録)中大路□二(R.C.A. HIGH FIDELITY)(出)早川雪
洲、小杉勇、原節子、市川春代、ルート・エヴェラー、高木永二、英百合子、
中村吉治、村田かな江、常盤操子
新しき土[ドイツ版] Die neue Erde(127分・35mm)
山岳映画の巨匠、アーノルド・ファンクとリヒアルト・アングストによってフィ
ルムに収められた、噴煙けむる焼岳や浅間山、そして原節子。当時の夥しい批
評には日本文化の皮相な解釈や国策的な意図に対する批判とともに、曖昧さを
排した再構成の力強さへの評価が混在して興味深い。(ドイツ語部分の字幕な
し)
'37(ファンク映画製作所=J.O.スタヂオ=東和商事映画部)(監)アーノルド・
ファンク、伊丹万作(脚)アーノルド・ファンク(撮)リヒアルト・アングスト
(美)吉田謙吉(音)山田耕筰(録)中大路□二(出)早川雪洲、小杉勇、原節子、市
川春代、ルート・エヴェラー、高木永二、英百合子、中村吉治、村田かな江、
常盤操子
田園交響楽(75分・35mm)
北海道の寒村の小学校長が、孤独な盲目の娘を引き取る。「田園交響楽」を耳
にした彼女は視力の回復に希望を抱くようになるが...。アンドレ・ジイドの
同名小説の翻案映画化で、脚色には劇作家の田中千禾夫が当った。戦後に社会
派映画の監督として活躍する山本薩夫の新人時代の野心作という点で興味深い。
盲目のヒロインを原節子が演じている。
'38(東宝映画)(監)山本薩夫(脚)田中千禾夫(撮)宮島義勇(美)戸塚正夫(音)服
部正(録)安恵重遠(出)高田稔、原節子、佐山亮、清川玉枝、富士山君子、御橋
公
寶の山に入る退屈男(65分・35mm)
'30年代に入ると時代劇スターたちの小プロダクションは次々と解散、トーキー
への移行を余儀なくされるが、市川右太衛門は比較的早い時期にトーキー役者
として成功した。これは当たり役、旗本退屈男もの。
'38(新興キネマ)(監)西原孝(原)佐々木味津三(脚)原健一郎(撮)佐野治夫(音)
深井史郎(出)市川右太衛門、高山廣子、原聖四郎、水野浩、甲斐世津子、国友
和歌子、松本田三郎、原聖四郎、光岡龍三郎
鞍馬天狗 江戸日記(63分・35mm)
サイレント映画の終焉に伴い独立プロを解散、日活に入社した嵐寛壽郎の鞍馬
天狗は、以後トーキー作品としてリメイクされていく。この作品も'35年にサ
ウンド版として製作された寛壽郎プロ作品の再映画化である。なお、本篇は
「鞍馬天狗 復讐篇」の前篇に当たる。
'39(日活)(監)松田定次(原)大佛次郎(脚)比佐芳武(撮)吉見滋男(音)高橋半(録)
海原幸夫、渡部芳夫(出)嵐寛壽郎、河部五郎、原健作、香川良介、瀬川路三郎、
尾上菊太郎、志村喬、遠山満、團徳麿
路傍の石(130分・16mm)
田坂具隆にとって「真実一路」に続く山本有三の原作。'30年代後半に勃興し
た文芸映画の典型と言える。所長・根岸寛一のもと、このジャンルで野心的な
企画を次々と発表、映画論壇の関心を独占した日活多摩川撮影所の数少ない現
存作品。
'38(日活)(監)田坂具隆(原)山本有三(脚)荒牧芳郎(撮)伊佐山三郎、碧川道夫、
永塚一栄(美)松山崇(音)中川栄三(録)平林龍雄、米津次男(出)小杉勇、片山明
彦、山本礼三郎、瀧花久子、井染四郎、江川宇礼雄、吉田一子、沢村貞子、吉
井莞象
黒い太陽(19分・16mm)
昭和11年6月19日の北海道皆既日食を克明に捉えた文化映画。溝口健二「瀧の
白糸」や伊丹万作「忠次売出す」の撮影者として知られる三木茂はこの作品よ
り劇映画を離れ、「上海」や「戦ふ兵隊」を撮影、空前の記録映画ブームのな
かで新境地を開いてゆく。
'36(朝日新聞社)(撮)編三木茂、林田重雄(録)写真化学研究所
愛より愛へ(57分・35mm)
酒場の女と、彼女との結婚を反対されて同棲に踏み切る作家志望の青年。二人
に対する偏見が解かれるまでを描いたオリジナル・シナリオは、助監督だった
大庭秀雄によるものであり、工夫を凝らした台詞で評価された。
'38(松竹)(監)島津保次郎(脚)大庭秀雄(撮)生方敏夫(美)金須孝(音)早乙女光
(録)土橋武夫、大村三郎(出)佐野周二、高杉早苗、高峰三枝子、水島亮太郎、
河村黎吉、坂本武、葛城文子、野寺正一、高松栄子、小林十九二
阿部一族(106分・35mm)
「蒼氓」で内田吐夢、田坂具隆とともに日活多摩川の一角を担った熊谷久虎の
東宝入社第1作。森鴎外の歴史小説を原作に、前進座との提携によるリベラル
な時代劇を目指すとともに、緻密な時代考証を導入した作品となった。
'38(東宝映画=前進座)(監)(脚)熊谷久虎(原)森鴎外(脚)安達伸男(撮)鈴木博
(美)北猛夫(音)深井史郎(録)安恵重遠(出)河原崎長十郎、中村翫右衛門、山岸
しづ江、市川笑太郎、橘小三郎、山崎進蔵[河野秋武]、市川莚司[加東大介]、
市川扇升、嵐芳三郎、河原崎國太郎
その前夜(86分・35mm)
幕末の京都でおこった、いわゆる新選組の池田屋襲撃事件(1864年)を、近所の
旅館大原屋の視点で描いた作品。この事件は京の風物詩、祇園祭の時期と重なっ
たために、度々劇化されているが、本作は前年、日中戦争で戦病死した山中貞
雄の原案「木屋町三條」を、梶原金八=鳴滝組が脚色したもの。
'39(東宝映画=前進座)(監)萩原遼(原)山中貞雄(脚)梶原金八(撮)河崎喜久三
(音)太田忠(出)河原崎長十郎、中村翫右衛門、千葉早智子、高峰秀子、清川玉
枝、山田五十鈴、助高屋助蔵、中村鶴蔵、橘小三郎、山崎進蔵[河野秋武]、
市川莚司[加東大介]、市川扇升
樋口一葉(83分・35mm)
山田五十鈴が樋口一葉に扮している。醜聞となった、師・半井桃水との恋を題
材にした大作。明治ものを得意とした久保一雄が美術を担当し、門を離れた一
葉が荒物屋を営んだ吉原遊廓界隈を大がかりに再現している。
'39(東宝映画)(監)並木鏡太郎(原)(脚)八住利雄(撮)町井春美(美)久保一雄
(音)菅原明朗(録)星栄一(出)山田五十鈴、高田稔、英百合子、水町庸子、堤真
佐子、椿澄枝、高峰秀子、沢村貞子、大川平八郎、北沢彪、佐山亮、瑳峨善兵
南風(72分・35mm)
林芙美子原作。田舎から恋人を追って東京へ出てきた一途な女、菊子=田中絹
代の愛の遍歴を描く。後年の渋谷実には物語の「定型」を嫌悪しているような
苦い視点が感じられるのだが、この作品にもその萌芽を認めることがでる。
'39(松竹)(監)渋谷実(原)林芙美子(脚)伏見晁(撮)杉本正二郎(美)江坂実(音)
早乙女光(録)大村三郎(土橋式松竹フォーン)(出)田中絹代、徳大寺伸、佐分利
信、河村黎吉、笠智衆、氷川澪子、水戸光子、葛城文子、岡村文子、若水絹子、
松井潤子、二葉かほる、近衛敏明、高松栄子
地平線(72分・35mm)
原作(大宅壮一)は人類学者、鳥居龍蔵をモデルにした作品といわれている。実
際に蒙古にロケーションした映像には迫力がある。弱小であった大都映画の大
作だが、脚本が左翼演劇で知られる村山知義など異色作でもある。
'39(大都映画)(監)吉村操、白井戦太郎、(原)大宅壮一(脚)村山知義(撮)永貞
二郎、松井鴻(美)峰八十八(音)杉田良造(出)藤間林太郎、大河百々代、水島道
太郎、近衛十四郎、久松玉城、葵沙起子、相澤喜代子、横山文彦、桂木輝夫、
伊達正
出世太閤記(97分・35mm)
稲垣浩が山上伊太郎の脚本、宮川一夫のカメラを得て堂々と演出した、木下藤
吉郎出世物語。嵐寛寿郎は無名時代から、出世の端緒をつかむ青年時代までを
演じている。この頃、すでに時代は覇者を描こうとし始めていた。
'38(日活)(監)稲垣浩(原)(脚)山上伊太郎(撮)宮川一夫(美)角井平吉(音)西梧
郎(録)中村敏夫(出)嵐寛壽郎、河部五郎、原健作、月形龍之介、尾上菊太郎、
市川春代、吉田一子、東明二郎
右門捕物帖 拾萬兩秘聞(75分・35mm)
嵐寛寿郎の十八番、むっつり右門こと近藤右門の活躍を描く娯楽篇。盗まれた
拾萬両の黄金を巡って、ライバルあば敬=志村喬は必死の捜索。一方、右門は
私邸に籠もり沈思黙考。苛々するのは、子分の伝六だが…。
'39(日活)(監)荒井良平(原)佐々木味津三(脚)脇阪保二郎(撮)吉見滋男(音)白
木義信(録)石原貞光(出)嵐寛壽郎、田村邦男、志村喬、深水藤子、原健作、澤
田清、香川良介、原駒子
暖流(132分・35mm)
斬新な演出で大船メロドラマを刷新、新人・吉村公三郎の名を一躍高めるとと
もに、国策映画の製作を迫られつつあった松竹の記念碑的作品となった。国際
文化振興会が海外向けに作製した、現行の短縮版より若干長いプリントを上映
する。
'39(松竹)(監)吉村公三郎(原)岸田国士(脚)池田忠雄(撮)生方敏夫(美)金須孝
(音)早乙女光(録)妹尾芳三郎(出)佐分利信、水戸光子、高峰三枝子、槇芙佐子、
徳大寺伸、藤野秀夫、葛城文子、斎藤達雄、槙芙佐子