東京国立近代美術館 フィルムセンター

大ホール上映作品
特別追悼特集

偉大なる“K”(3):木下惠介

Homage to Three Great "K"s - Part 3: Keisuke Kinoshita

上映スケジュール

 高い芸術的理想を抱いて優れた日本映画を発表し、生涯を映画に捧げた3人の巨 匠が、過去3年半の間に相次いで世を去りました。

 小林正樹、1996年10月4日逝去(80歳)。
 黒澤明、1998年9月6日逝去(88歳)。
 木下惠介、1998年12月30日逝去(86歳)。

 フィルムセンターでは、映画の産業的黄金時代を中心に日本中の人々を魅了しつづけ、海外でも“K”で始まる名監督として広く名を知られることとなったこの3人を追悼し、その作品を現存する最良のプリントででき得る限り多く連続上映することにいたしました。

 世界映画史に大書される偉大な日本映画遺産の数々をご堪能ください。

 木下惠介監督(1912年12月5日生まれ)は、1933年、松竹蒲田に入り、島津保次郎に認められて助監督となり、脚本家としても頭角をあらわす。1943年、「花咲く港」で監督デビューを果たし、同年にデビューした東宝の黒澤明のライバルと目される。戦後映画の黄金時代たる1950年代には、「二十四の瞳」「野菊の如き君なりき」「喜びも悲しみも幾歳月」といった質の高いメロドラマを大ヒットさせ、松竹を代表する国民的な監督となった。一方で、ユーモアや風刺のセンスに長けた喜劇の名手としても知られ、また、邦画初の色彩長篇映画「カルメン故郷に帰る」を監督したり、逸早くテレビに進出したりと生涯才人ぶりを発揮しつづけた。

■(監)=監督 (原)=原作・原案 (脚)=脚本・脚色・潤色 (撮)=撮影 (美)=美術 (音)=音楽 (出)=出演
■本特集には不完全なプリントが多く含まれています。
■記載した上映分数は、当日のものと多少異なることがあります。
■作品により開映時間が異なりますのでご注意ください。


K-1 8/8(火)3:00pm 9/9(土)4:00pm 10/20(金)6:30pm

花咲く港

(82分・35mm・白黒)

現像部、撮影部を経てようやく監督部に転じた木下は、優秀な助監督としての、また脚 本執筆の才能を買われ、天草と浜松に各40日ほどロケするという贅沢な製作条件で デビューした。当時評判になっていた菊田一夫の大衆演劇の映画化で、表向きには増 産を奨励する国策映画だが、善意に満ちた港町の人々が二人のペテン師を愛国心の 渦へと巻き込んでゆくさまは痛烈な風刺をはらんでいる。「姿三四郎」で同年にデビュー した黒澤明とともに、新人監督に贈られる山中貞雄賞を受賞。撮影の楠田浩之にとっ ても第1作で、以後24年に及ぶ長いコンビの幕開けとなった。

'43(松竹大船)(監)木下惠介(原)菊田一夫(脚)津路嘉郎(撮)楠田浩之(美)本木勇 (音)安倍盛(出)小澤榮太郎、上原謙、水戸光子、笠智衆、東野英治郎、坂本武、半 澤洋介、槇芙佐子、東山千榮子、村瀬幸子、河原侃二、仲英之助、大坂志郎


K-2 8/8(火)6:30pm 9/9(土)1:00pm 10/20(金)3:00pm

生きてゐる孫六

(89分・16mm・白黒)

助監督時代に多数の脚本を書き溜めた木下は、そのうちの1本「芒」を監督2作目に 選んだ。親譲りの名刀孫六の鑑定を求めて三方ヵ原の古戦場を訪れた青年(上原謙) が、やはり孫六を求めてやって来た軍医(細川俊夫)や村の旧家の跡取り息子(原保 美)と出会って巻き起こす騒動を、因襲に縛られた村の解放と増産奨励という国策的テ ーマの許す限りで軽快な喜劇に仕立てている。富士山の裾野にロケし、300頭の馬を 使った冒頭の勇壮な合戦場面は戦時下とは思えない豪華さである。

'43(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)本木勇(音)早乙女光(出)上原 謙、葛城文子、吉川満子、原保美、山鳩くるみ、細川俊夫、河村黎吉、宮子徳三郎、 河野敏子(井川邦子)、坂本武、岡村文子、前畑正美、川邊孝二、山本博一、横山 準、佐土島茂、橋本勉、鈴木清一、野戸成晃


K-3 8/9(水)3:00pm 10/21(土)4:00pm

歓呼の町

(73分・16mm・白黒)

戦時下の東京下町を舞台に、空襲の脅威に晒されながらもさまざまな事情で東京を離 れられずにいた4軒の家族が、ついに疎開を決意するまでの3日間を淡々と描く。疎開 を奨励する時局読本的な機能を期待された企画だったが、木下は家族や家に対する 愛着とその断念に的を絞った。3日間という時間、4軒の家を結ぶ路地に場面を限定 し、長回しとさりげない移動撮影で製作条件の厳しさを克服した意欲作。 *本作品は原版不良のため、お見苦しい点、お聞き苦しい点があります。あらかじめご 了承ください。

'44(松竹大船)(監)木下惠介(脚)森本薫(撮)楠田浩之(出)上原謙、東野英治郎、信 千代、小堀誠、飯田蝶子、水戸光子、勝見庸太郎、河野敏子、日守新一、岡村文 子、安部徹


K-4 8/9(水)6:30pm 9/19(火)3:00pm 10/21(土)1:00pm

陸軍

(87分・35mm・白黒)

戦争小説で名を成した火野葦平の小説を原作に、太平洋戦争3周年記念映画として 軍の要請により製作された。西南戦争以来、代々帝国陸軍に身を捧げてきた一家の 三代記だが、木下は戦場の場面をすべて削って母親(田中絹代)の役柄を大きくふく らませ、ワンシーン・ワンショットを基調として情感豊かに演出した。出征する息子を母が 延々と追い、合掌で立ちつくすまでを大移動撮影でとらえたラストシーンは圧巻で、これ を理由に木下は厭戦的として軍部に睨まれるようになる。

'44(松竹大船)(監)木下惠介(原)火野葦平(脚)池田忠雄(撮)武富善男(美)本木勇 (出)笠智衆、田中絹代、東野英治郎、上原謙、三津田健、杉村春子、星野和正、長 濱藤夫、信千代、細川俊夫、佐分利信、佐野周二、原保美


K-5 8/10(木)3:00pm 9/15(金)1:00pm 10/24(火)6:30pm

大曽根家の朝

(あした)

(81分・35mm・白黒)

トルストイの「イワンの馬鹿」を元にしたミュージカルの脚本が、GHQの検閲通過第1号 となりながら撮影に至らなかったため、木下の戦後第1作はGHQの民主化政策に則っ た反戦映画となった。小沢栄太郎扮する軍人の叔父が徹底した悪人として描かれるの は木下の本意ではなく、検閲との妥協の産物であったというが、その図式性も手伝って 初のキネマ旬報ベストワンに輝いた。

'46(松竹大船)(監)木下惠介(脚)久板栄二郎(撮)楠田浩之(美)森幹男(音)浅井擧曄 (出)杉村春子、長尾敏之助、徳大寺伸、三浦光子、大坂志郎、小澤栄太郎、東野英 治郎、賀原夏子、増田順二、藤輪欣司、西村青児、鈴木彰三、高松栄子


K-6 8/10(木)6:30pm 9/15(金)4:00pm 10/24(火)3:00pm

わが恋せし乙女

(75分・35mm・白黒)

1924年公開のアメリカ映画「我が恋せし乙女」をもとに、舞台を信州の牧場に置き換え た翻案もの。甚吾(原保美)は兄妹として育った美子(井川邦子)に恋心を覚えるように なるが、想いを打ち明けようとした矢先に恋人の存在を知ってしまう。他人の幸福を願っ て身を退く点が特攻精神に通じると、GHQの検閲で一度は却下されたが、恋人の野 田(増田順二)を傷痍軍人という設定にしてようやく許可を得た。木下の実弟・忠司は 本作で映画音楽家としてデビューし、以後、「楢山節考」以外の全木下作品を手がけ ることになるが、乗馬のシーンでは甚吾の吹き替えで出演もしている。

'46(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)小島基司(音)木下忠司(出)原保 美、井川邦子、増田順二、東山千栄子、勝見庸太郎、山路義人、大塚紀男、大塚正 義、河野正昭、小泉光弥、稲川忠一、杉山繁三、泉時彦、浜野肇、鈴木彰三


K-7 8/11(金)3:00pm 10/5(木)3:00pm 10/25(水)6:30pm

結婚

(85分・35mm・白黒)

父の失業のために家族を支えなければならず、恋人(上原謙)と結婚できない娘(田中 絹代)と、娘の幸福のために意に染まぬ水商売にも甘んじることを決意する父(東野英 治郎)。若い恋人たちに重くのしかかる敗戦後の厳しい現実を題材としてはいるが、木 下は社会問題の追及には向かわず、「愛染かつら」の絹代・上原コンビを活かして華や かなメロドラマに仕上げた。

'47(松竹大船)(監)(原)木下惠介(脚)新藤兼人(撮)楠田浩之(美)浜田辰雄(音)木下 忠司(出)田中絹代、上原謙、東野英治郎、東山千栄子、井川邦子、鈴木彰三、小沢 栄太郎、久慈行子、村瀬幸子、岸輝子


K-8 8/11(金)6:30pm 9/14(木)3:00pm 10/25(水)3:00pm

不死鳥

(82分・35mm・白黒)

亡き夫の忘れ形見とともに婚家で生きる戦争未亡人(田中絹代)が、出会いから交際、 応召、たった1週間の結婚生活、そして戦死を回想する。前作のヒットにあやかるべく相 手役に予定された上原謙がキスシーンをためらって降りたため、木下は佐田啓二を抜 擢し、以後、戦後の松竹を代表するスターに育て上げることになる。本作から「日本の 悲劇」まで、小林正樹が助監督を務めた。

'47(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(原)川頭義郎(撮)楠田浩之(美)小島基司(音)木下 忠司(出)田中絹代、佐田啓二、小杉勇、高橋豊子、山内明、河崎保、高松栄子、村 上冬樹、水上令子、浜野肇、長船フジヨ、大塚紀男、芳丘直美


K-9 8/12(土)1:00pm 9/13(水)3:00pm 10/26(木)6:30pm

(67分・35mm・白黒)

2本のメロドラマに続いて木下が手がけたのは、一転して、出演俳優二人、オール・ロケ の実験作であった。「カルメン純情す」に先駆けて、カメラを斜めに傾けた構図も頻出す る。強盗犯(小沢栄太郎)の逃避行に引きずり込まれた踊り子の女(水戸光子)が、男 の更生を願いながらも、男が火事場で盗みを働くに至ってついに見切りをつけ、一人逞 しく自立する。電力事情の悪い撮影所を離れて自由にとらえられた風景の変化が、男 と女の心理の推移をもきめ細かく描き出している。

'48(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)平高主計(音)木下忠司(出)水戸 光子、小沢栄太郎


K-10 8/12(土)4:00pm 9/13(水)6:30pm 10/26(木)3:00pm

肖像

(73分・35mm・白黒)

木下が黒澤明に脚本を依頼して実現した<永遠のライバル>の初顔合わせは、当時 大いに注目を集めた。間借人を立ち退かせようと企む不動産屋(小沢栄太郎)に連れ られ、家の2階に住み込むことになった女(井川邦子)が、善人揃いの一家に感化され て生き方を変えるという物語で、木下のデビュー作「花咲く港」にも通じるが、老画家の 人物像には画家志望だった黒澤の嗜好も窺われる。52年には再び黒澤脚本・木下演 出で「落城」が企画されたが実らず、本作が唯一のコンビ作となった。

'48(松竹大船)(監)木下惠介(脚)黒澤明(撮)楠田浩之(美)小島基司(音)木下忠司 (出)井川邦子、三宅邦子、三浦光子、菅井一郎、東山千栄子、小澤栄太郎、藤原釜 足、佐田啓二、桂木洋子、安部徹、山路義人、榊保彦、新島勉、松原万里子


K-11 8/15(火)3:00pm 10/27(金)6:30pm

破戒

(99分・35mm・白黒)

東宝で阿部豊監督が映画化する予定だったが、東宝争議のため企画ごと松竹に譲ら れ、東西の撮影所交流の第1回作品として木下が京都に出向いて撮ることになった。 木下はあえて原作を読まず、部落差別問題よりも恋人たちの苦悩の描写に重点を置 き、細やかな自然描写とともにみずみずしい青春映画に仕上げた。「肖像」の娘役で木 下がデビューさせた桂木洋子が恋人の志保を演じる。この年の3作品で、木下は毎日 映画コンクール監督賞を初受賞した。

'48(松竹京都)(監)木下惠介(原)島崎藤村(脚)久板栄二郎(撮)楠田浩之(美)本木勇 (音)木下忠司(出)池部良、桂木洋子、瀧澤修、宇野重吉、清水將夫、加藤嘉、小澤 栄太郎、東野英治郎、東山千栄子、村瀬幸子、薄田研二、菅井一郎


K-12 8/15(火)6:30pm 9/16(土)4:00pm 10/27(金)3:00pm

お嬢さん乾杯

(89分・35mm・白黒)

没落華族の令嬢・泰子(原節子)が家の窮状を救うため、町工場の経営者・圭三(佐 野周二)と見合いをし、やがて互いに惚れ合うまでを、アメリカ映画を思わせる洒脱なタ ッチで描く。バレエとボクシング、ショパンとよさこい節といったシンプルな対比による階級 格差の強調、各シーンに欠かさず付けられる落ちなどに、喜劇映画への意欲的な取り 組みが窺われる。男同士のダンス・シーンをはじめ、圭三とその弟分・五郎(佐田啓二) との間に描かれる濃厚な情愛も印象深い。

'49(松竹大船)(監)木下惠介(脚)新藤兼人(撮)楠田浩之(美)小島基司(音)木下忠司 (出)佐野周二、原節子、青山杉作、藤間房子、永田清、東山千栄子、森川まさみ、増 田順二、佐田啓二、佐藤成子、坂本武、村瀬幸子、楠田薫、町田旬子


K-13 8/16(水)3:00pm 9/12(火)6:30pm 11/2(木)6:30pm

新釋四谷怪談 前後篇

(158分・35mm・白黒)

再三映画化されてきたこの物語を、木下は各人の激しすぎる情念が不可避的に巻き 起こす悲劇とみなした。お岩の亡霊は、良心の呵責に苛まれた伊右ヱ門が見る幻覚と 解釈されている。失業による困窮の最中に悪党の直助に唆され、妻を殺してしまう伊右 ヱ門の優柔不断な心情は、俯瞰を多用した複雑なカメラワークで表現される。冒頭に は、お岩に惚れ抜いて金を使い込んで投獄された小平が牢破りをするという、原作には ない場面が加えられている。

'49(松竹京都)(監)木下惠介(原)鶴屋南北(脚)久板栄二郎(撮)楠田浩之(美)本木勇 (音)木下忠司(出)田中絹代、上原謙、山根寿子、杉村春子、飯田蝶子、滝沢修、宇 野重吉、佐田啓二、玉島愛造、三津田健、山路義人、加東大介、加藤貫一、林喜美 枝、宮島安藝男、大川温子、大東専太郎、静山繁男


K-14 8/16(水)6:30pm 9/16(土)1:00pm 10/31(火)3:00pm

破れ太鼓

(108分・16mm・白黒)

GHQが立廻りを禁止したため活躍の場を失っていた時代劇の重鎮・阪妻を、木下は 「破れ太鼓」とあだ名される昔気質の父親に起用し、大時代な身振りもろとも喜劇のうち に活かした。息子の田村高廣は「家にいる時の親父そのままだ、監督はどうして知った のだろう」と感嘆したという。表向きのテーマは家庭の民主化だが、長男、長女、妻に家 出され、会社まで潰した失意の父をねぎらう次男(木下忠司)をはじめ、家族はみな温 かい優しさに溢れている。

'49(松竹京都)(監)(脚)木下惠介(脚)小林正樹(撮)楠田浩之(美)小島基司(音)木下 忠司(出)阪東妻三郎、村瀬幸子、森雅之、木下忠司、大泉滉、小林トシ子、桂木洋 子、大塚正義、澤村貞子、宇野重吉、滝澤修、東山千栄子、小澤栄、永田光男、青 山宏、山崎敏夫、村上記代、桑原澄江、賀原夏子、中田耕二、大川温子、向井弘 子、玉島愛造


K-15 8/17(木)3:00pm 9/19(火)6:30pm 11/3(金)4:00pm

婚約指環

(エンゲージ・リング)

(97分・16mm・白黒)

病弱な夫(宇野重吉)をもつ人妻が若い医師(三船敏郎)に惹かれ、逢瀬を重ねるう ち、夫に贈られた婚約指環を付け忘れるようになる。結局は妻が夫のもとに戻る<よろ めきドラマ>のはしりというべき内容で、三島由紀夫が賞讃したことで知られる。俳優とし て戦後初めて海外(アメリカ)に渡った田中絹代の帰国第1作で、田中絹代プロの旗 上げ作品。三船敏郎が出演した唯一の木下作品でもある。本作から松山善三が助監 督についている。

'50(松竹大船=田中絹代プロ)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)森幹男(音)木下 忠司(出)宇野重吉、田中絹代、三船敏郎、薄田研二、吉川満子、増田順二、高松栄 子、音羽久子


K-16 8/17(木)6:30pm 9/20(水)3:00pm 11/3(金)1:00pm

善魔

(108分・35mm・白黒)

離婚問題に悩む官僚の妻(淡島千景)と病身のその妹(桂木洋子)に、新聞社の部長 (森雅之)と記者(三国連太郎)がそれぞれ想いを寄せる。世代の違う二組の恋は、一 方は男の愛人(小林トシ子)への同情から断念され、他方は死体との結婚という形で成 就する。魔的なまでのエネルギーをもつ善人、魔性の善を意味する「善魔」という観念 を、映画初出演の三国連太郎が体現し、以後も本作の役名を芸名とすることになっ た。

'51(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(原)岸田國士(脚)野田高梧(撮)楠田浩之(美)浜田 辰雄(音)木下忠司(出)森雅之、淡島千景、三国連太郎、桂木洋子、笠智衆、千田是 也、小林トシ子、楠田薫、竜岡晋、宮口精二、北龍二、長尾敏之助、前畑正美


K-17 8/18(金)3:00pm 9/20(水)6:30pm 10/28(土)4:00pm

カルメン故郷に帰る

(86分・35mm・カラー)

フジカラーによる国産オール・カラー長篇劇映画第1号で、日本映画監督協会による 企画に木下が抜擢された。一流の芸術家になったつもりで信州に里帰りする気のいい ストリッパー、リリー・カルメン(高峰秀子)のキャラクターは、十分な光量を得るために不 可欠だった晴天下のオール・ロケ、カラーを活かした派手な衣裳など、複雑な要請を同 時に満たす絶妙の設定であった。歌あり踊りありで賑やかな中にも、小学校でオルガン を弾く盲目の作曲家(佐野周二)が深い印象を残す。

'51(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)小島基司、平高主計(音)木下忠 司、黛敏郎(出)高峰秀子、佐野周二、笠智衆、井川邦子、坂本武、見明凡太郎、小 林トシ子、三井弘次、望月美惠子(優子)、山路義人、磯野秋雄、桑原澄江


K-18 8/18(金)6:30pm 9/21(木)3:00pm 10/28(土)1:00pm

少年期

(110分・35mm・白黒)

心理学者の母とその息子との往復書簡によるベストセラーを原作とし、東京から信州に 疎開した知識人一家を描く。純粋さゆえの愛国心、戦争反対者と蔑まれながら黙々と 読書に打ち込む父への不信、一人で一家を支える母へのいたわり、さまざまな思いの 間で揺れ動く少年の心情を、一般公募で選ばれた石浜朗が繊細に演じた。少年が目 に涙を湛えて兵隊の静かな行進を見守る場面の長廻しは圧巻。

'51(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(原)波多野勤子(脚)田中澄江(撮)楠田浩之(美)濱 田辰雄、梅田千代夫(音)木下忠司(出)田村秋子、石濱朗、笠智衆、三國連太郎、小 林トシ子、櫻むつ子、坂本武、北龍二、増田順二、三好榮子、高松榮子、木下忍


K-19 8/19(土)1:00pm 9/21(木)6:30pm 11/1(水)3:00pm

海の花火

(122分・16mm・白黒)

実弟・忠司の陸軍船舶兵時代の経験をもとにした海洋ドラマで、木下作品には珍しい 波乱万丈の筋立てである。呼子港の遠洋漁業組合長(笠智衆)が、悪徳船長の横流 し、大漁による市価の暴落、減船令など、次々にふりかかる困難に立ち向かう。彼の二 人の娘(木暮実千代、桂木洋子)には、新たに着任した若き船長(三国連太郎)とその 弟(向坂渡)、友人(三木隆)らが純粋な想いを寄せる??。組合長が陳情のために上京 するくだりは、舞台が九州だけでは客が来ないという会社の要請に応えて加えられたと いう。

'51(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)濱田辰雄(音)木下忠司(出)木暮 実千代、山田五十鈴、津島恵子、桂木洋子、小林トシ子、三国連太郎、三木隆、笠 智衆、岸輝子、向坂渡


K-20 8/19(土)4:00pm 9/22(金)3:00pm 10/31(火)6:30pm

カルメン純情す

(103分・35mm・白黒)

パリ遊学で政治的関心を深めた木下の帰国後第1作は、若原雅夫扮する<パリ帰り のエセ前衛画家>にカルメン(高峰秀子)が惚れるという風刺喜劇となった。再軍備の 風潮に乗じて代議士に立候補する極右の元将軍未亡人や、金目当てでその娘と結婚 しようとする画家に翻弄されながらも、やはり無垢さを失わないカルメンが深い愛情をも って描かれる。全ショットでカメラを傾けるという前衛的な手法で挑んだ野心作である。

'52(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)浜田辰雄(音)黛敏郎、木下忠司 (出)高峰秀子、若原雅夫、淡島千景、小林トシ子、三好榮子、東山千榮子、村瀬幸 子、坂本武、日守新一、斎藤達雄、堺駿二、望月優子、多々良純、増田順二、須賀 不二夫、高松榮子、北原三枝、高瀬乘二、竹田法一


K-21 8/22(火)3:00pm 9/23(土)1:00pm 11/1(水)6:30pm

日本の悲劇

(116分・35mm・白黒)

東宝の小田基義監督のために書き始めた脚本を、自ら監督することになったもので、 木下自身は最高作と自負している。苦労に苦労を重ねた戦争未亡人が土地を騙し奪 られ、わが子にも疎まれ自殺するという悲劇を、ニュース映画の挿入と粗い画調で映像 化し、敗戦国の悲惨を冷徹にえぐる。「一生かかったってあれ以上のものは作れっこな い」と若き篠田正浩を打ちのめした一方で、小津安二郎が「粗雑にしてすの入りたる大 根を噛むに似たり」と日記に記しているのも興味深い。

'53(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)中村公彦(音)木下忠司(出) 望月 優子、佐田啓二、高橋貞二、桂木洋子、上原謙、淡路惠子、高杉早苗、日守新一、 須賀不二夫、田浦正巳、多々良純、柳永二郎、北林谷榮、小林十九二


K-22 8/22(火)6:30pm 10/4(水)3:00pm 11/9(木)6:30pm

女の園

(141分・35mm・白黒)

封建的な全寮制の女子大学で自由を求めて立ち上がる少女たちの揺れ動く心を、移 動を多用した撮影で丹念に追う。高まりつつある学生運動を鋭く予兆し、学生闘士だ った大島渚らを感動させた。学校側の切り崩し工作で自殺に追い込まれる気弱な女学 生(高峰秀子)の恋人役で田村高廣がデビュー。氷のような寮母(高峰三枝子)にも、 彼女を絶望させた過去の出来事を告白させるなど、多面的な人物描写が施されてい る。

'54(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(原)阿部知二(撮)楠田浩之(美)中村公彦(音)木下 忠司(出)高峰三枝子、高峰秀子、岸恵子、久我美子、田村高廣、田浦正巳、三木 隆、井川邦子、望月優子、東山千榮子、毛利菊枝、浪花千榮子、金子信雄


K-23 8/23(水)3:00pm 9/22(金)6:30pm 11/7(火)6:30pm

二十四の瞳

(155分・35mm・白黒)

キネマ旬報ベストワン(2位は「女の園」)ほか国内30以上の賞を受けた<国民的映画 >。泣きミソ先生(高峰秀子)と子供たちの温かい交流とともに、戦争の悲惨さを叙情 的にあぶり出している。小豆島の美しい自然をロングショットでとらえつつ、人物の出入 りを画面の左右に限定し、演技はあえて平板に抑えるといった意識的な演出は、滞仏 中に見たジャン・ルノワールの「河」を手本にしたという。

'54(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(原)壷井栄(撮)楠田浩之(美)中村公彦(音)木下忠 司(出)高峰秀子、月丘夢路、小林トシ子、井川邦子、田村高廣、笠智衆、夏川静江、 浦辺粂子、清川虹子、浪花千栄子、明石潮、天本英世、高原駿雄、南眞由美


K-24 8/23(水)6:30pm 10/3(火)3:00pm 11/4(土)1:00pm

遠い雲

(99分・16mm・白黒)

若くして未亡人になった大店の嫁(高峰秀子)と、かつての恋人(田村高廣)が、亡き夫 の墓前で再会し、近所の中傷に晒されながらもそれぞれの姉や兄の援護を受けて愛を 再燃させる。飛騨高山の落ち着いたたたずまいを背景に、駅のホームにまで行きながら 娘と義弟(佐田啓二)のために引き返す女の選択を、身分違いの恋を駆け落ちで克服 する若い二人と対比させて描く。

'55(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(脚)松山善三(撮)楠田浩之(美)平高主計(音)木下 忠司(出)高峰秀子、佐田啓二、高橋貞二、田村高廣、石濱朗、田浦正巳、桂木洋 子、小林トシ子、井川邦子、中川弘子、柳永二郎、坂本武、夏川静江、明石潮


K-25 8/24(木)3:00pm 10/3(火)6:30pm 11/4(土)4:00pm

野菊の如き君なりき

(92分・35mm・白黒)

泣きながら書き、演出したという木下入魂の一本。数十年ぶりに故郷を訪れた老人が、 若くして死んだ恋人を回想する形式をとり、回想シーンは古い写真のように楕円形のマ スクで囲まれる。封建的な世界にじっと耐える人々を優しく見つめる詠嘆的な作風を確 立するとともに、原作の千葉を信州に移し変えたことで、木下映画に頻出する信州の 自然描写の集大成的な作品ともなった。主演の二人にも自然の中に溶け込むような素 朴な演出がなされており、とりわけ新人の有田紀子は木下映画の女性像を代表する存 在と言える。

'55(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(原)伊藤左千夫(撮)楠田浩之(美)伊藤憙朔(音)木 下忠司(出)有田紀子、田中晋二、笠智衆、田村高廣、小林トシ子、杉村春子、雪代 敬子、山本和子、浦邊粂子、松本克平、本橋和子、高木信夫、渡邊鐵弥


K-26 8/24(木)6:30pm 9/23(土)4:00pm 11/7(火)3:00pm

夕やけ雲

(77分・16mm・白黒)

洋一(田中晋二)は船乗りに憧れているが、断念して家業の魚屋を継いだ。貧乏を憎 む姉(久我美子)は勝手に金持ちの老人の後妻になる、ほのかに恋した少女は嫁に行 く、姉の奔放に怒った父(東野英治郎)は発作を起こして死んでしまう──、こうした過 去が、いまや魚屋として生き生きと働く洋一のほろ苦い回想として語られる。実妹にして カメラマン楠田浩之の妻、楠田芳子の脚本を木下が映画化した唯一の作品。本作より 「今年の恋」まで吉田喜重が助監督を務めている。

'56(松竹大船)(監)木下惠介(脚)楠田芳子(撮)楠田浩之(美)平高主計(音)木下忠司 (出)田中晋二、望月優子、田村高廣、久我美子、山田五十鈴、東野英治郎、日守新 一、中村伸郎、有田紀子、岸輝子、菊沖典子、野邊かほる、大野良平


K-27 8/25(金)3:00pm 10/4(水)6:30pm 11/9(木)3:00pm

太陽とバラ

(85分・35mm・白黒)

貧しいが根は純粋な清(中村賀津雄)が、金持ちの息子・正比呂(石浜朗)に感化され て非行に走り、母親をはじめとする周囲の真摯な説得によっても立ち直れずに、正比 呂を殺して自殺するところまで追い込まれる??。石原慎太郎の小説に端を発する一連 の「太陽族映画」の流行に対する木下流の回答であり、金持ちにとっては若い一時期 の遊びに過ぎない非行が、貧乏人には破滅をもたらすことを訴える。久我美子がブルジ ョワ家庭の姉を演じ、頽廃の空気を漂わせる。

'56(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)梅田千代夫(音)木下忠司(出)石 浜朗、中村賀津雄、沢村貞子、久我美子、有田紀子、杉田弘子、田中晋二、三宅邦 子、北竜二、竜岡晋、須賀不二夫、櫻むつ子、吉川満子、磯野秋雄、田村保、野辺 かほる、奈良眞養、小林十九二、春日千里、諸角啓二郎、水木涼子、渡辺鉄弥、佐 藤芳秀、中山淳二、松島恭子、谷よしの、千羽鶴子、寺岡孝二、前畑正美、佐々木 恒子、土田桂司、三村邦彦、川口のぶ


K-28 8/25(金)6:30pm 9/14(木)6:30pm 11/14(火)3:00pm

喜びも悲しみも幾歳月

(162分・35mm・カラー)

戦争や息子の死といった苦難を乗り越え、身を寄せ合って生きるつつましい灯台守夫 妻の半生を、北は北海道納沙布岬から南は長崎県の女島まで、全国15箇所の灯台 にロケして描く。実験作「楢山節考」の企画を通す交換条件に製作された興行重視の 作品で、ロケ地とのタイアップで観客を動員。木下忠司作曲による主題歌の流行も手 伝って期待に違わぬ大ヒットを記録した。

'57(松竹大船)(監)(原)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)伊藤憙朔、梅田千代夫(音) 木下忠司(出)高峰秀子、佐田啓二、田村高広、中村賀津雄、桂木洋子、三井弘次、 井川邦子、夏川靜江、有沢正子、伊藤弘子、仲谷昇、北龍二、三木隆


K-29 8/26(土)1:00pm 10/5(木)6:30pm 11/8(水)3:00pm

風前の灯

(79分・16mm・白黒)

狭苦しい一軒の家を舞台に、婆さん(田村秋子)がため込んでいる金を狙って代わる代 わる出入りする家族と、強盗に入ろうとしてなかなか入れない不良たちが繰り広げる皮 肉なコメディ。高峰秀子と佐田啓二が、これまでの木下作品でのキャラクターとはうって 変わってケチで強欲な夫婦を演じる。彼らがいがみ合う最中に「喜びも悲しみも幾歳 月」の主題歌が流れてくるなど、セルフ・パロディも存分に盛り込まれている。

'57(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)梅田千代夫(音)木下忠司(出)高 峰秀子、佐田啓二、田村秋子、南原伸二、小林トシ子、田中晋二、伊藤弘子、有沢 正子、小瀬朗、小野良、サトウ・サブロー、佐藤芳秀、佐田彰二、里見孝二


K-30 8/26(土)4:00pm 10/6(金)3:00pm 11/8(水)6:30pm

楢山節考

(98分・35mm・カラー)

深沢七郎のベストセラー小説を原作とし、陰惨な姥捨て伝説を人工的な様式美で描く 異色作。黒子や引き幕など歌舞伎的な意匠を用い、赤や青の照明やカラーフィルター で現実離れした色彩を作り出している。信州の山や森も、ラスト以外はすべてセットで作 られた。3度目のキネマ旬報ベストワンに輝き、興行的にも成功したが、出品したヴェネ チア映画祭では稲垣浩の「無法松の一生」(58)に金獅子賞をさらわれた。

'58(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(原)深澤七郎(撮)楠田浩之(美)伊藤憙朔、梅田千 代夫(音)杵屋六左衛門(長唄作曲)、野澤松之輔(浄瑠璃作曲)(出)田中絹代、高橋 貞二、望月優子、市川団子、宮口精二、伊藤雄之助、東野英治郎、三津田健、小笠 原慶子、織田政雄、西村晃、鬼笑介、高木信夫


K-31 8/29(火)3:00pm 10/6(金)6:30pm 11/2(木)3:00pm

この天の虹

(106分・35mm・カラー)

八幡製鉄所とその社員住宅を舞台に、構内鉄道のポイント作業員(川津祐介)、溶鉱 炉工場の世話役(高橋貞二)、帯鋼(ストリップ)工場の作業員(大木実)など、さまざま な職種に従事する青年たちの仕事と恋愛が描かれる。木下は巨大企業を疑似家族と みなし、得意のホームドラマの一変種として個人と企業の関係を描こうとしたが、「一寸 見当が違って戸惑い、暫く本を書き出せなかった」と述懐している。タイトルの「虹」は、 高度成長期到来の予感の中で青年たちが希望の象徴として仰ぎ見る製鉄所の煙突 の煙のこと。

'58(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)梅田千代夫(音)木下忠司(出)高 橋貞二、久我美子、田村高広、大木実、田中絹代、笠智衆、小坂一也、高千穂ひづ る、川津祐介、小林トシ子、伊藤弘子、須賀不二夫、井川邦子、織田政雄


K-32 8/29(火)6:30pm 10/7(土)4:00pm 11/10(金)3:00pm

風花

(78分・35mm・カラー)

心中でひとり生き残った身重の女(岸恵子)が、世間体を重んじる男の家に身を寄せ、 捨雄と名付けられた息子(川津祐介)とともに虐げられて生きる。優しい従姉・さくら(久 我美子)への恋慕を断ち切る捨雄とともに、母もまた家を出る決心をする??。木下初の 正月映画で、結婚して渡仏した岸恵子の里帰り中に撮影された。さくらの少女時代を デビュー間もない和泉雅子が初々しく演じる。複雑な時間構成が、溶暗などを極力排 したカット繋ぎで巧みに処理されている。

'59(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)梅田千代夫(音)木下忠司(出)岸 恵子、有馬稲子、久我美子、川津祐介、東山千栄子、永田清、笠智衆、井川邦子、 細川俊夫、花柳秀、和泉雅子、平国佳代子、川頭顕一郎、竹野忍


K-33 8/30(水)3:00pm 10/7(土)1:00pm 11/10(金)6:30pm

惜春鳥

(102分・35mm・カラー)

高校時代に友情を誓い合った5人の青年たちが早春の会津に再会する。大学に行く ため上京しながら詐欺師にまで身を落とす岩垣(川津祐介)、何があっても岩垣を庇い 続ける馬杉(山本豊三)、貧困から脱するためには友人(津川雅彦)の恋人(十朱幸 代)との養子縁組も辞さない手代木(石浜朗)??。互いの気持ちの食い違いに動揺しな がらも、再びわかり合うすべを模索する男同士の情愛を、木下が初めて正面から扱っ た。

'59(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)梅田千代夫(音)木下忠司(出)佐 田啓二、有馬稲子、津川雅彦、石浜朗、山本豊三、小坂一也、川津祐介、十朱幸 代、清川虹子、桜むつ子、藤間紫、宮口精二、岸輝子、笠智衆、伴淳三郎


K-34 8/30(水)6:30pm 10/10(火)3:00pm 11/11(土)4:00pm

今日もまたかくてありなん

(74分・35mm・カラー)

島崎藤村の詩から採られたタイトルのように、十年一日の如き日々を送る佐藤夫妻(高 橋貞二、久我美子)は、夏の間、マイホームを借金返済のため貸すことにし、物語はほ ぼ妻の実家の軽井沢で展開する。歌舞伎俳優の中村勘三郎が木下作品への出演を 望んだことから実現した企画で、勘三郎は庶民の暮らしを妨害するやくざと刺し違える 初老の元軍人を凄絶に演じている。

'59(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)梅田千代夫(音)木下忠司(出)高 橋貞二、久我美子、中村勘三郎、中村勘九郎、田村高広、小坂一也、三井弘次、佐 野周二、三国連太郎、杉田弘子、小林トシ子、桜むつ子、藤間紫、夏川静江


K-35 8/31(木)3:00pm 10/10(火)6:30pm 11/11(土)1:00pm

春の夢

(103分・35mm・カラー)

製薬会社の社長宅で、焼芋屋の老人(笠智衆)が脳溢血で倒れることから始まるコメデ ィ。秘書(久我美子)と医師(佐野周二)の間に恋が芽生え、次女(岡田茉莉子)は貧 乏画家(森美樹)を追って家を飛び出し、祖母(東山千栄子)は焼芋屋が初恋の人で あったことに気付いて静かに息を引き取る。「春の夢」らしくフィルターでピンクの色彩を 施し、あえて人工的な画面を狙った華やかな正月映画だが、安保闘争への目配りとし てデモ隊と警官の乱闘シーンが挿入されてもいる。

'60(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)梅田千代夫(音)木下忠司(出)岡 田茉莉子、久我美子、佐野周二、笠智衆、小沢栄太郎、荒木道子、丹阿弥谷津子、 東山千栄子、山本豊三、川津祐介、十朱幸代、森美樹、小坂一也


K-36 8/31(木)6:30pm 10/11(水)3:00pm 11/18(土)1:00pm

笛吹川

(117分・35mm・カラー)

戦国時代、笛吹橋のたもとに住み、武田家と運命を共にする貧しい農民一家の視点 から川中島合戦を描く。忠義の美名と出世欲に目が眩んで死地に赴く息子たちを引き 戻そうと、その名を呼び続ける母(高峰秀子)の姿は、「陸軍」の再現とも言える。木下 によれば「人間の闘争本能とそれを越える生命力の永遠性」がテーマだが、戦争を徹 底的につまらないものとして描いた点でも出色。モノクロで撮影したフィルムに部分的に 彩色し、カラー・フィルムに焼き付けるという手法を用いている。

'60(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(原)深沢七郎(撮)楠田浩之(美)伊藤憙朔、江崎孝 坪(音)木下忠司(出)高峰秀子、田村高広、市川染五郎、岩下志麻、川津祐介、田中 晋二、中村萬之助、渡辺文雄、加藤嘉、井川邦子、安部徹、小林トシ子、織田政雄、 山岡久乃、市原悦子、伊藤弘子、矢吹寿子、浜田寅彦、原泉、小笠原幸二郎、小島 謙太郎


K-37 9/1(金)3:00pm 10/11(水)6:30pm 11/18(土)4:00pm

永遠の人

(103分・35mm・白黒)

さだ子(高峰秀子)は自分を無理矢理自由にして恋人・隆(佐田啓二)との仲を裂いた 平兵衛(仲代達矢)を生涯かけて恨み抜くため、その妻となり、夫の弱りゆくさまを冷淡 に凝視する。強姦の際にできた長男が阿蘇の火口に身を投げても、さほど心を動かす 様子もない。長女と隆の息子が駆け落ちし、隆が平兵衛に謝罪しながら死んでゆくこと で、30年越しの和解がようやく訪れる。足の不自由な平兵衛のキャラクターは、「わが恋 せし乙女」の野田や「惜春鳥」の馬杉の系譜に連なるものだろう。米アカデミー外国語 映画賞ノミネート。

'61(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)梅田千代夫(音)木下忠司(出)高 峰秀子、佐田啓二、仲代達矢、乙羽信子、石浜朗、東野英治郎、藤由紀子、野々村 潔、加藤嘉


K-38 9/1(金)6:30pm 10/12(木)3:00pm 11/15(水)3:00pm

今年の恋

(82分・35mm・白黒)

高校生の一郎(石川竜二)と光(田村正和)は仲良しだが、成績がよくない。銀座の料 理屋の看板娘(岡田茉莉子)と大会社の専務の息子(吉田輝雄)は、それぞれの弟の 出来の悪さを悪友のせいと考え、互いに敵意を持っていた??。意地を張り合ってなかな か素直になれない二人がついに結ばれるという、正月映画らしいロマンティック・コメデ ィ。木下作品には珍しく、芸達者な喜劇人が多数出演して華を添えている。

'62(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之、成島東一郎(美)梅田千代夫(音)木 下忠司(出)岡田茉莉子、吉田輝雄、田村正和、石川竜二、峯京子、三木のり平、東 山千栄子、浪花千栄子、三遊亭円遊、野々村潔、若水ヤエ子、菅原通済


K-39 9/2(土)1:00pm 10/13(金)3:00pm 11/15(水)6:30pm

二人で歩いた幾春秋

(102分・35mm・白黒)

田舎の砂利道を整える作業員の義男(佐田啓二)と、土木出張所の雑用をして家計を 支える妻のとら江(高峰秀子)は、貧しい生活を極限まで切り詰めて、一人息子(山本 豊三)を大学にまでやる。手に手を携えて苦しい生活を懸命に生き抜く夫婦の年代記 としては、すでに「喜びも悲しみも幾歳月」があるが、本作は原作の短歌集「道路工夫 の歌」からの引用を随所に散りばめ、より哀感を高めている。

'62(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(原)河野道工(撮)楠田浩之(美)浦山芳郎(音)木下 忠司(出)高峰秀子、佐田啓二、久我美子、倍賞千恵子、山本豊三、野々村潔、菅井 きん、小川虎之助、岸輝子、浜田寅彦、三崎千恵子、左右田一平、河野秋武


K-40 9/2(土)4:00pm 10/13(金)6:30pm 11/16(木)3:00pm

歌え若人達

(86分・35mm・カラー)

現役の慶応大生、松川勉を主演に抜擢し、大学の寮に暮らす4人の青年たちの青春 を綴る。豊富な仕送りで学生生活を謳歌する金持ちの息子・宮本(川津祐介)と、アル バイトに疲れ果てた苦学生・森(松川勉)の運命が突然逆転することで持ち上がる騒動 を軸に、彼らの女友達、郷里の母や祖母などが加わり、賑やかな正月映画となってい る。

'63(松竹大船)(監)木下惠介(脚)山田太一(撮)楠田浩之(美)梅田千代夫(音)木下忠 司(出)松川勉、川津祐介、三上真一郎、山本圭、岩下志麻、倍賞千恵子、富士真奈 美、東山千栄子、三島雅夫、柳家金語楼、益田喜頓、津川雅彦、山本豊三、渥美 清、佐田啓二、岡田茉莉子、田村高広、牧紀子


K-41 9/5(火)3:00pm 10/14(土)4:00pm 11/16(木)6:30pm

死闘の伝説

(82分・35mm・パートカラー)

戦時下の東京から疎開してきた人々と、地元住民という二つのセクトの間に、血で血を 洗う集団抗争劇が展開される異色作。疎開者の娘・黄枝子(岩下志麻)が村長の息 子・剛一(菅原文太)との縁談を断わると、村人たちの迫害は激化する。林の中で襲い かかってきた剛一を、黄枝子が数少ない味方の百合(加賀まりこ)とともに殺してしまう と、暴徒と化した村人たちが疎開者を次々に惨殺する??。

'63(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)梅田千代夫(音)木下忠司(出)岩 下志麻、加賀まりこ、加藤剛、田中絹代、加藤嘉、菅原文太、松川勉、滝沢修、石黒 達也、花沢徳衛、野々村潔、坂本武、毛利菊枝、浜村純、明石潮、青山宏


K-42 9/5(火)5:30pm 10/12(木)5:30pm 11/17(金)2:00pm

香華

(203分・35mm・白黒)

関東大震災や第二次大戦をくぐり抜けて母と娘が辿る波乱の運命を描く有吉佐和子 の原作を得て、木下は初めて花街という女の世界に分け入った。郁代(乙羽信子)は 若くして夫を亡くすと、娘の朋子(岡田茉莉子)を捨てて他家に嫁し、紆余曲折の果て に花魁となった。朋子もまた半玉として売られ、二人は遊廓で再会する。母の淫蕩ぶり を見せつけられ、自分の恋路を妨げられても、最後まで見捨てずに尽くす娘の姿は、自 堕落な母を憎み続ける「日本の悲劇」の娘と好対照をなしている。1億2千万という莫 大な製作費と、3時間を超える長尺で松竹を戦かせたが、一本立公開で大ヒットした。

'64(松竹大船)(監)(脚)木下惠介(原)有吉佐和子(撮)楠田浩之(美)伊藤憙朔、梅田 千代夫(音)木下忠司(出)岡田茉莉子、乙羽信子、田中絹代、杉村春子、加藤剛、岡 田英次、北村和夫、柳永二郎、市川翠扇、菅原文太、桂小金治、三木のり平


K-43 9/6(水)3:00pm 10/14(土)1:00pm 11/17(金)6:30pm

なつかしき笛や太鼓

(114分・35mm・カラー)

陸軍二等兵時代の経験を活かした念願の企画「戦場の固き約束」の中止を機に松竹 を離れた木下は、テレビドラマに活路を見出したが、3年ぶりの本作では「二十四の瞳」 の舞台となった瀬戸内の島に再び立ち帰った。中学校に赴任した熱血教師が、バレー ボールを通じて生徒たちに子供らしい活気を取り戻させるさまを描く佳作だが、性と暴 力が溢れ返る当時の映画界で木下が占める孤高の立場を印象づけることにもなった。

'67(東宝=宝塚映画=木下プロ)(監)(脚)木下惠介(撮)楠田浩之(美)松山崇(音)木 下忠司(出)夏木陽介、大空真弓、浦辺粂子、小坂一也、藤原釜足、谷口完、志摩晴 彦、北見唯一、山村弘三、遠藤辰雄、船戸靖男、高橋陽一郎、河上一夫、初音礼 子、千村克子、山本稔、中田光彦


K-44 9/6(水)6:30pm 10/17(火)3:00pm

スリランカの愛と別れ

(116分・35mm・カラー)

スリランカとモルディブにロケし、黒澤組の常連である撮影の中井朝一や美術の村木与 四郎と組んでいる。水産会社に勤める越智(北大路欣也)と宝石商を営む慶子(栗原 小巻)の恋に、亡夫の莫大な遺産を守って異国で余生を送るジャカランタ夫人(高峰 秀子)の物語を絡め、それぞれに暗い過去を秘めて遠い異国で暮らす日本人の姿を 詠嘆的に描く。興行的に不調で、次作までまた長いブランクが空くことになる。

'76(東宝映画=俳優座映画放送)(監)(原)(脚)木下惠介(撮)中井朝一(美)村木与四 郎(音)木下忠司(出)北大路欣也、栗原小巻、高峰秀子、小林桂樹、津島恵子、小野 川公三郎、片桐新、太田博之、ニランジャン・ペレラ、スレン・サアヴァンドー、カビンダ・ ワァニーアラッチイ、アータ・デ・シルヴァ


K-45 9/7(木)3:00pm 10/17(火)6:30pm

衝動殺人 息子よ

(130分・35mm・カラー)

15年ぶりに古巣の松竹に戻って撮った作品。最愛の息子(田中健)を通り魔に殺され た父親(若山富三郎)は、怒りと悲しみに任せて犯人に包丁を突きつけるが、やがて復 讐の衝動を克服し、被害者に対する国家保障の法制化を求めて立ち上がる──。犯 罪者の人権保護にばかり篤い法に怒りをたぎらせる木下流の正義感、その矛盾を社会 問題として世間に訴える目的意識、そして家族愛に対する限りない信頼が、ストレート に表現されている。

'79(松竹=東京放送)(監)(脚)木下惠介(原)佐藤秀郎(脚)砂田量爾(撮)岡崎宏三 (美)重田重盛(音)木下忠司(出)若山富三郎、高峰秀子、田中健、大竹しのぶ、尾藤 イサオ、高岡健二、田村高廣、中村玉緒、近藤正臣、藤田まこと、吉永小百合、加藤 剛、花沢徳衛、高杉早苗、小坂一也、野々村潔


K-46 9/7(木)6:30pm 10/18(水)3:00pm

父よ母よ!

(131分・35mm・カラー)

前作「衝動殺人 息子よ」では、被害者に肩入れするあまり非行少年を厳しく糾弾した が、本作では一転して少年たちの側に立ち、彼らを非行に追いやった親の自覚を問う ている。非行少年の問題は「太陽とバラ」でも扱われているが、本作は加藤剛扮する新 聞記者を狂言廻しに、さまざまなエピソードを展開する形式をとり、よりドキュメンタリー的 な構成となっている。前作で被害者の父を演じた若山富三郎が、少年たちの一番の理 解者である少年院の教師を演じている。

'80(松竹)(監)(脚)木下惠介(原)齋藤茂男(撮)小杉正雄(美)重田重盛(音)木下忠司 (出)加藤剛、若山富三郎、岡本達哉、石田純、斉藤とも子、三原順子、滝沢美幸、吉 田康子、夏江麻岐、原千明、入江則雅、佐藤敏江、水野広、吉行和子、中野誠也、 奈良岡朋子、長門裕之、田村高廣、岩崎加根子


K-47 9/8(金)3:00pm 10/18(水)6:30pm

この子を残して

(128分・35mm・カラー)

原作は長崎で被爆したカトリック信者の医師が占領下に発表した手記で、当時はベス トセラーとなり、1950年にはすでに大庭秀雄が「長崎の鐘」として映画化している。木下 はローマ法皇パウロ2世の核廃絶の演説に感動して製作を思い立った。「過去をふりか えることが将来に対する責任を担うことだ」という法皇の言葉が字幕で引用されており、 完成した映画は法皇に献上された。カルロヴィ・ヴァリ映画祭反ファシズム闘士同盟賞 を受賞。

'83(松竹=ホリ企画)(監)(脚)木下惠介(原)永井隆(脚)山田太一(撮)岡崎宏三(美)芳 野尹孝(音)木下忠司(出)加藤剛、十朱幸代、大竹しのぶ、山口崇、淡島千景、麻丘 めぐみ、神崎愛、中村正智、西嶋真未、福田豊土、杉山とく子、野々村潔、ひし美ゆり 子、山本亘、加藤純平、伊藤達広、清水良英


K-48 9/8(金)6:30pm 10/19(木)3:00pm 11/14(火)6:30pm

新 喜びも悲しみも幾歳月

(130分・35mm・カラー)

「息子の結婚」「風の盆恋歌」「走れメロス」といった企画の相次ぐ挫折の後に、松竹50 周年記念映画としてようやく実現したもの。「喜びも悲しみも幾歳月」から30年を経て、 灯台守ではなく灯台職員と呼ばれるようになった人々の生活を、美しいロケーションの 中に描く。前作までの<社会派3部作>に対する観客の反応の鈍さに失望したという 木下が、久々に手がけたコメディだが、物語の重心は老人問題に置かれている。植木 等扮する祖父が不幸だった結婚生活を振り返り、人生の最期についに籍を抜いて突 然死するエピソードが強烈である。

'86(松竹=東京放送=博報堂)(監)(原)(脚)木下惠介(撮)岡崎宏三(美)芳野尹孝 (音)木下忠司(出)加藤剛、大原麗子、中井貴一、紺野美沙子、田中健、植木等、小 坂一也、三崎千恵子、竹内亨、篠山葉子、岡本早生、小笠原良知、原田樹世土、高 山眞樹、清水良英、平田朝音、高木誠司、小森英明


K-49 9/12(火)3:00pm 10/19(木)6:30pm

(74分・35mm・カラー)

父と母にまつわる実話を一般公募し、木下と松山善三の師弟がそれぞれ独自に選択 して脚色・演出し、二本立で公開するという企画の1本。やることなすこと失敗続きの型 破りの九州男児を映画初出演の板東英二がコミカルに演じている。ついに離婚して上 京した妻(太地喜和子)と息子(野々村真)が鹿児島に戻り、祭の雑踏の中に父の幻 影を見る場面は、家族の絆を描きつづけてきた木下の遺作の結末として感慨深い。

'88(松竹=ビッグバン=キネマ東京)(監)(脚)木下惠介(撮)岡崎宏三(美)芳野尹孝 (音)木下忠司(出)板東英二、太地喜和子、野々村眞、菅井きん、斉藤ゆう子、宮尾す すむ、芦屋小雁、草野大悟、今福正雄、芦屋小雁、曾我廼家文童